メインジョブをエンチャンターに変え、サブジョブを転生勇者に変更。これが一番魔力が多い組み合わせだ。

 作業台の上に六本の剣を並べた。城から帰ってくる途中で買ったものだ。


鉄の片手剣A:物理攻撃力+八 腕力+一 耐久値二五/二五

鉄の片手剣B:物理攻撃力+九 耐久値三〇/三〇

鉄の片手剣C:物理攻撃力+九 耐久値三一/三一

鉄の片手剣D:物理攻撃力+一〇 耐久値三〇/三〇

鉄の片手剣E:物理攻撃力+一〇 腕力+一 耐久値二九/二九

鉄の片手剣F:物理攻撃力+一一 腕力+一 耐久値三〇/三〇


 鉄の片手剣をこんなに買ってどうするのか。その疑問に答えよう!

 エンチャンター・レベル三〇で覚えたスキル・アイテム・エンチャントは、アイテムにエンチャント・ファイアなどを定着させるものだ。消費魔力がかなり多いが、こうやって鉄の剣にエンチャントをしようと試みている。

 エンチャントに必要なものは、元になるアイテム───この場合は剣と魔石だ。

 今回はEランク魔石を用意している。Fランク魔石は魔力が少ないからマジックアイテム製作には不向きだと詳細鑑定が教えてくれたからね。

「アイテム・エンチャント発動。エンチャント・ファイア」

 鉄の片手剣Aにエンチャントを施したところ、ヒビが入って粉々になってしまった。

 失敗は成功の母と言うからな。今度は鉄の片手剣Bに試してみたが、これも失敗。

 詳細鑑定で見ていたが、耐久値の上限値が一気に減ってしまい剣が耐えきれなかったようだ。

 鉄の片手剣では耐久値が不足しているのは明らか。鋼鉄の片手剣で試してみるか。

 神様がくれた武器だが、ほとんど使うことのなかったものだ。


鋼鉄の片手剣:物理攻撃力+一五 腕力+三 耐久値四五/四五


「アイテム・エンチャント発動。エンチャント・ファイア」

 ギューンッと耐久値が減っていき、ゼロになったところでヒビが入って割れてしまった。

「おいおい……。さすがにミスリルの両手剣で試す気はないぞ」

 アイテム・エンチャントはアイテムの耐久値を著しく消費する。これでは仮にアイテム・エンチャントが成功しても、耐久値のないものになってしまう。

 何か耐久値を大幅に上げるか、アイテム・エンチャントで耐久値を減らさない対策が必要だ。

「もしかしたら鉄系のアイテムと相性が悪いということはないか?」

 ガンダルバンたちが訓練で使っている刃をつぶした銅の片手剣を使って試した。結果、銅の片手剣は粉々になった。素材の差ではなく耐久値の問題……いや、まだモンスターからドロップした素材を試してない。

 バースが使っていたガーゴイルバスターが一本余っていたから試すことにした。

「トーイ様。ガーゴイルバスターはボスモンスターのレアドロップ品ですよ」

 俺の実験を見守っていたアンネリーセがはんだ。分かっているよ。でもさ、試さなければ分からないことがあるんだよ。

「せめてガーゴイルソードにされてはいかがですか?」

 ボスモンスターのノーマルドロップアイテムのガーゴイルソードは持っていない。

 ダンジョンムーヴですぐにボス部屋に行けるけど、数日は屋敷で大人しくしていろと公爵に言われているからあまり出歩くわけにはいかないんだよな。

 石のような素材のガーゴイルバスターを見つめてどうするか思案する。

 ん、石……。石のように硬い……。

「そうだっ!?

 鉄の片手剣Cを手に取る。

「アイテム・エンチャント発動。……エンチャント・ハード!」

 詳細鑑定で耐久値を見ていたが、まったく減らない! それどころか耐久値が大幅に上昇したぞ!


鉄の片手剣C+:物理攻撃力+一八 耐久値一〇八/一〇八


 物理攻撃力値が二倍になり、耐久値が三・五倍になった!

