み、認めない?

「ののたんはいつまでもサンドーで歌いつづけるんです!!」

 駄々をこねる子供のように、どこかヒステリックに叫ぶ。顔が私の顔と数センチギリギリまで迫って、けれどそんなの気にせずにまくし立てた。

「金髪じゃなくて黒髪清せい楚そで、前髪は重ためのパッツンでストロベリーの香り!! こんなに足も出した服なんて絶対に着ません!!」

 髪に触れたと思ったらくるりと回って、今度はこの世の終わりみたいに顔を覆って、なんか感情大爆発って感じで大騒ぎだ。

「ののたんの腕と足は人を魅了するためにあるんです!! 歌って踊る以外の労働なんてののたんに相応ふさわしくありません!! 私が援助するのでバイトもやめてください!!」

 地団駄を踏んで、涙目で見つめて、十数秒の出来事なのに百面相を見ている気分になる。

「太陽には太陽の、庶民には庶民の居場所があるんです!! ののたんがこんなところにいるなんて!!」

 そして、トドメにこんなことを言った。


「──解釈違いですっ!」


 なるほどなるほど、そこで私はハッキリと理解していた。

「厄介オタクだ!?」

 黒髪少女は私をキッと睨にらみつける。

「あなたがののたんををそそのかした黒幕ですか!? それとも痛いファンですか!?」

「それあなたに言われるの!?」

 かの有名な厄介オタクってやつだ。生で見るのは初めてだからちょっといいものを見たって気持ちになる。こんなことを言われて花か音のちゃんはどんな反応をするんだろう。とか思っていたら。

「あれ?」

 ──さっき見た花音ちゃんのトートバッグを、その子が持っていることに気がつく。

「……花音ちゃんのバッグ盗られてる!?」

「え!?」

 はっと花音ちゃんも黒髪少女を見た。

「ち、違います! これは私のです!」

 黒髪少女は両手で守るようにトートバッグを抱きしめる。けど、それはどう考えても花音ちゃんのものだ。犬とタヌキのあいだみたいな水色の体から紫色の耳が生えていて、ハート形の眼帯をしている謎なぞのキャラクターがプリントされている。インパクトが強すぎて見間違えようがない。

「でもこんな変なデザイン普通は──」

 言いかけると、花音ちゃんがぱあっと嬉うれしそうに、

「これ、私のデザインした限定のノベルティバッグ!」

「え!?」

 まずい、人のデザインを変だとか、失言をしてしまった。なんか勢いであんまり気にされてない感じだからこのまま乗り切りたい。

「私のは……ある」

 花音ちゃんのバッグは取り出した応援BOXのそばにちゃんと置いてあった。

「だから私のなんです! 抽選外れたので、メルカリで買ったんです!」

「メルカリで!? 結構プレミアついてなかった!?」

「関係ありません! 推しですから!」

 黒髪少女は二つのバッグを手に取りながら、嬉しそうに言う。

「世界に十個のうちの二つが揃そろうなんて……!」

 花音ちゃんと黒髪少女の問答を聞いていて、だんだん話が読めてきた。

 となると……こっちは一体どういうことなんだろう。

「けど、このお金は?」

 私が黒髪少女がボックスに入れた一〇万円を指さすと、

「私からの愛の貢ぎです。ののたんがまた立ち上がるための準備金にしてください」

「でも、バッグにも大金使ったんじゃ……」

 私が問うと、黒髪少女は迷いのない真まっ直すぐな目で頷うなずく。

「はい。だけどあれは、本来ののたんに行くべきお金なんです。私は転売ヤーじゃなくて、推しに貢ぎたかったので」

「ファンの鑑かがみだ!?」

 私はその気高い推し心に感服してしまった。私もゆこちがコラボしてたファンデとかが買えなかったときに転売ヤーに苦しめられた経験があるからわかる。これを買ってもゆこちにはお金が入らない。そう思うとポチる指が止まるというものだ。

