テーブルの上には、メロン、リンゴ、シャインマスカット、巨峰、ナシ、モモに似た果物がドーンッとかごに盛られている。この世界の名前があるけど、俺としてはこの名前のほうがしっくりくる。

 これらの果実は、種を購入してローズに育ててもらったものだ。小麦やトウモロコシのような穀物からしょうなどの香辛料、そしてここにあるような果物まで植物ならなんでも育てられるのがローズだ。その分、俺の魔力が吸い取られるわけだが、大量に育てなければ大した消費量じゃない。

 ローズのおかげで急速に食事事情が良くなっていく。種や苗などがあれば、いくらでも育てられるのがいいよね。

 俺は好き嫌いがないから元々食事に大きな不満はなかったけど、それでも食事が豊かになるのはうれしい。

 それと「食べられる」と「しい」は別なんだよね。決してくはないけど、この世界の料理って味気ないものが多いんだ。バーガンだって日本のしょうに比べれば、数段味が落ちるからね。

 米が手に入ったら、カレーライスが食いたいな。ナンも悪くないけど、やっぱりカレーはライスだよね。この世界に米はあるのだろうか? あったらいいなー。

「こんな真冬にこれだけの果実を目にするとは……」

 俺の後ろでたたずむモンダルクのつぶやきが聞こえてくる。その横で果物を切り分けるモンダルクの妻のメルリスも驚きを隠しきれていない。

 七階層のボスを倒してから帰ってきたんだが、今日は色々話し合うことがある。食事を全員でり、食後のデザートタイム。ここからが話し合いの時間だ。

 俺がお誕生日席、その左側にアンネリーセとロザリナ、右側にガンダルバン、ジョジョク、リン、バース、ソリディア。

 ローズは俺の周囲を楽しそうに飛んでいる。今は俺にしか見えないようだ。

 モンダルクとメルリスが果物を取り分けて、全員に配り終わる。

 八分の一にカットされ、さらに五つに切り分けられたメロンの一切れにフォークを刺して口に持っていく。みずみずしくて甘くてとても美味しい。これは日本でも高級品の部類のメロンだ。

 俺が食べたのを確認してから皆も食べ始める。美味しいだろ? 俺は果物全般が好きだけど、中でもメロンが大好きだ。この世界でメロンが食べられるとは思っていなかったから、感謝感激だよ。

「今日はご苦労様。皆にがなくてよかった」

 皆の顔がほころぶ。

「こうして話し合いの場を持った理由は分かっていると思う」

「魔導書のことですな」

 ガンダルバンが真面目くさった顔になった。

「そう、魔導書だ。一般の探索者だと、リーダーか一番活躍した人が使うらしい。それで間違いないか?」

「はい。その通りです」

 ガンダルバンがうなずき、皆も頷いた。

 モモを口に放り込む。これも瑞々しく甘い。モモは食べた後に甘い香りが鼻に抜けるのが好きだ。

「だけど、それでは戦力向上にならない。俺は全体の戦力向上を考えて、魔導書を使ってもらおうと思っている」

「我らはご当主様に仕えております。探索者のルールに当てめるにしても、リーダーはご当主様であり、一番活躍しているのもご当主様です。我らはご当主様の決定に従います」

 ガンダルバンは堅いね。そういうの嫌いじゃないけど、自己主張はしてほしい。

 シャインマスカットも美味しい。スッキリとした甘さがいい。

「今回は命令するつもりはない。意見が聞けたらと思っている」

 俺の案は固まっているけど、皆の考えも聞きたいんだ。

 巨峰の濃厚な甘さもいい。毎日食べたら飽きるけど、それでも毎日食べたいくらいの美味しさだ。

 俺とアンネリーセはすでに魔導書を使っているから除外する。魔導書は二回使っても意味がないらしいからだ。ロザリナもバトルマスターが気に入っているから除外。

 ガンダルバンが魔導書を使ったら明らかに戦力低下になるし、タンクがいなくなるのは戦力ダウン以上にダメージが大きい。

 ジョブがソードマスターとそうせいに進化したジョジョクとリンに魔導書を使わせるのか? そんなわけない。せっかく上位ジョブに進化している二人をわざわざ魔法使いにするのは戦力ダウンだ。彼らが望むなら考えるが、そうじゃなければ論外だ。

「ガンダルバン、ジョジョク、リンの三人は除外する」

 名指しした三人が頷いた。

「せっかく上位ジョブに進化したのに、わざわざ魔法使いになる必要はないだろう」

 上位ジョブに進化したのに、今までの戦い方を変えてまで魔法使いになりたいとは思ってないはずだ。

 残るは剣士のバースとやりのソリディアだ。この二人のどちらかに魔導書を使わせるのが最も戦力向上につながる。

 では、どちらがより戦力向上になるか。それは二人の能力値を比較すれば答えが出る。

 見るべき能力は知力と精神力だ。この二つの能力が少しでも高いほうが魔法使いに向いている。

 魔力や魔法攻撃力、魔法防御力は、知力と精神力の二つの能力に依存すると俺は考えている。実際、知力と精神力が高いとこの三つの能力が高い傾向にある。

 こういったことを踏まえて考えると、対象はソリディアになる。

 リンゴの酸味がいい感じだ。甘さを引き出す酸味だね。

「残るは二人だが、俺の意見を言う前に皆の意見を聞きたい。もちろん、今除外した三人で魔法使いになりたいという人がいても構わない。ジョジョクはどうだ?」

 俺に意見を聞かれたジョジョクが目を見開く。なんで俺? とでも言いたいようだ。

 ナシのシャキシャキ感は食感が楽しめる。それにこれも甘くて美味しい。

「俺はご当主様に従うのみ。バースとソリディアのどちらでも、不満はございません」

 意見を言っているようで言ってない。誰かに仕えるということは、こういうことなのか?

