初めてのクエスト


 あれは、クレスが冒険者養成学校に入り、ヘルメスと出会ってすぐの頃だ。

 クレスの学校での成績を聞く限り、卒業したらすぐに活躍出来るほどメキメキと実力を上げている。

 卒業するまでぼうーっとしていたら、俺は足手まといにしかならないだろうな。

『それなら、我と共にギルドの討伐クエストを受けて、娘に実力を示せばよい』

「なっ!? 俺の考えていることが分かるのか?」

『我とお主は一心同体。全ての思考が分かるわけではないが、意識すればお主の考えが声として聞こえるのだ』

「そうなのか? うーん、変なことを考えないようにしないと……」

『ふん、お主のような才能を持たぬ凡庸な人間が、そのようなことを気にしても仕方あるまい。それよりも、クエストの件やるのか? やらぬのか?』

 そうは言われても、ヘルメスが言う通り俺には才能がない。

 使い慣れた弓も、動物相手なら当てられるがクエストに指定されるような魔獣や魔物にどこまで通じるのか……。

 初めての護衛の時に、ゴブリンに殺されかけたばかりだ。

 一人では、簡単にやられてしまう。

『やれやれ、その時の状況は分からぬが我がいるのだぞ? ゴブリン程度に後れを取るわけがあるまい』

「また勝手に俺の考えを読んで……! でも、お前ってそのナリで戦えるのか?」

『今の我に戦闘力は皆無だ。しかし、我にはいくつかのスキルがある』

「おー、流石は山の守り神様。スキル持っているのか! それでどんなスキルなんだ?」

『当然だろう? 今の我が使えるのは三つ。一つ目は『治癒』。このスキルは、あらゆる傷を治せる。二つ目は『神の眼』と言われる探索スキル。魔力を持っている者であれば、半径五㎞くらいなら感知出来る。近づけば、相手の魔力量や生命力が分かる。近辺の地形もある程度分かる。三つ目は、『吸魔』。相手の魔力を強制的に奪い、我のものに出来る。魔力がなくなれば魔物とて気を失い、最悪死に至ることもあるのだ。』

