とりあえず使えるものは使おう。

「キッドは、死んだガルーダをくわえてきてくれ。重いだろうけど頼んだぞ?」

 折角の肉をここで腐らせたり他の動物に食べられてしまったりするのはもったいない。

 なのでここはキッドに頑張ってもらう。

 俺はガルーダの荷物と幼児を抱え、さらに持ってきた自分の荷物も背負いながら何とか自分の家まで帰ってきたのだった。

「くはーっ、疲れたっ! さて、まずはこの子を綺麗にしてやらんとだな……」

 自分の子供を育てたことはないが、狭い村なので人の子供を預かったり、親戚の子の面倒を見たりとか当たり前にやってきているので、そんなに困ることはないが、着替えやら食べ物やらを皆一緒に置いていってくれていたので、何もない状態からは流石に経験がない。

 着替えは……、うんさっきの荷物にありそうだな。

 あとは飯か……。

 見た感じ二歳くらいの子なので、かした芋や潰したむぎかゆなら普通に食べられるだろうし、乳牛はいないが羊ならいるので羊ミルクを温めて飲ませればいいか。

 そう考えながらも、大きなおけを用意して風呂の準備をする。

 といっても入るのはこの子だけだが。

 どのくらいあそこにいたのか分からないが、結構なお粗相をしているので今穿いている下着はダメだろう。雑菌が湧いてもあれなので焼却炉に突っ込んでおく。

 ちなみにこの子は、アレがついていないので女の子のようだな。

 抱っこしながら連れてきたら、家に着いた時にはもう寝ていた。

 呑気というか図太いというか……。

 まぁ、わんわん泣かれるよりはマシか。

 大人しく寝ている間に湯あみを済ませて体を綺麗にしてから着替えさせたあと、ひとまず布タオルで簡易ベッドを作って寝かせておいた。

 キッドは自分で水浴びして血のりを落としてくれていたので、少女を見ているように指示を出した。

 ウォン!と返事をすると少女の隣で丸くなっていた。

 本当に賢い相棒で助かる。

 キッドが見張ってくれている間に、ガルーダの羽をむしり取ってから内臓を抜き木にぶら下げて血抜きをする。

 血も売れるので、下に金属のボウルを置いておく。

 抜いた内臓は処理が大変なので森の中に投げ捨てた。

 そのうち野犬どもが処理してくれるだろう。

 ガルーダの処理が一旦終わったので、部屋に戻ってきた。

 よほど疲れているのか少女は起きないようだ。

 この歳なら一日の半分以上は寝ていても普通なので、そっとしておこう。

 その間に食事の準備をしよう。

 お湯は沸かしてあるので、それで芋を蒸かすことにした。

 それとは別に鍋で麦を煮て麦粥を作ろうか。

 そこに羊のミルクとバターを入れて完成。

 卵は流石に高級品だから使えないけど、まあこれだけで十分かな。

 しばらく食べてなかったらお腹を下したりするし、食べやすいものがいいだろう。

「んうあ……。あ~、ぱーぱ? あ~、わんわん?」

 おや、匂いにつられたのか起きたようだな。

 こらこらキッドの毛を引っ張るのは止めなさい……。

 子供相手だから怒らない、偉いぞキッド。

 俺は少女を抱っこして引き離し、今作ったご飯を食べさせるためにテーブルに連れて行く。

 木のスプーンですくって、ふうふう冷ましながら食べさせてあげた。

 うんうん、我ながら手慣れたもんだ。

 まぁ、この村の人間なら大体出来るんだけどね。

 ご飯を食べ終わったら村長に話しに行こうか。

 流石に勝手に子供を拾ったとか言ったら、犯罪者扱いにされかねないからな。


 ご飯を食べ終わると少女はまたウトウトしだした。

 目鼻立ちは整っているし、将来美人になるかもな~。

 って、父親にでもなった気分だな。

 まぁ流石に俺が育てることにはならないだろうけどさ。


「ウードよ、お主一人だし丁度よいじゃろう? うちの村の中では比較的余裕あるじゃろうし。町の役人にはわしから伝えておくでな」

 はい、育てることになりました!

 って、まてまて。

 俺独身なんだけど?って言ったら、もうお前は結婚は無理じゃろとだってさ!

 いや、諦めていたけどね? 人には言われたくないんだよなー。

 しかし、しょうがないか。

 これも縁だし、案外すぐ親が引き取りに来るかもしれないしな!

「んん……ぱーぱ?」

「お、目を覚ましたか? おう! しばらくは俺がお前のパパだぞ~?」

 そう言いながら、高い高いをしてあやす俺。

 そういえば名前がないと不便だな。

 あの荷物とかにそういうのないかな?

 ガソゴソ。

 ……これは違うな、服の店名だ。

 ガサゴソ。

 ……これも違うな、オモチャ工房の名前だ。

 ガサゴソ。

 ……お? これは……魔導書のタイトルか。

 ……は?

 魔導書!?

 なんて高価なもんが入ってるんだ!!