 この耐久値なら属性付与も成功するんじゃないか。

「アイテム・エンチャント! エンチャント・ファイア!」

 おおお!? 耐久値は減ったが、鉄の片手剣C+にファイアが定着したぞ!


ファイアソード:物理攻撃力+一八 追加効果 火傷やけど(微) 耐久値五八/五八 (鉄の片手剣C + Eランク魔石 + エンチャント・ハード + エンチャント・ファイア)


「ご主人様、成功したのですか!?

 アンネリーセがとてもうれしそうにしている。そんなに成功したことが嬉しいのか。俺も嬉しいよ。

「ガーゴイルバスターを失わずに済んでよかったです」

 そっちかーいっ!

 まあいいよ。ガーゴイルバスターは一般的に高価だからね。

 ボス部屋周回して十体も倒せば一本くらいドロップするから、全然レアでもない気がしていた俺の感覚がおかしいんだろう。

 鉄の片手剣C+をもとにしているから物理攻撃力のプラス補正値に変化はないが、追加効果はちゃんとついた。

 エンチャント・ハードは物理攻撃力値と耐久値を上げ、属性エンチャントは追加効果を与えるわけか。

 エンチャント・ハードの物理攻撃力値上昇は+九なのか、それとも二倍なのか。それは他の剣にエンチャントを施していけば分かるだろう。

 でももう魔力がすっからかんだ。魔力ポーションを一本飲んだだけでは全回復しないから、数本飲む必要がある。げっぷー。

 最初にエンチャント・ハードをしないといけないけど、アイテム・エンチャントは成功を重ねた。


アイスソード:物理攻撃力+二〇 追加効果 凍傷(微) 耐久値五五/五五 (鉄の片手剣D + Eランク魔石 + エンチャント・ハード + エンチャント・アイス)


サイクロンソード:物理攻撃力+二〇 腕力+一 風属性攻撃(微) 耐久値五一/五一 (鉄の片手剣E + Eランク魔石 + エンチャント・ハード + エンチャント・サイクロン)


アタックソード:物理攻撃力+四七 腕力+一 斬撃強化(微) 耐久値五五/五五 (鉄の片手剣F + Eランク魔石 + エンチャント・ハード + エンチャント・アタック)


