
これはある日のことだ。ゴルテオ商会から迷宮大牛角の剣ができあがったと、連絡があった。
ガンダルバンを連れて引き取りに向かうと、今日はゴルテオさんがいて対応してくれた。
「こちらになります」
受け取った剣をそのままガンダルバンへ。恭しく受け取ったガンダルバンは、俺に断って剣を
「おお、これは素晴らしい」
「ご希望通りに、わずかですが生命力吸収の効果がついております」
誰よりも前で敵の攻撃を受けるガンダルバンだ。生命力の回復手段はどれだけあってもいい。だから剣で斬ったらその生命力を奪う効果をつけてもらったのだ。
「振ってもよろしいかな」
「それでは外へまいりましょうか。試し斬り用の丸太もあります」
なんでも
直径五センチほどの細めの丸太だが、ガンダルバンはそれを片手で両断した。
「手応えが軽い。それだけよく斬れるということでしょう。刃こぼれもありません。気に入りました」
ガンダルバンが気に入ってよかった。これでガンダルバンの忠誠心が上がったと思う。ガンダルバンを
屋敷に帰ると、今日は大人しく料理に
迷宮牛の肉をミンチにして、パン粉と
そう、ハンバーグである。
「このような料理があるだすか」
料理人のゾッパが手伝いながら作り方を覚える。次からはゾッパが作ってくれるだろう。
ハンバーグは空気抜きが大事。これは焼いた時に中の空気が膨張して破裂しない対策ね。
両手の間でキャッチボールして、空気を抜く。
フライパンで焦げ目がつくまで焼き、その後はオーブンでしっかり焼く。最初に焼き目をつけておくことで、肉汁が外に流れ出ることを防いでくれる。
ハンバーグをオーブンに入れて焼いている間に、ソース作りだ。
モモをすり
バーガンは臭みがあるから、
ブルーチーズのような発酵食品がゴルテオ商会に売っていたから、それをスライスして白ワインで溶く。焦がさずドロッとするくらいがいい。
チーズはこれしかなかった。癖が強いけど、
焼けたハンバーグを鉄板にのせ、チーズをかける。
フライパンに残った肉汁をモモと玉ねぎのソースに混ぜて、それをチーズの上からかける。
「よし完成だ」
食欲を誘ういい匂いだ。
全員で試食会。
「う、
「なんだこれはっ!?」
バースとジョジョクは涙を流している。お前たち、日頃どんなものを食っているんだ?
「
「このジャストが癖になります」
リンとソリディアが
ちなみにジャストというのがブルーチーズの正式名称。面倒だからブルーチーズでいいよね。
「力が湧いてきそうな料理ですな」
ガンダルバンは肉ならなんでもそう言うんじゃないか。一口が大きく、あっという間にハンバーグが消えていく。
「美味しいのです! 手が止まらないのです!」
ロザリナは食べながら
「このソースが
この世界にモモをソースに入れる文化はないらしい。
日本ではモモのジュースをベースにしたハンバーグのソースをよく作っていた。ある店の味を再現するのに丁度よかったんだ。
「おいしゅうございます。旦那様は料理への造詣が深く、このモンダルク、脱帽にございます」
「モンダルク様の言う通りだす。色々な料理を見てきたおいらも知らない料理が多いだす」
異世界の料理だから、モンダルクやゾッパたちが知らないのは当然だ。でもこれでゾッパがハンバーグの作り方を覚えたから、メニューに追加された!
