「お父さんを、友達をお前なんかの餌にしてたまるかあああああっ!!

 最後の力を振り絞り、剣に銀色の魔力を集めていく。

 それを縦一文字に振り下ろした。

 銀の剣閃が刃となり、オーガロードに襲いかかった。

『馬鹿な、こんなところで俺が、俺様がやられるなどォォォっ!! 俺は、あの方からこのチカラをいただいたのダゾ!? その銀色の魔力は、マサカお前がアノ――』

 オーガロードは最後まで話すことなく、体をてっぺんから真っ二つにされて絶命した。

 命が尽きたその体からは、黒いもやがふわ~っと抜けていったのが見えた。

「はぁ、はぁ……、やったっ!? うあっ……」

 魔力を大量に使い果たしたクレスは、ついにその場に倒れてしまう。

 グラリと視界がゆがみ、前のめりに倒れ……なかった。

 がしっとクレスを受け止める太い腕。

 その温もりの正体を知っているクレスは安心し、そのまま意識を手放すのだった。

(お父さん……)


「クレスっ……。よく頑張ったな、あとは父さんに任せろ」

『馬鹿者が。まだ、お主も動いていい状態ではないぞっ!?

「父親である俺が、そんな情けないこと言ってられるかよ! ヘルメス、悪いが『治癒』を使いながらサポートしてくれ」


 まだ血が滲む体をおして、しっかりとクレスを抱えた。

 俺の額には玉粒の脂汗が浮かんでいる。

 傷はある程度塞がったが、受けた傷の激痛は続いている。

 今は究極のやせ我慢をしている状態だ。

 すかさず、町で購入しておいた滋養強壮薬を一気に飲み干し自分に活を入れる。

 うげぇ、すっごい不味い。

 しかし、少し意識がハッキリしたな。

 クレスをマリアとレイラが伏せている近くの地面に寝かせて、帰還準備を始めた。

 まずは素早く、オーガロードとオーガからの戦利品を回収する。

 流石に亡骸をそのまま回収するのは難しいので、素材となるものだけバックパックに詰め込んだ。

 ここにエースがいればある程度荷物を括りつけられるが、今は入口で馬車の警護をしてくれているのでここにはいない。

 考えても仕方ないので、魔石と素材を持てるだけ荷物袋に詰め込んだ。

 それからレイラとマリアに体力回復薬を飲ませた。

 即効性のあるものではないが、ここを出るまでに復帰してくれるだろう。

「ウードさん、ごめん……」

「……」

 レイラは意識を取り戻したようだが、やはりまだ体が動かないようだ。

 マリアに至っては意識を完全に失ったままだ。

 このままここに留まっては危険なので、急いで戻ることにした。

 ちなみに、来た時に使ったルートは塞がれているのでかなり迂回する羽目になった。

 オーガロードが来た方の道に進むしかなかったので、先に進んだのだが、しばらくすると広間に出た。

 中心にはよく分からない魔法陣が描いてあったり、何かの仕掛けのレバーらしきものがあった。

 ヘルメスに『神の目』で探索して貰いながら何個かのレバーを下げたら、来た時の道が開いたようだ。

『今、道が元に戻ったぞ。これで帰還出来そうだぞ』

「助かったよヘルメス。お前がいなかったら、何度も行ったり来たりをしないといけなかった」

『確かにな。しかし、こんな高度な仕掛けをオーガ如きが創れるとは思えん。早くギルドに戻って報告をした方がいいぞ』

「そうだな。ゴブリンは殆どいなくなったみたいだけど、まだ残党もいるだろうし。もしかしたらオーガも残ってるかもしれない。早く戻ろうか」

 こうして帰り道が確保出来たので、すぐさま入口まで戻る。

 ちなみに今俺は、少女とはいえ三人を担ぎ、さらに背負い袋を抱えている状態でダッシュしているのだ。

 しかも、まだ傷の痛みを抱えたままでだ。

 正直辛い。

「なあ、ヘルメス! 一人くらい浮かせるとか出来ないか!?