 どれも性能が大幅にアップした感じを受ける。

 アタックソードなど、ミスリルの両手剣以上の物理攻撃力の補正値だ。しかも片手剣というところがいい。両手剣の英雄は使えないが、剣豪でも暗殺者でも使えるものだ。

 耐久値はエンチャント・ハードで三・五倍になって、各エンチャントを施すことで五〇ポイント減ることが今回のことで分かった。


「ゴルテオ商会に行こう!」

 ダンジョンには行かないが、ゴルテオ商会ならいいだろう。と勝手に思っている。

「今日は何も連絡こないと思うけど、連絡あったらすぐ帰ってくると言っておいてくれ」

「承知しました」

 モンダルクに後を頼んで、俺はゴルテオ商会に向かった。

 俺の移動は馬車で、御者はジュエルがする。貴族だから馬車で移動しろとモンダルクがうるさい。

 アンネリーセがついてくるのはマストだけど、兵士のジョジョクが馬でついてくる。

 俺は護衛なんて要らないと言ったんだけど、ガンダルバンが納得してくれない。貴族なら護衛の二人や三人は連れていくものだと、引かないのだ。

 仕方がないからジョジョクを連れていくことで折り合いをつけた。

 貴族関係のことはモンダルクが、護衛や力仕事の時はガンダルバンがうるさい。

 あと、俺の前でニコニコしているアンネリーセは、時々しんらつ。本当に時々だよ。

「これはフットシックル名誉男爵様。ようこそおいでくださいました」

「フットシックル名誉男爵は長いしぎょうぎょうしいからトーイでお願いします。ゴルテオさん」

「それではトーイ様とお呼びさせていただきます」

 様もつけなくていいけど、そういうわけにはいかないことくらいは俺にも分かる。

「はい。それでお願いします」

 今日はゴルテオさんがいて、案内してくれる。武器や防具があるエリアに向かい、そこに置いてあるものを物色する。

 お手頃な鋼鉄製の武器と防具をいくつか購入した。

 ミスリル製の武器と防具もあるけど、高いから今回は買ってない。アイテム・エンチャントの熟練度が上がったらミスリルのアイテムにもエンチャントしよう。

「見てほしいものがあるのですが」

 そう言うと、ゴルテオさんが個室に案内してくれる。商談スペースかな。

 無造作に袋に入れられた四本の剣を、ジョジョクが持ってくる。

 馬車の中でアイテムボックスから出して袋に放り込んだものだ。馬車を降りる時に自分で運ぼうとしたら、ジョジョクが持ってくれた。

「確認させていただきます。……むっ!?

 スキル・アイテム鑑定を使ったようで、ゴルテオさんはファイアソードを持ったまま微動だにしない。本当に動かないけど、息してるよね? 目だけせわしなく動かしているから大丈夫だろう。

「これをどこで手に入れられましたか?」

「それは秘密で」

「なるほど。仕入れ先は明かせないということですね」

 俺がエンチャントしたとは言えないだけですよ。何せエンチャンターのことは秘密にしているので。

 ゴルテオさんは納得したような表情で話を進めた。

「ファイアソード、アイスソード、サイクロンソード、アタックソード。どれも魔剣ですな」

「引き取ってもらうことは可能ですか?」

「製作者や出所が不明の魔剣は、やや値が下がります。それでもよろしいでしょうか? それからのちほど盗品だと分かった場合は、通報することになります」

 盗品ではないから大丈夫。

「構いませんよ」

 ゴルテオさんはうなずいて、一本一本に値段をつけていった。

 ファイアソードは一〇万グリル、アイスソードは一二万グリル、サイクロンソードは三〇万グリル、アタックソードはなんと四五万グリルだ。

 元は鉄の片手剣でEランク魔石と魔力ポーションがぶ飲みくらいしか経費はかかっていない。元手はファイアソードの半分の五万グリルもかかってないから、おいしい金策になるな。

「アタックソードが高いですね」

「ファイアソードとアイスソードは発動する確率が低いですから安くなっています。それに比べサイクロンソードは追加効果が常時発動しますから、やや高めですね。アタックソードは追加効果こそないですが、物理攻撃力値が非常に高いものですから、安定したダメージが期待できますので高額になります」

 以前見た雷鳴剣などは効果が複数ある。そういうことでかなり高くなっているらしい。

「自動修復の効果があればもっと高く買い取れるのですが、これらにはついていません」

 自動修復か……エンチャント・リジェネーションを付与すればつきそうだな。考えてみたら、エンチャント・ハード以外は一つしかエンチャントしてないな。次は二つ目をエンチャントしてみようかな。


 今日はゴルテオ商会で購入した鋼鉄製武器と鋼鉄製防具を机の上に並べ、これらの装備にエンチャントを施した。

 転生六十六日目から七十日目まで暇だったからエンチャントしまくった。魔力ポーションを飲みまくったおかげで、腹の調子が悪い。


アタックソード:物理攻撃力+五五 斬撃強化(微) 自動修復(微) 耐久値五七/五七 (鋼鉄の片手剣 + Eランク魔石 + エンチャント・ハード + エンチャント・アタック + エンチャント・リジェネーション)


アタックバスター:物理攻撃力+六九 斬撃強化(微) 自動修復(微) 耐久値六八/六八 (鋼鉄の両手剣 + Eランク魔石 + エンチャント・ハード + エンチャント・アタック + エンチャント・リジェネーション)


アタックランス:物理攻撃力+七一 刺突強化(微) 自動修復(微) 耐久値六五/六五 (鋼鉄のやり + Eランク魔石 + エンチャント・ハード + エンチャント・アタック + エンチャント・リジェネーション)


