養成学校卒業


 入学してから三年の歳月が流れた。

 キールが私達の家に来てからは、色々と家のことをやってくれるので、長期休み以外は実家に帰らないようになっていた。

 頼りになる弟には感謝しかないわ。

 それに、家に帰ってのんびりしている場合じゃないくらい、学校ではやることが色々あったの。

 勉強しておきたいことが山のようにあったし、魔法の訓練も毎日欠かさずにやっていた。

 二年目からは、訓練用の森に自由に入っていいことになったので、週に一回は皆と狩りに行ったし、休みにはお父さん達が町に行商しに来ていたので会いに行ったり、マリアとお買い物に行ったり、レイラとご飯を食べに行ったりと毎日充実していた。

 私はもうすぐで十五歳になる。

 この養成学校に在学出来るのは、十五歳まで。

 十五歳になると卒業試験を出題されて、卒業までに達成しないといけない。

 出題内容はその生徒の実力に合わせて作られるらしく、それはそのままクエスト扱いになるらしいの。

 だから、卒業生の冒険者としての最初のクエストが卒業試験ということになるってこと。

 ちなみに、卒業までに試験が達成出来なかった場合は仮卒業扱いらしく、それでもそこから一か月以内に達成しないと卒業取消になるみたい。

 それまでに冒険者としての実力を身につけなければいけないの。

 だから、私もこれまで出来ることは全部やってきた。

 途中、マリアから『座学も、実技も、訓練もトップって完璧すぎて怖いよ!?』とか言われてショックを受けたけど、所詮は訓練生の中でのトップ成績ってだけだし、もっと頑張らないとね。

 きっと、冒険者の人達はもっとすごいと思うの。

 そうじゃないと、なぜお父さんが冒険者になれなかったのか分からない。

 もしかして若い時は今と違って何も出来なかった可能性は否定出来ないけど、今のお父さんを見る限り魔物の一匹や二匹くらいは簡単に倒せそうなのに。

 そうそう、いつの間にか翼が生えた小さな白蛇のケツアカトルという希少種の魔物をテイムしてたし。

 いつもの山で不思議な杖を見つけてきて、さらに希少種の魔獣を見つけた上にテイム出来たとか言っていたけれどね、どれだけ確率の低い偉業を達成しちゃったのか、お父さんは分かっているのかな!?

 キールに聞いたら、顔を背けて『クレス姉ちゃん、あの時のことは思い出したくないんだ……』とか言うし、一体何があったの!?

 いけない、いけない。

 回想なのに興奮しちゃった。

 あの時からお父さんは色んな魔物も狩りが出来るようになっていた。

 キールも、お父さんに連れて行かれて狩りをしているみたいで、会う度に凛々しくなっていてちょっと嬉しかった。

 だって、最初はガリガリであんなに貧相な体つきだったのに、今ではがっしりとした男の子らしい体つきになったし、もう身長も越されてしまって、若干悔しいけど……。

 お父さんも『クレスの冒険について行くなら、俺はもっと鍛えないとダメなんだ』って、あの歳なのに中年太りどころか、どこの肉体労働者!?ってくらい体が引き締まってて、嬉しいけど、娘として複雑な気分です。

 そんなわけで、このままじゃ私が連れて行くどころか、私を置いてキールと二人で旅に出てしまうんじゃないかって危機感を感じているんです!!

 だから、この卒業前試験では誰もが納得いく結果を出さないと……。

「やあっ! クレスはまた難しい顔して、どうしたの?」

「レイラ! おはよう。うん、卒業試験のことを考えてて」

「あー、クレスもあと一か月か~」

 レイラとマリアは既に去年の冬に卒業試験に合格していた。

 もちろん、二人とも無事合格。

 レイラは『高速剣』のスキルが発現してすごい話題になったし、マリアは生活魔法以外にも治癒魔法と氷魔法の才能を発揮して教会とギルドで奪い合いが発生して、あのマチスさんが激怒したって町中の話題になった。

 そんな才能がある二人だから、卒業試験で受けるクエストなのにかなり早く終わらせたみたい。

 そんな中で私はというと、何のスキルも発現しなかった。

 魔法も相変わらず風魔法の『加速』だけ。

 学校に各属性の基礎魔法の書があるんだけど、他の属性は全く覚えられなかった。

 武具の扱いは何でもある程度は上手になったし、勉強もいっぱいしたから座学で他の子には負けなかった。

 でも、それだけだった。

 知識があるから、急所がどこにあるか分かるし、すっごい練習したから剣でも弓でも狙ったところに確実に当てられる自信はあるから、討伐の時も効率よくは出来ると思う。

 でも、自分が知らない相手に出会ったらと思うとゾッとする。

 私は本当はどのくらい強くなったんだろう?