「けどこんなに……本当にいいの?」

「はい!」

 花か音のちゃんが確認すると、黒髪少女は嬉うれしそうに頷うなずいた。

「ののたんはスーパーアイドルなんですから、サンドーにいるべきなんです!」

 ふっと、息を吐く音が聞こえた。

 隣にいる花音ちゃんを見ると、どこか冷たさすら感じる無表情で、黒髪少女の話を聞いていた。

「だからののたん! こんなところで燻くすぶってないで、もう一度みんなと同じ舞台に──」

「……」

 花音ちゃんはボックスに入った一〇万円を手に取ると、無言で黒髪少女の胸に押し付けた。

「え……」

「いらない」

「ど、どうして……!」

 狼狽うろたえる黒髪少女を、花音ちゃんはじっと見据える。

「これは『橘たちばなののか』のためのお金でしょ? だったら受け取れない」

 黒髪少女がぼんやりしたままそのお金を受け取ると、花音ちゃんはその手を下ろす。

「残念だけどいまの私は、山やまノの内うち花音なんだ」

「っ!」

 花音ちゃんの言葉に動揺を隠せない黒髪少女は、やがて唇を強く嚙かんで。

「……噓うそつき!」

 黒髪少女は意味深な言葉を残して、トートバッグを持って駆け出していった。花音ちゃんはその後ろ姿を、真剣な表情でじっと見つめていた。


   ***


 数分後。

「……受け取っとけば良かったーっ!」

 休憩室で花音ちゃんがすっごく後悔している。

「情緒がすごい……」

「だって一〇万って言ったら……私たちの時給が一三〇〇円でしょ? 一日四時間としたら……」

「そういう計算しない」

 言いながら私は花か音のちゃんのおでこをチョップする。あれ? なんか私、花音ちゃんに対応するときの感じがだんだん佳か歩ほとのときに似てきてる?

「……まあ、いいんじゃない? 確かに一〇万円は惜しかったけど──あのときの花音ちゃん、かっこよかったし」

 まあ、いまはかっこ悪いけど……。

 とか実は思ってしまったのだけれど、花音ちゃんは現金なことに、けろっとして「そ?」とか言いながら嬉うれしそうにしていた。

「……そーいうことなら一〇万は諦あきらめて、地道にがんばりますかっ!」

 言いながらピース。気楽なものである。

「……」

 なんか、だんだん花音ちゃんの本性がわかってきたかもしれない。渋しぶ谷やの街を歩いていたときは、かっこよくてカリスマ性があって輝いてて、そんな印象ばっかりあったけど。

 本当はすっごくバカなのかもしれない。

「~♪」

 なんか鼻歌とかまで歌ってて、そうですか元気でよかったです。

「……ん?」

 花音ちゃんがトートバッグを手に取りながら、声を漏らした。

「どうしたの?」

 私が尋ねると、花音ちゃんはすっごく焦った表情で、青ざめながら目を見開いた。

「……あ────っ!」


   ***


 それからバイトを終えた私たちは、同じ電車で帰宅する。

「持っていかれたときに気付けばよかった……」

 まったく同じデザインのバッグを使っていた黒髪少女と花音ちゃん。あの子が叫びながら飛び出していったとき、バッグを取り違えて持っていってしまっていたのだ。

 だからここにあるのは黒髪少女のバッグで、おそらくあの子がいま、花音ちゃんのバッグを持っている。着てきていた青いトラックジャケットはバッグに入れてあったらしく、花音ちゃんは十一月にしては寒そうな格好をしている。休憩中に見せて貰もらった手帳や財布などもバッグのなからしく、いまの花音ちゃんは携帯やそれにつなげっぱなしになっていたイヤホンなど、モバイル機器の一部しか持っていない状態だ。