 一周回ったからメロンに返る。いよなー。ウリ科特有のちょっといがいがする甘さがいいんだよ。

「リンはどうだ?」

 俺に名指しされて肩を震わせる。俺そんなに怖くないよな? そういう反応は傷つくんだけど。

 もう一口メロンをほおる。この甘さは本当に癖になる。

「以前は魔法使いになりたかったけど、今はそんなことないです」

 自分は要らないという意思表示かな? 二人のどちらがいいとか……言えないか。角が立ってしまうもんな。

 今度スイカの種を探してみよう。ゴルテオさんに頼めば、手に入れてくれるかな。米のことと一緒に聞いておこう。

 同列のジョジョクとリンに聞いたのがいけなかった。

「ガンダルバンは?」

「ご当主様の判断に従います」

 うん、聞くまでもなかった。このような返答になると分かっていたじゃないか。

 モモを食べる。皆も食べなよ。え、俺にいつ話を振られるか分からないから食べられない? そんなことは気にしなくていいんだぞ。

「それでは、バースはどうだ?」

「ジョジョクとリンのジョブが進化し、俺のジョブは進化しませんでした。この差は何かと考えていました」

「結論は出たのか?」

「いえ、今でも考えています」

 ……で、魔法使いになりたいの? これ突っ込んで聞いていいのかな? とりあえずソリディアの意見を聞こうか。

「ソリディアは?」

「正直に言いますと、魔法使いになりたいという気持ちはあります。ですが、それだと逃げたように思えてしまうのです」

「魔法使いになったらレベルは一になるんだ。逃げることにはならないと、俺は思うぞ」

「……ご当主様にそう言っていただけるのは、とてもありがたいことです」

 ソリディアは魔法使いになりたい。そういうことでいいかな。

 シャインマスカットを頬張る。シャインマスカットをつぶしてサイダーと一緒に飲んだら美味しいんだよな。この世界にサイダーはないだろうな……。

「魔導書はソリディアに使ってもらおうと思うけど、バースはそれでいいか?」

 バースは魔法使いになりたいと言わなかったが、ソリディアは言った。それにステータスもソリディアのほうが魔法使いに向いている。

「はい。ご当主様に従います」

 アイテムボックスから魔導書を取り出して、ガンダルバン経由でソリディアに。

 ソリディアは魔導書を受け取って目がうるうる。そんなに大事そうに抱きかかえていないで、使いなよ。

「ソリディア、使ってくれ」

「は、はい。ありがとうございます」

 俺に促されて魔導書を開いたソリディア。魔導文字が浮かび上がってソリディアの両の瞳に飛び込んでいった。

 ソリディアを詳細鑑定する。よし、転職可能ジョブが増えた……が、なんだこのジョブは? すごいな、格好いいじゃないか、うらやましいぜ。

「ソリディアとバースは、明日の朝一で神殿に行こう」

「俺もですか?」

 実を言うと、魔導書をソリディア推しした理由は、魔法適性の他にもう一つある。それはバースの転職可能ジョブだ。

 レベル二八の時に見たけど、その時にそのジョブはなかった。でも今はある。俺は平凡な剣士よりもそっちのほうがいいと思うが、バースはどう思うだろうか?

「そう、バースもだ。俺のユニークスキルのことは知っているな」

「はい。存じております」

 兵士になるときに守秘義務の書類にサインしてもらったから、ユニークスキルのことを話している。

「バースも転職できるジョブがあるんだよ」

「それは……どのようなジョブですか?」

「知りたい?」

「教えていただけるのであれば、教えてほしいです」

「明日の楽しみが薄れるぞ、いいのか?」

「……構いません」

 つまんない奴だな。でもその気持ちは分かる。

「バースが転職可能なジョブは、冒険者だ」

 冒険者は冒険する気持ちを持った者が転職可能になる。バースは冒険心を持っていたようだ。

 顧みると、バースは分岐があると進む方向に時々意見を言っていた。そういったことが良かったのかな。

「その冒険者というジョブは、戦闘向きなのでしょうか?」

「戦闘に向かないジョブのように思えるが、全員が戦闘に向かなくてもいいと俺は思う。便利そうなジョブだから、縁の下の力持ちとして活躍できると思うぞ」

 少なくとも転職直後の冒険者に、戦闘スキルはない。成長したら分からんけど。

「ご当主様の探索者のようなジョブでしょうか?」

「ジョブ名が違う以上は、何かしらの違いはあるだろう。最初に覚えるスキルは移動ルート、モンスター図鑑、わな、危機感知だ」

 スキル・移動ルートは目的地までの最短ルートを教えてくれるらしい。これだけでもそれなりに便利だけど、熟練度が上がったらもっと便利になるかもだ。

 スキル・モンスター図鑑は、モンスターの種族名と自分のレベルと比べた際の強さの指標を知らせてくれるものだ。これは詳細鑑定がある俺がいると下位互換もいいところだけど、鑑定系スキル持ちは少ないからいいスキルだと思う。

 スキル・罠は暗殺者のスキルと同じだし、スキル・危機感知も探索者のスキルと同じだ。

 総じて便利系スキルが増えていくジョブだと思う。そもそも冒険を前提としたジョブだから、便利なものが多いはずだ。

「………」

 バースが考え込んだ。今のまま剣士を続ければ、多少は戦闘の役に立つ。だけど冒険者では戦闘の役に立つか分からない。そこら辺が引っかかっているのかな。

 でもさ、これだけそうそうたるジョブのメンバーの中で、剣士はかなり見劣りするよ。剣士では一芸に秀でることはできそうにないけど、冒険者ならそれができる。そういう人材がいたほうが俺も嬉しいんだけどな。

 それにしても意外だった。もっと飛びつくかと思ったんだけど。こういうのは、その人その人で価値観が違うから誰もが飛びつくわけではないのかな。

「あの……私のジョブは……」

 ソリディアがおずおずと聞いてきた。キツネ耳がピコピコ。それ触っていいかな?

