ヨルの照れたような、はにかんだ笑顔が頭に浮かんだ。

 私が初めて『海うみ月つきヨル』に触れた日の景色が、頭に蘇よみがえる。

 わたしが全部わからなくなったときに、事件みたいに出会って。

 渋しぶ谷やの街で強く自分を主張する、カラフルなクラゲの壁画が、頭から離れなくなって。

 人の目なんて気にしないで漂うクラゲの輝きが、前に進む理由をくれた。

 そんな壁画の作者と一緒に音楽をやれていて、笑い合うことができている。

 これはきっと、奇跡みたいなもので。


 もう、失いたくないな。

 そんなことを思った。

「け、けど! 私なんかが個人的にお電話をかけてしまっていいのでしょうか!?」

 私はキウイさんと一緒に新しん宿じゆくの街を歩きながら、ののたんに電話をかけるかを逡しゆん巡じゆんしています。あまりにも恐れ多くて──

「いいから早くかけろ」

「は、はい!」

 キウイさんにズバッと言われてしまったので、私は覚悟を決めてかけることにしました。DTMのときもそうですし、キウイさんは基本的に正しいことしか言わないので、従ったほうがいい結果を生むに違いありません。

「……出ませんね」

「そうか……」

 もう完全に冬の空気になった夜の街、ののたんがこの中を一人で歩いていると思うと、心配でなりませんでした。どうか心までは凍ってしまいませんように。

「めい、なにか手がかり知らないか?」

 キウイさんに聞かれて、私には一つ、思い当たることがありました。

「ミニライブ……」

「え?」

「今日、この後サンドーが花はな園ぞの神じん社じやの酉とりの市いちでミニライブをやるんです!」

 もしもののたんがサンドーを意識していて、そのために無茶を言っていたのだとしたら、気になってその場所に行っているかもしれません。

 けれどどうしてでしょうか。それを聞いたキウイさんは、その場にぴたりと立ち止まってしまいます。

「……? どうしたんですか! ライブ会場はあっちですよ!」

 キウイさんは思い詰めた表情で、道路の脇わきから続く裏路地と、華やかな人がゆく明るい酉とりの市いちの屋台が続く方面を、交互に見ます。

 明と暗。隣り合わせなのに対比するくらいにハッキリしたコントラストは、まるで街自体が普通と変に境界線を引いているようで。

「寂しい人間は……そんな賑にぎやかなところ、息苦しいよな」

 キウイさんの言葉はどこか、自分と近い存在を慈しむような響きを持っています。

 それは私に『似たもの同士』と言ってくれたときの、ののたんを思わせました。

「……そっちじゃないと思う。花か音のがいるのはたぶん、もっと──」

 私はキウイさんの視線を追います。すると、道行く高校生の女の子たちが、カップティラミスを持ちながら写真を撮っているのが目に入りました。……カップティラミス。

「キウイさん!」

 そのとき私は、ののたんのアイドルとして一番尊敬できるところを、思い出していました。


   ***


「ののたんは、話したこととか約束とか、……好きなものとか! 覚えてくれるアイドルなんです! もしかしたら──」

 私が赤髪だったということがわかっただけで、ピアノの演奏を聞きにいく約束をした木き村むらちゃんだって思い出してくれて。たった一回頼んだだけなのに、私の好きな飲み物を覚えていてくれて。

 ののたんは、そういうアイドルなんです。

 キウイさんを先導して走って、私はそこに向かいました。

 到着したのは、今日のお昼に通りかかったカップティラミスのお店。まひるさんが食べたいと言って、ののたんが拒絶した、あの店でした。しかし、店員さんはもう店内の明かりを消して、お店を閉める作業を行っているところでした。

 背が高く髪が短い大柄な黒人さんが、地面に置いてある看板の電気を、いままさに消そうとしています。

「あの、すみません!」

 キウイさんが声をかけると、その店員さんがこちらに視線を向けます。

「ここに女の子、来ませんでしたか?」

「オナノコ?」

「えーと、金髪で……」

 キウイさんが特徴を伝えようとしますが、どうやら日本語が伝わっていないようでした。

「Sorry, my job is only to close the store.I don't speak Japanese.」

「あ、あー……えーと」

 キウイさんが店員さんの英語を聞き取ろうと努力しています。けれど、店員さんはしっし、と私たちを追い払うようなジェスチャーをします。なんてひどい、それがお客さんに対する態度でしょうか。