「気づいて連絡してくるでしょ。……バイト先も特定してきたくらいだし」

「それ信用できる……? なにか手がかり……」

 言いながら、花か音のちゃんはバッグの中を漁あさりはじめた。

「勝手に漁って大丈夫? やばいもの出てきたら……それこそ盗撮とか盗聴とか……」

「あ」

 ぱっと取り出した花音ちゃんの手のなかには、ICレコーダーがあった。

「「わ────っ!?」」

 声を合わせて、叫んでしまった。


 数分後。

 盗聴されていないかの確認のため、花音ちゃんのイヤホンをつないでICレコーダーの中身を確認して、私たちは驚いていた。

「これって……」

「うん」

 流れているのは花音ちゃんがアイドル時代に作詞した『カラフルムーンライト』。おそらくはその、ピアノアレンジだ。

「かなり本格的……」

 私は驚きながらつぶやく。

「これを、あの子が……ってことだよね」

 花音ちゃんも驚いているようだ。

 私が聞いても上う手まいとわかるレベルなのだ。きっと相当技術が高いのだろう。見た感じ、そこまで年齢は変わらないようだったけど。

 二人でしばらく聴き入っていると、花音ちゃんはがくっとうなだれた。

「あーもう、私ダメだなあ……」

「……ダメって?」

 花音ちゃんは過去を回想するみたいに、寂しげな表情で窓の外を眺めた。

「あの子、こんなに本気で好きでいてくれてたのに、冷たく対応しちゃって。アイドル失格だよ」

「……もう、アイドルは辞めたんじゃないの?」

「そうだけど! ……そうだけど」

 いじける子供みたいに、花音ちゃんは続ける。

「ファンを大切にしたいって気持ちは、いまも変わってないっていうか……」

 その言葉は、なんだか私にとって心地よかった。

「なんか、花か音のちゃんって感じだね」

「なにそれ。そりゃ花音ちゃんだもん」

「そうだった」

 くすっと笑うと、私はちょっと愉快になる。今日はたまにバカだなーって思ったりもしたけど、こういうところは最初のイメージと変わらない。

 花音ちゃんがICレコーダーのボタンを押すと、別の録音が流れ出した。同じくピアノによる演奏で、しばらく聞いてみたけど、私には聞き覚えがない曲だった。

「これもサンドーの曲?」

「いや……わからない。けど──」

 花音ちゃんは目をつぶって、しばらく黙る。集中してその曲に聴き入っている横顔は、やっぱり綺き麗れいで。


「lalala──」


 不意に花音ちゃんが、流れている演奏に合わせて、メロディを口ずさんだ。

 そのメロディや声色が、イヤホンから流れているピアノの音色と合わさって、一つになる。

「いまの、すごく……いい感じだった。……知ってる曲なの?」

 花音ちゃんは真剣な表情を崩さないで、バッグの中から学生証を取り上げて眺める。

「ううん。けど、……これ」

「あ……」

 花音ちゃんに見せられた学生証。

 そこにはあの黒髪少女の写真とともに、音大附属高校の名前が書かれていた。私でも知っているような、超一流の学校だ。

「ってことは、もしかしてさ」

 花音ちゃんの言っていることの意味はわかった。

 もしかすると作曲家を探していた私たちにとっては、運命的な出会いかもしれない。

「高たか梨なし・キム・アヌーク・めい。……ハーフの子かな?」

 めいちゃんって名前なのか。私が言うと、花音ちゃんも首を捻ひねる。

「どうだろう……でもたしかに背も高いし目鼻立ちも──ん?」

 自分が言った言葉になにか引っかかったように、花音ちゃんはまた首を捻った。

「……私、やっぱりあの子ともう一回話したい。この曲のこともそうだし……いろんなこと、確かめないといけない気がしてきた」

 こうしてしたいことを見つけた花音ちゃんは、やっぱり渋しぶ谷やで出会ったときのかっこいい花音ちゃんで。

「けど、話してくれるかな? 昔の花か音のちゃんしか勝たん、って感じだったけど……」

「わかんない。けど……」

 私が引き寄せられた引力は、こういう強さなんだと思った。

「私が、話したいんだ」


   ***


 翌日の放課後。

 私が学生証で見た有名音大の附属校の校門の前に到着すると、そこにはもう花音ちゃんがいた。

「おつかれ~って、ヨル先生の制服姿!? これは激レア!」

「おつかれ。制服は週五で着てます」

 花音ちゃんの適当な感想をさらっと流すと、私は花音ちゃんの服装をまじまじと見る。花音ちゃんはその学校名が正しいかを確かめているのだろうか、めいちゃんの学生証を片手に、正門のプレートと見比べている。

「そういう花音ちゃんは……」

 ワイシャツにネクタイ、スカートまでは制服っぽいんだけど、その上には白地に青ラインの入ったトラックジャケットのようなものを着ていて、めちゃくちゃ着崩した制服って感じだ。ていうか結構目立っている。

「あんまり……待ち伏せには向かないね?」

「あはは、まあ私、あんまり学校行ってないし──」

「え──」

 と、私が声を発しかけたとき。


「おい高たか梨なし! 服装が乱れてるぞ!」


 覚えのある名前が耳に入る。

 花音ちゃんが学生証を出して二人で確認する。そこには『高梨・キム・アヌーク・めい』と書いてあった。

 私は花音ちゃんと顔を見合わせて、正門の格子の隙すき間まからなかをのぞき見る。

「あんなに優等生だったのに、一体なにが……今日の試験までにはちゃんとしろよ!」

 そこでは教師らしき人物がなにかに絶望していて──その視線の先には。


 花音ちゃんの青いトラックジャケットを着た、めいちゃんがいた。


「なんか着てるー!?」

 私がつい声を出して驚いてしまうと、それに気がついためいちゃんがこちらを見て、わたわたと焦りはじめた。


   ***


 十数分後。

「ごめんなさい!」

 私たちは学校の近くにあるファミレスへ向かい、めいちゃんからジャケットを返還されていた。謝るくらいなら最初から……とか思ったけどそれは言わないでおこう。

「ま、返してくれればいいけどさっ!」

 花か音のちゃんはめいちゃんからジャケットを受け取りながら、軽い口調で言う。私はとりあえずなにか頼まないと、ということで注文したアスパラサラダを食べながら話を聞いている。

「それでね、実はあなたに聞きたいことが──」

「あの! これって、現役時代も着てた服ですよね!?」

 花音ちゃんの言葉を遮って、めいちゃんが興奮気味に言う。

「え。まあ……結構昔から着てるけど……」

 するとめいちゃんは目を輝かせて、

「やっぱり!! アイドルステーションにサンドーが四回目に出たときにののたんがこれを着てて、確かそのときメロちゃんが振りを間違えそうになったのを、ののたんがフォローしたんですよ!! そのとき私は、ののたんって歌って踊れるだけじゃなくて周りのことも見える本当の意味でのアイドルなんだなあって思って、それ思い出したら気がついたら着てて──」

「いや着ててじゃないよ!?」

 珍しく圧倒された様子の花音ちゃんを見ながら、私は思っていた。

 私たち、やっぱ来ないほうがよかったかな?