「ご主人様?」

 アンネリーセがはんだ。怖いよ、それめて!

「ご、ゴホンッ。知りたいの?」

「できれば……お教えください」

「ソリディアは呪術士だよ。しかもネクロマンサーだ」

「ネクロ……マンサー……?

 ソリディアがぼうぜんとする。そんなに嬉しいか?

 ネクロマンサーはしかばねを使役する呪術士だ。スケルトンやグールなどの屍を操るんだ。格好いいと思わない? 俺、こういうのに憧れちゃうんだけど。エンチャンターもいいけど、ネクロマンサーのほうがもっといい。できるものなら交換してほしいくらいだ。

「ご主人様。ネクロマンサーというのは、どういったジョブなのでしょうか?」

「え、ネクロマンサーを知らない?」

「残念ながら、ネクロマンサーというジョブのことは、聞いたことがありません」

 なんでも知っているアンネリーセが知らないの?

 ガンダルバンたちの顔を見ても、首を横に振った。この世界ではネクロマンサーは知られていないようだ。

「ネクロマンサーというのは、屍を操る呪術士だな」

「「「屍っ!?」」」

 皆が驚いている。

「そ、そんなジョブがあるのですか?」

「ソリディアが転職できるんだから、あるんじゃないのか? ガンダルバン」

「そ、そうですが……」

 モゴモゴと声が小さくなっていく。

「ご主人様のエンチャンターも珍しいですが、ソリディアさんのネクロマンサーはもっと珍しいのではないでしょうか?」

 アンネリーセが言うように、ネクロマンサーは百万人に一人の珍しいジョブと詳細鑑定に書いてあった。エンチャンターが一万人に一人でかなり珍しいジョブだったから、その百倍も珍しいジョブだ。

「ネクロマンサーは呪術士だから触媒を用意しないと呪術が使えないらしい。これは普通の呪術士と同じだけど、ネクロマンサーは普通の呪術士と違って属性の呪術は使えない。その代わり屍を召喚して戦わせるようだ」

 ソリディアは胸の前で手を結んでこうこつとした表情……ん、違う? もしかして不安の表情? いや、嬉しいんだろうな。嬉しいよな。俺が彼女の立場なら小躍りする自信があるもん。

「まずは転職して、触媒を作ることから始めよう。触媒はネクロマンサーのスキルで作れるらしいから」

「……はい。ありがとうございます」

 ソリディアは目を伏せた。転職できるのがネクロマンサーで嬉しさをみしめているんだろう。

 対してバースはまだ腕を組んで考え込んでいる。男なら気合で転職だ! とは言えない。一生にかかわることだから、よく考えればいい。

 さて、二人のことはこれでいいだろう。あとは……。

「それからロザリナに提案なんだけど」

「はいなのです」

「うちの兵士にならないか?」

「兵士なのですか?」

 首をかしげて可愛かわいいじゃないか。

「ロザリナは支配奴隷じゃなく任意奴隷だから、すぐに解放できる」

 支配奴隷だと名誉男爵になった俺でも三級までしか解放できないけど、任意奴隷はいわゆる借金奴隷だから貴族でなくても解放は可能だ。

「ロザリナが兵士になってくれれば、兵士の数もそろうから助かるんだよ」

 ロザリナを奴隷から解放しても、俺の元から離れないだろう。多分……。だから奴隷よりも兵士のほうが彼女の身分が回復するどころか向上するからいいと思ったんだ。

「よく分からないのです。ですからご主人様にお任せするのです」

 ロザリナは相変わらずだな。

「それじゃあ、奴隷から解放してこれからは兵士として働いてもらうということでいいかな」

「はいなのです」

 分かってないと思うけど、良い笑顔だ。

「ガンダルバンはロザリナに兵士の心構えなどを教えてやってくれ」

「承知しました」

 これで貴族としての責任は果たせる。あとはアンネリーセが解放されたら、万事めでたしめでたしだ。

「ご当主様。一つよろしいですか?」

「ん、何?」

 ガンダルバンが真面目くさった顔だ。いつもだけど。

「ジョジョクはともかく、リンのジョブについては公爵閣下に報告しておいたほうがいいでしょう」

「リンのジョブって槍聖のこと?」

「はい。聖職は特別な意味を持ちます。報告しておいたほうが後々面倒にならずによろしいかと思います」

「そうなんだ。分かった。落ちついたら報告しよう」

 聖がつくジョブのことを聖職と言うらしい。神官のほうがよっぽど聖職じゃないかと思うのは俺だけかな?