 それに、なんでも出来るキウイさんにも出来ないことがあったのだと思うと、私は少し安心しました。


 ここは、私の出番かもしれません。


「──May I ask you something?」


 私が、店員さんに話しかけました。キウイさんが驚いて、私をぽかんと見ています。

 ちなみにいまのは『一つ聞いてもいいですか?』という意味で、その前の店員さんは「ごめんなさい、私の仕事はお店を閉めることだけで、日本語はわからないのです」と言っていました。私はこちらを見てくれた店員さんに、丁寧にこう伝えます。

「──Did you see a girl with blond hair and has a super pretty face who's like sunshine, somewhere?(金髪で、顔が最高に可か愛わいくて、太陽みたいな女の子を、どこかで見ませんでしたか?)」

 すると店員さんは、Oh! とピンときたように表情を緩めます。

「That girl went that way!(その女の子ならあっちへ行ったよ!)」

 指差して、ののたんの向かった方向を教えてくれました。人違いの可能性もゼロではありませんが、ブロンドヘアでスーパープリティフェイスでサンシャインライクな女の子なんて、きっと新しん宿じゆくにはののたんしかいません。

「Thanks a lot!(ありがとうございます!)」

「サ、サンキューベリーマッチ!」

 私たちは感謝を伝えると、その方向へと走り出しました。

「……英語、喋しやべれるんだな?」

「はい。母に習ったので。……変ですか?」

 キウイさんはすっごく呆あつ気けにとられた表情で私を見ています。私ってそんなに、英語が似合わないでしょうか? 地毛の赤髪から黒に染めたからですかね?

 店員さんから教えてもらった方向にしばらく走っていると、やがて、金髪の女の子の人影が見つかります。私が、捜していた人です。

「Nono-tan!」

 さっきまでの流れでドラマチックな洋画のような気持ちで言ってしまいましたが、そこにいたのは間違いなくののたんでした。まひるさんが食べたいと言っていたティラミスを六つ持っていて、けれど抱えきれずにわたわたしています。さすがはドジっ子属性です。

「……なにやってんだ」

「や、ち、違う……これは」

 顔を赤くして、ティラミスを隠すように後ろを向いて。どうして隠そうとしているのでしょう。気が変わって、独り占めするつもりでしょうか。食いしん坊属性だとしても推せます。

「はあ……悪かったよ」

「え?」

 キウイさんの言葉にののたんは振り向き、ぽかん、と口を開きました。

「ほら、貸せ。っていうか、なんで六つ? 誰の分だよ」

 ぶっきらぼうに言いながらも、ののたんの荷物を持ってあげているのが、キウイさんの優しいところだなと私は思います。

「……六種類、味があったから……どれが好きかなって……」

「バカか、お前は」

「う、うるさい」

 たじたじになっているののたんも不ふ憫びん萌もえで、私のなかにコレクションされているののたん萌え表情リストに、新たなものが加わりそうでした。

「ほら、行きましょう?」

 ののたんはうん、と頷うなずきますが、やがて私たち二人を、不安げに見つめます。

「……ヨルは?」

 私はキウイさんと顔を見合わせて、にっと笑いました。

 もう、ほんっとに恥ずかしい。

 無茶を言って断られて、勝手に怒って飛び出して、かと思ったらお詫わびの品なんて買ってるところをバッチリ目撃されて、もうホントにつらいしんどい。

 けど、こうしてわざわざ追いかけてきてくれて、わたしがなにをしようとしてたのかまで、わかってくれて。いままで一人ぼっちで寂しかったから、なんかそんなちょっとしたことが、わたしをとっても嬉うれしくさせた。迷惑をかけておいてそこを嬉しく思ってしまってるなんて、もしかしてわたしって厄介なかまってちゃんなんだろうか。

 わたしはこれからなにが待ってるのかまったくわからないまま、いいからいいから、とかキウイに言われて、そうですそうです、とかめいにまで秘密にされて、企たくらんだように笑う二人の後ろについて帰っている。どうしてヨルがいないのかについては教えてくれなくて、ひょっとして酷ひどいことを言っちゃったからまだ怒ってるのかなって不安になった。

 アパートに到着して、階段を上がる。キウイがドアを開けてくれて、わたしに振り返った。

「ほら花か音の、入れよ」

「い、いや私の家だからね?」

 なんてことを言いながらもドアをくぐると──

「ただい……ま?」

 いつもと違うもわっと湯気のような空気が顔を覆って、クリーミーな良い匂においが漂ってきた。

「……え」

 それだけじゃなかった。悲惨なくらいに散らかっていた部屋が整理整せい頓とんされていて、キッチンには、勝手にわたしの青いエプロンをして鍋なべの前に立っているヨルがいる。

