新しきチカラと幸せの日常
ギルドをあとにし、皆でマチスさんが用意してくれた家に戻った。
クレスはまだ目を覚まさないが、ヘルメス曰く魔力が枯渇している以外に問題はないということだったので着替えさせてからベッドに寝かせた。
『心配しなくても明日には目を覚ますだろうよ』
「そうか、お前がそう言うなら問題ないんだろうな」
マリアとレイラは、マチスさんの本邸に風呂に入りに行った。
ゴブリン達の洞窟だったので、体についた臭いを落としたいのだろう。
マリアは行く前に『せめて汚れだけでも……』と言って、クレスに生活魔法『洗浄』で汚れを落としてくれた。
流石女子同士は、気の使うところが違うな。
二人は、そのままマチス邸の方に泊まると言っていた。
見送ったあと、寝ているクレスを見ながら少し考え込む。
『どうした、浮かない顔をして?』
「ああ、ちょっとな。少し夜風に当たろうか」
そう言って、ヘルメスを連れて外に出た。
外は既に涼しくなっており、少し冷たい夜風が疲れた体に心地いい。
しばらく夜空を眺めながら、今日の出来事を考える。
決して油断をしていたわけではなかった筈だ。
よく観察し、慎重に中に入った。
想定通りのゴブリンしかいなかったが、それでも決して気を緩めなかった。
――だが、あのオーガが急に現れたことで事態が急変してしまったのだ。
誰があんなところでオーガに出くわすと思うだろうか?
しかも、さらに上位のオーガロードがいるなど……。
アレは、もはや天災に近いと言ってもいいだろう。
だが、この先も同じようなことが起きないと言えるだろうか?
その時、俺はクレスを守ってやれるのか?
まさか、その度にクレスに頼りあの子の傷つく姿を眺めているだけなのか?
そんなことを、俺は……!
「ヘルメス。俺が凡人であるのは一生変わらないだろう。だが、今回のように恐ろしい敵に遭遇してしまった時に、クレスの足手纏いになるだけじゃ意味がないんだ」
『……なるほど。お主の考えは分かるが、凡人が大きな力を手に入れるのには想像もつかない大きな代償を伴うのだぞ?』
ヘルメスは、俺の目をじっと見てその覚悟をお前は持っているのかと問いただしてくる。
『分かりやすく言えば、きっとお主の寿命を削ることになる。それでもやるか?』
俺はその目を逸らすことなく見つめ返し、頷く。
そして、道を示してくれるヘルメスに感謝しながらも、苦笑いして答えた。
「それ、聞く必要あるのか? 寿命が尽きる前に、死んでしまったら終わりだ。それを回避出来るなら、クレスを守れるなら俺はやるぞ!」
『そうか……、ならばもう問うまい。では、お主には我の新しく解放されたスキルについて教えてやろう』
ヘルメスはそう言うと、ちょこんと俺の頭に乗り両の翼を広げる。
『神の贄はその身を捧げ、我はその魂を貸し与える。『神降し』!』
ヘルメスがそう唱えると、ヘルメスが光の粒となって消え、その光が俺の体に吸い込まれていった。
そして、俺の意識が外に飛び出した。
俺は不思議な体験をする。
自分が空に浮かび、自分の頭を上から見下ろしている。
そして、俺の意思とは関係なく自身の体が動き出した。
(うわっ、何が起こっているんだ!?)
「ふむ、成功したようだな。ウードよ、聞こえているか? これが、我が新たに使えるようになった『神降し』の効果だ」
(まさか、俺の体を動かしているのはヘルメスなのか?)
「そうだ。お主の代わりに、お主の体と魔力を使い神獣である我らのチカラを使うスキルなのだよ」
(ということは、俺の体なのに魔法とかスキルが使えるのか? でも、それだと今まで通りでは?)
「いいや、全く違うぞウードよ。この状態になれば、お主の体の魔力を直接使うことが可能だ。我なら、その治癒の力や探知スキル、そして魔力を吸収するスキルが普段よりも強化されるのだよ」
(それはすごいな。じゃあ、戦闘中は常にそうしていればいいんじゃないか?)
「お主は、自分以外に自分の体を使われて何も思わないのだな。普通は、『お、俺の体が!?』とか言って焦るところなのだが……。まあ、よい。『神降し』を解除すればその理由が分かるだろう……。『解除』」
すると、ぎゅぎゅぎゅっと自分の体に吸い込まれていく感覚に襲われる。
気づくと、元に戻っていた。
「お、戻ってこれたな……。うおおっ!?」
『ほう、この短時間でも影響があるか』
俺は急激な疲労感に襲われて、その場に倒れかかった。
立っていることが辛いほど、急に体に力が入らなくなった。
その場にしゃがみ込み、額から嫌な汗が流れる。
「これは、一体……?」
『これが『神降し』の副作用。魔力の急激な消費だ。言っただろう、代償が必要になると』
ここで俺は、ヘルメスから『神降し』について教わる。
その効果は、神獣など契約を結んだ高位の魔獣の魂を体に
ただし、行動の主導権は魔獣になる。
なので、正式に契約した信頼出来る魔獣以外には使わない方がいいということだった。
また、憑依の際に体に大きく負担をかけるため、暫くまともに動けなくなるらしい。
「それなら、魔獣が戦った方が強いんじゃないのか?」
『お主、自分の特性を忘れておらんのか?