『我に、そんな能力はない』

 と冷たく返された。

 流石に鍛えていると自負する俺でも、かなりキツイのだけどな。

 まぁ、継続して治療してくれているわけなので、文句も言えないのだが……。

 そんなわけでヘルメスが安全ルートを全力で選んでくれつつ、俺が皆を抱えてその通りの道をダッシュしているわけだが、ほぼ気合と根性だけで何とか脱出に成功した。

 入口まで戻ると、心配そうにエースが駆けつけてくれた。

 よーし、いいこいいこ。

 日に当たっていたせいか、ふわふわな上にお日様の匂いがしてより心地いい。

 十分に癒されてから、荷物をエースに括りつけて馬車まで運んで貰った。

 俺はクレス達をそのまま抱えて馬車の荷台に寝かせ、御者席へ座る。

 ゴブリンの残党などがいないのを確認してから、街道へ入り馬車を町へ出発させた。

「しかし、ゴブリン討伐依頼の筈が何でこんなことに……」

 皆まんしんそうだ。

 正直俺は死にかけたし、マリアもまだ意識を取り戻していない。

 レイラは目を覚ましたけど、全身打ち身状態で思うように体を動かせないみたいだ。

 クレスは魔力が尽きて眠っている。

 帰り道は、エースとヘルメスだけが頼りとなる。

 まぁ、あのオーガにまた遭遇しない限りは大丈夫だろうけどね。

 途中からしか見てなかったが、クレスが銀色の何かでオーガを倒せていなかったら、全員死んでいただろうなぁ。

 むしろ、あの状態に陥って誰も死んでいないのが不思議なくらいだ。

『どうやら情報が間違っていたのだろうな。もしくは……』

 ヘルメスは途中まで言いかけて辞めてしまった。

 何かを疑問に思ったようだったが、まだ確証を得ていない、そんな感じの反応だった。

 とにかく、全員が生きて帰ってこれたことに安堵しつつ、俺達は町へと帰っていくのであった。


 それからゆっくりと丸一日かけてカンドの町へ戻ってきた。

 途中でマリアも目を覚ましたし、これでひと安心だ。

 元々、打たれ弱いマリアはあの一撃でかなりの重傷を負ったが、幸いヘルメスの『治癒』の力のおかげで殆ど完治している。

 たった半日で骨折やら、打撲やらが綺麗さっぱり治っているのを知るとマリアも驚愕していた。

 レイラは、マリアの治療がひと通り終わってから治療したが、既に目を覚ましていたので御者をしている。

『ウードさんは、ここまで頑張ったんだから少し休んでて』と優しい笑顔で代わってくれたのだ。

「ウードさん、あれから私達はどうなったのですか?」

「ああ、そうだな。実はあのあと――」

 マリアが気を失ってからの一連の出来事を詳しく説明した。

 特に、オーガロードやクレスのことをだ。

「そ、そんなことが!? オーガだけでもかなりの脅威なのに、オーガロードだなんて……。にわかには信じ難いですが……。そんなことより、よくそんな大物が現れて私達生きていますね……」

 マリアの感想はごもっともだ。

 俺もあの時、一回は死を覚悟したのだから。

 それにしても、あのクレスが発現した銀色のチカラは凄まじかった。

 あれがなければ全員間違いなく死んでいただろう。

 しかし、あれは一体何だったんだ?

 意識が朦朧としていたから、おぼろげにしか覚えていないが、一瞬でオーガ達を倒したように見えた。

 だがクレスはあのあと気を失ったままだし、ヘルメスは何かを知っていそうだったが、口を固く閉ざしたままなので分からずじまいだ。

 肝心なことは教えてくれないんだよなぁ……。

「ウードさん! そろそろカンドの町だよ! ほらっ、見えてきた!」

 元気を取り戻したレイラが、町の門を見つけて明るい声で教えてくれる。

 あの時、咄嗟にレイラがマリアを庇いつつ、オーガを倒していなければあの時点でマリアはこの世から去っていたかもしれない。

 一撃で戦闘不能になったのを悔やんでいるようだが、咄嗟にあんなことが出来るレイラは剣士としての才能はかなりものだと思うのだ。

 だから、マリアの命を助けたことを誇って貰いたい。

「ああ、ありがとう。町に着いたらすぐにギルドに報告に行く。すまないが、ゆっくり休むのはそのあとだ」

「うん、分かっているよウードさん。わたしもしばらく気を失ってたからあんまり覚えてないけど、オーガの群れがあそこに棲みついてたら、……結構ヤバイもんね」

「ウードさんの話を聞く限りでは、この件は上級冒険者が受けるような内容になると思います。どれだけ残党がいるか分かりませんが、急ぐに越したことはないと思いますわ」

 レイラも俺から話を聞いた時は、目を丸くして驚いていた。

 クレスも気絶していたし、いつもならそんな冗談をと言って流しそうなものだが、急いで回収した素材と魔石を見て本当のことだと確信したらしい。

 意識があるのが俺だけなのを確認すると、珍しく照れた様子で『そっか、最後はウードさんがわたしらを担いで脱出してくれたんだね。そういう意味では、命を助けてくれた恩人だね。ウードさん、ありがとう!』と面と向かって感謝された。