 まぁ、俺は魔法の才能ないから関係ないけど。

 ……とりあえず見なかったことにしよう。

 あ、メッセージカードあるぞ。


『愛しのクレスへ

 誕生日おめでとう!

■▲より』

 ん……、誰からかはかすれて読めないな。

 クレスか。

 うん、可愛い名前だと思う。

 この子の名前かどうかは分からないけど、俺が面倒見ている間だ。

 使わせて貰おう。

 期間限定だけど、その間はしっかりと面倒を見ようと思うのだった。


 ……すぐに迎えに来ると思っていた時がありましたよ。

 時間が経つのは早いもので、あれから十年の歳月が流れた。

 町の役場には村長がちゃんと迷子届けを出しておいてくれていたが、その後は保護者として自分を登録したり、クレスという名前で養子として迎えるとか色々と自分でやったよ。村でこういう手続きが出来ればいいのだけど、役場は町にしかないので行ったり来たりしないといけなくて、とっても大変だった。

 そんなこんなで、俺も本当のおっさんになりましたよ。

 クレスはすくすくと育ち、家の手伝いもよくやってくれるいい子に育った。

 村の皆は、迷い子だって知ってるし、クレスもそのことは知っている。

 隠していたわけではなかったが、最初にその事実を知った時は大泣きして家出するわ、魔獣に襲われるわと大変だった。だが、その時に体を張ってクレスを守ってみせたことで『本当の娘だと思っている』と伝えられたので、今ではいい思い出だ。

 血がつながっていないと分かってからも、俺のことは「お父さん」と言ってくれている。うん、本当にいい子だ。

 元々オープンな村だったから、人の子供を預かったり預けたりは日常茶飯事だし、クレス一人が特別視されることもなかったのは幸いだ。

 逆に容姿が整っているもんだから、村のじいさんばあさん達は自分の孫でもないのにやたらと可愛がってくれていた。

 今では俺も本当の娘だと思っているし、今更別れるなんて考えもしない。

 いや、考えたくない。

 ダメ、絶対。

「お父さ~ん! ご飯出来たよ~」

「ああ、今行くよ」

 丁度、動物達の餌やりも終わり、一区切りしたところだ。

 そういえば、今日は久々に馬車用の馬を納品する日だ。

 馬の売買は俺の一番の収入源でもあるので、大事な仕事だ。

 これのおかげで、スキルが乏しい俺が少し余裕のある生活が出来るのだ。

 馬は数少ない移動手段の要だし、労働力にもなる。

 だが元来馬というのは気難しい性格であり、きちんとしつけをしないと飼い慣らせない動物だ。

 素人が捕まえようとして、後ろ蹴りを食らって死ぬなんてよくある話なのだ。

 なので馬一頭が小金貨四枚という普通の村人では稼げない値段で売れる。


 ちなみにだが、この国の通貨は四種類。

 価値の小さい方から銅貨、銀貨、小金貨、金貨となっている。

 銅貨百枚で銀貨一枚。

 銀貨百枚で小金貨一枚。

 小金貨十枚で金貨一枚となっている。

 まぁ、金一粒で銀貨一枚の価値があるらしいので、こういう比率なんだろうな。

 うちの村だと銅貨と銀貨くらいしか使わない。

 人口がわずか百人ほどのうちの村と違い、五千人もいる隣町『カンド』でも小金貨を買い物に使う者は少ない。

 大型の家具とか、高級品を買う時とか、あとは馬と馬車を買う時くらいだ。

 町人の家は借家が多いので、その支払いも銀貨が普通らしい。

 そこに金貨ともなれば、商人同士の取引か冒険者の報酬くらいなものだ。

 うちの村人なんかは、金貨を一枚も手にすることなく人生を終える者が殆どだ。

 そして俺はというと、商人や貴族用の馬を卸す仕事をしているおかげで村では上位に数えられるほど貯蓄を持っている。もちろん、一番持っているのは村長だ。

 ただ、金貨を沢山持っていても宝の持ち腐れなので、大抵は適度に崩して保有している。

 いざ使おうと思っても、相手がお釣りを持っていないと両替をしに行く羽目になるので、よく使う銀貨でお金を貯めているのが実情だったりする。

 そんな村人が手にすることが滅多にない小金貨を一頭あたり四枚、しかも二頭納品予定なので、これだけで数か月遊んで暮らせる金額になる。

 とはいえ、動物達の世話があるから遊んではいられないのだがね。

 そうそう、クレスももう十二歳だし、今では納品の手伝いもしてくれている。

 それなので、今日も一緒に納品しに行く予定だ。

 町にはたまに連れて行ったりしているが、いつもは買い物に連れて行くくらいだ。

 村には店とかないし、女性ものの購入には町に行かないと手に入らないからね。

「ご飯食べたら、馬の納品に行くぞ~」

「は~い、分かったよ~。そういえば、久々だよねぇ町に行くの」

「そうだな。折角だから帰りにお店でご飯食べてこようか」

「本当? やったー、大好きお父さん!」

 愛娘となったクレスに満面の笑みで抱きつかれ、ついつい表情を崩してしまう。

 いや、いつも甘やかしてるわけじゃないよ?