「……あのさ! そんなことより、これ!」

 花音ちゃんはめいちゃんの圧に負けじと話題を展開しはじめた。いけいけがんばれ。

 はあはあと息の荒いめいちゃんに、花音ちゃんがICレコーダーを差し出す。

「ね、ここに入ってた曲って……」

「っ!」

 電車で一緒に聴いて、花音ちゃんがなにかを口ずさんだ曲。花音ちゃんがそれを流すと、めいちゃんはびくっと肩をふるわせた。

「私のオリジナル曲……ですけど」

「やっぱり!」

「へえ……」

 横で聞きつつも、私は感心していた。もしかしたらそうかもしれない、と思ってはいたものの、本当にそうだったんだ。けど口を挟む余地はなさそうなので私は黙ったまま、アスパラに温玉をちびちびつけて食べている。

「実は私、あの曲すっごく気に入って!」

 するとめいちゃんは、子犬のように体を大きく震わせる。なんかすごく嬉うれしそうだ。

「私たちJELEEジエリーがやってることは知ってるよね?」

「はい。渋しぶ谷やのゲリラライブから始まって、クラゲを模した匿名アーティストとして、動画サイトに歌を出していくんですよね?」

「把握がすごい……」

 私は思わず口を挟んでしまった。花か音のちゃんはぱあっと前向きに笑う。

「じゃあ話が早い! めいちゃん、私たちJELEEの曲を作ってくれない!?」

 私はアスパラをくわえたまま、またもなりゆきを窺うかがうことにした。

 めいちゃんは一瞬嬉しそうに口を開けたり頰ほおを緩めたりしたけれど、ぐっと表情を作り直す。

「それは……誰が歌うんですか?」

「え? そりゃあ私に決まってるじゃん」


「私っていうのは──誰ですか?」


 ぐっと芯しんに迫るような質問。花音ちゃんは一瞬身じろぎしたように見えたけれど、すぐに自信満々に、真まっ直すぐ視線を返した。

「山やまノの内うち花音だよ。JELEEのボーカル、山ノ内花音が歌う」

「けど、私はののたんに──」

「ごめん」

 花音ちゃんは静かに、言葉を遮った。

「橘たちばなののかはもう、いないんだ」

「っ!」

 めいちゃんは失望したように、花音ちゃんから目を逸そらす。

「……そうですか」

 言うと、すっと立ち上がった。


「私が作った曲を山ノ内さんが歌うのは──解釈違いです」


 その言葉に花か音のちゃんは、返す言葉がないみたいだった。

「ご期待に沿えなくてごめんなさい。山やまノの内うちさんも、マネージャーさんも」

「マネージャーじゃないよ!?」

「時間です。……これから試験なので、失礼します」

 言いながら、めいちゃんがスマートフォンの画面で時刻を確認したとき。

 気になっていたものが、今度はハッキリと見えた。

 黒髪少女と、赤髪少女のツーショット。

 それは最初にバイト先でめいちゃんと会ったときにも見えて、違和感があったもの。私はあのとき、あの写真は黒髪のめいちゃんと謎なぞの赤髪少女だと思っていたけれど──もしかして。

 そのままめいちゃんは今度はきちんとめいちゃんのほうのバッグを手に取ると、お店を去っていく。

「あー! これ、返しそびれた」

 花音ちゃんはポケットにしまっていた、学生証を取り出していた。

 そこで、私は閃ひらめく。

「……ね、花音ちゃん、それちょっと貸して?」

「え? はい」

 私は花音ちゃんからそれを受け取ると、スマートフォンを取り出して、学生証の顔写真の部分を撮影した。

「なにしてるの?」

 めいちゃんの待ち受けの女の子。バーで見たときにはめいちゃんと赤髪の女の子が写っているように見えたけれど。

 もしかしたら──逆なのかもしれない。

 私は撮影された学生証のめいちゃんの写真を、得意の写真加工アプリで加工する。

「……この子、見覚えない?」

 私がいじったのはめいちゃんの髪の色。

 赤髪になっためいちゃんの姿が、私のスマホには表示されている。

「……っ! この子!」

 思えば私はいつから、一人ぼっちだったのでしょうか。

 いえ、ひょっとすると、生まれたときからそうなる運命だったのかもしれません。この日本という国に、高たか梨なし・キム・アヌーク・めいというミックスとして生まれて。燃えるように赤い髪を持っているわりに引っ込み思案な私は、いつでも生きづらい時間を過ごしていました。

