
「ああ、おかえり! 良かった、無事だったんだな」
ロロイプールでの俺たちの根城である教会に
無論マリー限定で。
俺の事を一切視界に入れずマリーとのみ会話をしている。俺は最早今更な気分なのにマリーはその事を心苦しく思っているようでチラチラとこっちに視線を彷徨わせている。
気にしなくてもいいのに。
「眠り病の調査に行って眠ったきり帰って来ない冒険者も多いから、心配してたんだよ」
マジかよ……そんなに危険な依頼だったのか? 村長はそこまでは言わなかったけど。
「……ところでさマリーベルさん、アンタにお願いしたい事があるんだけど」
「? なんでしょう」
「昨日アンタに治療して
「それは何よりです。ただあくまでも今回は薬草が良く効いたに過ぎません。お酒の飲み過ぎには十分気を付けてくださいね」
にこやかに、しかし彼にとっては結構酷な事を言われたのだろう。ハリーは顔を
「……分かったよ、今日からは自粛するさ。ところでシスター、アンタは夕べに俺にやってくれたみたいに治療魔法みたいな事が出来るんだよな。あのにっがい玉コロとかよ」
「あれは……昨日も言いましたけど症状を抑える薬草で魔法と違って万能ではないですし、即効性も無いのですよ?」
マリーは困ったように彼の言葉を訂正する。
この辺が2年前まであった光魔法の利点であり、そして今となっては最大の問題になってしまった一因、光魔法は全ての病を一つの魔法で治療できる代物だったらしく、極端な話『頭痛』でも『腹痛』でも一つの魔法で片がついていた。
そんな方法に依存していたため、この世界では病理学が発展しておらず、本当なら各々の症状で治療法が違う事が浸透していない、つまり診察の概念が無いのだ。
逆に魔物や戦争などの影響で致命傷への対処法は少なからず浸透しているようだ。
何しろ致命傷を負った時は『光魔法が使える者がいる所まで生かせば良い』って事なのだから、大量出血の止血法や人工呼吸みたいないわゆる救急処置なんかはあったりする。
この辺は『本格的な治療を行える病院まで』を本職にしている救急隊と似ている。
スキンヘッドのオッサン、ハリー氏は真剣な顔で言う。
「それでも構わねぇんだ。2年前からの眠り病の弊害は知っての通りだがよ、他の連中に関しても何の手立ても出来ねえのが現状でな……良ければ嬢ちゃんがこの村の病人たちを見てくれればありがてぇんだが……」
そこまで言ってハリー氏は初めて俺の方を向いた。
「アンタも良いかい?
そう言う彼の目は軽蔑する、挑むような物で……だけど俺と目が合った瞬間にビクリと一瞬
「俺の役目は商品を目的地に届ける事。傷が付かなきゃ商品が途中で何をやっていても知らねーよ」
「そ、そうか……なら早速こっちに来て貰えねーか?」
そう別の村人に言われたマリーは俺の方を向いたので、俺は一つだけ
「分かりました。案内して下さい」
そう言いマリーをその場から連れて行くおっさんは、相変わらず俺を侮蔑の眼差しで見ていて、何か言いたげだ。
……ご苦労さんです。
*
教会の聖堂には既に多くの村人たちが集まっていて、早速教壇上を診察室に見立てた簡易的な診療所になった。
「大丈夫ですか? 私に摑まって下さって良いですよ」
「……すまんのう」
そんなやり取りをしながらマリーは一人一人丁寧に問診して行く。
元々魔法で治療に当たっていた彼女だけにこの手の対応は慣れたもののようで、スムーズに村人たちに治療法を提示し、薬草を飲ませて症状を和らげる。
中には教会関係者だとして懐疑的な者もいない事もなかったが、そういう連中は脇に控えているハリーが睨みを利かせていた。
忙しそうではあるけど、マリーは今凄く生き生きとしている。
「さ~て……俺は俺の出来る事をしねーとな」
マリーを見ていると不意に自分の心情が口から漏れていた。
そう、考えるべきはこの後についてだ。
この村の問題は先送り……ってそれは誰あろうマリーが絶対に了承しないだろうな。
だったら解決策を模索するしかないんだが、一番の問題はあの洞穴で何が起こったのか、一切分からなかったって事だ。
「一から整理してみるか」
「うん、それが良いと思うよ」
「まず魔石の原石が紫に光って、風の力が急に強くなったと思ったら歌が聞こえて、そして強烈な眠気が襲って……気が付いたら坑道の外にいた。要約するとコレだけなんだが、問題は何で俺たちは助かったか、だ」
何と言うか魔法の力としてハデさは無いけど、体験したからこその恐怖がある。
もしも、あのまま目覚める事が無かったとしたら?