アタックアロー:物理攻撃力+四五 刺突強化(微) 耐久値三七/三七 (鉄の矢 + Eランク魔石 + エンチャント・ハード + エンチャント・アタック)


ディフェンスシールド:物理防御力+四〇 体力+一 火耐性(微) 自動修復(微) 耐久値六四/六四 (鋼鉄の大盾 + Eランク魔石 + エンチャント・ハード + エンチャント・ファイア + エンチャント・リジェネーション)


ディフェンスメイル:物理防御力+五〇 体力+一 氷耐性(微) 自動修復(微) 耐久値五七/五七 (鋼鉄のよろい + Eランク魔石 + エンチャント・ハード + エンチャント・アイス + エンチャント・リジェネーション)


ディフェンスプレート:物理防御力+三〇 俊敏+三 自動修復(微) 耐久値五四/五四 (鋼鉄の胸当て + Eランク魔石 + エンチャント・ハード + エンチャント・アクセル + エンチャント・リジェネーション)


 ミスリルの両手剣がかなり見劣りする能力に仕上がった。

 ゴルテオさんに聞いた話では、通常は職人やアイテム職人が魔剣などのマジックアイテムを製作するそうだ。

 俺の場合は買ってきた鋼鉄製装備にエンチャントを施している。特にエンチャント・ハードで下地を作るためか、能力に大きな差が出ている気がする。あくまでも気がするだけで根拠はない。

 製作工程が違うと、アイテムの能力に差が出る。当然だと思うけど、新鮮だ。

 エンチャント・ハードを二回施せば、さらに多くの効果をエンチャントできるかもと思いやってみたが、二回目のエンチャント・ハードは発動しなかった。

 熟練度が低いか、それとも同じエンチャントは二回できないかのどちらかだろう。

 また、革製品やローブのようなものに、俺のエンチャントはできなかった。エンチャント・ハードで耐久値が増えないどころか減ってしまうのだ。

 エンチャント・ハードは金属製品か牙や骨などの硬いものにしか効果がないようだ。

 そのためか、弓にはエンチャントができなかった。矢のほうはエンチャントできているが、耐久性の問題でエンチャント・リジェネーションはできなかった。

 ガンダルバンたちにこれらの武器と防具を装備してもらう。矢以外はどの装備にも自動修復の効果があり、通常の鋼鉄製品よりも大幅に物理攻撃力や物理防御力が上昇している。

 新装備に着替えてもらったが、元々鋼鉄装備だったから見た目はあまり変わってない。ちょっとだけ色が変化して、色味のないシルバーからやや黄みかかったシルバーになっている。

 予備を少し残して、ほとんどはゴルテオ商会に売った。なんかひと財産できた気がする。


 転生七十一日目にやっと公爵から呼び出しがあって、城に向かった。

 城内はかなりれいになっていたが、壁や天井の穴はさすがにふさがってない。

 公爵の執務室に入って挨拶し、この数日何をしていたのかと聞かれたから屋敷でのんびりしていたと答えた。

 エンチャントは一時間もあれば終わる。魔力ポーションを飲むのにも限界があるから、一時間で充分だ。あとはアンネリーセの膝枕で昼寝したり、アンネリーセの膝枕で本を読んだり、アンネリーセの膝枕で耳かきをしてもらったりしていた。すっごく有意義な時間だったよ。