「あ、あの……」

 中学二年生のあるとき。私は、休み時間に私の机を占拠して喋しやべっているクラスメイトの女の子、三人組を見つけます。私は机から教科書を取らないといけなかったので、三人に話しかけないといけませんでした。

「そこ、私の席……」

 絞り出したような声で言うと、

「そうなの?」

「てかちょうどよかった。高たか梨なしさん、私と席交換してくれない?」

 やや投げやりなトーンで言われてしまい、私は対応に困ります。

「え、だけど先生に……確認しないと」

「いいじゃん、この席の近く、私らが固まってるし、高梨さん気まずいでしょ」

 言われて私は安心します。なんだ、私のことを気遣ってくれていたんだ。優しさに気がつくことができた私は苦手ながらに笑顔を作って、三人に向けます。優しさをくれた人には優しさで返しなさいと、いつもお母さんから言われていました。

「えっと、ありがとうございます。……気を遣ってくれなくても……大丈夫ですよ?」

 けれど、私の言葉に三人は失笑しました。

「や、そういう意味じゃないんだけどな……」

「あはは。しょうがないでしょ、わりかし空気読めない系じゃん?」

 言っている意味がいまいちわかりません。

 ただ、きっと私がまたみんなとはズレた、変なことを言ってしまったのだろう、ということだけはわかりました。

 私はいつもそうで、だから私は、一人ぼっちなのでした。

「え……ご、ごめんなさい」

 作り笑顔で、媚こびるように謝ります。そうすることしか、やり方がわかりませんでした。

「まあもうよくない? 行こ」

 三人がすれ違いながら去っていくと、どうしてか私の心のなかには恥ずかしさやみっともなさ、情けなさのようなものが積み重なっていきます。やがて三人のうちの一人がくすくす笑うのが聞こえて、

「変な名前~」

「っ!」

 明らかに、隠すことなく私に向けられた悪意。

「ちょっと聞こえるよ~」

「あの髪アリなら私も染めたいんだけどー」

「ダメだよ、あれキム専用だもん」

 私みたいな空気の読めない人にもわかるくらいに、けらけらと見下した笑い。にもかかわらず、私は俯うつむいてなにも言い返せなくて。握った拳こぶしはやがて、力なくほどけてしまいます。

 けれどこんなことは、日常茶飯事で。

 けれどこんなことに、心が慣れるはずはありませんでした。


   ***


 あるとき私は、家電量販店の電子ピアノコーナーに立ち寄っていました。

 ぽーん。

 ぽーん。

 人差し指で適当に押すと鳴る無機質な単音は、まるで一人ぼっちの私みたいで。

 ぽーん。

 ぽーん。

 ぽーん。

 こんなところでもピアノの前だけは、私の居場所でいてくれるのかもしれない。

 なんてことを思っていたときでした。

「ね~やめてよー! 私が弾いてるのー」

「あははー!」

 向かいのピアノできゃっきゃと楽しそうに遊ぶ、制服を着た同い年くらいの女の子たちの声が聞こえます。どうしよう、さっきまで居場所に感じられていたここが、突然また、私に惨みじめさを突きつけてくる残酷な明るさを持ちはじめて。

「……っ」

 私はまた敗走するように、その場を離れました。

 この世界は変わった人には不親切で、厳しくて。けれどそんな私を無条件で受け入れてほしい、なんていうのもきっと失礼なことなのです。

 だったら私が、変わらないといけないのでしょうか。

 そんなとき。

「みんなありがと~!」

 さっきまで聞こえていた声なんか目じゃないくらいに底抜けに明るい、まるで太陽みたいな声が、フロアの一角から聞こえました。

 見ると、CD売り場の近くに『サンフラワードールズ サイン&チェキ会』という看板が立っていました。そして──。

 気付くと、私はそこにいた一人の女の子に。

 目を、奪われていました。

「顔がいい……」

 私はずっと、美しいものが好きで、音楽もお洋服も、美しいものに惹ひかれてきました。けれど……女の子に関してもそうだったことを、私は初めて知ります。

「……」

 気付くと私は引き寄せられるように、サイン&チェキ会の列に並んでいました。


   ***


 数十分後。前に並んでいたたくさんの人がはけて、ついに私の順番がやってきます。こんなものに参加するのは初めてだったので、一体どんなふうに会話すればいいのか、というよりも私なんて一見さんが来てしまってよかったのか、そんな不安で心臓がばくばくと高鳴っていました。

「どうもー! ひまわりのような笑顔でみんなを引っ張る! サンフラワードールズのリーダー! 橘たちばなののかこと、ののたんです!」

 なんだかすっごく長い挨あい拶さつをされました。歌うみたいにテンポよく言われてしまったので、私の頭の処理が追いつきません。とりあえす、名前が『ののたん』ということだけは理解できました。