「ま~だれかが助けてくれたってのが、妥当な線でしょうね~」
「………………」
「な~に怖い顔してるの? お兄ちゃん」
いつからいたんだか、先日の悪ガキたちの中にいた一人、薄紫の髪が愛らしい少女がベンチに座る俺の隣でニヤニヤと突っ立っていた。
相変わらず魔王認定してくれた仲間たちと違って物怖じせずに俺に寄ってくるな。
「あ、怖いのはいつもの事か……ゴメンゴメン」
「失礼なお子ちゃまだな」
「お隣、よろしいかしら? 素敵な方」
途端にシナを作ってウインクをしてくる少女、それは酒場のカウンターを意識しているかのようで……どこで覚えたんだかそんな仕草。
「そういうのは前置きに怖い顔とか言う前にやれよ」
「あや、失敗だった? 村のお姉ちゃんから教わった男を落とすテクニックなんだけど?」
「……もうちょっと年取ってから出直してくれ」
少女は俺の文句に「ニヒヒ」と笑い、俺の首に手を回してから俺の上に座り込んだ。
その小慣れた仕草に幼女だというのに不覚にもドキッとしてしまう。
この村の教育方針は大丈夫なのか?
「友達はどうした? 今日はみんなと一緒じゃないのか?」
見渡してみても視界に入るのはこの少女一人のみ、隠れて見守っている仲間でもいるのかと思いきや、それすらいないようだ。
「みんなお兄ちゃんは悪い奴だから近付くなってお父さんお母さんに言われてるからね、この前からは魔王になったけど。一緒だと止められるもん」
少女の言葉に俺は少々
「俺と話する為に一人で来たってか?」
「うん!」
いや、うんじゃねえよ!
元気良く頷く少女は可愛らしいけど、そういう問題じゃないだろ!?
「いやいやダメだろ、近寄るなって言ってんのは理由があるからだ。見た目も振る舞いも怪しい、危険人物に一人で近付くなんて……
俺は
自分の事を怪しいと自分で言うのは複雑な気分ではあるけど。
しかし少女は目を丸くしてニヤリと笑って見せた。
「お兄ちゃんになら攫われてもいいかも」
そんな達者な返しに思わずズッコケそうになった……このガキ。
「それで? 怪しさ全開で近付くなって注意されている俺に、わざわざ何の用だ?」
「お兄ちゃんたち、眠り病の坑道に行ったんでしょ? どうだったのかな~って」
考えてみればサキュバスの話をくわしく聞いたのはこの少女からだったな。
お子様は好奇心の塊、気になった事を実行に移す為には親の制止すら振り切って不審者に話しかけてしまうのも仕方が無いのだろうか……。
「ねぇ~どうだったの?」
つぶらなルビーのように
俺は根負けして洞穴であった事をかいつまんで話すことにした。
「ふうん……じゃあお兄ちゃんたちは洞穴で寝ちゃったのに起きる事が出来たんだね」
「……ああ、色々と
説明をして俺が自分で言った事を
「……何だよ?」
「お兄ちゃん、今怒ってる? 眉間に
「ほっとけよ、この顔は生まれつきだ。今は考え込んでいるっつーか、悩んでいる顔だよ」
「ならいいけど……」
そう言いつつ俺の眉間をモニモニ触ってくるのだから、最初から怒っているとは思っていなかったと思うけど。
もう小さい頃から〝どんな表情でも怖い〟みたいに言われて来たせいで、自分で自分の感情を顔で表現できている自信は無いんだがな。
ただ、それを口に出して言うかね……逃げないで相手してくれるのは嬉しいけど。
「んで? 腑に落ちないって何が?」
「……眠り病の事を考えればお前が言う通り、洞穴で眠ったのに目覚める事が出来た点。いつの間にか洞穴の外にいた点。そして何よりも……この村にサキュバスなんているのか? って点だな」
俺の疑問点、特に〝サキュバス〟のくだりに反応する少女。
「お兄ちゃんはいないと思っているの?」
不満げ、と言うよりは確認するように少女は聞いてくる。
「この村で暮らしているお前には失礼かもだが、この村は昔からサキュバスの昔話が伝わっていたんだよな?」
「うん、そうだよ」
思考の中で何かが引っかかっている。ハッキリ言えば俺もマリーも実際にサキュバスには一度も遭遇していない。
不意に思い出されるのは気を失う直前に見た紫の光、サキュバスの属性、そして村人のサキュバスに対する認識の差異……。
「いや……違う、いるかどうかじゃない。俺の中に引っかかっていたのはそこじゃない」
「? どういう事なの」