 転生六十二日目。今日はソリディアとバースと共に、朝早くから神殿に向かった。もちろん転職するためだ。

 バースは一晩考えて、冒険者に転職することにしたらしい。戦闘職を諦める踏ん切りをつけたのは明け方のようだ。目の下にクマを作っていた。

「ご当主様。ネクロマンサーに転職できました」

 転職を終えたソリディアの嬉しそうな顔がとても印象的だ。

「おめでとう。レベルが一になってしまったけど、がんばって上げような」

「はい。よろしくお願いします」

 バースが出てきた。すっきりした顔をしている。

「冒険者に転職しました」

「うん。これからもよろしくな」

「こちらこそよろしくお願いします」

 相変わらず神殿はぼったくり価格だ。二人の転職に四万グリルも払った。それくらい払う財力はあるが、もう少し安くしないと一般人にはハードルが高い。


 次はゴルテオさんの店だ。行ってみるとゴルテオさんは不在だったから、副店長にロザリナの解放を頼んだ。

「解放が完了しました。おめでとう、ロザリナ。いえ、ロザリナ様」

「えへへへなのです」

 ロザリナの解放が終わり、彼女の頭をでてやる。

「これからも頼むぞ、ロザリナ」

「はいなのです」

 ついでと言ってはあれだけど、副店長さんに迷宮大牛角で剣を造ってもらいたいと頼んだ。最初は自分の剣を造るつもりだったけど、ガンダルバンのものにした。

 こういうので家臣の忠誠心を買うざかしい考えをしている自覚はある。

「職人に直接頼まれたほうが、お値打ちですよ」

「職人の知り合いがいないから、ゴルテオ商会にお願いすることにしたのです。それにゴルテオ商会を通しておいたほうが、安心できます」

 ゴルテオ商会ならしっかりとした職人と繋がりがあるだろうし、職人のほうも大商会のゴルテオ商会の依頼に対していい加減な仕事はしないだろう。

 俺はこんな容姿をしているから、多くの人にめられる。そういう面倒なことも含めて、全てゴルテオ商会に丸投げすればいい。今持っているお金で足りないなら、もっと稼ぐだけだ。

「そういうことでしたら、お引き受けいたします」

「ありがとうございます」

 どういった剣がいいとか、どのような意匠にするとか細かいことはガンダルバンが自分で伝えたほうがいい。良いものができればいいな。

 ガンダルバンが剣の話をしている間に、俺は店の中を見て回る。

 主に食材を探して……お、これって香辛料じゃないか? これはクミン……こっちはコリアンダー! カルダモン、シナモン、レッドペッパー、ターメリック……。

 これは……これはあれなんだな! ローズに栽培してもらえば、枯れることなくこれらのスパイスが採り放題!

「ふふふ。ふはははは! これはいい! これであれが再現できる!」

「どうしたのですか、ご主人様?」

 おっといけない。興奮してしまった。アンネリーセに変な奴と思われてしまっただろうか?

「な、なんでもないぞ」

「……また妙なことを考えているのではないですよね?」

「考えてない、考えてない! 俺はいたって真面目にだな……」

「真面目に、なんですか?」

 そのジト目、止めてもらえますかね。心に視線がグサリと刺さるんですよ。


 さて、副店長にあのことを聞いてみようか。

「米とスイカですか? はて……聞いたことがありませんね……」

 首を傾げる。

「スイカは緑色に黒のしまがある大きめの果物です」

「あぁ、もしかしたらウオメロでしょうか?」

 ウォーターメロンだからウオメロ? まあ名前のことはどうでもいいや。

「それの種はありますか?」

「あれは珍しい果物でして、残念ながら種は扱っておりません」

 これだけの店にも置いてないほどか。残念だが、しばらくはスイカを食べられそうにないな。

「ですが、お時間をいただければ取り寄せることは可能です」

「本当ですか!?

 捨てる神あれば拾う神ありだな! 待つから取り寄せてください!

「時間はかかってもいいので、その種を取り寄せてください」

「承知しました」

 スイカの目途は立った! あとは米だな。

「米はフラワーのようなものだけど、水を張った畑で作るんです」

 水田が通じるか分からないから噛み砕いて説明。ちなみにフラワーというのは、この世界で流通している小麦に似た穀物。フラワーの粉にググルトの粉を混ぜたものがパンになる。

 日本ではグルテンの含有量が異なることで薄力粉とか強力粉と言っていたけど、異世界の小麦も色々な粉があるはずだ。産地による特徴も違うだろう。そういったことで米も種類が違う可能性は十分にある。

「水を張った畑で……フラワーに似た……もしかしてライスのことですか?」

 え、ライス!? そのままかよ!

「そう、それです。多分」

「ライスは水が豊富な場所で作られています。フラワーよりも作付面積当たりの収穫量が多いことから、家畜の餌にしています」

 なんともったいないことを……。米を作るためには八十八の手間暇がかかって……といってもこの世界では違うのかな。

「その米は店に置いていますか?」

「はい。家畜用の餌ですから、裏の倉庫にございます」

 倉庫に連れていってもらい、ライスを確認する。玄米のように茶色だけど、米だと思う。もみがらを外さないといけないが、もちろん買ったよ。

 脱穀……いやだっだったか? どうやるんだっけ? まあ、なんとかなるだろ。

 ライスが十キロほど入った袋を十袋購入した。家畜の餌だから山ほどあった。嬉しい光景だったよ。食べて美味しかったら、また買いに来よう。


 屋敷に帰るとすぐにソリディアが触媒の製作に入った。これはスキルでできるので、材料さえあれば難しくないらしい。

 材料は主に魔石になる。魔石は屋敷の魔道具でも使うからいくつか持っている。

 触媒を作るところを見せてもらったが、まるでゲームのような光景だった。

 魔石をテーブルの上に置いて、それに両手をかざしてスキル・触媒作成を発動させると魔石が発光して触媒ができる。

 ガーゴイルからドロップするFランク魔石で、十個の触媒が作れる。今はスケルトン召喚用の触媒しか作れないが、スキルの熟練度が上がったら別の触媒も作れるだろう。それにしても不思議でゲーム的な光景だった。


 その後はガンダルバンの訓練を受けるロザリナを眺めつつ、米の籾殻を取っている。乱暴だけど、麻袋に少しの米を入れて平らな石にたたきつける。バッスンッバッスンッとやってみたら、意外と取れてきた。もう少し続けたら、おおむね籾殻が取れた。

 今度は小型のたるの中に玄米を入れて、太い棒で突っつく。精米だ。スットンッスットンッとやってみたら、こめぬかのようなものが出てきたから多分精米できているんだと思う。