 きっと、それがこの試験でハッキリするんだと思う。

 だから、全力を持ってこれを達成する。

 それしかないんだと思うの。

「うん、もうすぐ試験の内容が発表される。レイラはソロでオーク討伐だったよね?」

「ああ、そうだよ。難易度Eらしいけど、正直拍子抜けだったよ。でも、はぐれのオークだったみたいで一匹だけだったし、運がよかったのかもね」

「そうね。三体とか出てきたら、かなり厄介だって聞くし、一人で達成するには厳しい相手だわ」

 それでも、難易度Eランクの魔物をソロで倒したということは、Eランク以上確定になる。

 駆け出しでEランクというのは、結構凄いことらしい。

「まぁ、パーティーを組んでやるのが本当らしいしな! 『高速剣』がなかったら、怪我くらいはしてたかもしれない。……早く、クレスとパーティー組んで冒険したいよ」

「あら、私は必要ないのかしら? レイラ」

 そこで、マリアも話に入ってきた。

 マリアも既に試験クリアしていたのだけど、確か護衛を一緒にしたドリスさん達と試験のクエストに臨んだはず。

「もちろん必要さ。というか、一緒にやらないの?」

「え、やるに決まってるわ! あんなドラ息子の嫁になるくらいなら、冒険者として家を飛び出していくわ!」

 マチスさんが聞いたら卒倒しそうな内容だけど、もしかしたらそうして結婚しないでくれた方がマチスさん的にはいいのかもしれない。

 どっちにしろ、ひともんちゃくあるだろうけど……。

「マリアはドリスさんのパーティーと一緒に討伐したのよね、相手は何だったの?」

「私は、パーティー討伐用のクエストを選択したのだけど、相手はゴブリン五体以上のパーティーせんめつだったわ」

 このクエストも難易度Eのクエスト。

 ゴブリンは単体では、魔物の中ではとても弱い部類だけど三体以上になると連携した動きをするので厄介だ。

 それが五体ともなれば、油断したパーティーの一人が脱落するなんてザラにあるらしい。

 マリアは治癒魔法と氷魔法があるので、こうえいに回り治療に専念しつつ、最後の一匹だけ氷魔法で倒したということだった。

「クレスはどうするの? ソロで受けるの? それともパーティー?」

「そうだねぇ……。やっぱ、ソロかな。私自身でどこまで出来るのか、試したいのよ」

「クレスなら、オークくらいなら余裕だろ? 万が一、何かあっても必ず試験官がいるから、そこまで気負わないで大丈夫さ」

「うん、ありがとう! 私も二人に負けないように頑張るね」

「応援してるよ!」

 二人から激励を貰い、それからも欠かさず毎日訓練をする。

 時には二人と訓練場の森で討伐したり、ソロで魔獣の狩りをしたりしていた。


 ――そして試験開始当日。

「これより、クレスの試験内容を発表する。クレスはソロでの試験を希望したのでクエスト対象はこれになる」

 そう言うと、ふうかんされた羊皮紙を渡される。

 これは改ざん防止と、内容を他者に知らせないためだ。

 すぐにクレスはその封緘を切り、中身を確認した。


『クエスト内容:ソロで活動し、ワーエイプ(難易度D)を一体討伐すること』

「……え!?