「城内の穴はどうするのですか?」

「新しい城を建てることにした」

 改修できるらしいが、城はかなり古いものだから新しくするらしい。大きな城だから、どれだけの費用がかかるのだろうか? 俺が心配することではないが、ちょっと気になる。

「さて、フットシックル名誉男爵家にはいくつか話がある」

「いくつもですか?」

 要らないですよ。

「嫌な顔をするな」

「顔に出てました? それは失礼しました」

 公爵がため息をく。俺がため息を吐きたいんですけど。

「勲章は略式で授与することにした。フットシックル名誉男爵もそのほうがいいだろう」

「略式ですか?」

 文官がトレイを持ってきて、公爵の机の上に置いた。そこから勲章を手に取った公爵が俺にそれを差し出してくる。

 俺が受け取ったら、それで終わりらしい。いや違った。革袋も出てきた。前回の時ももらったけど、お金だね。前回より多いのは撃退と討伐の差ということらしい。

「これだけでいいのですか?」

「城内があの状態だ。今回は略式で渡す。そのほうの配下にも勲章を配っておいてくれ」

 こんな簡単でいいなら、授与式なんてやらなくてよかったのに。

「言っておくが、特例だからな。通常は盛大に行うものだぞ」

「あ、はい。そうですよね」

 公爵には俺の心の声が聞こえているようだ。俺なんかの考えなどお見通しっていうことだろう。

「次は褒美の件だ」

 はい? 今お金もらいましたよ。

「其方を男爵にする」

「え?」

「本当は子爵にしようと思ったが、其方は喜ばぬだろう。だが爵位をそのままにしておくのもしき前例になってしまうからな。名誉を取ることにした」

 要約すると、子爵は勘弁してやるが、名誉を取った男爵になれと言っているようだ。

「俸給は変わらぬし、領地もない。今までと変わるとすれば、爵位を子孫に譲れるようになったことだ。その程度のことは受け入れろ」

 小出しにして俺が断れないようにしている? 俺の性格をよく分かってらっしゃる。なんでこんなに知られているのだろうか?

「それからこれは頼みなのだがな」

「頼みですか?」

 なんか質問形ばかりだな、俺。

「当家の騎士と兵士を鍛えてやってほしいのだ」

「はい?」

「そうか、引き受けてくれるか」

「いえいえいえ、今のは了承じゃなくて聞き返したんですけど」

 勘違いするんじゃありませんよ!

「分かっている」

 くっ、遊ばれてる? 俺、おちょくられている?

「しかし公爵家にはバルカン様というつわものがいらっしゃるではないですか。私に兵を鍛えろと言わなくても、バルカン様に命じればよろしいのでは? 私もバルカン様のおかげで剣豪という珍しいジョブを得ましたよ?」

「フットシックル男爵がどういう理由で剣豪に転職できるようになったのかは不明だ。それにバルカンは騎士団全体を見なければならん」

 その割には俺を引きずっていって、訓練させたシゴいたよね。しかも毎日。あの一カ月ちょっとのことは忘れませんよ。トラウマとして。

「若い者たちをダンジョンに連れていってくれるだけでいいのだ」

「無理です」

 きっぱりお断り。ダンジョンに行って兵士を鍛えるということは、つまるところレベル上げだ。兵士たちは最低でもレベル一〇にはなっている。そういった兵士たちのレベルを上げるのは、四階層ということになる。

 ダンジョンムーヴを使わず四階層まで普通に歩いていくと、二日かそれ以上かかるだろう。早足でも一日半はかかる。それプラスレベル上げして帰ってくるだけで五日や六日はかかるだろう。そんなものにつき合ってられない。

 そもそも俺の場合は人に見せられないジョブやスキルが多いから、魔法契約した人以外とは一緒に行動したくないんだ。

「そう邪険にするな」

「邪険にはしてません。丁寧にお断りしているだけです」

「……どうしてもか?」

「はい。どうしてもです」

 大きな息を吐いた公爵は、分かったとひと言だけつぶやいた。

「フットシックル男爵に任せれば、兵士たちの質の底上げになったものを。本当に断るのか? 報酬は用意するぞ」

 俺がうんと言わないのを分かって言っているんでしょ。俺はジョブやスキルのことを知られるわけにはいかない。だからどれだけ報酬を積まれても、受けないからね。

「はい。お断りします」

 ちょっとでもすきを見せるとつけ込まれそうだし、隙を見せてなくてもつけ込んでくるからな、この人。だから言葉短く拒絶するのが吉だ。許容できるものとできないものがあるの、分かるかな。

 公爵はしつこく聞いてきたが、絶対にダメ。

「……次は宝珠の対価だな」

 そんなものもあったね。もうお腹一杯なんですけど。

「それこそ子爵になるつもりはないか?」

「ありません」

「そうキッパリ言うな」

 そう言うと知っていて聞いているでしょ。さっき言っていたじゃん。

「しかたがない……当家が所持しているマジックアイテムを譲る。どういうものがいいか?」

「公爵家所蔵のマジックアイテムですか!?