 米糠を取り除いた米を見ると、まだ茶色い。真っ白な米にするにはまだまだ精米する必要があるようだ。もっとスットンッスットンッして、かなり白くなった。結構な労力だぞこれ。

 定期的に米を食べるなら、精米機を作らないといけないな。まだこの米が美味しいか分からないので、今は作らないけどさ。


 屋敷のキッチンは魔導コンロがあって普段は料理はそこでしているが、今日は庭に石を積んだかまどを作って鍋で米を炊く。

「ふー、ふー」

 火の管理が大変だ。せっかく火をおこしたからバーベキューをしようと思い、料理人のゾッパに頼んで野菜と肉を適当な大きさに切って串に刺してもらった。もちろん池イカも丸ごと串に刺してもらい、バーガンで味付けしている。

 それから複数の香辛料を調合してカレーを作った。なんだかキャンプみたいで楽しい。

 香辛料は数十種類あって、今回は十種類くらいを調合している。細かく切ったトマトを加えて煮込んでいくと、複数の香辛料が複雑に絡み合った良い匂いが立ち上る。カレーの匂いだ!

 前世でスパイスからカレーを作ったことがあるが、あの時はかなり苦労した。今はその時の苦労が役に立っていてくれて助かっている。

 迷宮牛の肉を細かく切って、カレーの中に投入。屋敷に移ってからは、ネズミ肉は食べてない。不味くはないと思うけど、なんとなく心が拒否するんだ。

「ご主人様。これはなんでしょうか? 焦げないように混ぜていますが、食欲を誘うとてもいい匂いがします」

「とても美味しいものだよ。カレーっていうんだ」

「カレーですか。とても楽しみです」

 カレーをかき混ぜるのはアンネリーセに頼んでいる。水を使わずトマトの水分だけで煮込んでいるから、焦がさないように気をつけてもらっている。

 このトマトもローズに育ててもらった。ローズの育てた果物や野菜は美味いんだよね。

「いい匂いだ」

「独特の匂いですが、食欲を刺激しますね」

「米が進むんだよ、これが」

「米というのは、ライスのことですね」

「そうそう。俺の知っている米───ライスに似ているからちょっと期待しているんだ」

 先ほどから米を炊いている鍋のふたがパカパカしているから、火から下ろして蒸らす。美味しくなーれと、心の中でまじないのように繰り返す。

 米を蒸らしている間に、串を焼き始める。池イカに塗ったバーガンが香ばしい匂いを漂わせ、その横で肉串から肉汁が火に落ちてプシュッと音を立てる。いい音だ。

 モンダルクたちが庭にテーブルを設置してくれた。

 今日は兵士も使用人も関係なく、カレーの味見会だ。カレーのほうは匂いを嗅ぐ限りではいい感じにできていると思う。水分が少ないキーマカレーに近いものだ。

 味見をしてみたが、うんカレー。米がダメでもパンでも食べられそう! テンション上がる! 米が美味しいことを祈る!

 さて、その米だがそろそろいいだろう。

 蓋を開けて立ち上る甘い香り。ここまでは合格だ。

 米が立っている。これもOK。

 しゃもじ(自作)で天地を返す。おこげの茶色が美味しそう。

 一番の問題は味だ……。ちょっとパサつくけど、食べられないほどではない。百点満点中四十五点といったところか。ギリ合格かな?

 カレーとご飯を一緒に食べてみる。あ、意外と合う。水分が少ないカレーだけど、米をコーティングするくらいの水分はある。それがいこと絡み合って、美味しい。

「アンネリーセは米を皿の半分くらい盛り付けてくれるか」

「はい」

 俺はカレーを米の横によそう。その皿をモンダルク一家が配膳してくれた。

「俺の国の料理だ。一度食べてみてくれ」

「これはライスですか?」

 ガンダルバンが白い米を不思議そうに見ている。

「俺の国ではライスを炊いてから蒸らして、美味しく食べるんだ。ただ手に入れたライスが俺の国のものではないから少し味は落ちるようだ。でも美味しいと思うぞ」

 俺がスプーンでカレーと米をすくい口に運ぶのを見てから、皆が同じようにカレーライスを食べた。

「「「っ!?」」」

 全員が目を開ける。

「美味しいだろ?」

「「「はい!」」」

 ガンダルバンと兵士たちがガツガツと食べる。

「なんだこれ、めちゃくちゃ美味いぞ」

「美味すぎてスプーンが止まらないぞ」

「こんなの食べたことないわ」

「辛いけど、癖になる美味しさだわ」

 ジョジョク、バース、リン、ソリディアが食べながらしゃべる。行儀が悪いから、口の中のものを飲み込んでから喋ろうな。

「口の中で暴れますが、これがまた美味しい。見た目はアレですが、素晴らしいものですな」

 アレというのは、ウ●コのことか? それを言ったら、次のカレーは抜きにするからな、ガンダルバン。

「ごしゅじんしゃま、オイシイなのでしゅ!」

 まるでリスのようにほおぶくろを膨らますのはロザリナ。泣かなくていいんだぞ。そんなに美味しいんだな。

「食べても食べても食欲を誘います。こんな料理があったのですね」

「この辺りの料理も美味しいが、俺の国の料理も美味しいだろ?」

「はい。とても美味しいです」

 アンネリーセは一回一回口に運ぶ量は少ないが、本当に美味しそうに食べてくれる。

「これはな味ですな。複数の香辛料を調合するとこのような複雑怪奇な味になるのですね」

 モンダルクが不思議そうにカレーを眺めている。食えよ。

「美味しいだす。作り方は見ていただす。これからこのカレーという料理をメニューに入れてもいいだすか?」

「ああ、いいぞ。そうだ、毎週光の曜日の夜はカレーにしてくれ」

 一週間は六日で、火、水、風、土、光、闇の曜日がある。

 たしか海上自衛隊は一週間に一回カレーの日があったはずだ。それをマネて一週間に一回はカレーの日にしよう。他の曜日でもいいけど、光の曜日が金曜日とか土曜日のような扱いだから、光でいいかと思った。

