接する硬い肉体の温もりが、じわじわとこちらへ侵食するようだった。暖房が強められたわけでもないのに顔が熱い。

 やがて信号が青に変わって車が発進し、松原の姿が見えなくなると、宮園は元の位置に戻って腕組みをした。

「……君が現れるのを待っていたようだな」

 同意を求めるというより独り言に近い口調だったので、明日香は何も言わないでいた。というか、いまだに心臓が落ち着かないから声を発することができないでいる。

 しばらくして宮園が話しかけてきた。

「永江さん。あの記者は私が引き受ける。どうにかしよう」

「……どうにかって、どうするおつもりですか」

 初めて聞く上司の低い迫力ある声に、高揚していた気持ちが幾分か収まってきた。しかし宮園は具体的な対応策を話そうとはせず、黙り込んでしまったので不安が募る。

「あの、単に私が個人的な恨みを買ったのかもしれませんし……」

「彼は私の名を出したんだろう? 放っておくわけにはいかない」

 ちょうどそこで明日香の部屋の前に着いたため、それ以上の追及はできず、礼を述べて車から降りた。パワーウィンドウを下げた宮園は、先ほどまでの厳しい表情を消してにこやかに手を振る。

「戸締まりはしっかりすること。おやすみ」

「はい、おやすみなさい。お気をつけてお帰りください」

 頭を下げて消え去る車を眺めつつ、手のひらを胸に押し当てて大きな息を吐く。

 記者については何が目的かわからないので不安もあるけれど、それ以上に宮園の近くにいる時間が増える方が怖い。

 心の天秤は常に揺れ続けている。平常心より恋心が重くなっているのを自覚できる。

 ──私は彼を好きになっているのだろうか。

 赤くなった頬を手でさすりながら、誰もいない暗い小道で突っ立ったまましばらく動けなかった。