「お前言ったよな? サキュバスはイイ夢魅せて眠り続けさせて精気を奪う魔族だってよ。でも俺たちは『眠らされた』けど『眠り続けて』はいない。眠り続けさせないとサキュバスには何のメリットもねえ。村人が言うように全ての元凶がサキュバスだって言うなら
「そうね……」
「それに、そもそも坑道内で起こった、強風を起こしたり、眠りを誘う歌を歌ったりって……お前から聞いていたサキュバスの能力とは関係ない事ばかり起こってないか?」
勿論情報が間違っている可能性だって否定できないけど、俺には一連の流れが意図的にサキュバスを
「……本当に関係ないのかもね」
「あ?」
思わず隣の幼女を見ると、彼女は年相応には見えない大人びた表情で俺を見ていた。
「サキュバスってね、性質から誤解されやすいの。アイツらは人間の出す精神エネルギーの余剰分を
「精神エネルギーの余剰分?」
聞きなれない言葉に俺が聞き返すと、幼女はコクリと頷いた。
「魔族の中には人の精神エネルギーをご飯にする種族もいるの。恐怖を食べる子は人間を脅かし、時には
「喜びの……精神エネルギー?」
それはまた、何と言うか『魔族』っぽくないような。
「彼等は人間に夢を見せる。良い夢を見せるも良し、夢から教訓を得て男女を仲介するも良し、出会いを演出するでも良い。人間に快感を与えて幸せの感情を増幅させ、膨張した余剰エネルギーを貰う……それこそがサキュバスの本質」
目から
「じゃあ、いわゆる一般に言われているみたいなサキュバスのイメージって……」
「良い夢って言うのは個人個人で違うもの。良い夢を見せようと力を送った結果、どんな夢を見るのかは、それは自己責任?」
つまりイイ夢=えっちい夢を見たところで、それは自己責任って事か。
幼女にそんな事をニヤニヤしながら言われても困るんだが。
「まあ〝そう〟思われるのは仕方ないね。彼等が一番好むのは恋愛に関するエネルギーだし、どうしてもそういう時におせっかい焼く事が多いから」
……段々と近所の見合いをまとめるのが趣味のおばちゃんと変わらない気がして来た。
「サキュバスにとっては若い二人が激しく愛し合うのも、老夫婦が
そうか、そういう事なんだ。
俺は自分の引っかかりに今気が付いた。
「そもそも〝サキュバスが悪者なのか?〟俺はそこに引っかかっていたんだ」
自分で口にしてようやく合点が行った。
俺は最初からサキュバスを悪と考えていなかったんだ。
「ねえ、お兄ちゃん。だったら、『眠り病』の事も同じように考えてみたら?」
「あ?」
「最初から決め付けないで、眠り続けるのが本当に悪い事なのかな~って」
「!?」
そんな考え方は完全に思考の外だ。
俺もマリーも、そして村人たちだって『眠り病』の解決策は目覚めさせる事に尽きると思っていたのに。
「お前は一体、何を言いた……!」
俺が少女に視線を移すと、さっきまで隣に座っていた少女の姿は既に無かった。
俺に助言を与え、妙にサキュバスについて詳しい、薄紫のフワフワな髪の愛らしい少女は、幽霊の如く、
俺は驚きのあまり『彼女に名前すら聞いてなかった』事しか考える事が出来なかった。
「しかし、原因が何であれ坑道で寝ちまう現象を何とかしねーと先に進まないんだよな」
俺は何となく捜しても無駄な気はしたのだが、一応周辺で少女の姿を捜した。やはり影も形も見当たらないのだけど。
どう考えても、あの幼女は何かを知っている。
「あ、ジンさん。どちらにいらしてたのですか?」
その流れで教会の中庭、丁度入り口の逆側にある場所に行くと、額の汗を拭っているマリーと遭遇した。
いつもの修道服ではなくブラウス一枚になっていて、額だけではなく全身に汗をかいているのが張り付いて若干透けている肌色から明白。
忙しかったんだろうけど、目のやり場に困るな……チラッ。
「し、診療の方はもういいのか?」
俺がそう聞くと彼女は嬉しそうな顔を浮かべた。今まで否定されて来た治療法で腕を振るえる事が嬉しいらしい。
「はい、とりあえず一段落です。まだ希望者の方はいらっしゃいますけど、一旦休憩にさせていただきました。お腹もすきましたので」
つまり昼休憩って事か、手元を見るとシチューのような物がある。患者の一人が気を利かせて持って来てくれたんだとか。
良く煮込まれた具材がゴロゴロ入っているシチューは温かい湯気と一緒に甘い香りを漂わせ、中々美味しそうではある。
だけど
「ジンさんもお昼まだですよね? ご一緒にどうです?」