 この日以降、毎週光の曜日はカレーの日になった。ついでに俺のジョブ・料理人のレベルが二に上がった。


 バーベキューが終わり自室で自分のジョブとスキルについて考えていると、モンダルクが来客を告げた。

「ローク隊長が?」

 応接室に通しておくように指示し、アンネリーセに手伝ってもらい華美ではない貴族用の服に着替える。数着作った貴族服の中でも一番地味なものだ。あくまでも持っている貴族服の中ではだけどね。

 俺としては着飾るよりも質実剛健であればいいと思っているんだけど、モンダルクが貴族の世界はそれだけではいけないと言っていたからめっちゃ派手な貴族服も持っている。着ることはないと思うけど……。

「お待たせして申しわけないですね」

「いえいえ。先触れもなくお伺いしたのは私のほうですから」

 ロークは父親似の極悪な顔に笑みを浮かべた。

「今日お伺いしたのは、公爵閣下の決定をお伝えするためです」

「決定……?」

 また何かやれと言っているのか? あの人、結構人使い荒いよね。

「実を言いますと、フットシックル名誉男爵の家臣の方々にも勲章を与えることになりました。トーイ殿と共に悪魔を退けた功績に対するものです」

 なんだそんなことか。決定と言うから身構えてしまったじゃないか。

「それはありがたいことです」

 俺のことじゃないから、素直に受けておいた。ガンダルバンたちの名誉になることだからね。

「しかし、急な話ですね」

「トーイ殿と共に彼らも悪魔と戦いましたから。そのことが考慮されたのでしょう」

 そこにモンダルクが入ってきた。紙を渡されたから読んでみると、ロークからの贈り物のリストだった。なんで贈り物?

「良いものを頂戴したようですね。お礼を言います」

「いえいえ。トーイ殿のおかげで私は昇進できました。感謝するのはこちらのほうです」

「昇進ですか?」

「はい。首斬りリネンサの捜索及び悪魔撃退に貢献したということで、大隊長に昇進することになりました。悪魔の撃退に関しては何もしてないので心苦しいですが、トーイ殿をあまり目立たせないための処置と公爵閣下がおっしゃいましたのでお受けすることにしました」

 公爵も考えてくれているんだな。本当は俺の勲章なんていらないけど、一般的に考えれば叙爵や叙勲は褒美だもんな。

「それはおめでとうございます」

 首斬りリネンサの捜索でも積極的に指示に従ってくれたし、首斬りリネンサが悪魔の姿になった時も被害が最小になるように避難誘導して活躍したんだから誇っていいと俺は思うよ。

 ロークは三十数人を率いる中隊長から、二百人ちょっとを率いる大隊長になった。顔は怖いけど人柄は信用できそうな彼が出世するのは、俺にとってもプラスだ。何かあった時に頼らせてもらおう。将来頼るために、昇進のお祝いを贈っておこう。何がいいかな、ガンダルバンやモンダルクに相談して決めようと思う。


 転生六十三日目は七階層のボス部屋周回だ。

 バースが冒険者、ソリディアがネクロマンサーに転職したからそれぞれレベル一になっている。そこら辺を考えて、安全に狩れるように皆を配置。

 ガンダルバンが敵対心を引き受けてくれるから、二人に攻撃が行くことは滅多にない。だが、滅多にないだけで絶対ではない。

「弓はどうだ?」

 剣士の時は金属よろいだったが、冒険者に転職して革鎧を着込んだバースに武器の使い勝手を確認。

「命中率はまだ低いですが、なんとか」

 バースの武器は弓になっている。昨日今日使い始めて百発百中なわけがない。味方に当てなければそれでいい。

 バースの武器が剣だとモンスターに近くて危ないから、弓に替えたわけじゃない。

 ジョブ・冒険者は剣が扱えないらしいのだ。剣が重く感じられるようになったから、やりおのなど色々な武器を試した。そしたらむち、弓、短剣がしっくりきたわけ。

 冒険者で鞭を持ってしまうと、映画の主人公ぽい。あれは考古学者だっけ? まあいい、とりあえず鞭は選んでない。

 バースは短剣を腰に差して、基本は弓で攻撃させることにした。うちには弓を使う兵士がいないから丁度よかったよ。もちろん矢の代金は俺が出している。矢が高いといっても、石のやじりだと百本で六〇〇〇グリル、鉄の鏃だと百本で一万五〇〇〇グリル、グレイラットのレアドロップの鋭い前歯の矢だと十本で六〇〇〇グリルで買える。

 鋭い前歯の矢はちょっとお高めだけど、そこまで気にする額じゃない。最初は石の鏃の矢を百本、鉄の鏃の矢を二百本、鋭い前歯の矢を二十本購入しておいた。

 この七階層のボスであるライトリザードから得られるアイテムの換金額を考えれば、矢を消費しても十分に元が取れる金額だ。

「ソリディアも準備はいいか?」

「いつでも大丈夫です」

 ソリディアの触媒も俺がお金を出している。部下が使う武器や防具は、あるじである俺が用意することにしている。触媒は呪術士にとって武器と同じだからね。

「今回はジョブが今までと違う人が四人もいるから、頼んだぞガンダルバン」

「お任せください」

「よし、行こうか」

 ボス部屋の扉をジョジョクとバースが開き、全員が入っていく。

 今日の俺はメインジョブが剣豪でサブジョブは両手剣の英雄にしている。剣豪はオープンにしているからレベルを上げておいて問題ないし、両手剣の英雄にはスキル・指揮がある。指揮でガンダルバンたちの能力が二十パーセントも底上げされるから、レベル一が二人もいる今回には丁度いいスキルだ。