 私がなにを言えばいいのかわからず無言で見つめていると、ののたんさんは再び口を開きます。

「はじめまして! 女の子だー! すっごい嬉うれしい!」

「えっと……はじめまして」

「名前なんていうの?」

「えっと、キム……」

 本名を言いかけたとき、私のなかにクラスメイトの言葉が蘇よみがえります。


 ──『変な名前』。


 私はあのとき、クラスメイトにそう言われてしまいました。

 ひょっとしたら、いま私がその名前を言ったらこの女の子に嫌われてしまうかもしれない。

 常識ではそんなわけないとわかっていても、私はずっと変な子だったから、その常識が間違っているかもしれない。

 そう思うと、本当のことを言うのが怖かったのです。

「きむ、木き村むらです!」

 私の口から飛び出したのは、冗談みたいにくだらない、作り物の名前でした。

「木き村むらちゃんね、よろしく! ていうかさ!」

 キラキラした目で私を見つめます。

「背も高いし、髪もオシャレだし、顔も整ってるし、何者!? 木村ちゃん、わたしがいままで見た女の子で、一番かわいい!」

 滝みたいな勢いで浴びせられる肯定の言葉。けれど私はどうしてか素直になれずに、信じることができなくて、赤面しつつ、むすっと目を逸そらしてしまいます。

「……それ、みんなに言ってるんでしょ」

「かわいくないこと言われた!?」

 かわいくない、私もそう思います。きっと私とは違う普通の人は、クラスのみんなは。こうして褒められたらもっと素直に喜んだり、感謝したりできるのでしょう。

「だ、だって私、このせいでいろいろ言われるし……友達もいないし……」

 コンプレックスのことを話している私の声は、どんどんと小さくなってしまいます。しかしどうしてでしょうか、ののたんさんは、嬉うれしそうに両手を合わせて目を輝かせました。