「どうしたクレス。クエストの内容は局長が直々に選んだものだが……、ん?? ワーエイプだと? 局長は正気か? 訓練生に受けさせる内容じゃない!」

 ワーエイプは山岳地に出没する魔物で、縄張り意識が高い魔物である。

 集団で行動することを好まず、繁殖期以外は自分の縄張りで他者を排除する性質を持っている。

 知らずにその縄張りに入り込んでしまい、犠牲になった者がどれだけ多いことか……。

「クレス、事務局長に確認する。一緒について来い!」


「――ですから、それで正しいですよ?」

「ですが! 同期のレイラはオークだったはず。彼女と同じくらいが妥当なのでは?」

「君は、何を見ていたのかね? レイラと一緒? 確かに彼女も優秀だ。……剣技だけならね」

「え?」

 教官が唖然としているのをため息をつきながら、マスカーが説明を始めた。

「オークなんて、この子が初めて護衛した時に既に討伐済みなんですよ? それを今更課題にして、何の意味があるんです? レイラはこの学校に入って能力を開花させた子ですが、クレスは特待生です。どういう意味か分かりますか?」

「それだけの才能があると?」

「そうです。そして、私の見立てではもう少しで開花する。それには、この試験が妥当なのです」

「しかしっ、万が一があってはこの養成学校の意義が!」

「そのために監視官をつけるんでしょう? そんなに心配なら、私が行きましょうか?」

「局長が!?

「あの、教官。マスカー事務局長って戦えるんですか?」

 見た目は、どう見ても文官にしか見えない。

 若干、目つきがキツイ以外は。

「強いも何も、マスカー局長は元B級冒険者なんだよ。俺よりもランクが上なんだぞ」

 ちなみに教官はCランクらしい。

 それでも十分すごいのだけど……。

「試験は、明日実施しましょう。いいですねクレス?」

「は、はいっ! 分かりました」

 ギラっとにらまれて、思わず返事をしてしまう。

 嫌いじゃないけど、この人は苦手かもしれない。

 でも、それだけ期待されているのであれば成し遂げないとダメだよね!

 それなら、頑張るしかない。

 それに、本当は心のどこかでどこまでやれるかチャレンジしたいって気持ちもあったのだから……。

 こうして私は、最初の討伐クエストが難易度Dというかなり無茶ぶりを受ける羽目になるのでした。


 ひょんなことから、マスカー局長と卒業試験に来たクレスです。

 お父さん、元気してるかな?

 今日は、来たことがない場所に来ています。

 ここは町を出てから馬車で数時間移動して辿り着くタガタ山岳地です。

 ここにはワーエイプを始め、様々な魔物が生息していることで有名です。

 通常ここに来る人達は、冒険者だけなら四人のパーティーが基本で、パーティーランクもD以上推奨と高めになっています。

 そんなところに、まだ冒険者見習いの私は一人で立っています。

 もちろん、遠くにマスカーさんがいるんですけど、戦うのは私一人です。

 えーと、私何かやらかしたかな?

 ここまで必死に努力してきたのに、最後にこの仕打ちはないと思うんです。

 ほら今も、Eランク魔獣がわらわらとやって来ては襲いかかってきます。

 最初は泣きたくなるくらい、辛かったけど人間って慣れるんだね?

 今ではスムーズに捌けるようになってきたよ。

 それは流れるように、作業のように。

 おかげでEランク魔獣のグレードリザードやら、ジャイアントサーペントやら、オオコウモリやらの死骸がそこらに転がっています。

 その血の匂いを辿って、今度は山オークがやってきました。

 森オークと違い、肌が焼けてこげ茶色をしています。

 手にはこん棒の代わりに、大きな骨を持っているのだけど、木のこん棒より硬そう。

 あんなので殴られたら死んじゃうよぉ。

 とりあえず、弱音は先に吐いておいてから気持ちを切り替える。

 こうした方が、集中出来るんだよね。

 目の前にいるのは強敵。

 油断すれば、自分の命はここまで。

 既にマスカーさんのことは、頭から綺麗さっぱり抜けていた。

 自分一人で何とかしなければ、死ぬ。

 そう言い聞かせて、剣を構えた。

 一匹目のオークがどすんどすんと足音を鳴らしながらこちらに迫ってきた。

 あとの二匹は、ゲヒゲヒと笑って眺めている。

 よかった、私は格下だと思っている。

 これなら隙がありそうだね。

 ブオオオオオオオオオ!!

 雄叫びと共に、骨こん棒を振り下ろしてくる山オーク。

 まともに受ければ力の差で吹っ飛ぶのはコッチ。

 だから……。

 ドオオン!!ごうおんを立てて、山オークの骨こん棒が地面に突き刺さった。

 人の頭一個分は埋まっていることからも、人間では敵わない怪力だと分かる。

 だけど。

 ヒュウウウンンッ!! ズアシャアッ!!