「召喚します」

 ソリディアは腰のポーチから、触媒を取り出した。

 今のソリディアはネクロマンサー・レベル一だから、スケルトンしか召喚できない。取り出した触媒は、手のひらに乗るくらいのスケルトンの模型。ポーチに入れていてよく壊れないものだ。

「サモン、スケルトン」

 触媒を床に落とすとパリンッと割れ、光の粒子が床に魔法陣を描いていく。やっぱり格好いいな。魔法陣の中心からスケルトンの頭が現れ、徐々に上昇して全身があらわになると魔法陣が消えた。

 スケルトンは伸長百八十センチくらいで、右手に長さ八十センチくらいのこんぼうを持っている。棍棒は標準装備らしい。

「いいなぁ、俺もネクロマンサーがよかったよ」

「しつこいですよ、ご主人様。それに今は戦いに集中してください」

「はーい」

 アンネリーセにたしなめられてしまった。彼女はしっかりと意見を言ってくれるから助かっている。

 アンネリーセの言葉で俺は気を引き締めて、ミスリルの両手剣をアイテムボックスから取り出した。

「バースの弓とアンネリーセの魔法で開戦だ」

 俺の指示でバースが弓に石の鏃の矢をつがえ、弓を引き絞った。バースが狙いを定める。ちょっと腕がプルプルしている。笑ってはいけないが、吹き出しそうになる。

 ボス部屋の真ん中辺りで動かないライトリザードに矢が飛んでいく。山なりの矢はライトリザードのお尻付近に当たったが、はじかれて刺さらなかった。冒険者・レベル一の物理攻撃力値ではこんなものだろう。

「ファイアストーム」

 矢が弾かれた直後、アンネリーセの魔法が発動。ライトリザードの巨体が炎の渦に包まれる。嫌がって身をよじるライトリザード。怒りの瞳でアンネリーセをにらむ。

 殺気立ったライトリザードが突進してくる。ガンダルバンが駆け出す。

「アンガーロック」

 ガツンッと鈍い音がした。ライトリザードの体当たりを受け止めた鋼鉄の盾が悲鳴をあげているようだ。

 俺もダッシュして、一気にライトリザードの横に回り込んで斬りつける。反対側ではジョジョクも斬りつけていた。

 さすがはソードマスターだ。俺の動きに合わせて攻撃し、ライトリザードの意識がガンダルバンから離れても俺に向かないようにしている。

 そのジョジョクの脇から槍が出てきた。リンだ。彼女の姿は大柄なジョジョクに隠れてまったく見えなかった。ライトリザードも意表をつかれたことだろう。

 ロザリナが尻尾をけながら後方から攻撃。不規則な動きをする尻尾によく当たらないものだと感心する。

 さらにスケルトンがライトリザードに棍棒を振り下ろしているが、こっちはノーダメージだ。でもこれでいい。スケルトンが攻撃に加われば、ソリディアにも経験値が入る。経験値は均等に入るみたいだから、一回でも攻撃しておけばいい。

 ローズがライトリザードの体にいばらつるを巻きつける。動きが鈍るだけでなく、生命力をじわじわ減らしていく厄介な攻撃だ。味方でよかったよ。

 俺たちの攻撃でいい感じにライトリザードの生命力が減っていく。

「よし、今だ!」

 生命力の減り具合を見ていた俺が、皆にスキル攻撃を指示した。

「スキル・一点突破! ダブルスラッシュ!」

 スキル・一点突破───敵の物理防御力値や防御系スキルの効果を無効にするスキルを発動させてダブルスラッシュを叩き込むと、ライトリザードの生命力が大きく減った。

「ラッシュなのです!」

 ロザリナの手数が三倍になり、ライトリザードの生命力が削られていく。

「パワーアタックだっ」

 ガンダルバンのパワーアタックがさくれつする。

「トリプルスラッシュッ」

 ソードマスターのジョジョクのスキル攻撃。

「ライトニングランス!」

 槍聖のリンのスキル攻撃。

「ブースター! マナスラッシュ!」

 アンネリーセの魔法。

 これだけの攻撃が叩き込まれたライトリザードの生命力は、一気に減ってゼロになって消滅した。

「皆、怪我はないか?」

「「「「ありません」」」」

「ないのです」

 近接戦闘していた皆が即答。

 バースとソリディアが攻撃されることはなかったし、ブレスはローズが口をふさいで吐けなかった。戦闘をしながら攻撃を受けた仲間がいないか気にして確認していたけど、ガンダルバン以外は攻撃を受けていないはずだ。

 詳細鑑定でレベル一コンビを確認。お、レベル上がってるな。いい感じいい感じ。

「よし、この調子でガンガンいくぞ」

 七階層ボス部屋を周回すれば、二人だけでなく俺たちもレベルが上がる。しかも結構な稼ぎにもなる。何より他に探索者が誰もいないから、待ち時間などのストレスなく効率的に周回できるのがいい。


 冒険者・レベル二五になったバースの弓は相変わらずの命中率だけど、威力は確実に上がっている。攻撃力はそこまで高くないが、途中からライトリザードに刺さるようになった。俺たちに当たっても今まではダメージがなかったけど、今は当たると生命力が減るから命中率アップがんばれ。訓練あるのみかな。それとジョブ・冒険者はレベル五でアイテムボックスを覚えた。俺以外で荷物運びできる人材が増えて大助かりだ。