「おお……、聞いているだけですごいスキルばかりだな」

『これでも、かつては神獣と言われ崇められていたのだ。これくらいは大したことがない』

 そうは言いながらも、誇らしげにどこにあるか分からない胸を張る。

 その仕草が何とも可愛らしく見えて、可笑しくなった。

『何を笑っているのだ! それで、今言った三つのスキルを使えば、町の近辺に住む魔物を倒すなど造作もない筈だ』

「うーん、そうなのか? いまいちピンと来ないんだよなぁ」

『ふむ、お主には言って聞かせるよりも、体験させた方が早そうだな。では、さっそくクエストを受けに行くぞ』

「はいはい、分かりましたよ」


 こうしてヘルメスに促されるままに、俺は冒険者ギルドにやってきた。

 まだ昼間だというのに、多くの冒険者が酒をあおりながら品のない笑い声をあげている。

 そんな奴らを素通りし、ギルドの受付嬢に話しかけた。

「あの、クエストを受けたいのだけど?」

「あっ、先日の方ですね? 娘さんは無事に入学されたとか。本当におめでとうございます」

「ああ、ありがとう。娘は卒業したらEランクになるらしいので、それまでに俺もランク上げたいんだ。何かいいクエストはないか?」

「そうですねぇ。ウードさんの場合、戦闘に適したスキルがないと聞いてますので、採取とかがお勧めですね」

「なるほど、薬草とかのか?」

「ええ、そうですね。薬草が生えているようなところには必ずと言っていいほど魔物がいますので安全でないですが、それでも討伐よりは危険度は低いですよ」

「なるほど。じゃあ、そのクエストにするよ」

「はい、分かりました。採取だけでランクを上げるのはとっても大変ですが、不可能ではないですので頑張ってくださいね!」

「丁寧に教えてくれてありがとう。頑張らせて貰うよ」

 そう言って、立ち去ろうとすると『あっ、待ってください』と声がかかった。

「えっと、一応確認しますが……」

「はい、何でしょう?」

「その羽の生えた蛇って、ウードさんのペットですか?」

「……いや、ペットじゃない。えっと、相棒? みたいな感じさ」

 横から強烈な視線を感じるので、濁しておいた。

 ペットなんて言ったら、噛みつかれかねない。

「まぁっ! では、テイムが成功したんですね! 見たところ、フライスネークの亜種のようですしテイマーに登録変更したらどうですか?」

「いやいや、たまたまだから! 動物ならまだしも、魔獣の捕縛とか依頼されても俺には無理だと思うんだ」

「確かに、冒険者のテイマーさんにはそういう依頼が多いですからねー。残念です、支部から久々にテイマーが輩出されるかもと思ってたのに……」

「おいエリーナ、無茶を言うもんじゃないぞ? ウードさんが魔力が低いのを知っているだろう?」

 近くにいたギルド職員が、後ろから声をかけてきた。

 確か、クレスの入学を勧めてくれたベテランの職員だ。

「と言いますと?」

「全く、何年ギルドで働いているんだ。いいか? テイムというスキルは、相手の魔力が高いと通じないんだ。だから、ウードさんは今まで比較的大人しい動物しか手懐けられなかったんだ」

 そう、俺が持つ唯一のスキルであるテイムは、魔力を通じて相手を懐かせるものだという。

 だから、俺が今までテイムに成功したのは一番大型の動物で馬までである。

 熊や野生の牛のような、馬よりも大きな動物は一回も懐かなかった。

 それというのも、俺が持つ魔力が熊や牛よりも低いからだった。

「期待に添えなくてすまないな」

「いえいえ、テイマーは元々希少な存在ですからね。もし魔力があったとしても、本人が戦えない場合は護衛を雇うか、強いパーティに入るしかないですから。仕方ないですよ。稀に冒険者になってから魔力が上がる人もいますから、その時は強いパーティに入って新しい魔獣捕まえてくださいね!」

 ああ、そうするよと軽く返事をしてクエストの手続きを済ます。

 強いパーティか。

 彼女が想像するようなことにはならないだろう。

 なぜなら、俺はクレスと旅に出るつもりだからだ。

 キールを置いていくのは忍びないが、同世代の友達も出来たみたいだし、村の連中にも可愛がられている。それに家の仕事についても、給金を出せば働いてくれる(むしろ仕事させろ)と言う奴が多いので問題ないだろう。

 家事についても同じだな。村の奥様達が色々と世話を焼いてくれるので助かっている。

 何でも一緒にやりたがるので、何か心をくすぐるのだとか。

 純粋な子供の好奇心というのは、大人も巻き込むことで互いのきずなが深まっていく。

 また、案外教える大人の方に発見があったりして驚くものだ。

 子供は大人を成長させるとはよく言ったものだな。

 そういやクレスの時もそうだった。

 新しいことをする度に、目をキラキラ輝かせて聞いてくるもんだから、下手な誤魔化しが出来なくて大変だった。

 だけど、その甲斐があってクレスには真面目で正直者のお父さんと思って貰えているから頑張ってよかったよ。

 そんなクレスに弱いところなんて見せるわけにはいかない。

 いくら才能なしと言われて一度冒険者を諦めたからって、それを言い訳に足手まといになるのはごめんだ。

 いつまでも頼れるお父さんでいたいのだから。

 そんな思いもあり、さっそくクエストに挑戦しているわけだが……。

「どぉわああああああぁっ!?

『馬鹿者! 真っ先に逃げる奴があるか!』

「ばっか、あんなデカい奴をどうやって倒せっていうんだよ!」

 俺は今、だっのごとく逃げている。

 そりゃあもう全力でだ。

 俺を追ってきているのは、ジャイアントブルという俺の背丈よりも体高がある野牛の姿をした巨大な魔獣だ。

 その目は真っ赤に染まり、口には動物の牛とは違い無数の鋭い歯と大きな牙があるのが見える。

 あれはどう見ても肉食だ。捕まったら俺は喰われるだろう。

『あんなのから逃げるとは情けないヤツめ。あれのランクはEだぞ?』

「Eランクでも十分脅威だよっ!」

 武器を使わず、魔法や特殊なスキルも使わないジャイアントブルがEランクなのは純粋にその体の大きさと凶暴さにある。

 なぜか人を見ると興奮して飛びかかるように襲ってくるので、発見されると討伐対象となるのだ。

 その肉は普通の牛よりもジューシーで、オーク肉の数倍の値段で取引されるほど高級である。

 そのため、このクエストは討伐報酬の他にその肉自体の買取が発生する。

 俺のような駆け出しの冒険者には魅力的な報酬が貰えるクエストである。

 それ故に人気のあるクエストらしいのだが、達成率は意外なことに低い。

 なぜなら、飛びつくようなランクの低い冒険者には手に余るほどに強いからだ。

「それにしたって、ここまで凶暴なのか!?