 ごろんと、転がる山オークの首。

 残った胴体は、血しぶきを上げつつ仰向けに倒れていった。

 私は間一髪のところで回避に成功し、骨こん棒を振り下ろして無防備になったオークの首を一刀の元、切断に成功したのだ。

 一撃で綺麗に落とすのは結構大変なんだけど、今回は綺麗に決まったね。

 おかげで剣も刃こぼれしていないみたい。

 仲間のオークがやられて、さっきまで笑っていた二匹のオークがその顔を怒りの形相に変える。

 何度か地団太を踏んだあとに、猛スピードで二匹いっぺんに襲いかかってきた。

 勢いに乗った一匹が攻撃を私の頭目がけて振り下ろしてくる。

 ゴオオッっと風を切る音を鳴らして、骨こん棒が迫ってくる。

 しかし、勢いは違えどさっきと同じ動き。

 そこに対して差があるように感じない。

 ただ、それが二匹同時となると話は違う。

 片方を防いでも片方の攻撃が当たり、片方を躱しても片方のが当たるかもしれない。

 それなら、一体倒してから躱せばいい。

 そんな冷静に考えたら無茶なことを考えて、そして実行に移した

 そう、自分が唯一使える魔法『加速』を使い回避しつつ、そこから攻撃をしようと。

 この時、私は不思議な感覚を覚えた。

 今まで何度修練してもつかめなかった魔力の操作の感覚を。

 それが今、自分のおへそ辺りのところから何かが流れてきて、全身を巡ってから足に流れていくのを感じられた。

 極限状態で集中したことにより、自分の魔力を意識出来たのかな?

 でも出来たなら、あとは調整するだけだね!

 私は一度覚えたことは忘れない特技を持っている。

 しかも、それをすぐに応用出来る天性のセンスを持っていると教官が褒めてくれたっけ。

 魔力を操作して、出力を調整する。

 そうすることで、横並びに攻撃してきたオークを『加速』で半歩分だけ躱す。

 これで一匹からは、直接攻撃出来ない位置に移動出来た。

 近い方のオークが骨こん棒を振り下ろしがら空きにした胴を、私はそのまま剣で薙いだ。

 その勢いに乗りつつ、さらに『加速』を使い、先に倒されたオークの陰になってしまったオークの首をそのまま刎ねた。

 あ、両方一気に倒せちゃった。

 パチパチパチと後ろから急に拍手が聞こえた。

 はっとして、後ろを振り向くとそこにはマスカーさんがいた。

 あ、そういえば一緒にいたんだったね。

「お見事です。まさか三匹のオークをこんな短時間でソロ撃破とは……想像以上ですね。これで合格にしてあげたいくらいですが、お題はアッチ。あの猿の方ですからね」

 言われて指し示す方を見ると、そこには人間の大人くらい大きい猿がいた。

 間違いない、あれがワーエイプだ。

 脅威度Dランク。

 単体でもかなり強く、肉弾戦でオークを仕留めるほどの筋力を持つ。

 さらに、仕留め損ねたり縄張りに深く踏み込むと、それが群れで襲ってくる魔物である。

 幸いにも出てきたのは一匹。

 それも若いオスのようだ。

 十分に脅威であるが、一対一なら何とかなる。

 ……そう思っていたのに!

「うううっ! ぐうっ!」

 ドガン! バキン!と拳を打ちつけてくるだけで、剣が折れそうになる。

 ワーエイプの拳は岩のように固く、剣を殴っているのに傷ついているのは、クレスの剣の方だった。

 しかも、拳だけでなく蹴りや噛みつきなど多彩な攻撃を仕掛けてくる。

 なんともどうもうで、それでいて計算しているかのような動き。

 こんなの、教官を相手にしているのと変わらないくらい厳しい。

「こーのうっ!!

 気合で何とか、噛みついてくるのを弾くが未だにダメージらしきものを与えられていない。

 攻撃スピードも、腕力も向こうが上。

 このままでは私の負けは確定だ。

 しかし、まだ諦めるわけにもいかない。

 マスカーさんは、まだ助けに来る気配はない。

 ということは、まだ試験は続行中ということだ。

 ここで自ら放棄するなんて出来ないし、したくない!