 これはラッキーだ。どんなお宝が出てくることやら。

「宝物庫にあるもので、家宝以外ならなんでも構わん」

 公爵はバサリッと紙の束を机の上に置いた。

「このリストの中から選べ」

 ではさっそく……わくわくするね。

 しかし多いな。どれだけ宝物庫にめ込んでいるんだ。てかさ、こんなの見せていいの? 俺が盗賊だったら、盗みに入っちゃうよ。やらないけど。

 お、良いものがあるぞ。俊敏を上げるマジックアイテムだ。こっちは魔力を増やすマジックアイテムか。さすがは公爵家の宝物庫に収められている品々だ。

「それは後からゆっくり読めばいい。次に移るぞ」

「これで最後じゃないのですか?」

 悪魔討伐の勲章と褒美、それから宝珠を譲渡する対価の話だけじゃないの? 次なんて要らないでしょ。

「王家がフットシックル男爵に褒美を与えると言ってきた」

「はい?」

「王家がフットシックル男爵に褒美を与えると言ってきた」

 いや、それは今聞いたよ。聞き返したんだけど、同じこと繰り返さなくていいですから。さっきからちょくちょくおちょくるよね~。

悪魔撃退の後に褒美を与えると言ってきたが、昨日は悪魔討伐に対して改めて褒美を与えると言ってきた」

「もしかして……」

「王都に赴く。拒否は認めん。私も向かうから、共に行くぞ」

 えぇぇ……。そんなの聞いてないよー。

「悪魔討伐というのは、それほどのことだ。王家だけでなく、他の貴族たちもフットシックル男爵に興味を持ったはずだ」

 うげー。そんな興味持たなくていいですから!

 王家とか貴族とかだけでも面倒なのに、王都にはあいつらがいるんだよなぁ。

 容姿が変わっているから俺のことは分からないと思うけど、あいつらの性格を考えると絡まれそうで面倒臭い。

 うわさではかなり落ちぶれているようだが、それでも勇者という肩書はそれなりの影響力を持つらしいから関わり合いになりたくないんだよ。

 ウザ絡みされる未来しか思い浮かばない。


 ゆううつな心を晴らすために、マジックアイテムを選ぼう!

 俺は知力が上がるマジックアイテムを選んだ。

 ザイゲンと警護の騎士たちに守られて、そのネックレスがやってきたときはすごく嬉しかった。

「宝珠の価値からすると、そのネックレスはいささか見劣りする。これはその差額だ」

 ザイゲンが革袋を差し出してきた。このネックレスもかなり良いものだと思うけど、宝珠はそれ以上ということらしい。

 こんなにもらっていいの? 凄い額だよ?

 まあいいか。モンダルクに渡しておこう。

 それにしてもこのネックレスはアンネリーセに合いそうだ。綺麗なアンネリーセをもっと美しくしてくれると思う。これを選んでよかった。

 魔力+一五〇、知力+一五、精神力+一〇、魔法攻撃力+三〇、魔法防御力+二〇の効果を持つ魔女の首飾り。これはアンネリーセ用にと選んだものだ。


「四日後に王都へつ。忘れずにな」

 あらザイゲンさん、まだいたの。

「いやですねー。忘れるわけないじゃないですか」

 当日腹痛になるかも。発熱するかも。病気になるかも。

「体調不良でも良い医者がいる。何も心配することはないから、連れてきてくれ」

 ザイゲンめ、ガンダルバンに念押ししている。しかも俺の心を読んでいるよ。怖っ。

 公爵もザイゲンも怖っ!