マチスの難題


 私達四人でパーティーを組むために(というよりマリアをパーティーメンバーに入れるために)マチスさんが私達に出した課題は、全員が無事な状態でクエストを達成することでした。

 どうやらギルドから発行されているクエスト書を、わざわざ持ってきていたみたいです。

 えーとこれは、討伐クエストね。

 で、その討伐内容はというと……、討伐対象がジャイアントウーズ。

 討伐場所は、地下水道の奥。

 そして、討伐数は一体となっている。

 ちなみにジャイアントウーズは、俗にいうスライムの一種なの。

 スライムより、少し厚い膜に覆われていて半球状の体を持っているのが特徴的で、打撃攻撃は殆ど効かないし、弓矢は刺さってもダメージはほぼないのよね。

 剣や槍で核となる部分を貫くか、炎で燃やして体を溶かさないといけない。

 そして、一番厄介なのがその巨大な体です。

 普通のウーズが大体子供の頭くらいの大きさしかないのに、ジャイアントウーズになるとその何十倍も大きくなり、大人の背丈を超す大きさになるものがいるらしいのです。

 今回の討伐依頼の場所は、カンドの町の地下水道になっている。

 地下水道にいるジャイアントウーズを討伐……ね。

 ということは、どういう状態かと言うと……想像出来てしまう。


 ――

 クレスの卒業パーティーが終わり、マリアを冒険者の仲間に加えるための条件としてマチスさんからクエストを渡された。

 その内容を見た瞬間、少女三人が顔を引きらせたので何事かと見せて貰うと、なるほどこりゃ嫌がるよなぁ。

 ウーズは体液が酸で出来ていて、触れると腐食して溶けてしまう。

 地下で死んだ動物などの死骸を溶かして吸収するので、そのあと掃除が楽になる。

 そのため、ある程度の数をわざと放つらしいのだが、餌となる死骸が増えすぎると一気に増殖してしまう。

 そんなウーズは、ある一定数以上に増えると仲間同士融合して大きな個体に進化する。

 それがジャイアントウーズというわけだ。

 倒したら倒したで破裂して酸を飛び散らせるので、装備が傷むだけでなく服や髪の毛を溶かしてしまう。

 しかもとてもベトベトするので、好ましく思う女子はこの世にいるわけがないだろうな。

 でも、俺と同じく娘を大事にしているマチスさんがこんな依頼を持ってくるだなんてなぁ……。

 もしや、冒険者にさせないためか?

 いやいや、ドラ息子(見知らぬ青年よ、すまない)にあげるくらいなら、冒険者の方がマシって言っていたから何か意図があるんだろうな。

 そう思っているとマチスさんが、一言付け加えた。

「内容は全員見ましたね? 今、その魔物が現れたせいで多くの人が困っているんだ。冒険者とは、人を救う職業であるべきだと私は思うんだよ」

 なるほど、そういうことか。

 お金稼ぎのためだけに冒険者になるのではなく、そういう冒険者になって欲しいという意味もあるんだな。

 三人を見ると、先ほどまでの嫌そうな顔つきから真剣な表情に変わった。

 クエスト書に書かれている内容をもう一度真剣に読んでいるようだ。

「マチスさん、私達やります!」

「そうね、そんな話聞いたら断る理由がないわね。やってやろうじゃない!」

「お父様、私も行きます。多くの困っている人を助けられるのであれば、貢献したいですわ」

「そうですか、皆立派に成長したんですね。よかった、ではこのクエストを無事に達成することを祈ってますよ」

 こうして、俺達はマチスさんから差し出されたクエストをそのまま受けるのだった。

 一応正式にクエストを受諾するために、冒険者ギルドに受けることを報告しに行った。

 本来ならば、駆け出しの俺達が受けるような内容ではないらしい。

 ただ、クレス達三人は既にギルド職員で知らない者がいないほど有名らしく、『でも、貴女達なら大丈夫ね。受ける人がいなくて困っていたのよ、とても助かるわ。頑張ってね!』と逆に応援される結果となった。

 初依頼から期待されるって、どんだけすごい成績だったんだ?