「木村ちゃん友達いないの!?」

「え……は、はい。……なんでそんなに嬉しそうに……?」

「だってわたしも、友達いないからっ!」

 ののたんさんは、びしっと親指を立てて言います。

「え! ……そんなに顔がいいのに?」

「それ関係なくない?」

「けど、あそこにいるのは……」

 近くで同じくファンに対応をしている女の子を見ながら言うと、

「あれはメンバーだって」

 そしてののたんさんは眉まゆをひそめると、私の耳元に口を寄せて、

「ここだけの話、わたしこのグループでちょっと浮いててさ……特にあいつとは喧けん嘩かばっか」

 隣のブースでファンの対応をしているツインテールの女の子を見ながら、ののたんさんは言います。

「そ、そうなんだ……」

 本音を話してくれているような語り口は、なんだか私にとって心地いいものでした。

「わたしさ。小っちゃい時から毎日レッスンで、学校もあんま行けてなかったし、嫉しつ妬ととかもあって、ずっと友達できなくて! ……でも、絶対負けないんだ」

 一瞬影が落ちたその表情は、やがてけろっと笑顔に変わります。

「なーんてっ!」

 どうしてでしょうか。

 私はどうしようもなく、この女の子に惹ひかれていました。

「わ、私も! 昔からこんなで、誰とも馴な染じめなくて……ずっと、ずっと一人ぼっちで……!」

「そうなんだ?」

 私が頷うなずくと、ののたんさんはいたずらっぽく笑って、

「それじゃわたしたち、似たもの同士だねっ!」

 そのときすでに、私はその言葉と笑顔に、心を奪われていたのだと思います。

「……っ! 似たもの……」

 ふひっ、と気持ち悪い笑いが漏れたのが、自分でもわかりました。

「ねえ! 木き村むらちゃんはなにか、好きなものとかないの?」

「す、好きなもの……? なんでしょう、小さい頃からピアノは続けてるけど、好きかどうかは……」

「木村ちゃんピアノ弾けるの!?」

 ののたんさんは、ぱあっと明るく、前のめりに言います。

「じゃあさ、わたしいつか木村ちゃんの演奏、聞きにいくね!」

 それはちょっとした軽口のつもりだったのかもしれません。

 けれど、私の孤独のなかにぽとりと、光が一滴落とされたようでした。

「え……! ほ、ほんとに!?」

「もちろん!」

 ののたんさんの笑顔は、輝いています。

「だってわたしはね? ファンを絶対に一人ぼっちにしないって、決めてるんだ!」

「っ! ……にひひ」

 また私の口から、慣れない笑みが漏れました。

「だから木村ちゃんも大丈夫! 友達がいなくても、好きなものがなくても! わたしとわたしの歌だけは、あなたを一人ぼっちにしないから!」

 そしてののたんさんは、私に小指を差し出します。

「約束だよ!」

「……はい!」

 私は導かれるように、ののたんさんの細くて白い指に、小指を合わせます。

「それじゃあ撮りまーす! もう少し寄ってくださーい」

「は、はいっ!」

 並んで感じる体温。

 私はチェキを撮影されながら、気付くとこんなことを口走っていました。

「いま、できました!」

「え?」


「──好きなもの、いま、できました!」


 そして私はその数日後、初めて訪れた渋しぶ谷やの美容院でこう言っていました。

「高たか梨なしさん、どんなふうにしましょう?」

「私は……」

 待ち受けにしたののたんさんの写真を、美容師さんに見せます。

 鏡に映る赤髪の私。けれど私には、なりたい姿ができていました。

「私が好きなものに、なりたいです!」


   ***


「高梨さん、お願いします」

 音大附属のホール。過去の思い出からハッと我に返ると、私は試験会場でピアノの前に座っています。

 いつもの癖で譜面台に置いていたスマートフォンの真っ暗な画面には、あの頃のののたんと同じ、黒髪ぱっつんのロングの髪型をした私が、反射して映っていました。


 ──『橘たちばなののかはもう、いないんだ』


 変わってしまったののたんが言った一言が、私の胸に響きます。

 スマートフォンに触れると画面がついて、ロック画面にはあのころの黒髪のののたんと、まだ赤髪だったころの私が表示されます。

 でも、そうだよね。

 このののたんはもう、いないんだ。

 だったらもう、卒業しないといけないよね。

 私は震える手でデータフォルダを開くと、ずっと私を支えてくれていたののたんとのツーショットを長押しして、メニューを表示します。一瞬迷ってしまったけれど、私はそれをひと思いに削除しました。

 消えてしまった画面にもう一度、私が映り込みます。

 これで私はまた、正真正銘の一人ぼっちでした。


「大丈夫……もとに戻っただけ」


 自分に言い聞かせるように言います。

 だって私は、最初からそうでした。


「私はもともと、一人ぼっちで……」 


 小学生のころは、みんなが外で遊んでいるなか、家でピアノを弾いていて。

 中学生のころは、人とは違う変な見た目を、ずっと馬ば鹿かにされて。

 どの卒業式でも、入学式でも。黒髪の女の子だけが数百人並ぶなか。

 私はずっと、たった一人だけ赤髪で。残酷な奇異の目に晒さらされて。

 孤独に耐えて、寂しく生き抜いてきたのです。


「私はもともと──みんなとは、違うんだ……っ」


 涙が零こぼれだして、ピアノの鍵けん盤ばんを濡らします。

 先生たちから、また変な子だって思われてしまいます。けど、もういいんです。

 だって私は本当に変な──


 そのとき。

 ホールのドアが、乱暴に開く音が聞こえました。


 驚きながら視線を向けると、そこには山やまノの内うちさんと、マネージャーさんの姿があります。

「ちょっと、そんなに急がなくても」

「そうだけど、時間通りに進んでないかもでしょ。ほら」

「あ、もうめいちゃんの番……って、なんか泣いてる!?」

 自然体で会話している二人を見ながら、私は呆あつ気けにとられていました。二人はそのまま、中央あたりの席に座ります。

 私はそんなののたんの一挙手一投足から、目が離せませんでした。

 おっとっと、と椅子いすの足につまずきそうになるののたん。

 大丈夫大丈夫、とお茶目に眉まゆを上げるののたん。

 照れくさそうに笑って、けれど真まっ直すぐ、私を見つめてくれるののたん。

 その面影だけはやっぱり、私を救ってくれたあのときと、なにも変わらなくて──


「木村ちゃん! ずっと忘れててごめん!」


 その声は、私の意識を摑つかんで離しませんでした。


「けど、言ったでしょ! 私は絶対に、あなたを一人ぼっちにしないって!」


 あのときと同じ笑顔で、無邪気で茶目っ気のある表情で。

 私はその言葉に、呼ばれた名前に、驚いてしまいました。

 だってそれは、私がまだ髪の毛を染める前、初めて会ったときに話したことで──

「ちょっと、あなたたち静かに──」

 ぐしゃり、と。

 ピアノの不協和音が、先生の声を握りつぶしました。

「っ!?」

 遮るように、私が力強く、鍵けん盤ばんを押し込んだのです。

「た、高たか梨なし……?」

 胸が高鳴る、心が跳ねる。理性で抑えようとしても、頰ほおが緩んでしかたがありません。

 なんて私は単純なんでしょう。ののたんが、私を覚えてくれていた。約束を、守ってくれた。ただそれだけなのに、自分でも信じられないくらいに、前を向くための気力が、取り戻されていました。


 どうして思い出してくれたのかはわからない。

 ……けど、いまはそんなことどうだっていい。


 ──だって!


 推しが、私の演奏を聴いてくれてる!