 そういえば、魔法指導官が言っていたっけ。

『あなたは、魔法を習得出来ていないのではない。必要分の魔力を操れていないだけ』だと。

 それが本当なら、魔力を操作出来るようになった今なら『飛翔』と『電撃』が使える?

『飛翔』は、今この場で使っても意味がない。

 逃げる時なら有用だけど、まだその時じゃない。

 となると、残るは……。

 あの魔法指導官は魔法はイメージとも言ってた。

 だから、イメージイメージ……。

 そうすると、またへその辺りから体中に魔力が流れていくのが分かる。

 これを手の先、剣から放出して『電撃』を放つイメージを強く!

「はぁあっ! 撃ち貫け『電撃』!」

 ピシャアアアアアアアン!!と甲高い轟音を発しつつ、一瞬稲光を放つ。

 次の瞬間、そこには黒焦げになったワーエイプが倒れていた。

「やったあああああああああ!」

 そこで視界がグラリと揺れる。

 うそ、これは魔力切れ!?

 だけど、倒れそうになる私を優しく受け止める人がいた。

「おっと、おめでとうクレス。ついに最後の関門を突破しましたね。貴女なら出来ると信じていましたよ。おめでとう、文句なく合格です――」

 その言葉を最後に、私の意識は途絶えるのだった。


 ――翌日。

「ここは……」

「あ、起きたのねクレス! おはよう~」

「……マリア?」

「昨日、マスカーさんに運ばれてきた時はびっくりしたのよ! まさかクエスト失敗して大怪我したんじゃないかと……。魔力切れだけだから心配ないって聞いていたけど、目を開けてくれて安心したわ」

「そっか、あのあと気を失って……。マスカーさんがここまで運んでくれたんだ」

 急激な魔力消費により気絶した私は、マスカーさんによって寮まで運ばれたらしい。

 目立った外傷は少ないということで、そのまま自分の部屋で寝かされたみたいだ。

「うん、そうよ。あ! そうだ。マスカーさんが目を覚ましたら、事務室に来てくれと仰ってたわ」

「うん、分かったわ、ありがとう」

 一晩付き添ってくれたらしく、マリアにはもう一度ありがとうと言って抱きしめてから部屋を出た。

 話したいことはいっぱいあるけど、まずはマスカーさんに結果を教えて貰わないとね。


「調子はどうだね?」

「はい、おかげ様でどこも問題ありません」

 事務室にやってくると、マスカーさんはいつも通りだった。

 でも体調を気にしてくれて、見た目と違って優しいんだなと思った。

 失礼になるから口に出さないけど。

「それはよかったよ。昨日はご苦労だった。さて、さっそくだがいいかな」

「はい」

「話は、昨日の試験結果だ」

「はい」

 一応、倒れる前に合格と言ってくれたのは覚えている。

 覚えているけど、すごいドキドキする。

「結果は、満点合格だ。最後の魔力切れを差し引いてもあり余る結果であった。よって、クレスを正式に卒業試験合格とみなす」

「ありがとうございます!!

 やったー! 夢じゃなかった、合格だった。

 これでお父さんと一緒に気兼ねなく冒険の旅に出れるね。

 あとでお父さんに報告しに行かないと。

「それとだ」

「え、まだ何か?」

「うむ。むしろこっちが本題だ。君は今回倒したのは脅威度Dランクのワーエイプだ。それを見事ソロで討伐に成功した。また脅威度Eランクの山オークを同時に三体をソロで討伐した」

「は、はい。そうですね」

「よって、クレス。君を卒業と共にDランク冒険者と認定することが決定した」

「えええええっ!? Dランクですか?」

「そうだ、それだけの実力を認められたわけだ。今後とも訓練に励めよ? あと、これは養成学校始まって以来の快挙だ。自分を誇りに思うがいい」

「は、はい! 今後とも精進していきます!」

 えーと、私、卒業したらDランク冒険者になるみたいです……。

 お父さん、びっくりするだろうなぁ……。


 無事卒業試験を終えて、ついに卒業式の日がやってきました。

 殆どの人が、ちゃんと試験をクリアしてこの日に卒業することが決まっている。

 先に試験を合格していた、レイラやマリアも一緒だよ。

 二人とも、もう会えなくなるわけじゃないのに『これで卒業だなんて寂しいよー』と泣きじゃくっている。

 普段あね肌なレイラが涙ぐんでいるのを見ると、ちょっと胸にこみ上げるものがあるかも。

 しかし、これで私もやっと冒険者として活動することが出来るようになる。

 結構勉強も頑張ったし、試験はとっても大変だったけど何とか無事にクリアも出来たし、お父さんは大泣きしながらよかったとか、そんな無茶な試験をやらせるなんて訴えてやるとか言ってたけど、概ね問題はない……筈。