 ネクロマンサー・レベル二五になったソリディアも骨族召喚(スケルトン系召喚)だけでなく、しかばねぞく召喚(グール系召喚)と霊体族召喚(ゴースト系召喚)を覚えた。

 ボス戦の後に少しだけ休憩するが、その時に触媒を作ってグールとゴーストも召喚できるようになっている。

 骨族召喚の熟練度が上がって(低)になると、棍棒装備のスケルトンだけでなく剣装備のスケルトンソルジャーも召喚できるようになった。さらに熟練度が(中)になるとスケルトンナイトが召喚可能になり、ライトリザードにダメージを与えている。

 ソリディアのレベルが上がると召喚したけんぞくたちのレベルも上がるから、毎回召喚し直している。そのため、消費魔力がそこそこ多い。

「あと一回ライトリザードを倒したら、今日は帰ろう。これで最後だ、気を抜かずにいくぞ」

 一回だけ他のパーティーがボス部屋に入っていったのを挟んで、本日二十回目のライトリザード戦だ。一回の戦闘は十分かからないが、休憩もしているからいい時間になっているはずだ。

 時計があれば時間が分かるんだけど、時計はない。この世界の人は朝といえば朝日が昇った直後のうす暗い時間帯を指すし、太陽が高ければ昼だし、太陽が沈んだら夜だ。その程度の時間感覚しか持っていない。

 でも体内時計が結構正確らしく、アンネリーセが切り上げようと言って、ダンジョンを出ると毎回夕方なんだよ。これはアンネリーセだけだろうか?

 七階層のボス部屋周回最後の一戦。俺たちがボス部屋に入ると、いつものように両開きの扉が閉まる。ボス部屋の真ん中辺りから光の粒子が立ち上って、ボスが現れる。

「ん? なんだあれ?」

 現れたボスは真っ黒だった。

「ダークリザード……だと?」

 詳細鑑定で確認したらそんな種族名だった。

 ライトリザードがレベル三五だったのに対して、このダークリザードのレベルは三七だ。ライトリザードよりも強いレアなボスモンスターらしい。

「ダークリザード・レベル三七。物理耐性と魔法耐性を持っている。ブレスは武器や防具だけじゃなく、人間の体も腐食させるぞ」

「なんとも厄介なモンスターですな」

 防御は鉄壁、攻撃もいやらしい。探索者泣かせのボスモンスターだ。

 こっちはバースとソリディアのレベルが二五。俺は剣豪が三一、転生勇者が三三になった。

 他の皆はレベル三五になっている。スキルを駆使すれば、苦労はするが倒せるはずだ。

「サモン、スケルトンナイト」

 三つの魔法陣から三体のスケルトンナイトが現れる。スケルトンなのに鎧を着て盾まで持っている。もう少しレベルが高かったら、十分タンクとして役に立つと思う能力値だ。しかも触媒と魔力さえあれば、何体でも召喚できる。本当に便利でいいよな。

「本日最後にレアモンスターが俺たちに美味しい思いをさせてくれるらしいぞ」

 俺は皆の顔を順に見ていき、にやりと笑う。

「勝つのは俺たちだ!」

「「「「「応!」」」」」

「はいなのです!」

「ご主人様に勝利を!」

 バースの弓矢、アンネリーセの魔法の攻撃で開戦。俺たちはそれぞれの受け持ち場所に走る。すでに何度も経験している位置取りだ。間違えることはない。

「ローズ、頼む」

 ふわりと俺の周りを飛ぶと、ダークリザードの体に茨の蔓が巻きつく。

 それを嫌がったダークリザードが暴れるが、三体のスケルトンナイトがそれを受け止める。骨がきしむ音なのか、かなり嫌な音がする。

 俺たちは自然と体が動き、ダークリザードに攻撃を仕掛ける。俺の定位置はガンダルバンの左横だ。俺の位置がここになったのは、ある理由から。

 ダークリザードがローズの茨を引き千切って口を開く。

「きたぞ、ブレスだ」

 ───アイテムボックス!

 そう、このためにこの場所になったのだ。目の前でブレスが見えるこの位置がベストポジションだ。ライトリザードもたまにローズの拘束を引き千切っていた。ライトリザードのブレスは腐食のような厄介な効果はない熱線レーザーだった。即死さえしなければ、なんとでもなる攻撃だ。しかしダークリザードのブレスは厄介だ。絶対に受けてはいけない。だから俺がその全てをアイテムボックスホイホイで受けることにした。

 目の前でダークリザードのブレスが、アイテムボックスに吸い込まれていく。

 ガンダルバンのアンガーロックで敵対心がしっかり固定されているから、アイテムボックスホイホイを使うのも簡単だ。

 皆がそれぞれの役目を果たせば、結果はおのずとついてくる。

 ダークリザードは硬かったが、ブレスを防いでしまえば問題ない。時間がかかるけど、集中を切らすほどの時間でもない。

「よし、勝った!」

 ダークリザードの姿が消えていく。

 七階層ボス部屋周回は、ダークリザードを最後に終了した。

 今回の収入は、次の通りだ。


〈ライトリザード〉

光のEランク魔石 一三個×一〇万グリル=一三〇万グリル

ライトランス 一〇個×二〇万グリル=二〇〇万グリル

光の宝魔石 四個×七〇万グリル=二八〇万グリル

※合計換金額は六一〇万グリル


 ダークリザードからドロップした闇のDランク魔石は珍しいとアンネリーセが言うから売らなかった。ソリディアの触媒に使えるかもしれないし、いつでも売れるからアイテムボックスに収納中だ。

 しかしボス部屋周回はすごもうけだな。名誉男爵の一年の俸給の半分を儲けてしまった。ここからガンダルバンたちに危険手当を出しても、俺の懐には大金が入ってくる。

 やめられまへんな。うへへへ。