「いや……俺は今少々食欲が」
二皿あるのは俺の分を取っておいてくれたんだろう。
だけどどうしても断面の心霊写真のような模様が気になる。コイツは金太郎
しかし昼飯を食わないと言った事が気に入らないようで、マリーはムッとした顔でもう一つの皿を俺に突き出した。
「もう! ダメですよそんな事を言っては。ご飯はちゃんと食べないと体が持ちません」
「あ、ああ……」
その真剣な様に思わず
考えてみればこの世界の生活水準は中世ヨーロッパに近いんだったな。
旅人でもあるマリーにとっては『食事をしない』危険は身に染みている事なんだろう。
……これはいつでも食えていた日本人の
俺は無意識に自分が持っていた傲慢さを少し反省する。ここはしっかりと食べておく事が正しい行いだ。
しかし俺がそう思い直すと、マリーは信じられない言葉を口にした。
「ハイ、あ~ん」
「……え?」
「ほらジンさん、あ~んです」
思考が停止する。
マリーの表情に他意は一切なく至って真剣そのもので、彼女にとっては介助の気分、医療行為の延長の気分なのだろう。
だが、俺にとっては都市伝説級の現象、『美少女からのあ~ん』が突然発生した現状に対処しきれない!
あ~んて……恐怖の対象として男女問わずに恐れられ、近寄られる事すら無かった俺の人生では発生するはずもなかった怪奇現象、いや妄想の
「いや、それはちょっと……」
「ジンさん!」
「あ、ハイ……」
しかし今日のマリーは有無を言わせてくれない。
諦めて開いた俺の口にシチューを含ませたマリーは真剣な顔を笑顔にする。
「ほら、美味しいでしょう?」
「あ、ああ……」
現在俺はウソをつきました。
最早模様はどうでも良くなり反射的に
全身が、特に顔と心臓が熱暴走の興奮状態で味覚に神経が集中できねえ!
美味しいとかどうとかの問題ではなく……。
「まったく、ダメですよ? ご飯はちゃんと食べないと」
しかし、そう言いつつ中庭の庭石に腰を下ろしたマリーが〝そのまま美味しそうにホクホクとシチューを食べ始めた〟のを目にして、俺は腰が砕けそうになった。
「マ、マリー……お前、何をやって?」
「? どうなさいました」
不思議そうに、本当に不思議そうに〝俺に使ったスプーンを口にするマリー〟はその事実を気にした様子も無い。
同時に俺に〝使用中のスプーン〟を使い、しかもあ~んをした事だって全く意に介さず。
こ、この娘は……。
「ジンさん、お顔が真っ赤ですよ? 具合でも……」
「……何でもねーよ」
恥ずかしいのにどうしてもニヤけてしまう口元を隠すために、俺は明後日の方を向くことしか出来なかった。
「あ、ところでジンさん。病の事でお聞きしたい事があるのですが」
そんな感じでしばらく食事をしていたマリーは不意に俺を見上げた。
何やら仕草が小動物っぽいんだが。
「……聞いて俺が答えられるかは分からないけど、どんな事だ?」
「あの……診察にいらした村の方々の中に、ある一定の場所でくしゃみや涙が止まらなくなるとおっしゃる方々がいらしたんですよ。風邪……というワケではないのに、ある男性は山での作業中、ある女性は家でお掃除をしていた時らしいですが」
一定の場所でくしゃみや涙? そんなのは一つしか思い浮かばないけど。
「アレルギーじゃねーの?」
「あれるぎー?」
俺の言葉にマリーは目を丸くして
「人間の体には悪い物や異物の侵入を防ぐ、もしくは排除しようとする働きがある。ばい菌とかの事は教えたよな?」
「ばい菌……目に見えない程小さな生き物、ですよね」
「そう……だけど、人によっては入って来た特定の異物に対して過剰に反応、攻撃をしてしまう事があるんだ。どういうワケかコレは個人個人違うんだよ」
「過剰に反応……ですか?」
今一分かりにくかったらしくマリーは小首を傾げて見せた。
「あー……例えば、1匹のゴブリンが巨大な城に侵入したとする。城に勤務する兵隊たちはゴブリンを排除しようとするだろ?」
俺の例え話にマリーはフンフンと頷く、これは分かりやすかったらしい。
「本当なら排除には5~6人の兵士で十分だ。ところが1匹のゴブリンを排除する為に100人の魔法使いが強力な魔法を城の中でぶっ放す……みたいな事かな?」
想像したみたいでマリーの目が細くなった。
「過剰防衛、と言いますかやりすぎでお城がボロボロですね」
「その通り、城を人の体と考えれば分かるだろ?