「あ。みんな、おかえり。もう少しだからちょっと待っててね」

 い、一体なにが起きてるの。なんでヨルは当たり前みたいにわたしの部屋をピカピカにして、うちのキッチンでクリームシチューをぐつぐつ煮込んでいるんだろう。何が何だかわからなくて、わたしが部屋を呆ぼう然ぜんと眺めていると、ヨルが顔だけをこっちに向けて、得意げにお玉を掲げながら笑った。

「あ、部屋? 煮込んでるあいだ、時間あったから」

 いや、時間あったから、じゃなくてだね。もう。

 キウイとめいはわざわざ追いかけてくれて、ヨルはこんなふうにお世話みたいなことしてくれて。なんかこの三人、優しすぎない? だって悪いのは、わたしなのに。

 なんだか喋しやべるといろんなものがあふれてしまいそうだったからじっと黙って、私は女房ですみたいな立ち振る舞いでクリームシチューの味を調整するヨルの後ろ姿を、わたしは口を結んで見ておくことしかできなかった。



 十数分後。ヨル特製のクリームシチューが、食卓に並べられた。

 わたしはまだちょっと現実感のないまま、盛られたお皿の前に座る。

「召し上がれ」

 やっぱりしれっと正妻みたいなことを言ってくるヨルに苦笑しながらも、わたしはそのクリームシチューに釘くぎ付づけになっていた。

「おおー! うまそうだな。いただきます!」

「まひるさん、ありがとうございます。いただきますね」

 勢いよくシチューをかきこむキウイと、お行儀よく一口ずつ口に運びはじめためいに続いて、わたしも遠慮がちにスプーンを手に取ると、

「……いただきます」

 シチューをすくって、口に運ぶ。ほくほくになったじゃがいもが口のなかで崩れて、優しい甘さが広がった。

 たったそれだけなのに。

 わたしは感極まりそうになって、思わず手を止めてしまった。

「どうしました?」

「……シチューって」

「うん?」

 声だけを届けるつもりだったのにヨルがわたしの顔を覗のぞき込んできちゃったから、わたしは顔を見られないように、ちょっとだけ俯うつむいて。

「……シチューってこんなに、温かかったっけ……」

 ふふ、と嬉うれしそうに笑う、ヨルの声が聞こえた。

 喋しやべったら零こぼれてしまいそうだと思っていた涙。わたしはそれが簡単に決壊させられてしまいそうな気がして、だから誤魔化すみたいに思いっきり、手を止めないでばくばくと食べはじめた。

「おいおい花か音の、どんだけ腹減ってたんだよ」

「食いしん坊のののたんも、むしろありです!!」

「まだまだおかわりもあるからねー?」

 暖かい湯気でぼやけた視界の先。

 三人が顔を見合わせて笑っているのが、少しだけ滲にじんで見えた。

 花音ちゃんたちが私の作ったシチューを完食したあと。

 私たちは動画制作の作業に移っていた。

「ね、これなら動画に使えそう?」

「あー……ここ、背景透過できるか?」

「あ、だよね了解」

 私はキウイちゃんと話し合いながら、映像を完成させていく。このペースなら、今日だけでもほとんど完成くらいまで進めることができそうだ。

 私たちの横ではめいちゃんがヘッドホンをしながら、パソコンの画面としかめっ面で向き合っている。表情からして明らかに手こずっているみたいなんだけど、めいちゃんDTMを完全に理解したんじゃなかったんですかね。