 そんなことを考えながら、次の日の朝に皆でマチス商会前で待ち合わせをした。

 皆装備をしっかり整えてきていて、かなり様になっている。

 俺は前にマチスさんから貰った皮装備と上等な弓矢を装備しているので変わり映えはない。

 クレスは成長して背が伸びてより可愛くなった……じゃなくて、装備の大きさが合わなくなっていたのでマチスさんから貰ったものを再調整してある。

 ちなみに養成学校の時は、装備で優劣がつかないように訓練や演習の際は、皆学校から支給されたものを使っている。

 その間は使っていなかったので、かなり時間をかけて直して貰っていた。

 十五歳にもなるとより女性らしく成長していくため、体に合わせて色んなところが調整が必要になっていく。

 なので、体形に合わせて半分オーダーメイドしているようなものだ。

 大切な娘を守るための防具であるため、お金をケチらずに作り直して貰った。

「わぁ、クレスの革鎧カッコいいね。それ、結構したんじゃない?」

「ありがとう。元はマチスさんから頂いた防具なんだけど、今の体形に合わせて作り直して貰ったみたい。ただ、どのくらいかかったかをお父さんに聞いても教えてくれないの」

「流石ウードさんね。クレスへの惜しみない愛情が、そこに表れている気がするわ……」

 レイラが若干引いた目でこちらを見ているが、気にはしない。

 自分としては当然のことだと思っているからだ。

 かく言うレイラも、中々いい防具を与えて貰ったようだ。

 彼女の家もそこそこ裕福な商家なので、到底新人冒険者ではそろえられない装備に見える。

 マリアに関しては、言わずもがなである。

 あのマチスさんが、俺達に与えたものよりもランクが低い装備を自分の娘に与えるはずがない。

 ただし分厚い革鎧とかではなく、丈夫で質のいいローブのようだが。


 四人と二匹で目的地である地下水道に入った。

 討伐対象のジャイアントウーズがいるのは、ここからかなり奥に入ったところになる。

 カンドの町は辺境の町にしては珍しく、下水と浄水が通っている。

 生活排水がこの地下水道へ流れ込み、放されたウーズ達によってゴミが取り除かれたあとに、特殊な貯水池に戻される。

 そして、湧き水と綺麗になったその池の水を混合して、町の水くみ場に送られているのだそうだ。

(全て昨日マチスさんに教わった話なんだけどね)

 学のない自分では、話が半分しか理解出来ないが、この地下水道が重要な施設だというのだけは辛うじて理解出来た。

 なのでとても重要な仕事なのだという。

「さて、そろそろジャイアントウーズがいる場所に着くはずだけど……」

 渡された地図を頼りにここまで進んできた。

 丁寧に描かれた地図はかなり正確で、ここまで迷うこともなかった。

 次の角を曲がれば、指定されたポイントなんだけど……。

「うわー……、あれが今回の討伐対象ね……」

 レイラが嫌そうな声で、そうつぶやいた。

 そこには、通路いっぱいに詰まって身動きが取れなくなったジャイアントウーズが待ち構えていたのであった。

 ああ、やっぱりね。


 ――

 やっぱり、想像していた通りだったよ。

 指定されたポイントに辿り着くと、通路を塞ぐようにというか、詰まってしまったウーズがいた。

 辺りには餌となったのであろう、ネズミや野犬などの骨らしきものが散らばっていて、中には、小さな子供くらいの人型の骨もあって、一瞬血の気が引いたけど、よく目を凝らして見ると頭蓋骨に角のようなものがあったので、たぶんあれはゴブリンね。

 ふう、人じゃなくてよかったぁ。

 さて気を取り直して、戦闘準備をしよう。

 ウーズ系の魔物と戦うのは初めてだけど、魔物図鑑で討伐の仕方は覚えてきた。

 弱点は炎か、槍のように深く刺すことが出来る武器。

 でも、あいにく四人の中に炎の魔法を使える人はいないし、槍を使う人もいない。

 炎に弱いからって、こんな狭いところで火事を起こすわけにもいかないので、今回は違う方法で倒さないといけないよね。

 ちなみにジャイアントウーズの脅威度は、Dランク。

 なんとあのワーエイプと同格なんだよ。

 今でも、あの時のことを思い出すと震えが来るけど、怖がっている場合じゃない。

 このクエストが成功するかしないかで、マリアと一緒に冒険が出来るかが決まってくるんだから。

 それに、今回は一人じゃない。

 頼りになる仲間と、お父さんがいるんだから。

 自分を奮い立たせて、前に出ようとしたその時だった。

「クレス、まずは俺に任せてくれないか?」

 なんと、お父さんが試したいことがあると言ってきた。

 え、お父さん大丈夫?

 いくら最近魔物の狩りが出来るようになったからって、一人で相手するのは無茶だと思うよ!?

 でも、お父さんの顔を見ると無茶をする時の顔はしていなかった。

 長年、娘をやっているから顔を見たら分かるのよね。

 こういう時のお父さんは、自信があるから言っている時だ、とね。

「分かったよ、お父さん。でも、絶対に無茶なことはしないでね?」

「娘にそんなこと言われたら立つ瀬がないけど、まぁ、実際クレスの方が強いもんなぁ。でも、ちょっと任せてみろ」

 そう言うと、お父さんは一人でジャイアントウーズに近づいていくのでした。


 ――

 さーて、娘にいいところを見せないとな!