 素直に感謝出来るこの子も、根っこはとてもいい子なんだと思った。

 道中は、エースが絶えず警戒してくれているおかげでゴブリン一匹すら近づいて来ることはなかった。

 珍しく殺気立った様子を見せていたので、エースも何か緊急事態が起こっていると肌で感じている様子だ。

 やはり、親に似てとても賢い子なんだな。

 いつもありがとうなと言ってもふもふと撫でてやると、すごい勢いで尻尾をブンブンしていた。

 うん、滅茶苦茶可愛い。


 しばらくして町の入口に到着する。

 町の入口にいる門番にギルドの冒険者タグを見せようとしたが、俺の顔を見るなり『ようっ! ウードさん。今回も無事で何よりだよ!』と言ってすぐ開けてくれた。

 こういう時、皆に顔が知れていると話が早く済んで助かる。

 そのままギルドのある街の西側へ向かい、馬車も停留所に置かせて貰う。

 マリアにクレスを任せて残って貰い、エースを護衛として置いていく。

 ギイィっとギルドの扉を開けて、レイラと二人で中に入った。

 俺とレイラだけという不思議な組み合わせに、中にいた冒険者達が不思議そうな顔で一瞬こちらを見るも、すぐに興味をなくし自分達の話に夢中になる。

 冒険者の受付嬢のところに行き、すぐに話しかけた。

「あ、ウードさん! 今回も随分お早いお帰りですね。まさか、もう終わったんですか~! ま、でも今回はゴブリン相手だし不思議でもないですけど!」

「いや、残念ながらクエストは失敗だ。中には入ったけど、制圧出来なかった」

「へ……。じゃあ、思ったよりも規模が大きかったので調査報告とかですかっ!?

 ガタンと椅子を倒す勢いで立ち上がる受付嬢。

 流石にまずいことが起きていると感じたみたいだ。

 ゴブリンとはいえ、規模が大きくなれば近隣の村への被害も無視出来ないものになる。

 まして、ジャイアントウーズを倒した俺達が急いで帰ってきたとなればかなりの規模だと想定しているだろう。

 しかし、現実はそれを遥かに超える事態になっていた。

「ああ、実はな――」

 俺は、洞窟の中で遭遇した災難について事細かに説明をした。

「お、お、おっ!?

「いや、落ち着きなさい」

「オーガの大群っ!?

 またしても、受付嬢は大きな声をあげてしまう。

 辺りにいた冒険者達が一斉にこちらを注目する。

「しかも、オーガロードが出現したですって!? いや、もうそれだけで脅威度Bランク以上じゃないですか!! よく、無事で……」

『オーガロードだと! 随分ヤバイのが出たみたいだな……』

『また、ウードのとこか! 運よく逃げ切れるあたり、流石だな』

『オーガだけでも、かなりなもんだぞ。さっき複数出たとか言ってたから、結構やばそうだ。おい、お前行って来いよ!』

『馬鹿か、俺なんか何人いてもあの硬い皮膚に傷も負わせられねーよ』

 といった具合に、皆好き勝手言っている。

 しかし、受付嬢の次の一言で状況はさらに一変する。

「え、本当に倒したんですか? 本当の本当に!?

「ああ、本当にやばかった。逃げ道も塞がれたから、死を覚悟したよ。でも、娘のクレスが何とか倒して生き延びたんだ。これがそのオーガロードの素材と魔石だ」

 そう言って、受付嬢に袋を差し出した。

 受け取るとすぐさま中身を確認する。

 すると。

「ほ、本当にオーガロードの角と牙、それにこの大きな魔石は間違いないですねっ。あははっ、私は夢を見ているのかしら……」

「お、おい。嬢ちゃん今なんて言った。ウードのおっさん達がオーガロードを倒したって聞こえたんだが??

「まっさかー! 流石にないだろ? まだEランクのパーティーだぞ!? 脅威度Bのオーガロードとか、倒せるわけないだろっ!?

 話を盗み聞きしていた冒険者達が信じられないといった顔で、受付嬢に詰め寄るのだった。

 全く、本来ならそういう情報を他の冒険者に教えるのはマナー違反なのに、勢いに負けて教えてしまうこの受付嬢は困ったものだ。

 さらにクレスが倒したオーガロードの素材を、『ほら、これですよ』と見せてしまう。

 そして、それを見た冒険者の中で上級ランクにあたる冒険者が驚きの声をあげた。

「うおおおおおっ! マジかよ! 本物じゃねーか! 一体どんな手を使ったんだ?? これだけで金貨二十枚にはなるぜ? ウードのおっさん。やりやがったなー!」

 と、なぜか俺の背中をバンバン叩きながら喜んでいる。

 いや、痛いからっ!って、また君かよ。

 その後、わいわいと歓喜や驚愕で湧く冒険者達であったが、俺の本題がまだ終わっていない。

 もうちょっと静かにして欲しいのだが。

「あー、こほん。すみません、勝手に言ってしまって。ついつい、興奮してしまって……」

 たまに思うんだが、この子の暴走はわざとなのではないか?

