そのゼリーというのは、何でも原料となるものが海で採れるらしい。
とある海藻が原料だとか言ってたが俺にはさっぱり分からなかった。
クレスが興味津々だったから、あとで市場に買いに行ってもいいかもしれないな。
そんな至福なひと時を味わっていると、俺の視界に例の美青年達が入って来た。
いや、嫌いっていうわけじゃないんだけども、どうもいけ好かないんだよね。
「おや、昨日の方ですね。こんなところで奇遇ですね。あー、ここ有名なお店らしいですからね」
「そうみたいですね。お二人も食べに来たので?」
「はい、丁度食べ終わったので出て行くところでしたけど。あ、申し遅れました、私はヴァレスと申します。こちらがマーレです」
「マーレと言います。お見知りおきを」
「どうもご丁寧に。俺はウードです。この子は娘のクレスです」
「! クレス……。まさか? ……あ、失礼しました。娘さんの名前、綺麗でいい名前ですね、お父さんがつけたんですか?」
「ええ、そうでしょう? この子にぴったりだと思って付けたんです」
まぁ、本当は一緒に入ってた手紙の宛名がそうだったのを拝借したんだがね。
でも、今ではこの名がしっくりくる。
なのでこの名前でよかったと思っている。
「そうですか……。あ、すいませんまだお食事中だったのに。では、またどこかでお会いしましょう」
ヴァレスは爽やかに挨拶すると去っていった。
マーレという女性も軽く会釈するとそのあとをついて行くのだった。
「お父さん、何だか不思議な人達だったね」
「ああ、そうだな……」
心の中に、なぜか一抹の不安が広がる。
きっとそんなことはないはずだ。
今更、この子を探している人がいるなんてないはず。
もしそうだとしても、今頃になって返せと言われても絶対渡すもんかと、心に強く決めるのだった。
なぜなら、クレスにとっての父親は俺なのだから。
昨日はあれから不思議な二人組に会うこともなく、残りの観光を親子二人で楽しんだ。
今日はいよいよカンドへ戻る日だ。
マチスさんも、マリアさんもお見合いが大変だったらしく、心なしかゲッソリしているように見える。
お金持ち同士のお付き合いというのも大変なんだなと思ったが、口には出さずに心にしまっておく。
依頼主の心証を損なう言動は慎まないといけない。
護衛の三人とも合流し、マチスさんが贈答品だという荷物も積み込んでいざ出発となった。
帰りは他の商人とは別行動となるので、例の場所には野営しなくても済むようになるべく早く移動しようということになった。
ゴブリンが出た例の野営所を通りかかった時に、冒険者ギルドから派遣された調査員や冒険者が複数名いたので話を聞いたところ、野営所の近くにゴブリンの集落が出来上がっていたようで、これから討伐依頼を出して駆除にあたるらしい。
それまでは野営が禁止になるということだったので、「早めに出て正解だったよ」とマチスさんも言っていた。
それからマリアさんのお見合い相手の愚痴大会が始まり、苦笑いしながらもクレスがそれに付き合い、道中は和やかな雰囲気のまま、目的の野営所に到着。
近場の野営所でゴブリンの襲撃なんてあったので、同じく野営している他の商人達と話をして警戒を強めてからキャンプを張ったおかげもあり、野性動物が食べ物を狙ってやってきたくらいで特に何事もなかった。
翌朝も早くから出発。
朝食をクレスが全員分用意したが、思いのほか好評で最初から頼めばよかったとマチスさんも言っていたくらいだ。
俺が作った時よりもウケがよかったので、嬉しいような複雑な気分ではあったけど。
いや、
そこから次の休憩ポイントに設定してあった野営所に向かう道中、オークが一匹出てきた。
どうやらこの辺をうろついている、はぐれ個体のようだ。
「被害が出る前にやってしまおう。オークはいい肉にもなるし」
そう言って、ドリスは降りるとなぜかクレスを呼び寄せる。
「嬢ちゃん、今のうちに実戦積んどけ。この程度の相手なら俺がカバーすれば問題ない」
「はい、分かりました!」
「いや、ドリス! クレスは……」