 って思って一人で前に出たわけじゃない。

 自分の実力なんて分かり切っているし、恰好をつけて死ぬような真似をするほど馬鹿じゃないつもりだ。

 じゃあ、なぜ一人でやろうとしているかというと……。

『ウードよ、我に任せるのだ。我のチカラを使ってあの魔物を弱体化させてやろう』

 と手に持つ、ヘルメスの本体である智慧の杖から声が聞こえてきたからだ。

 あの日、このヘルメスと契約してから色んな魔物と戦ってきた。

 いや、正確にいうと戦わされていた。

 何でも、本来のチカラを取り戻すためには俺から供給される魔力では足りないらしく、魔物が持つ魔力を奪う必要があるのだとか。

 そのため、ヘルメスのチカラで魔物を探しては倒して魔力を吸収するというのを繰り返してきた。

 まぁ、おかげで冒険者ランクが最低のGからEまで上がったわけだから、今では感謝もしている。

 ヘルメスが今の状態で使えるチカラは主に三つだ。

 一つ目は『治癒』。

 キールの怪我も一瞬で直したあのチカラは、魔力を多く使えば使うほど治癒力が高まるらしい。

 流石に死者のせいは出来ないらしいが、瀕死の人をピンピンに復活させることくらいは可能だと言っていた。

 もちろん、実際にそんなことをしたら俺が瀕死になるくらい魔力が奪われるわけだけど。

 二つ目は、『神の眼』と言われる探索スキル。

 魔力を持っている者であれば、半径五㎞くらいなら感知が出来る。

 さらに近づけば、相手の魔力の量や生命力が分かる。

 ちなみに、ある程度であれば辺りの地形も見渡せるらしくかなり便利だ。

 三つ目は、『吸魔』という相手の魔力を奪うスキル。

 これは杖で直接触れることで、相手の魔力を強制的に奪うスキルだ。

 人であれ、魔物であれ、魔力がなくなると気を失い、最悪死に至ることもあるのだとか。

 なので、ある程度弱らせてからヘルメスの智慧の杖で触れるだけで、全ての魔力を吸い取って魔物を倒すのが可能なのだ。

 今回は、既に身動きが出来ない相手なので、弱らせないでも魔力を奪えるだろうということだ。


(あの体に突き刺していいのか? 酸で溶けたりしないのか?)

『心配するでない。あの程度の酸で溶けるはずがなかろう。いいから気にせずにやるのだ』

(はいはい、分かったよ。じゃあ、いくぞ~!)

 俺とヘルメスは、杖に直接触れている時だけ心で会話が出来る。

 なので、声に出さないでも意思の疎通が可能なのだった。

「今から、この杖をあのウーズに投げて突き刺す。そのあと、ウーズが弱くなる筈だからそうなったら皆で攻撃するんだ!」

「ええ!? その杖、そんな効果があるの? ウードさん、すごいものを拾ったんだね……」

「お父様に言ったら、金貨百枚くらいは積んで買い取ろうとするかもしれないわ」

 金貨百枚!?

 いやいや、ダメだ。

 これは単なる杖じゃなく、ヘルメスの本体だ。

 売り払ったら、たたられるどころじゃ済まない。

 どのみち、俺から離れることは出来ないみたいだから、無理なんだろうけどな。

『何かよからぬことを考えておらぬか、お主』

 いえいえ、滅相もございませんよ!?

 そんな、売ったらもう冒険者ではなくても、クレスとあちこち旅行に行けるよな~とか思ってませんよ?

『…………』

 考えていることが筒抜けになるので、どうやら本気で呆れられたようだ。

 ええと、少し自重します。

 さて、戦闘中なのを忘れかけてたけど、このでっかいウーズを倒さないとだな。

 倒すのは俺ではないんだけど。

「じゃあ、いくぞ! 一、二、三!」

 力いっぱい智慧の杖をジャイアントウーズに投げつける。

 杖のとがった部分がズブッと突き刺さる。

 これは膜を突き破ったというより、そのまま中に飲み込まれていったというのが正しいな。

 しばらくすると、杖を飲み込んだジャイアントウーズに変化が訪れる。

 あちこちが波打ち、うごめきだした。

 声をあげているわけではないが、苦しんでいるのが分かる。

 しばらくすると、ジャイアントウーズがへたっとなり、徐々に萎むかのように小さくなっていく。

 それでも通常のウーズより遥かに大きいが、おおよそ半分くらいになった。

「本当に弱ってる!? すごいねウードさん!」

「すごいですわっ! これなら倒せるかも!?

 見るからに弱ったジャイアントウーズを見て、歓喜の声をあげるレイラとマリア。

「今がチャンスだね! 皆畳みかけよう、お父さんは下がって!」

 クレスが皆に声をかけて、攻撃態勢に入った。

 精神を集中し、魔法を繰り出す。

「はぁっ! 『電撃』!」

 クレスの魔法『電撃』を受けて火で焼かれたようにあちこちから煙が上がる。

 卒業試験の時に使えるようになったらしいけど、すごい威力だな。

 それに続いて、マリアが氷魔法で追撃した。

「凍てつく氷の飛礫つぶて、『氷の矢』!」

 蠢くジャイアントウーズに、マリアが放つ氷魔法が次々と突き刺さる。

 突き刺さった跡は、凍りついているようだ。

 マリアは治癒魔法もかなりのものだけど、この氷魔法の威力もすごいな。

 そして、トドメとばかりに極限まで集中していたレイラが前に出る。

「くらえええええっ!『高速剣』!!