「ねえ……」

 そんなとき。

 作業に集中できない、といった様子で不安げな声を漏らしたのは、花か音のちゃんだ。

「……三人とも、そろそろ帰り大丈夫?」

 その表情は、まるで捨てられることを恐れる子供のようで。

 私は改めて、そっか、って気がつく。

 花音ちゃんはきっと、強いけど弱いんだ。

「なーに言ってんだよ」

 キウイちゃんがへへっと、キウイちゃんらしく笑う。

「週に何回も集まるのは難しいかもしれないですけど……」

 めいちゃんがお淑しとやかに、めいちゃんっぽく笑った。

「今日は、トコトンやろうよ」

 だから私も私らしく、花音ちゃんに笑いかけた。

「みんな……」

 だって、私たちは決めたのだ。

 美み音おんさんから話を聞いて、花音ちゃんの気持ちを少しだけ、多分ほんの少しだけだけど、理解できて。

 だったら私たちの生活に影響が出ない範囲でなら、全力で寄り添おう、って。

「けど、どうして急に……?」

 そう言われると、わりと困った。

 だって私たちが意見を変えたのって──

「えーと。実は美音さんから昔のこと、いろいろ聞いちゃって……」

 私がしどろもどろに白状すると、花音ちゃんの表情は「え」と一気に不安に染まる。ちなみにその美音さん当人はいまだに、仕切られた部屋の向こうで爆睡している。

「ごめんなさい、聞いたのは私なので、悪いのは──」

 めいちゃんが申し訳なさそうに言うのを、


「──私は、さ」


 キウイちゃんの声が遮った。

 私たち三人の視線がキウイちゃんに集まる。私はキウイちゃんがこれからなにを話そうとしているのか、想像できなかった。

「小学校まではクラスのスーパースターだったんだ。けどそこからの転落はひどいもんでさ」

 芸人の笑い話のような流りゆう暢ちようなトーンで語られたのは、キウイちゃんの過去の恥ずかしいエピソードだ。

「まひると別れて都内の中高一貫の進学校に行ったって話しただろ? その初日の入学式のあと、自己紹介があったんだけど──」

 抑揚をつけて、配信で培ったスキルをフル稼働して。まるで自分を情けないものとして自虐して聞かせるそのコミカルな語り口は、さすがは人気VTuberって風格だ。

「──ってな感じで大スベり! あの瞬間、私の学校生活は終わったと確信したね」

「そんなきっかけだったの!?」

 私の知らない話だったから、私はそういう意味でも驚いていた。まさかあの中学一年生のときの私との電話が、ノクスの始まりだったなんて。

「キウイさん、面白いです!」

 めいちゃんは大きく笑っていて、花か音のちゃんは口を半開きにしながら、キウイちゃんを見つめている。でも、そうだよね。

 聞かれたくないだろう過去を聞いてしまったぶん、自分の恥ずかしい話もしてみせる、なんて、本当にキウイちゃんらしい、天あまの邪じや鬼くな励まし方だ。

「あはは。……ありがと」

 きっとその意図を察したのだろう、花音ちゃんは目を伏せながらしみじみと微笑ほほえむと、柔らかい声で言った。

「──なんのこと?」

 キウイちゃんは、得意げにふふん、と笑った。

 まったく。だったらそのドヤ顔をやめるんだね。なんて思ったけど、それもまた可お笑かしくて、かっこよかった。

 花音ちゃんとキウイちゃんはしばらく目を合わせる。やがてキウイちゃんが「見すぎ」というツッコミを入れると花音ちゃんが顔を赤くして、「なにもう!」とかあわあわと言っている。

 さっきまではあんなに喧けん嘩かしていたけれど、うんうん。雨降って地固まるってやつだね。買うべきはチョコエッグじゃなくてカップティラミスだったか。

「じゃ、じゃあ次は、私の番ですね!」

 めいちゃんもキウイちゃんの意図を汲くんだようで、緊張した口調で言う。ぶっ飛んだところもあるけれど、人の優しさには気づける、優しい子なんだよね。

「実は私……歌が大の苦手で……」

「え。ピアノはあんなに上手なのに?」

 私が聞き返すとめいちゃんは頷うなずいて、恥ずかしそうに、話を始めた。

 めいちゃん曰いわく──中学生の頃。

 歌のテストで歌うのが恥ずかしくて声が震えてしまい、クラス中から失笑されてしまった。歌えば歌うほど震える声。辛つらくてどんどん涙目になっていったけれど、めいちゃんはがんばって歌っていたらしい。けど。

「──『高たか梨なしさん。もう大丈夫ですよ』って、先生にまで止められてしまって……。それで、もっとくすくす笑われてしまったんです」

 めいちゃんは悲しそうに、寂しそうに。

「先生にまで止められたのがすっごくショックで……まるで私が変だって、世界に決められちゃったみたいで……」

「ちょっと、わかる」

 ぼそりと、キウイちゃんが言葉を落とした。

「先生にまで言われるとさ……自分のこと、信じられなくなるよな」

「そうなんです!!」

 めいちゃんが激しく同意して、うんうんと頷うなずき合っている。なんかこの二人もすごくデコボココンビな気がするけれど、仲良くなれてきたみたいでよかったよかった。

「めいも……ありがとっ」

「いいえ。ふふ。…………でゅふふ」

 最初はお淑しとやかな笑みで綺き麗れいに締まりそうだったのに、めいちゃんは途中で我慢できなくなっていつものオタクスマイルに移行してしまった。けど、そんなところがめいちゃんらしいし、私はもう、そのほうが居心地がよかった。

 しかし。そこで私は気がついていた。

 ──となるとえーと、次は。

「えーと! 私は……私は」

 こうして二人が恥ずかしいエピソードを披露したのだから、なにか自分も喋しやべらないといけない、みたいな感じがしてくる。そんな考えは空気読みすぎな私の悪い癖だろうか。