「おいおい、過保護は子供を殺すぞウード? 安全に戦えるうちに実戦を積ませておけ。それに……」
クレスはすぐにオークと
その表情は普段の温和なものと違って、
「見ろ、あの子は才能がある。よし、クレスそのまま相手の動きに合わせてけん制しろ、無理に突っ込むなよ? 冷静に距離を取るんだ!」
ドリスの正確な指示の元、クレスは危なげなくオークを相手取る。
オークが手に持つこん棒が振り下ろされれば余裕を持って回避をし、がら空きになった上半身に数回剣で切り刻む。
「そうだ! 無理をせず、相手にダメージを蓄積させろ! 見ろ、オークの動きが鈍ってきたぞ? 次のチャンスで仕留めろ!」
ドリスにそう言われると、イラついて大振りでこん棒を振り下ろしたオークの攻撃を
「よし、文句なしの合格だな」
「ありがとうございます!」
額から玉粒の汗を流しながらクレスは笑顔でそう答えるのだった。
その笑顔はまさに女神の微笑みに近いなと、思っていたら。
「ウードさん、顔がふやけてますよ」
とマチスさんからツッコミを受ける結果となった。
そのあとは、俺も手伝いオークの解体をする。
オークは内臓以外殆どが可食部位なので、余すところがないことで有名だ。
高級レストランでは、高級食材として普通の豚よりもよく使われるほどだ。
「クレスはすごいね! あんなおっきな魔物を一人で倒しちゃうんだから。あ、すごい汗だね。『洗浄』してあげるよ」
マリアさんはそう言うと、クレスに『洗浄』の魔法をかけて綺麗にしてくれる。
「マリア、ありがとう!」
二人は呼び捨てで名前を呼び合うほど仲良くなっていた。
今回を機にずっと仲のいい友人となれればいいのにな。
それよりも……。
「すごいな、その歳で『洗浄』の魔法を使えるのか」
「ええ、マリアは九歳で魔法の才能を発揮しまして、簡単な生活魔法なら使えるんです」
「そりゃまたすごい才能ですね」
「ええ、自慢の娘ですよ。ですが、そのおかげで今回の縁談が持ち込まれてしまって、娘自慢をしすぎたのを少し後悔していますよ。ウードさんも気をつけた方がいいですよ?」
どうやら、商業ギルドの会合で娘自慢をしたせいで今回の縁談が持ち上がったようだ。
魔法が使える者は少なくないが、才能がある者はかなり優遇される。
そのため優秀な魔法使いを見つけると囲い込む傾向にある。
今回は縁談という形を取っているが、そういう意味合いもあるんだとマチスさんは教えてくれた。
「ま、変なことを言い出したらどんなことをしても破棄しますけどね」
どうやら、今回の顔合わせで婚約したことになったらしく、適齢期となる十八歳になったら正式に結婚ということだそうだ。
そんな話をしつつ、オーク肉を荷台に積み込み終わり再び帰路に就くのだった。
そのあと野営所で一回休憩をとり、特にトラブルもなくカンドの町に戻って来た。
「ウードさん、今日はありがとうございました。おかげでマリアも退屈することなく無事に帰ってこれました。クレスちゃんもありがとう。今後はマリアの友達としてうちに遊びに来るといい」
報酬は全てギルドから支払われるということだった。今回のゴブリンの討伐分とオーク肉の分け前もそちらから支払われる。
なお、今回支給された武器防具は、最初の約束通りそのまま差し上げると言われた。
最初は遠慮したが、また何かで依頼するかもしれないと言われ遠慮なく貰う。
ドリス達はこのあともマチスさんから別の仕事を受けているそうだ。
「嬢ちゃん、何かあれば俺を頼ってくれていい。筋がいいからな、正式依頼を受けれるようになったらまた一緒に仕事しよう」
ドリスからその才能を認められ、クレスは照れながらも「ありがとうございます」と握手をしてから別れるのだった。
そのあと、俺達はギルドに向かう。
既にマチスさんの使いの人が報告をあげていたらしく、言っていた通り護衛と討伐の報酬が支払われた。
その金額、金貨三枚とかなりの破格であったが、それほど娘さんのことを感謝しているのだろう。
そこで一人のギルド職員から声をかけられる。
「ウードさん、娘さんのことでお話があるのですが……」
それは、登録の際に指導をしてくれたギルド職員だった。