 たまたまだよ?

 と誰に言ってるか分からない言い訳をしながら出かける準備にかかった。


 あれから十年も経ち、流石にキッドは引退してるのでお留守番だ。

 その代わりに、いつの間にか嫁さんを貰っていたキッドの子供が生まれているので、今ではその子が相棒になっている。

 名前はエースと付けた。

「エース、道中の護衛頼んだぞ?」

 ウォンッ!と元気に返事するエース。

 親に似てとても賢い子だ。

 納品用の馬を二頭連れて村を出る。

 俺とクレスは荷物運び用に飼っている荷馬に二人で乗り、後ろに二頭を繋げている。

 道からはみ出たりしないようにエースがちゃんと見ていてくれている。

 うんうん、優秀だ。

 馬達もちゃんと調教済なので、よほどのことがない限り暴れたり逃げたりしない。

 エースには魔物や危険な動物などが来ないかを見張って貰う。

 村から町までは徒歩で一日、馬車なら半日もかからないので比較的近い。

 街道も昔に作られていて、比較的安全に町に行くことが出来る。

 治安がいいのがこの地域のいいところだ。

 じゃないと、弓矢以外扱えない俺が一人で町に行くなど出来ないだろう。

 他の村とかだと(行ったことないけど)、護衛を一緒に乗せるのが当たり前らしい。

 野盗にでもくわしたら大変だが、治安がいいからか出会ったことはない。

 町まで一本道だし、いざとなったら馬を放って逃げるだけなんだが。

 まぁ、野盗やるくらいなら、うちの村に流れてきて農家でもやった方がまともな生活が出来るかもしれない。

 ちなみに荷台には、村の連中から代わりに売ってきて欲しいと委託されたものがいくつか乗っている。

 お駄賃は売却値の一割だ。

 正直、運賃と手間賃を考えると格安なのだが、その分色々村の中では融通をきかせてくれているので文句はない。


 いつも通り、何も問題なく街道を通って予定の時間に町に着いた。

 あ、時間は商売を一応やっている関係で、時計を借りているので分かる。

 買うとかなり高価なのだが、こんにしてくれている商人が古くなったものを貸してくれているのだ。

 この時計がどういう仕組みなのかは俺なんかには理解出来ないけど、時間が分かるというのはとても便利なので重宝している。

「毎度~、馬の納品に来ましたよ」

 いつも馬を卸している商会にやって来た。

 中から丁稚でっちさんが出てきて、「すぐに主人を呼びます」と言って、応接間に通された。

 この商会はこの町カンドでも一番大きい商会で、昔無謀にも冒険者になろうとして挫折していた俺を、たまたま見かけたここの商人が声をかけてくれたのが出入りするきっかけだ。

 どう考えてもお金のなさそうな村人が立派な馬を従えているので、『安く買いたたこうと思っていたのさ』と正直に言われた時はぜんとしたが。

 俺が自分で捕まえて育てた馬だと教えたら、がっちり握手されて『専属契約しないか?』と持ちかけてきた。

 結局俺がうなずくまで手を放してくれなかったので、契約せざるを得なかったのだが、結果的にかなりの幸運だったようだ。

「おおウードさん、ようこそ我が商会へ。うんうん、今日の馬も見事な仕上がりでしたよ。あれなら問題ないでしょう」

 大喜びの様子で応接間に入ってきた商人、この人が今回の依頼主だ。

 入って来るなり俺に金貨二枚を手渡す。

 金貨なんて、俺でも滅多に見ることがないので正直驚いた。

「えっと、多くないですか?」

「いえいえ、ここまでの仕上がりなら少ないくらいですよ。……正直に言いますとね、今回の馬はとある貴族様の馬車用でしてね。数人のテイマーにお声がけしてたんですが、ウードさんの馬が一番いい仕上がりだったのです。だから、遠慮なく受け取ってください」

「なるほど、そういうことなら遠慮なく」

「それはそうと、そちらが例のお嬢さんですか?」

「ええ、そうです。そういえばマチスさんに会うのは初めてでしたか」

 いつもは、外で待っているのでこうやって対面するのは初めてだ。

「いつも父がお世話になっております。クレスと申します、よろしくお願いします」

 出来る限り丁寧に挨拶するクレス。

 特別教育を受けさせたわけでもないのに、よく出来た子だ。

「これはこれはご丁寧にありがとうございます。私はマチスといいます。ここのマチス商会長をやっているんだ。お父さんにはいつもお世話になっているからね、これからもよろしくね」

 温和な顔を保ったまま、マチスさんは子供相手にもその姿勢を崩さなかった。

 本当に出来る商人というのは、相手によって態度をコロコロ変えてはいけないと本人が言っていた。

 しかし、こうもニコニコ顔のマチスさんって何かを企んでる時が多いんだよなぁ。

「さて、ウードさん。今日はですね、もう一つお願いしたことがありまして……」

 ほら、やっぱりきた。