そこまで言うとマリーは立ち上がって俺の手を取った。完全に尊敬の眼差しで。
「やはり詳しいじゃないですか! ジンさんが今おっしゃった事はおそらく古文書にすら載っていない概念ですよ!? こんな事を当たり前に知っているだなんて驚きです!!」
「あーいや、感激してくれているところ悪いけどアレルギーについては俺自身が花粉症だから色々知っているってだけで」
自らの病には人間どうしても詳しくなってしまうもの。
俺も毎年の春先の地獄に備えた結果詳しくなったに過ぎないからな。
しかしそこまで言うと、マリーは再び目を丸くして
「カフン? カフンショウとは……一体何なのでしょう?」
「花粉を知らないのか? 植物、花から出てくる粉って言えば分かるか? さっきの山の中で症状があるって言ってた男性も何らかの花粉がアレルゲンだと思うが……」
「あれるげん??」
目をパチパチと瞬かせるシスター。コレは根本的なところから分からないらしいな。
「……仕方が無い。まずは理科の勉強、おしべとめしべから」
中略、しばらく俺はマリーに受粉のメカニズム、花粉に対する問題や対策など
「でも不思議ですね。私は花から取れる粉は特殊なお薬としか思っていなかったのに、まさか植物が子孫を残す為の重要な物だったなんて」
「……特殊な薬? 花粉が何か病気に効くのか?」
その辺は異世界人の俺には全く
「ハイ、そうですよ。ちょっと待ってて下さい」
そう言うとマリーは一度教会内に入り、再び自分の愛用のザックを持って戻って来た。
洞穴の中でも使っていた代物だが、それを証明するように中から洞穴で採取したユリに似た花を瓶ごと取り出した。確か名前は……。
「暗黒
「そうです。洞穴で採取した物なんですけど……」
そう言うとマリーは瓶の蓋を開けて、一枚のハンカチを花の下へ持って行き、花をトントンと軽く叩いた。
そうすると一つまみの黄色い粉がハンカチに
「それは……花粉だよな? 暗黒百合の」
「はいおそらくコレが暗黒百合のカフンだと思われます。古文書にも暗黒百合の記述はありまして、寝付きが悪い方への特効薬として時の王国では日頃の激務のせいで熟睡できない事務関係者たちが重宝したとも……」
「ストップ、ストップ! 寝付きが悪い人への特効薬だって!?」
笑顔で説明していた彼女の言葉に俺は耳を疑った。
「まさか……それは服用すると眠くなる、睡眠薬の類……なんて」
「……そうですよ? でも飲まないと効果が無いですから使う時には用量に気を付けないと……わひゃ!?」
俺は思わず彼女に抱き付いて背中をバシバシ叩いてやった。
「な・ん・で! 坑道でその事を言わないかね、このシスターは!!」
「何? 何? 何? ジンさん何!?」
何て事だ。俺は自分は現代日本人として『科学的に』物事を見ているつもりだったのに、いつの間にか『魔法的に』物事を見ていたようだった。
そうなんだ……眠らせる事は何も魔法や呪いに限った専売特許じゃない!
俺は目を白黒させるマリーの肩を
「分かったぞ、洞穴での眠りの正体が!」