 目にも止まらない速さで繰り出される無数の剣。

 レイラの『高速剣』が、弱ったジャイアントウーズの膜を何度も切り刻んでいく。

 俺の目には、何本もの剣が同時に突き出されているようにしか見えない。

 すごいな、あれが剣技の才能がある人物しか発現出来ないという『高速剣』か。

 クレスを天才だと思っていたが、この歳でこんな技を使えるだなんて、レイラも負けないくらいの天才だな。

 怒涛の攻撃により、反撃する力も残っていないジャイアントウーズ。

 最後まで油断は出来ないが、あと少しで倒せそうだ。

 クレスとレイラが一際強い烈気を放ち、渾身の力を込めて同時に剣を突き刺した。

 そしてついに、ジャイアントウーズを守る分厚い膜を、完全に突き破ることに成功する。

「はあああああっ!」

「やあああああああっ!!

 そのまま二人とも剣を奥まで差し込み、中心に浮かんでいる核を狙った。

 ズブ……ズブズブっと鈍い音を立てつつ、体の中に埋まっていく二人の剣。

 そして、ついにその剣先が核を二人が同時に貫いた。

 そういや、ギルドの職員が言っていたな。

 ウーズ系の魔物を倒す時には、核を狙えと。

 でも、核を破壊すると破裂するので、酸を持っているウーズを倒す時には注意が必要だと。

 え、ということは……。

 あのデカいのから大量の酸が出てくる!?

「いけないっ! 二人とも離れろっ!」

「え、お父さんっ!?

「ちょっ、ウードさん!!

 言うが早いか、自分の体が勝手に動いていた。

 既に剣を差し込んだ場所から、酸が飛び散っている。

 残された時間はほぼないに等しい。

 荷物袋から持ってきていた布を取り出し、二人を庇いつつ抱き寄せる。

 そしてマリアの方へ飛び込み、三人がすっぽりと収まるように布を被せた。

 次の瞬間。

 ドバァアアアアアアアアンッ!!

 と、ジャイアントウーズの体が弾け飛んだ。

 中から酸の液がウード達目がけて噴出し、頭上から降り注いでくる。

 布で庇い切れないかもしれないととっに思った俺は、自らは噴き出す酸を遮る壁になるように背を向けて三人を庇った。

 ジュウウウッっと嫌な音を立てて、焼けるウードの背中。


『馬鹿者! お主、何をしているんだ!』

 慌ててヘルメスが治癒を始めるも、酸でただれ焼ける方が早いようだ。

「うぐうううっっ!!

 が、我慢だ俺!

 数秒して全ての酸が流れ出たあとに、カランとものが落ちた音がするのが聞こえた。

 どうやら、何とか耐えきったようだ。

 うん、もう大丈夫だな……。

 俺はそこで力が抜けて、その場にずるりと倒れ落ちた。

 その音を合図に、自分達に被された布を剥ぎ取り中から三人が出てくる。

「お父さん、大丈夫!? って酷いことになってるじゃないっ!!

「うわわっ、ウードさん!? 私達を守るためとはいえ、なんて無茶しているんだよ!」

「きゃあ、酷い怪我になっているじゃないですか! いくら何でも、あれを直接被るだなんて!」

 三人が三人とも、無茶をした俺を叱りつける。

 その目には、俺を心配する涙を浮かべているが、本人は痛みで意識を失って見えてはいない。

「マリア、お願い!」

「クレス、もうやっているわ!」

 慌ててマリアが治癒魔法をかける。

 既にヘルメスが治療をかけているので、徐々に傷が塞がっているようだ。

 そこにマリアの治癒魔法が加わることで、加速的に治っていった。


 ――

「いてててて、ははは。ごめんな、咄嗟に体が動いてしまったよ」

「もう、笑いごとじゃないんだから!」

「本当ですよ、ウードさん!?