『ふむ、どうやらお主の魔力にあてられて興奮しているようだぞ?』

「まじかっ!! 動物達なら大人しくなるのに、魔獣になると途端にこれかよっ!」

 木々をすり抜け走りながら逃げ回るが、ジャイアントブルは邪魔な木々をなぎ倒して俺達に迫り来る。

 普段は捕食者であるエースですら、体格が違いすぎて立ち向かうことすら出来ずに躱すので精一杯だ。

「この、ままじゃっ、逃げきれないぞっ!」

『だから逃げてどうする? アレを倒しに来たんだろう?」

「あんなのどうやれっていうんだよ!」

 既に何発も矢を放ち、ジャイアントブルの頭には数本の矢が刺さっているが、止まるどころか余計に殺気立っている。

 どれだけタフなんだと嘆く言葉しか出ないが、何の解決にもなっていない。

『この先に行くと少し見通しのいいところに出る。そこで奴を迎え打つのだ。我がスキルの真価を見せてやろう』

「何っ!? あんなのを倒せるほどすごいのか! ……よし分かった、覚悟を決めようか」

『うむ、そうでなくてはな! よいか、視界が開けたら奴の足下を狙って矢を放て!』

「りょーかいだっ!」

 少し先に光が多く差し込む場所が見えた。

 なるほどあそこだな?

 最悪うまくいかなくても、死ななければ治癒の光で怪我を治してくれるらしいし、ここは踏ん張りどころだ。

「抜けたっ!」

『放てっ!!

 ビュンビュンッ!!と可能な限り何度もジャイアントブルの脚を目がけて矢を放つ。

 その内の何本かが、その脚を射抜きジャイアントブルがバランスを崩して前のめりに転んだ。

『ウードよ、我の杖でヤツを突き刺すのだ!』

「ええっ!? これ武器になるのか?」

『ええい、考えている暇はないぞ!?

 見ればジャイアントブルはすぐに起き上がろうと、必死に脚に力を入れている。

 時間が経てばすぐに襲ってきそうな勢いだ。

「うおおおおぉっ!!

 杖を上下反対に持ち、尖った先の部分をまるで槍のように突き刺した。

 思っていたよりも丈夫で鋭いようで、すんなりとその体の奥深くまで突き刺さり、悲鳴と共に鮮血が吹き出る。

 だがそれで致命傷になるほどではないようだ。

 そこでさらにヘルメスがスキルを発動して追討ちをかけた。

『その身に宿りし魔力を我に寄越すのだ! ――『吸魔』!』

 杖がカッと光った。

 その次の瞬間、目を疑う。

 先ほどまで闘志むき出しの目をしていたジャイアントブルがみるみるうちに弱っていく。

 呼吸が浅くなり、その目も弱々しくなり、さらには脚に力が入らなくなりそのまま崩れ落ちたのだ。

「エース! 今のうちにトドメだっ!!

「ヴォウッ!!