 私は課題曲の一音目の鍵盤をゆっくりと押し込むと、愛を込めて、その曲を弾きはじめます。この曲は、初めはゆっくりと弾きはじめて、後半に向けて徐々に盛り上げるのが鉄則だと、お父さんから習っていました。

 けど、いまの私にそんなことができるはずがありません。

 うきうきとステップを踏むみたいに弾んでいるその音色は、初めてののたんと同じ髪色に変えて、美容院から飛び出していったときの私の足取りに似ていました。

 ののたんはアイドルだから、こういうところで髪を染めるのかな、そんなことを思いながら、背伸びして渋しぶ谷やのお店で髪の毛を染めて。

 世界一かわいい髪色と髪型になれた私は、美容院から出るとガラにもなく走って、宮みや下したパークの下のトンネルをくぐって、そこにあったクラゲみたいな絵の前で、ご機嫌にくるっと回ります。なびいたスカートはののたんが3rdシングル『SUNNY SIDE UP』のサビでターンを決めたときみたいで、ドキドキしました。

 ふと目がとまった、お母さんがよく着ているハイブランドのお店のショーウィンドウ。けれど私はその商品よりもガラスに映る、ののたんみたいになれた自分にピントが合って、ついニヤけてしまいます。

 その日から私はきっと、最強でした。


 曲は中盤。段々と冷静さを取り戻してきた私は、重厚に、誰よりも深い愛を示すように、テンポを緩めます。その決意はまるで、私が初めてクラスのみんなに言いたいことを言えたときのもののようで。

 普段通りの学校。三人の女子生徒たちがまた私の席の近くで話していたときのこと。

 黒髪に染めた私に気がつくと、生徒たちは驚き、ひそひそと話しはじめます。

 やっぱり孤独は感じたけれど、だけど私はもう、引き下がりたくありませんでした。

 だって私のポケットの中には。

 その待ち受け画面には、大好きな推しがいます。

「……そこ、私の席なので!」

 慣れない言葉を言い放つ私の手は震えていて。

 けれどポケットのスマートフォンをぎゅっと握ると、自然と震えは止まりました。

 私はまだ私を信じることができないけれど、それでも推しみたいになりたい。そう考えるだけで、行動する勇気が湧わいてきました。

 その日から私はきっと、一人ぼっちじゃありませんでした。


 曲も終盤。旋律は複雑に、けれど繊細になっていき、序盤のテーマをもう一度繰り返しながら、ドラマチックに展開していきます。テンポを落として、しっとりと、永遠の愛を誓うように響く静かな調べは、私がののたんと過ごしためくるめく日々を思わせます。

 書店の袋を持って帰った私は、偉大な作曲家の本や楽譜だけが並ぶ本棚に、どっさりと買ってきたののたんの写真集やサンドーのピアノスコアを、うきうきで入れていきます。

 そして私は、出来上がった私の神棚を見あげて、

「嗚あ呼あ……推しと推しのコラボ!」

 うっとり眺めたりしながら、私はそれから毎日、楽譜を書きました。推しとは一定の距離を保ちたいタイプのオタクになった私は、それからののたんと直接話すことはなかったけれど、楽譜のすべてには『作曲:木き村むらちゃん 歌唱:ののたん』と書いて。部屋の壁にはあの出会いの日、ののたんからサインとメッセージを入れて貰もらったチェキを、額縁に入れて飾って。

 そこに書かれたののたん手書きのメッセージ。

『いつか有名になってわたしの曲、書いてね!』

 その文面を見る度に、私は自分がピアノを弾く意味を、教えてもらえたような気持ちになっていました。


 加速する演奏。楽しい。ピアノを弾くことって、こんなに楽しいことだったっけ。

 細かく跳ねる旋律、音符と戯たわむれるように鍵けん盤ばんを次々弾くと、それに呼応して私の心も前向きになっていきます。

 最後の音符まで辿たどり着き、私は気持ちを込めて、愛を込めて、一人ぼっちを振り切るように、鍵盤を押し込みました。

 私が最後まで演奏し終えると、しばらくの静寂。

「……っ!」

 ぱちぱちぱち。

 最初に一つだけ響いた拍手の音は、椅子いすから立ち上がったののたんのもので。広いホールに小さく、けれど自信満々にこだまする拍手の音には、ののたんらしさがありました。

 初めて出会った家電量販店。

 足あし繁しげく通った、サンドーのライブ。

 そして、ののたんの炎上を見て、一人になってしまった記憶。灰色になった毎日。

 いろいろな思い出がフラッシュバックして、私の内側から涙や感情が一気に溢あふれ出します。

「……ののたんっ」

 私が私でいられたのはきっと、あのときもらったののたんの言葉と、約束のおかげで。

「ののたん、私ね!?」

 ステージの上で大声で叫んでいる私の声は、自分でもびっくりするくらい、涙に濡れていました。

「……ののたんのための曲、いっぱい作ったんだよ!?」


 好きって気持ちが、役に立ちたいって気持ちが。

 私を私にしてくれて、ありがとうっていう気持ちが。


 もう後戻りできないくらいに、零こぼれていました。


「私も一緒にやりたい! 私の曲……歌ってくれる!?」