「お人好しってレベルの話じゃないよ?」

 クレスに頬っぺたをぎゅーっとされて、叱られる。

 もはやどっちが子供か分からない。

 マリアもレイラも怒りつつも呆れ顔だ。

 ヘルメスとマリアのおかげで、酸で焼けただれた背中には傷跡が殆どない。

 しかし、治療を施しているマリアは納得がいかない顔だ。

「すごい綺麗に治ってる……。私の魔法だけじゃ、ここまで綺麗に治療出来ないわ。このヘルメスって、本当に魔物なの?」

『ふむ、いい勘をしている娘だな。だが、その話はいずれな……』

 ヘルメスも、治療に集中するため話をあと回しにした。

 そして、数分後には俺の怪我は完全に治るのだった。


 ヘルメスとマリアのおかげでわずかな傷跡もなく、全快することが出来た。

『全く、無茶をしおってからに』

 いやいや、ヘルメスさん。

 もとはと言えば、ヘルメスが任せろって言ったから前に出たのに。

 仕留められなかったからじゃないか。

『我は、一撃で倒せるとは一言も言ってないぞ? しかし、この娘達は皆優秀な子達だな。一流の域に到達するのもそう遠くはあるまい』

 勝手に思考を読まれた挙句に微妙に話を逸らされた気がするが、終わったことをいつまでも言っても仕方ないか。

 そうだ! 折角苦労して倒したんだし、何かいいものでも落ちてないだろうか。

 クレス達は、周りに他の魔物がいないかを警戒しつつも、ジャイアントウーズの残骸を調べている。

 何でも、あのプヨプヨした半透明な膜も何かの素材になるらしく、酸を洗い流して回収している。

 なるほど、何でも使えるんだな。

 そういえば、破裂したあとに何かが落ちた音がした気がするな。

 何か落ちているかな。

 そう思って地面を照らしながら探すと、きらりと光るものを見つける。

「何だこれ?」

「お父さん、何か見つけたの?」

 俺が何かの変な顔がついた像を拾い上げる。

 何かのお守りか、置物か?

「変な像を見つけたぞ」

「うわー、何それ。ちょっと気色悪いねウードさん」

 レイラが俺の方を見てそう言うので、まるで俺が言われたような気分になる。

 うん割れてしまっているし、こんなガラクタは捨てよう。

『ふむ、それは何かの魔導具のようだな。だが、既に魔力が宿っていないところをみると、既に価値はないだろう』

 ヘルメスもこう言っているのだし、もう使えないのであれば捨てといていいだろう。

 そう考えて、ぽいっと捨てた。

「わぁ。これはすごいですね」

 今度はマリアの声だ。

 手にはこぶし大の大きな魔石を持っている。

「核の中にあった魔石のようです。流石、ジャイアントウーズともなれば魔石の大きさも規格外ですわ」

「わぁ~、こんな大きな魔石を初めて見たよ! キラキラして、綺麗だね」

「いいね~、これだけ大きければきっと高値で売れるんじゃない?」

 マリアが拾い上げた魔石を見て、クレスもレイラも目を輝かせていた。

 レイラは流石商家の娘だけあり、既にどのくらいの価値があるのかを頭の中で計算しているようだ。

 ちなみに、レイラは少し大雑把なところがあるが、決して頭の悪い子ではない。

 商家の娘に育っただけあり、それなりの教養は備わっている。

 他の二人が出来過ぎて目立たないだけだ。

 暫く辺りを調べるも、目立った戦利品はなかった。

 念のため、ジャイアントウーズによる被害を調べてみたが、素人目では目立った被害はないように見えた。

 取り込まれていた遺骸も殆どが動物の骨だったし、人間らしきものがなかった。

 人が襲われる前に討伐出来たのは幸いだろうな。

 細かい調査はあとでギルドが専門業者を雇って行うって言ってたし、俺達のクエストはこれで終了で問題ないだろう。

「討伐を証明する素材と魔石も回収したし、町へ帰ろう」

「はい!」

 三人の元気な返事を合図に、俺達は地下水道から町へ戻るのだった。


 ――

 ウード達が地下水道を去ったあと、一組の男女がそこに現れた。

「やはりか。これは奴らの使う魔具だな。……まだこの町のどこかに潜んでいるかもしれない」

 そこに現れたのは、ウード達が三年前に会った銀髪の青年ヴァレスと、一緒にいたマーレ。

 二人はその魔導具を回収して、その場をあとにするのであった。


 ――

 地下水道から出ると、エースがお座りして待っていた。

 俺達を発見すると、尻尾をふりふりして嬉しさ全開にしていた。

 最近はクレスが丁寧にブラッシングしているので前よりも毛艶がよくなり、ふわふわもふもふになっている。

 クレスもエースのそばまで駆け寄り、ぎゅうっと抱きしめる。

 うん、何とも微笑ましい姿だ。

 ひとしきりエースを撫でてから、おやつ代わりに干し肉をあげる。

 よだれを垂らしつつおねだりする姿は、狼というよりは犬に近いな。

『何とも嘆かわしい姿よな。狼と言えば、元は神獣のけんぞくであろうに』

「そう言ってやるなよ。俺はエースのおかげで狩りが出来るようなもんなんだよ。こういう時は甘えさせてあげないとな」

 クレスとエースの様子を眺めがら、ヘルメスと会話をしていると、マリアが不思議そうな顔で話しかけてきた。

「ウードさんって、たまにその蛇の魔獣にまるで話が通じているかのように話しかけていません?」

「ん? そりゃあ、ヘルメスは言葉を話せるからな」

『…………』

 あれ、もしややっちまった?