「あはは。別に義務じゃないんだぞ?」

 キウイちゃんは言ってくれるけど、たぶんJELEEジエリーの人間関係円滑担当大臣としてやっていくことになるだろう私だから、ここで一人だけなにも言わないわけにはいかない。

 けど私ってやっぱり普通の女子高生だから、三人みたいに鉄板の過去エピソード、みたいな引き出しがあるわけではなくて。

「……あ!」

 うーんと考え込んだ結果、私の頭に浮かんだのはやっぱり普通の女子高生らしい、修学旅行の夜にJKが話しそうな告白だけだった。

「なになに?」

「えっとね」

 そして私は思いついたそれを、ちょっと照れながら言葉にする。

「実はいま……ちょっと気になってる人がいて」

「「ええ!?」」

 花か音のちゃんとキウイちゃんが、ぐいっと身を乗り出して、大声を出した。

「……へ?」

 思ったよりも大きいリアクションに、私は困惑した。


   ***


 みんなの思いを共有しあえて数時間後。

 私たちのMV作りは、佳境を迎えていた。

「ね! ここ、ちょっとだけ歌詞変えてもいい?」

「この歌詞なら、ここの旋律、ぐいっと明るくしたいです!」

 花音ちゃんが言うと、めいちゃんがそれに対応する。

「私このフレーズ好きだな…………差分、もう一枚描きたい!」

「とりあえず録音できたものから送ってくれ。リアルタイムでミックスしてくから」

 私の熱量も、キウイちゃんがまとめ上げてくれた。

「……もう一杯飲みたい……」

 隣から聞こえる美み音おんさんの呻うめき声は……まあ、あんまり関係ないね。



 カーテンから、朝の陽が差し込んでいる。

 結局全員で徹夜してしまった私たちの目の前にあるタブレットには、YouTubeの動画アップロードの画面が表示されている。寝ぼけ眼でマウスを操作しているのは花音ちゃんだ。

「タイトル、概要欄、サムネ……これで、問題ないよね……?」

「おう……あってる」

 花音ちゃんは眠い目を擦こすりながら、キウイちゃんに最後の確認をする。

「で……ここだよね?」

「ああ……そこだな……」

 今後インターネット担当大臣を担うであろうキウイちゃんが眠そうに答えて、花音ちゃんが指示された場所をクリックすると、画面が切り替わって動画がアップされはじめた。

「こ、これで……?」

「あとは……待つだけだな」

「で、できたーっ!」

 花音ちゃんが声をあげると、私たち三人も顔を見合わせて、喜びをわかちあう。

「「「やったーっ! ……っ!」」」

 声を合わせて喜びを共有すると、私たちはばたり、ばたり、と順番に倒れて、眠りに落ちていった。メイクも落としてないしこんなところで寝たら体がバキバキになってしまいそうだったけど、まあ、今日くらいはいいよね。

 薄れていく意識の隙すき間ま。

 JELEEジエリーチャンネルの動画欄に私たちの二つ目の楽曲、『月の温度』のMVが加わるのを見ながら、私はこんなことを思っていた。


 なんだかこの瞬間に初めて──JELEEがJELEEになれたような気がするな、なんて。

 ののたんが……いっぱい……。

 ……ののたんの……統べる国……。


 ……はっ。


 私が幸せな夢から目を覚ますと、そこはいつもと違う景色。そうだ、私はいまののたんの家にいて、みんなと徹夜して動画を作ったんでした。

 どうやら四人の中で最初に目を覚ましたのは私みたいで、ののたんもほかの二人もぐっすりと眠っています。

「ん……? ──えっ!?」

 私はDTMは完全に理解しましたが、XとかSNSのことはよくわかりません。けど、ここの数字が伸びるとすごいんだとキウイさんが言っていたことは、覚えていました。

「……みなさん! あーるぴーが! あーるぴーが!」

 私は体を揺すって、三人を起こします。ののたんはお姫様だから普通に起こすのではなくキスが必要かと思いましたが、そんなことをしたら今度は私がおかしくなって意識がなくなってしまうので、普通に起こすことにしました。

「……ぅん?」

 眠そうに目を擦こすりながら起きてくる三人に、私はタブレットの画面を見せます。

「こ、これ!」

「……えーと?」

 そして三人はそれを見て、目を見開きました。

「「「ええええぇぇぇ!?」」」

 その画面の中では、私たちが告知した投稿のあーるぴーが、八〇〇〇を超えています。

 三人は声を揃そろえて、こう叫びました。

「「「なんかバズってるー!?」」」