「魔力を使い果たされたら、体はボロボロで魔力切れで
『そうだ。だから、これは奥の手なのだ。凡人たるお主が、本当のピンチになった時だけ使う。今のところは我しかおらんが、そのうち他の者にも出会うであろうよ。クレスと一緒に旅をするのであればな……』
最後に意味深なことを告げるヘルメス。
しかしこれで、いざという時に奥の手を手に入れたんだ。
「しかし、神獣のチカラを得る代わりに、俺の魔力がごっそり使われるのか……」
元々、魔法を使う才能どころか魔力が殆どないと言われていた俺だ。
そもそもの魔力量がないはずだ。
それを証明するかのように、今も魔力切れ状態だ。
『その通りだよ。だから、いざという時しか使うことが出来ないだろう。だが……』
「だが……?」
『我らのチカラを使えば、お主の器としての能力がわずかだが上がるようだぞ。だから、一日一回は『神降し』を使って精進せよ』
「ええっ!?」
あの脱力感を、毎日味わわないといけないのかっ!?
しかし、ヘルメスにはやると言ってしまったからな。
それにいざという時に、クレス達を助ける前に倒れるとかじゃ全く意味がないのだから。
万が一に備えるには、今から自分を鍛えるしかないだろうな。
「よし、分かった。これから訓練もよろしくなヘルメス!」
『うむ、これからビシバシやっていくぞ。覚悟せい』
器用に、両側についている翼で腕を組むような仕草をするヘルメスだった。
――
目を覚ますと、すっかり朝になっていた。
魔力を使い果たし、お父さんに担がれたところまでは覚えていたけど、そのあとの記憶がない。
きっと、そのままこのベッドに運んでくれたんだろう。
ふと自分の服装が寝間着に変わっていることに驚きつつ、お父さんが着替えさせてくれたのかなと考えながらベッドから降りた。
見渡すと、ここは見慣れないけど自分の家。
マチスさんが提供してくれた、町での住まい。
長年勤めていたマチス商会の従業員の方が使っていた家らしく、年老いて故郷に帰ってしまったので丁度空いていたのだという。
とても綺麗な家で、
サイハテの家が嫌なわけじゃないけど、やっぱり綺麗な家というのは悪くないよね。
台所に足を向けると、いい匂いがしてくる。
お父さん、相変わらず起きるのが早いんだなぁ。
私も癖がついたので、早起きには自信があるんだけど、魔力切れしたあとはどうにもならないみたい。
「おお、起きたか。おはよう、クレス」
「うん、おはようお父さん」
なんか、こういう会話は久々に感じてしまう。
ついこの間まで寮生活をしていたし、卒業してからもすぐに冒険者として活動を始めたので宿屋に泊まる機会も多く、家で過ごす時間が殆どなかった。
その間、キールに家の仕事などを任せっきりになっているので、少し申し訳ない気分になる。
元気にしているかな、キール。
村長や村の人達が色々と面倒を見てくれているから大丈夫なはずだけど、それでもちょっと心配になるわ。
まだ最後に会ってから数日しか経ってないけど、ちょっと寂しく感じる。
「マリアとレイラは本邸で朝ご飯をいただいてくるみたいだから、二人で食べようか」
「うん、お父さんの作った朝食食べるの久々だね」
「ああ、そうだったか? まぁ、相変わらず大したものは作れないけどな」
そう言いながら、焼いたパンをバスケットに入れてテーブルに置き、皿の上には焼いたベーコンと目玉焼きがジュージューいっている。
味付けはシンプルに塩とコショウのようだ。
でも、朝はそれが一番美味しい。
「いただきまーす!」
「ああ、召し上がれ」
「でも、卵なんてどうしたの? 安くないでしょう」
「ああ、さっき朝市に行ってきたんだ。採れたての卵だったし、栄養満点だからな。クレスも疲れているだろうと思って買ってきたんだ」
サイハテにいる時は、ニワトリを飼っていたので一~二日に一回くらいは卵を食べれたけど、町では買うしかない。
最初、その値段を聞いてびっくりしたのを覚えている。
でも、折角買ってきてくれたものだし、温かいうちに食べちゃおう。
う~ん、美味しい!
うちのニワトリより、少し味が濃い気がする。
きっと、美味しい餌を食べさせているんだろうなぁ。
半熟の黄身がとろーりと口に広がって、幸せでいっぱいになる。
さらに、そこに塩味の聞いたベーコンを放り込む。
そこで焼き立てのパンを頬張ったら……。
美味しい~~!
「はは、相変わらず美味しそうに食べるなぁ。見てるこっちが幸せになるよ。さて俺も食べてしまおう」
「あはは、だって美味しいんだもん」
二人笑顔のまま、もきゅもきゅ朝ご飯を食べてから、マチスさんの邸宅に向かった。
そこでマリアとレイラと合流する。
昨日貰えなかったというギルドからの褒賞金とランクアップ承認を受けるために、最低限の装備をつけて全員で冒険者ギルドへ向かうのでした。