 でも、これから一緒に冒険するんだしいいよね?

『……はぁ、好きにするがいいわ』

「えええええええっっ!?

 マリアとレイラが驚きの声をあげた。

 あ、ちなみにクレスはこのことを知っているので、「あーあ、しょうがないなぁ」という顔で見ていた。


 ――

「というわけで、こちら神獣のヘルメスさんです」

「何で、そんな大事なことを先に言わないんですか!! 今まで、結構失礼なことを言っていた気が……」

「ウードさんって、そういうところあるよね……」

「まぁまぁ、お父さんも悪気があったわけじゃないからね。許してあげて、ね?」

 マリアには怒られ、レイラには呆れられる始末。

 クレスが何とかなだめてくれるが、最初からこんな話をぺらぺらとするわけにはいかないので、仕方ないのだ。

「まぁ、正式にパーティーを結成出来たら話そうとは思ってたんだよ。なんせ、あの山の神様みたいなもんだしさ……。勝手に連れて来たってバレたら大事だろう?」

「それはそうですよ! あの山の神様と言えば、この地を悪い神様から守っていたって有名な話があるくらいですよ!? ……そういえば、数年前に社の管理者が亡くなってから、社が老朽化してどうするかって町長が頭を悩ませていたみたいですが……」

 ぎくっ。

「まさか。その神様がここにいるってことは……」

 ぎくぎくっ。

「社、壊しちゃったんですか!?

「いやっ、すまない! あれは事故だったんだ。それに壊したんじゃなくて、壊れていたんだよ!」

 珍しくマリアが興奮して詰め寄ってくる。

 勢いに負けて、思わず謝ってしまう。

 しかし、数年放置されてたとはいえ、なぜ社がなくなっていたんだ?

『それは、我が説明してやろう』

 ヘルメスは、分身を通して言葉を伝えられる。

 言葉を発することも出来るが、基本はこうして頭の中に直接響くように語りかけてくるのだ。

 俺も本体である智慧の杖に触れている間は、言葉を発しなくてもヘルメスと会話が出来る。

 まぁ、ついつい癖で動いている分身の方を見て話しかけてしまうのだけど。

『あの社は、我をまつっていたのではなく、我をあそこに封じ込めるためにあったものでな……』

 ヘルメスからこの話は俺も初めて聞く。

 遥か昔に、あの山に傷を癒すためにやってきたヘルメスを従えていた神は、その身を休めるためにその地に結界を張り降り立ったのだという。

 やがて、その身が癒されるとヘルメスを置いて天に還ってしまった。

 残されたヘルメスは、まだ完全にその傷が癒えていなかったのでそのままその地で眠り続けていたのだが、ある時にヘルメス達を傷つけた者の手先がその土地の人間を利用して、ヘルメスを封印する建物を建てたのだという。

 それから外に出れなくなったヘルメスは、長い時をずっとその地の底で眠り続けていた。

 そんなある時、銀の星が二つ落ちた。

 一つは、その社の上に。

 もう一つは、山の向こうの森に。

 そうして、暫くしてから二人の人間が現れ、その地の底から出られたということだった。

「それって、俺とキールのことか?」

『そういうことだ。長い間封印されていたせいで、魔力が枯渇していたからな。本当にあの時は危なかった。改めて礼を言うぞ、ウード』

「わぁ、じゃあ結果的にウードさん達はヘルメス様を助けたことになるんですね」

『娘よ、既に我はウードと契約せし従魔だ。様などいらぬ』

「じゃあ、私もマリアと呼んでくださいね。ヘルメスさんっ」

 すっかりヘルメスを山の神だと信じ、打ち解けてしまうマリア。

 レイラは話が長かったせいか欠伸あくびをしているが、信じていないわけでもないようだ。

 ただ、怖れることもなく「じゃあ、よろしくねヘルメス!」と軽い感じで挨拶していた。

「そんなすごい神様だったんだね、ヘルメスって」

『正確には我は神でなく、神獣と言われるものだ。まぁ、人間からしたら大した差ではないのかもしれないがな』

「ふふっ、そんなすごい神獣がお父さんを守ってくれていたんだね。ありがとうね!」

 相変わらず、いい娘に育ったと思いながらもその銀色に輝く髪を眺め、先ほどの銀の星という言葉を思い出す俺だった。

「銀の星か……」

 もしかしたら、俺は天から落ちてきた星の子を授かったかもしれないなと、柄にもないことを思うのであった。


 地下水道のクエストを終えて、町へ戻ってきた俺達。

 まだ夕方に差しかかったばかりなので、ギルドは冒険者達で賑わっている。

「おう、ウードのおっさん。もう帰って来たのか? 流石に一日じゃ、見つけるのも大変か?」

「馬鹿おめー、あの養成学校の首席卒業様がいるんだぞ? もう、倒して戻ってきたのかもしれねーじゃねーかっ、はっはっはっは!」

 今日分の稼ぎを終えたのか、先輩冒険者である者達が酒を飲みつつ俺達をからかう。

 ただ馬鹿にしているというよりは、先輩冒険者として冒険者稼業はそんな易しいもんじゃねーだろ?という、意味を含めて言っているみたいである。

 その証拠に、「俺らも新人の頃はよー」と昔話に華を咲かせている。

 しかし、当の俺はというと。

「ああ、そうだな」

 と軽い相槌を打つだけだった。

 俺は、『ええ、終わりましたよ』という意味で返したつもりだったが、反対の意味で捉えられたらしく『そうか、そうか。だが、そんなもんでめげるんじゃねーぞ!』とバンバン背中を叩かれた。