 最後の大仕事としては、頑張ったおかげで首席成績者になれたせいか、卒業生代表として挨拶することになったくらいかな?

 ちょっと大勢の人の前で挨拶をするのは恥ずかしいけど、この先何が役立つか分からないし頑張らないとね。

「では、卒業生代表クレス。前に出て挨拶を」

「はい! ……皆さん、卒業生代表のクレスです。まずは、皆さんと一緒に卒業出来たことを心より誇りに思います。そして――」

 その後、ここでの培った経験や勉強をして蓄えた知識を活かして共に精進していきましょうというような内容の話をして、盛大な拍手を貰えた。

 何とか出来たよお父さん!

「最後に、首席卒業者でもあるクレスに、冒険者ギルドマスターより冒険者ライセンスの授与を行う」

 ざわざわざわ……と辺りでどよめきが起こった。

 過去の卒業式に冒険者ギルドマスターがわざわざ卒業生にライセンスを授与するなどなかったからだ。

 その理由は、もう知っている。

 そう、私が特例でDランクライセンスを与えられるからだ。

「えー、私が冒険者ギルドマスターである。今回、クレスの卒業試験が偉業達成にあたると認可され、特別にDランクを授与するのが決定した。これは、見習い冒険者では初となる快挙だ。皆盛大な拍手を!」