 太く短いほうこうをあげると同時に口を大きく開き、ジャイアントブルの太い首に食らいつく。

 最後の足掻きとばかりに暴れるが、エースは決して離さなかった。

 そしてついにジャイアントブルは細く小さな悲鳴のような鳴き声をあげ、力尽きたのだった。

「うおおおおぉっ!! やったぞ! ヘルメス、エースよくやったな!」

『うむ、初めてにしては上出来だと褒めてやろう。お主にしてはだがな』

「おいおい、もうちょっと素直に褒めてくれていいんだぞ?っと、とりあえず血抜きとかしとかないとだな」

『近くに川があるようだ。そこで洗い流しながらの方がいいのではないか?』

「おっ、それはいいな。血の匂いに敏感な魔獣や猛獣がいるからな。洗いながらなら、気づかれにくいからな」

 それからは大変だった。

 俺とエース二人(?)がかりでジャイアントブルを引き摺りながら運び、血抜きして、内臓を取り出して捨て、運びやすいように切り分けていく。

 討伐証明用に指定されたのは、牙なのでしっかり二本切り取る。

「これでよしと。じゃあ帰ろうか」

 肉や皮など素材を狩り用の袋に入れる。

 中は動物の脂が染み込まされており、血が垂れないようになっている。

 落ちないように体に括りつけるように縛り、袋を背負う。

 う、かなり重いな。

 小さめの袋をエースの背中に取りつけたくらに荷物を載せて固定する。

 普段なら余裕そうに駆け回るが、今回は自分の体より大きな荷物のためよろけるのを必死で耐えているみたいだ。

 ごめんな無理させて。でも必死なその姿はとっても可愛いぞ。

 よしよしと撫でてから、森を出るのだった。

 森を出ると、すぐに荷物を馬車の荷台に載せる。

 馬は襲われても逃げられるように放逐しているが……。

 ピィーーーーーーッと甲高く鳴る小さな笛を鳴らす。

 するとどこからともなく、馬が二頭走ってきた。

「よーしよし、ちゃんと待っててくれたな」

 こうやって笛を鳴らせば戻ってくるように仕込んである。

 万が一笛をなくしても口笛で呼べるが、聞こえない範囲にいると結局探さないといけないので、笛は首にぶら下げてある。

 水筒から水を取り出し、馬達とエースに与える。

 ついでに餌を与えてから、自分も軽い食事を取った。

 一息つくと、馬を馬車に固定しカンドの町へと出発するのだった。

「うはーっ、体が痛いな。流石にあの大きさだと、自分の骨がミシミシいってた気がしたぞ」

『骨は一度砕いた方が強くなるらしいぞ?』

「お前、こえーこと言うなよっ! ったく、少しは労いの言葉をかけてもいいんじゃないのか?」

『うむ、よくやったぞエース。最後のトドメは見事だったぞ』

「ウォンっ!」

「いや、そっちにかよ……。いや、エースもかなり頑張ったけどもさ!」

 しかし、大きな獲物を狙うなら森の中でも使えるような荷台が必要だな。

 一輪つけた簡易的な荷台を作っておくか。

 帰ったら街の大工に相談してみよう。

 街に辿り着く頃にはすっかり辺りは暗くなっていた。

 今頃クレスは寮で晩御飯を食べているだろうな。

 俺も腹減ったなぁ。

 そんなことを考えながらカランカランと音が鳴る扉を開けて中に入る。

「お帰りなさいウードさん。今日はどうでしたか? というか、すごい大きな荷物お持ちですね、大丈夫ですか?」

「ああ、エリーナ嬢か。クエスト達成したから確認してくれるか?」

「もうですか!? はい、分かりました! では、あちらの確認用のカウンターに置いてください!」

 指定された少し広めのカウンターに袋をドサッと置き、口を開いた。

「これは……、もしかしてクエストのジャイアントブルの肉ですか?」

「ああ、運ぶのが大変だったから解体してから持ってきたんだ。中身は牛と同じだったから、ちゃんと部位ごとに分けておいたぞ」

 ちなみに一番美味しい部位の半分くらいは、エースが担いでいた袋に入っている。

 あちらは家用なので、こちらには出さない。

「すごいですね、さすが普段狩りをされているだけありますね。少しお待ちください」

 そう言うと、近くのギルド職員に声をかける。

 するとすぐに、ガタイのいい男が奥から現れた。

「ほう、これをアンタがやったのか? 間違いなくジャイアントブルの肉だな。あれだけの巨体からここまで綺麗に処理出来る奴はそういねーんだ。皆下手くそでよぉ」

「ええと、あんたは?」

「ああ、すまねえ。俺は冒険者ギルド専属の解体屋だ。冒険者が持ってきた魔物や魔獣を解体して肉や皮や牙、骨とか素材を取り出す仕事をしているんだ。見たところ、頭と首にしか傷が残ってねーな、どうやったんだ? しかも、肉もしっかり部位ごとで分かれていて混ざっちゃいねーし、完璧だな。……アンタ、冒険者辞めて解体屋やらねーか?」

 ギルド専属の解体屋なんているんだな。

 しかし、その道のプロにこんなこと言われるだなんて思わなかったな。

 かなり嬉しいが、解体屋になる気にはなれんな。

「嬉しいお誘いだけど、娘と冒険に出るために冒険者になったんだ。申し訳ないな」

「ああっ、アンタがウードさんか! 会えて光栄だぜ! あんたは俺らスキルなしの期待の星なんだ、応援しているぞ!」

「あ、ああ。頑張るよ」

 一体どこでそんな話が出ているんだか。

 しかし、同じく冒険者を諦めた奴から応援されているのか。

 それなら、より一層頑張らないとだな。

『ふん、我がついているのだ、こんなものではないと示さねばな』

「あはは、お手柔らかにな」

 肉の処理の仕方や、素材の質がよかったおかげでかなり査定がよかった。

 また、しばらく討伐されていなかったのか肉の値段が上がっていたらしく、クエスト報酬と合わせて小金貨五枚も貰うことが出来た。

「この調子で頑張ってくださいね! 今回の評価もかなりいいので、すぐにランク上がりそうですね! ウードさんには期待してますから!」

 やたらと評価してくれるエリーナ嬢だが、それだけ今回のクエストを達成したのが喜ばれたのだろう。

 しかし彼女から絶賛されたおかげで、ギルドロビーにいた他の冒険者達から『運がいいだけのおっさんが調子に乗りやがって』とか、『どうせ、どっかの冒険者雇ってたんだろ?』とかやっかみが飛んでくる。