「これほど美味しい料理は食べたことがありません」
「美味しすぎて、食べるのに夢中になってしまいます」
メルリスとジュエルにも好評だ。
「あああ……生きててよかったでしゅ……」
おっちょこちょいメイドのケニーも満足しているようだ。
「トーイ様の料理はとても美味しいです。美味しすぎますから食べすぎて太ってしまいそうです」
「アンネリーセはスリムだから、少しくらい大丈夫だよ」
太りすぎは健康上勘弁してほしいけど、女性は少しくらいふくよかなほうが
「ダメです。トーイ様に太った体を見せるわけにはいきませんから」
「お、おう……そうか」
見せてくれるんだ。
アンネリーセと見つめ合っていると、周囲の視線が俺たちに集まっていた。
「ゴホンッ。旦那様と奥様はいつご結婚されるのでしょうか?」
「なっ!?」
「えっ!?」
モンダルクが爆弾を落としてきた。
だけどアンネリーセとのことはちゃんと考えないといけない。
「わ、わ、わ、わ、わ、私などご主人様の……はぅ……」
テンパったアンネリーセが挙動不審になる。顔が真っ赤だ。
それと今でも俺のことを「ご主人様」と呼ぶことがある。無意識の時はこちらのほうが多い。これは少し残念に思っているが、癖になってしまったのだろう。
早く「トーイ」と名前呼びに慣れてほしい。
美味しいハンバーグを食べた後は、剣の素振りをする。
腹ごなしをしつつ、アンネリーセにどうやって俺の気持ちを伝えるかを考える。
毎日一緒に寝ているし、一緒に風呂にも入る。だけど俺とアンネリーセの関係は主従の関係から発展していない。
今後もアンネリーセと一緒にいたい。今のアンネリーセは自由の身だから、いつでも俺の元から離れていける。そうなってほしくないし、独占したいと思う。これは俺のエゴなのだろうか?
「よし、言おう!」
「何を言うのですか?」
「うわっ!?」
剣を振って考え事をしていたから、近くにアンネリーセがいるのに気づかなかった。
「い、いや、なんでも……いや、あれなんだ」
アンネリーセは首を
「俺は……」
「はい」
アンネリーセの目を真っすぐ見られない。気にすると余計に見られなくなる。
「いや、なんでもない」
「そうですか……」
気まずい。この場から逃げたい。
彼女いない歴イコール年齢の俺には、告白はハードルが高い。
理不尽な奴らにはいくらでもなんだって言えるが、好意を寄せる女性には何も言えない。自分でも嫌になるほどのヘタレだ。
アンネリーセへの気持ちを伝えたくても伝えられない。
ヘタレな俺は、
「とりゃーっ」
「せいっ」
「はっ」
「こんにゃろーっ」
七階層の属性リザードをバッタバッタと斬り伏せる。
ある時は転生勇者、ある時は両手剣の英雄、またある時は暗殺者。してその正体は、剣豪のトーイです。
こういう時のメインジョブとしてエンチャンターはダメだ。自分で剣を振って戦えるこれらのジョブがいい。体を動かして、この悶々とした気持ちを落ちつかせるためのものだ。だからサブジョブにしていたら、一番レベルが上がってしまった(笑)。
【ジョブ】転生勇者 レベル三三
【スキル】聖剣召喚(中) 身体強化(中) 聖魔法(中) 限界突破(中) 威圧(中)
壁抜け(中) 聖覇気(中) 貫通(中) 手加減(低) 聖剣秘技(微)
【ユニークスキル】詳細鑑定(高) アイテムボックス(高) ダブルジョブ
下級精霊召喚(〇/一)
【ジョブ】両手剣の英雄 レベル三三
【スキル】指揮(中) 全体生命力自動回復(中) 身体強化(中)
バスタースラッシュ(中) アイススラッシュ(中)
アシッドストライク(中) 完全見切り(中) 経験値集約(低) 念話(微)
【ジョブ】暗殺者 レベル三三
【スキル】急所突き(中) 隠密(中) 痕跡抹消(中) 神速(中) 感知(中)
壁抜け(中) 偽装(中)
【ジョブ】剣豪 レベル三三
【スキル】ダブルスラッシュ(中) 心眼(中) 質実剛健(中) 鋭敏(中)
一点突破(中) 夢幻剣(中)
【ジョブ】エンチャンター レベル三五
【魔 法】魔力強化(中) エンチャント・ハード(中) エンチャント・アクセル(中)
エンチャント・ファイア(中) エンチャント・アイス(中)
エンチャント・アタック(中) エンチャント・リジェネーション(中)
エンチャント・マナネーション(低) エンチャント・サイクロン(低)
エンチャント・アース(低) アイテム・エンチャント(低)
エンチャント・ディフェンス(微) エンチャント・マジックディフェンス(微)
エンチャント・インテリジェンス(微) エンチャント・レジストポイズン(微)