 おおおおおー!とどよめきと歓声の元、私はギルドマスターからDランクと書かれたライセンスプレートを貰った。

 そこにはしっかり、クレスと記載されていた。

 こうして、この日私は正式にDランク冒険者となったのでした。

 ちなみに、お父さんはというと、色々頑張ったのかEランクまで昇格していた。

 何でも私が学校に行っている間に、頑張って依頼をこなしていたらしい。

 今まで冒険者として才能がないと言われ続けた人が、あの歳になってからランクアップするのもかなり異例らしい。

 私と一緒に冒険に出るために、かなり無茶したんだろうな……。

 ありがとうね、お父さん。


 卒業した日、お父さんがレストランの一画を借り切って卒業パーティーを開いてくれた。

 もちろんそこには、マリアやレイラも一緒だ。

 マリアのお父さんマチスさんも来ていたので、より豪華な食事になったみたいで皆喜んでいた。

 あのマチスさんが涙を流して、『うちの娘は最高だ!』と卒業を喜んでいたのはびっくりしたけどね。

 でも、そこで『うちの娘こそが最高なんですよ!』と張り合わないでよお父さん。

 かなり恥ずかしいから……。

 そんな大人達は置いといて、私とマリアとレイラは食事と会話を楽しんでいた。

 普段は食べない高級な料理や、デザートが並び自然と私達の目も輝く。

「ねぇ、これ見て。まるで宝石のようだわ」

「それは赤どうのゼリーだそうよ。海藻から採れるもので葡萄ジュースを固めたものなんだって」

「ん~、美味しい! 甘くて、舌触りがつるつるしてて心地いい弾力があるのが不思議ね」

「卵で固めたしっとりとした舌触りのプリンとは違った食感だね! あっ、こっちも美味しいよ」

 初めて食べるものに興奮しているせいか、食べた感想もじょうぜつだ。

 今後のことについて話が移っていく。

「私は、お父様が私達だけで冒険者になるのは危険だから、三人だけではダメだって……」

「そうよね。正式に冒険者になったとはいえ、まだ駆け出し同士だと危険は尽きないわ」

「でもさ、クレスはもうDランクだし、うちらもすぐに上がるだろうしさ! それに……、ウードさんも一緒なんだろ?」

 馬売りのウードとして有名なお父さんが、冒険者になったことはこの町の人なら誰でも知っている。

 年甲斐もなく無謀なことをしてと、最初はさげすむ人が多かったが、徐々にランクを上げていくお父さんを見て勇気を貰ったと頑張る人が増えたらしい。

 そして、Eランクに昇格した時はちょっとした町のニュースになったみたい。

 見かける度に、頑張れよ、応援してるぞと声をかけてくれる人が増えていた。

 そして、Eランクともなれば立派な一人前の冒険者と認められる。

 そんな父がついて来てくれるのは、とってもありがたい話なのだと。

「大人も一緒なら、マチスさんも許してくれそうじゃない? あ、それに最近ウードさんの面白い話を聞いたんだけど?」

「え、どんな話?」

「何でも魔法を使う蛇を連れているとか……」

 ギクッ!

 と思わず反応してしまいそうになるが、グッと堪えた。

「しかも、その蛇が治癒の魔法を使えるとか……」

 ギクギクッ!!

 もう、きっと誤魔化しきれていないと思うけど平静を装った。

 私も詳しく教えて貰っていないけど、何でもあの山に住む神様みたいな蛇だったらしい。

 いわゆる神獣ということです。

 それを教えてもらった時に、そんなすごい存在を勝手にほこらから出してしまったと分かったら、大事になるかもしれないから黙っていようとお父さんと話しました。

 なので、なるべく目立たないようにしていたつもりみたいだけど……、そもそも治癒が出来る魔物って何!?って話です。

 そんなのいないよ!?

 しかも羽が生えているだけでも珍しいのに、常にふよふよ浮いているし。

 一瞬だけ跳ぶフライスネークっていう、コウモリのような羽が生えた蛇も確かにいるみたいだけど、この子の羽は鶏のようにふさふさの羽根だし、羽ばたいてすらいないし!

 フライスネークの亜種って、いつまでも通じないと思うのよね……。

 お父さんは、どこか抜けたところがあるから『平気平気』とか言っているけど、それをフォローしないといけない娘の気持ちも考えて欲しいのよね!

 と珍しく、お父さんに憤りを感じていたら当の本人が酔った勢いで口を滑らした。

「ん? この蛇はな、神の使いなんだ! 山の神様みたいなもんなんだぞ! すごいだろ~!」

 辺りがシーンとなる。

 そして、暫くしてから……。

「あっはっはっは! ウードさんも冗談を言うんだな。あ、そうか。神様の使いと思っているくらい大事にしているんだね。にしても珍しい種類だよね、魔物図鑑でも見たことないよ? でも、そんな珍しい蛇様もいるし、あの賢そうな狼さんもいるし、説得すれば何とかなるよ!」

 レイラは爆笑しつつ、ヘルメスの噂については本気にしていないようだった。

 どうやら、さっきのもおおな噂が立っているみたいだねくらいの話だったみたい。

 でも、役立つ魔獣を連れているのはテイマーとしては一種のステータスなので、信頼度が上がるのだという。

 なので、皆でマチスさんを説得してマリアを連れだそうという話をしたかったみたい。

 私もマリアがいれば楽しいし、それに実際のところマリアの治癒魔法もかなり上達したので実戦でも活躍するだろうし。

「……マチスさん! お願い、マリアと一緒に冒険させて!」

「私からもお願いします、レイラとマリアと、それにお父さんが一緒なら安全に冒険出来ると思うんです。ダメでしょうか!?

 すると、さっきまで娘自慢でお父さんと議論を白熱させていたマチスさんが、急に真顔になってこう言った。

「クレスちゃんの気持ちはよく分かるよ。娘もそうしたいと思っているみたいなのも分かっているんです。ウードさんは、私と同じで親バカでいい人ですし、なのにきっと私の娘がピンチになったら身をていしてかばおうとするくらいお人好しなのは分かっています。しかし、本当にこの先四人でやっていけるかは、実戦でないと証明出来ないでしょう? なので、明日クエストをこの四人で受けて、無事に帰ってこれたら認めましょう。……正直、あの商人のドラ息子に渡すくらいなら、冒険者になって出ていったことにした方が万倍マシですからね! でも、誰かが一人でも大怪我をしたら認めません。それだけは譲れませんからね?」

 マチスさんがそう言って、差し出したクエストの内容は何とも厳しい内容だったのです。