「おいおい、いい歳したおっさんがそんなクエストを達成したくらいで、はしゃいでみっともねーと思わねーのかよぉ!」

 というか、ついには直接絡んできたし。

 うわ、酒くさいな。

 かなり酔っぱらっているなこの男。

「ちょっと、ギルド内でのめごとは厳禁ですよ! 大体あなただって、万年Gランクのお荷物冒険者じゃない!」

「エリーナ、事実でもそんなこと言ったらダメだぞ!」

 エリーナ嬢の暴言を止めているつもりかもしれないが、それは油に火を注いでいるだけだ。

 ほら、男の顔がさらに真っ赤になって噴火しそうになっているぞ。

「てめぇ~、女だからって手加減されると思うなよっ!!

 ついには、テーブルにあった酒瓶を手に持ちエリーナに襲いかかろうとした。

「危ない!」

 やばい、咄嗟にかばうように体を割って入ったが相手は腐ってもGランク冒険者。

 俺よりも格上だ。

 俺のようなおっさんでは、そのままやられてしまう!

『仕方ない奴だ。今回だけだぞ?』

 ヘルメスがそう呟くと、俺の体に魔力が注ぎ込まれるのを感じた。

 するとどうしたことだろうか。俺の体の奥底から力が湧き出るかのようにみなぎってきた。

「うおりゃああ!!

「がっ!? うおおおおおおおお!?

 咄嗟に全力で体当たりしたら、なんと相手が吹き飛ばされ宙を舞い別の冒険者のテーブルに突っ込んでいった。

「お前、死んだぞ?」

「てめぇ、俺の酒をどうしてくれるんだぁ!?

「ああ、俺の肉ガアア!!

「ま、待て。まってくれええええ!」

 哀れな男は、そのテーブルにいた三人組に外に連れ出されて行ってしまった。

 うん、悪いことはするもんじゃないね。

「えっと、お騒がせしました?」

「あ、ありがとうございますウードさんっ!」

 その様子を見ていた他の冒険者達から、わあああっっと拍手と歓声があがった。

「ウードのおっさんやるじゃねーか!」

「ヒュゥッ! 男だねぇ!」

「おい、今の見たか? すげー飛んでいったぞ?」

 口々に褒めたたえるので、とてもむずがゆい。

 中には『あのウードさんがやったのか!? 俺らも負けてられんぞ!』と前向きな声も聞こえてきた。

 しかし、すぐに俺のことを酒のアテにして再び飲み始めるのであった。

「いやあ、偶然ですよ偶然」

「ウードさん、まさかあなた……。ちょっと失礼、これで魔力を測ってください」

 ベテランギルド職員はそう言うと魔力を測る魔導具を取り出す。

 言われるがままに、それに手を当ててみると……。

「ウードさん……。上がってますね」

「え、何が?」

「魔力ですよ! ウードさんの魔力が前よりも格段に上がっています。よかったですね、これならもっと強い魔獣も捕まえられるようになるかもしれないですよ!」

 なんとこの歳で魔力が上がっただと?

 ……なんてぬか喜びはしないぞ。

 これはヘルメスの仕業に違いないな。

『ふむ、バレてしまったか。しかし、お主の魔力が上がっているのは嘘ではないぞ。我が魔力を吸収し、お主に与えればお主の魔力も増えるからな』

 なるほど、そうだったのか。

 これならいつか魔法も…。

『お主に魔法の才はないから諦めよ」

 無理なのかよ!

 くそう。でも、俺は諦めないからな!

『何をぼうっとしている。次のクエストを選ぶぞ?』

「はいはい、次は何にしようか……」

 こうして俺の冒険者として新しい人生が始まった。

 もちろん、クレスと一緒に旅をするためにだがそれでも新しい生活の始まりに心が踊る気持ちだ。

『お、ウードよ。はぐれオークが出ているらしいぞ』

「牛肉の次は豚肉かよ」

『今の我らには丁度いい相手であろうよ、明日はこれで決まりだな』

「了解、じゃあ明日も張り切っていくぞー!」

「ウォンっ!」

 この数か月後、才能なしと言われた俺は新人冒険者としては異例の早さで次のランクへと上がる。

 これをキッカケに噂が噂を呼び、俺が連れているヘルメスが幸運の蛇と言われるようになるのはもう少し先の話である。


おわり