 うん、流石熟練の冒険者達だよ。

 叩かれた背中が結構痛い。

 いくら脅威度Dの討伐対象とはいえ町の地下だったし、一日でクエストを終わらせて帰ってくるのが普通だと思っていたが、そう思っていないと思われる周りの反応に少し戸惑いを覚える俺達。

(あれ、一日で終わったのってかなり早かったのか?)

『まぁ、討伐対象が脅威度Dのジャイアントウーズだからな。新人冒険者なら、初見で倒せるなんて思わないんだろう。それよりも、さっさと報告をしたらどうだ?』

(そういうもんなのか。まぁ、俺以外の三人が周りの期待以上の能力を発揮したってわけだな)

 周りにバレないように、ヘルメスとこそこそと話をしていると、クレスが不思議そうに顔を覗き込んできた?

「どうしたの、お父さん? 早く報告終わらせて帰ろうよ! 早く湯あみして、この汚れを落としたいの」

「あ、クレス! どうせならうちに寄っていくといいわ。お風呂に一緒に入りましょうよ。うちなら一緒に入れるから」

「あ、ずるい! わたしも混ぜてよ!」

 クレス達は下水も流れるあの地下水道でついた臭いを早く落としたいらしく、さっさと報告してきて欲しいみたいだ。

 そのあと、どうなるかは想像もしていなかったが……。

「お帰りなさい、ウードさん。首尾はいかがですか? パーティーを組んで初めての本格的な依頼でしたし、大変だったでしょう。今日はどこまで潜れましたか?」

 冒険者ギルドには、クエストの受発注をしてくれる受付嬢が必ずいる。

 強者達を相手にするだけあり、ちょっとやそっとじゃ表情を崩したりはしない。

 そんな彼女の表情が、次の言葉で一変した。

「はい、いただいていた地図の通りに進んで対象を発見して、無事に討伐出来ましたよ。アドバイスもありがとうございました。いやー、助かりましたよ」

 にこやかな笑顔で、そう報告すると一瞬固まり。

「なるほど、討伐出来たんですね~。って、ええええっ!? あ、いやいや、冗談ですよねウードさん? もう、……一瞬信じちゃったじゃないですか。そういう冗談はダメですよ! もう、ウードさんはそういう悪ふざけしないと思ってたのに」

 と可愛く怒る受付嬢に、再度本当のことを告げる。

「え? いやいや、本当に討伐しましたよ。はい、これが素材と魔石です」

 そう言って、あの半透明の膜とこぶし大の大きな魔石が入った荷物袋を渡す。

 受付嬢は受け取るとすぐに中を確認し、それらをカウンターへ並べていった。

「……。あはは……、本当だー。本当にこれジャイアントウーズの素材と魔石ですね……。って、ええええええええええっ!? 脅威度Dですよ!? それをたった一日? しかも、皆さん全然怪我も装備の損傷もないじゃないですか!」

 普段そんな大きな声を出さない受付嬢の声を聞いて、なんだなんだと集まってくる冒険者達。

 皆娯楽に飢えているので、こういう時はすぐに集まってくるんだな。

 てか、俺の装備はほぼダメになったんだけどなぁ。

 クレス達のは、綺麗なままだからそう見えるのか?

「ヒュウ~ッ! マジじゃねーか。あのデカ物を本当にやったのかよっ」

「おい、あの魔石の大きさ見ろよ。ジャイアントウーズの中でもかなりの大きさだぞ」

「たった一日で討伐!? マジかよ。マジであの嬢ちゃん達はすげーんだな。噂以上じゃないか?」

 と、冒険者達が驚きの声をあげるのでカウンターがざわざわと騒がしくなってきた。

 そして、皆の視線は受付嬢に集まっていた。

 皆、『で、クエストは達成なのか?』と。

「あっ、はい! ウードさん達のパーティー、『ジャイアントウーズ討伐依頼』を無事達成です!!