 でなければ、かなりの天然か。

「それでですが……、今回の場合はですね、クエストは失敗になりません」

「え、本当? 本当にそうなの!?

 ここで、受付嬢の言葉にレイラが食いつく。

 俺と同じく、クエスト自体は失敗になると思っていたようだ。

「はい。このクエスト書に書いている通り、集落を殲滅出来れば完全達成。想定より、脅威度が高かった場合には、より詳しい情報を持ち帰っていただければ偵察任務としてクエスト達成扱いになります」

「ほうほう」

「へ~、そうだったんだね」

「で、ここからが本題になりますが。今回、想定の難易度はDでした。それが実際は単体で脅威度がBランクのオーガロードが現れ、無事に帰還した時点で偵察任務としてクエストを達成しています。さらに、それを討伐したと認定されれば臨時クエスト達成扱いになり、その討伐対象の脅威度に釣り合った報酬が発生いたします」

「と、ということは!?

「え、それどういう意味!?

「つまりウードさんのパーティー『ラ・ステラ』は、偵察クエスト達成に加えて緊急討伐クエスト『難易度A』を見事クリアしたということになります! あはっ、おめでとうございます!!

 おおおおおおおおおおおおおお!!

 とギルド内が歓声で湧いた。

 辺りが野太い声により、地響きのように揺れている。

 冒険者は、声も規格外だな。

「やったね! ウードさん、これすっごいことだよ!」

「ああ、何かすごすぎてわけが分からないぞ」

 ギルド内に併設されている酒場では、勝手に『ウード達にカンパーイ』とか始まった。

 人のことを酒のさかなにして、呑みたい奴らがとっても多い。

 しかし、浮かれてばかりはいられない。

 今回は、緊急時なのだから。

「それは分かったけど、そんなのがいたんだ。かなりマズイことなんだろう? すぐに調査を向かわせないと、近隣で被害が出るかもじゃないか?」

「ロードが倒されたとなれば、ひとまずは大丈夫かと思いますが、偵察隊は出すことになるでしょうね」

 そして、説明を続けようとした受付嬢の後ろから、一人の男が現れた。

 なんか見たことある顔だ。

「ここから先は、ギルドマスターの俺が話そう。まず、今回の任務ご苦労であった。……他の二人はどうした?」

 ああ、クレスの卒業式にギルドタグを授与した人だな。

 ギルド内では滅多に見ないから、一瞬分からなかった。

「クレスとマリアなら疲労困憊のため、馬車で待機していますよ」

「……そうか。相手が相手だけに、まさかと思って心配したぞ。無事ならよかったよ。さて話を戻すが、これからA級ランク以上のパーティーを派遣することになるだろう。しかし、うちの町には最高でもBランクパーティーしかいないので、他の町のギルドから派遣してもらう。それまでは、外から監視をする手筈だ」

「そうなんですね。……それまで何もないといいけどな」

 思わず独り言のように呟いてしまう。しかしギルドマスターはそれを拾って話を続けた。

「ああ、そうだな。だが、ここにいない以上他を頼るしかない。ましてA級以上になれば、引く手数多だからな。中々空いている奴はいないんだ。だから、それまで外に被害が出ないように見張っておくしか出来ないのさ」

 適任の人がいなければ、派遣出来ないのは仕方ないか。

 下手に低いランクの人を潜らせて失敗すれば、そのままその冒険者達が被害者に早変わりしてしまう。そうならないように、無理はさせないようだな。

「あとのことはこっちに任せてくれていい。……しかし、よく無事に帰って来てくれた。おかげで大きな被害が出る前に抑えることが出来たよ。ギルドを代表して感謝する!」

「いえいえ、お役に立てたならよかったですよ。ちなみに、今回の討伐でランク上げを狙っていたんですが、どうでしょうか?」

「はっはっは、もちろん、文句なしの合格だ! 正式なランク昇格認定は後日にするが、確実だと思ってくれていい。あと、追加報酬も期待しておけよ?」

 ギルドマスターが直々にランクアップを約束してくれた。

 さらに、追加報酬はさっき難易度Aランク相当だと言っていたから相当期待出来そうだ。

 それらを聞いていた、周りの冒険者達が湧き立った。

「おおおおっマジかよ!」

「ギルマスがランクアップを認めたぞ! というか、もうDランクかよ!?

「まさか、あのウードさんにあっさり並ばれるなんて、思ってもみなかったよ……」

「Aランク報酬だろ? 金貨がたんまり貰えそうだな~。くそう、羨ましいぜ!」

 皆口々に驚きと羨望の声をあげた。

 こうして、俺達はギルドマスターに昇格を約束されて、冒険者ギルドを立ち去るのだった。