ある日のことだ。俺はいつものようにダンジョンから帰ってきて、アンネリーセに手伝ってもらいながら着替えた。別に自分一人で着替えくらいできるが、アンネリーセがそれを許してくれないんだ。
着替えの後は武器と防具の手入れだ。ミスリルの両手剣には自動修復の効果が付与されていて、汚れはある程度自動で落ちる。アンネリーセがそんなミスリルの両手剣を布で丁寧に拭いて、剣用の油を塗って拭き取る。慣れた手つきで手入れされるミスリルの両手剣がちょっと羨ましくなる。俺もアンネリーセに手入れしてほしいと。
ミスリルの両手剣の後はガーゴイルバスターも手入れされる。俺の武器は基本的に両手剣で、この二本を使い分ける。
ガーゴイルバスターは自動修復や不壊のような効果はないため、ミスリルの両手剣以上に丁寧にメンテナンスをしないといけない。
武器や防具には耐久値というものがある。この耐久値がゼロになると、壊れて使い物にならなくなる。耐久値はメンテナンスすることである程度回復するが、使っていると上限値が徐々に下がってくる。使ったことによる傷みと経年劣化が主な理由だ。
ミスリルの両手剣は自動修復の効果で耐久値の上限が下がることはないけど、ガーゴイルバスターは徐々に下がってきている。ある程度下がったら、また六階層ボスであるソードガーゴイルを狩りまくって手に入れることになる。それは俺たちにはそれほど苦にはならない入手手段であるため、おかげでいい武器を使うことができる。
ガンダルバンたちとダンジョンに入るようになって、俺は攻撃を受けることがなくなった。だから基本的に防具の耐久値は下がらない。経年劣化による耐久値の低下は、一年やそこらでは起こらないからあまり手入れは必要ない。それでもアンネリーセは毎回丁寧に防具を手入れしてくれる。本当にありがたいことだ。
俺の防具は市販されているどこにでもある鋼鉄の胸当てや迷宮牛革のヘッドギア、迷宮牛革のグローブ、迷宮牛革のブーツだ。これらは防具を扱っているような店なら大概手に入るもので珍しいものではない。
最近はエンチャンターというジョブを覚えたこともあって、防具に特殊な効果を付与することができるようになった。ただ革製品には付与ができないため、俺が使っているものでは鋼鉄の胸当てだけが付与対象だ。それでも物理防御力と耐久値が上昇するからかなり助かっている。
あと即死を三回回避してくれる幸運のネックレスと、レアドロップ率が五パーセント上昇する幸運の尻尾も身につけているが、これらのものにも付与はできない。
武器と防具の手入れが終わると、俺たちは風呂へ向かう。
最近は
アンネリーセがお湯をかけてくれる。そこにタオルで石鹸を泡立て、俺の体を洗ってくれるんだ。時々、胸が背中に当たる感触がする。柔らかいけど、なんとも言えない弾力があって背徳感が半端ない。
最近は胸に泡をつけて俺を洗ってくれる。そうなると、もう噴火寸前だ。まさに至高の時間である。
「ご主人様。力加減はいかがですか? 痛くないですか?」
「ご主人様じゃないだろ」
「あ……トーイ様……」
「気持ちいいよ、アンネリーセ」
「それはよかったです」
アンネリーセが俺の体を洗った後は、俺がアンネリーセの体を洗う。手を
積み重ねてきた彼女との信頼関係以上のものを感じつつ、俺の手では余る大きさの柔らかな感触を堪能する。
「気持ちいいか?」
「はい……」
恥ずかしそうにはにかんで、か細い声で答えたアンネリーセがまた可愛い。だから俺は彼女の
二人で湯舟に
まるで湯舟に浮かんでいるようなOPPAIをガン見するのは、男なら当然の行為だろう。この時間をまた味わうためにも、俺はアンネリーセを守り続ける。
アンネリーセには幸せになってもらいたい。それがどんな
そのためには貴族という地位が役に立つのだろうか。何事も使う人次第なのだから、俺は俺とアンネリーセ、そして親しい人たちのために貴族の権力を使うと誓う。
格好いいことを考えているが、それを口にできない。俺は自分がヘタレなのを知っている。そしてアンネリーセを誰よりも大切に
「アンネリーセ」
「はい」
「いつまでもこうやって一緒に風呂に入れたらいいと、俺は思っている。でも、嫌ならそう言ってくれ。俺はアンネリーセの気持ちを尊重するから」
「嫌だなんて、そんなこと絶対にありません。これからも一緒にお風呂に入っていただければ、私は幸せです」
「そうか、ありがとう。これからもよろしくね」
「私こそよろしくお願いいたします」
こんな時間がいつまでも続けばいいと、願うばかりだ。