 すると、周りの冒険者達から一斉に『おおおおおおおっ!!』と歓声があがった。

 そして、賞賛の嵐が巻き起こる。

「ウードさん、あんたんところの娘はすげーじゃねーか! よかったな、これで誰もが認める冒険者だぞ!」

「ウードのおっさん、あんた頑張ったなー。また一つ、あんたの話がこの町に広がるぞ! 『冒険者を諦めなかった男ウード』ってな!」

「マジかよ、俺達ですらあんなの倒せないぜ!? まさか、ウードのおっさん達に先を越されるとはなー!」

 と、クレス達を褒める人半分、冒険者として成果を上げた俺を称えてくれた人半分という感じだ。

 冒険者達に囲まれて、もみくちゃにされる(主に俺が)。

 しかし、この町の冒険者はいい奴ばっかりだな。

 冒険者になったばかりの頃は、『ウードのおっさん、いい歳して無理するなよ?』とよく忠告されたが、どうやら本当に心配して言ってくれてたようだ。

 言ってた冒険者本人が、いい笑顔で背中を叩いて称えてくれた。

 いや嬉しいけど、それ本当に痛いからねっ!?

 そんな冒険者達に俺は捕まってしまい、おごりだ飲めだの乾杯ラッシュに遭う。

 酔っ払いのおっさん達に付き合って貰うわけにもいかないので、クレス達はマリアの家に行って貰うことにした。

「すまんなマリア。クレス達を頼むな」

「いえいえ、私もクレス達に来て欲しかったので気にしないでください。ウードさんは、私達の分まで皆さんからの洗礼をきっちり受けて来てくださいね!」

 もう家には帰れそうにないので、俺は宿に泊まるとクレスにも伝えて、ギルドにいた冒険者達と酒場へ行くことになった。

「お父さん、……ほどほどにしてきてね? 明日も、し・ご・と、あるからね?」

「はは、ははは……、わ、分かったよ」

 若干、目が怖かったが、周りが奢ると言って聞かないので仕方ないのだよ。

 そう、これは不可抗力なんだ!

 と、自分を誤魔化しつつ誘ってくれた冒険者達と酒場へと流れていった。


 ――

「ほんと、男の人ってお酒が好きなんだね。まぁ、今日くらいはいいけどね……」

「ふふふ、仕方ないわよ。あのウードさんだもの」

「そうそう、あのウードさんだもんな!」

 マリアとレイラが湯船に浸かりつつ、にやにやしながら含みのある言い方をする。

 髪を洗いながら、二人にそれってどういう意味って聞いた。

「前に言ったことがあるでしょう? ウードさんは冒険者を諦めたけど、努力したおかげでちゃんとした生活を送れているんだって話。それを、皆が知っているって」

「うん、前に学校で教えてくれたよね」

「そうそう。だから、皆嬉しいんじゃないかな? ウードさんが、本当は冒険者を諦めていなくて、努力し続けてきたから、あの歳でも一人前の冒険者になれたんだってね」

「ウードさんは、秀でたスキルを授からなかったですが、不思議な魅力がありますから。実は、皆ウードさんのことを慕っているんですよ?」

 レイラの話もそうだが、マリアの話はもっとびっくりだ。

 お父さんって、皆に慕われていたんだね。

 確かに、町でお父さんを嫌っている人を見たことはないし、意外と皆に声かけられるなとは思っていたけど。

「案外、あの蛇の神様もその不思議な魅力に引き寄せられたのかもね」

「あっ! それはありそうね」

「ああー、確かにそうかもね。お父さん動物には異様に好かれるから、案外あるかも」

 女の子三人、お風呂に浸かりながらお父さんや自分達のこと、そして今後の目標や他愛のない内容まで話の花を咲かせていく。

 私達は卒業後、久々に三人で夜遅くまで盛り上がるのだった。


 ――

 その頃、ウードは数人からひたすら酒を注がれたせいで酔い潰れていた。

 普段はあまりお酒を飲まないせいもあり、酔うのが早いようだ。

『全く、明日二日酔いになっても我は治療などせんからな?』

「え~、つれないこと言うなよ~。俺とお前の仲だろ~」

「がははははっ! 蛇にまで話しかけるのかよ、ウードさん。かなり酔ってんな!」

「おー、その蛇をテイムしてからウードさんのクエストこなす回数増えたよな? なりは小さいけど、そいつはかなり優秀な奴なんだろう?」

「…………」

「ありゃ、もう潰れてるぜ。あっはっはっは」

『全く。これでは大事なことが伝えられないではないか……』

 ヘルメスはジャイアントウーズから大量の魔力を吸収したことで、新しいチカラに目覚めていた。

 ヘルメスは元々様々なスキルを持っていたが、長い年月を経て魔力を失いその大部分を失っている。

 こうやって、魔力を集めれば再び元のチカラを目覚めさせることが出来るのかもしれないと思うのだった。

『まぁ、この話はいずれするとしよう。今回は、チカラを取り戻せることが分かっただけでも大きな収穫であったな。しかし、神の贄サクリファスに銀の娘か。何とも、数奇なめぐり合わせよ』

 ヘルメスはそう呟きながら、酔い潰れたウードの頭を小さな羽でペシペシと叩くのだった。