面白い男を見つけた。

 最初にその男に会ったのは、公爵閣下の執務室だ。その時は、顔は見えなんだ。不敵にも姿を隠して公爵閣下の執務室に侵入しておったわ。

 公爵閣下の私室にも侵入されたと聞いた時は、血の気が引く思いだった。公爵閣下は笑っておられたが、それはこの城の警備の責任者として命をもっておびすべき一大事だ。

 男はシャルディナ盗賊団と関係を持っている者らの名簿を提示した。ここまでお膳立てされては、俺の面目は丸潰れだ。だが、俺にできぬことをしてくれた恩人でもある。

 俺は騎士団を率いてシャルディナ盗賊団のアジトを襲撃した。頭目のシャルディナは、隠し通路から逃げ出していたが、配下の者共はその通路で死んでいた。そしてシャルディナ本人は隠し通路の先の小屋の中で縛られていた。おそらく名簿を渡してくれた男がやったのであろう。

 悔しいが、全てその男の手のひらの上で踊らされていたようだ。

 他にもシャルディナ盗賊団の関係者はことごとく捕縛するか斬り捨てられていた。


 ある日、ザイゲン殿からあの男の身元が判明したと聞いた。公爵閣下より本人であれば連れてこいと命じられ、俺は探索者ギルドに向かった。

 その男、いや、あれは女なのか? 性別はともかく、その者が持つ気配は俺の目をせない。

「間違いない。奴だ」

 自慢ではないが、俺は気配には敏感なのだ。武一辺倒な俺が公爵閣下にお仕えできているのも、目を閉じていても気配でそこにいる者が誰なのか分かるからだ。

「フフフ。見つけたぞ」

 その者を連れていくと、公爵閣下は褒美を与えるとおっしゃった。悔しいが、この者の功績は大きい。あの名簿がなければ、複数あるアジトの場所や関係者の存在は分からないままだった。だから俺は納得して、その者の叙爵を祝った。

 トーイなるその者は、あれだけの気配遮断の力を持っているのに、剣の腕はまるで素人。歩く姿を見れば、武を学んだことなどない者だとすぐに分かった。

 恩返しのために、このトーイという者を鍛えてやろう。そう思い、トーイを騎士団の訓練に誘った。

 トーイは面白いように成長していった。一カ月少々の訓練で、なんと剣豪に転職したというではないか。さすがに剣豪は想像しておらなんだわ。

 だが、トーイはいい。負けん気が強いのが何よりもいい。上を目指す者は、何度倒れても立ち上がる者だ。その意志がない者は、上にはいけない。

 俺ができる恩返しはこのトーイを一人前の戦士に鍛え上げること。戦場で死ぬことなく、生きて帰ってくるだけの力をつけてやる。トーイの成長速度を見ていると、すぐに俺を追い抜く。そう感じるものがある。

「フフフ。俺もまだまだ上を目指さねばならぬか。負けてはおられんわ」




 起きたら目の前にアンネリーセの胸があった。気持ちよいクッションだと思っていたが、アンネリーセのOPPAIだったようだ。

 寝ている間にアンネリーセに抱きついていた。悪いことをしてしまったが、俺は後悔してない。だってアンネリーセのOPPAIに俺の顔がすっぽりと収まる感じがとても気持ちよいから。

「おはようございます。ご主人様」

「おはよう、アンネリーセ」

 エメラルドグリーンの瞳に俺が映っている。いつ見ても宝石のような瞳だ。

「ロザリナは?」

「ガンダルバン様と訓練をしています」

「訓練? こんな朝早くからか?」

「うふふふ。もうすぐお昼ですよ、ご主人様」

 朝かと思ったらもう昼か。よく寝たな。転生六十日目は、泥のように眠っていたようだ。おかげで体調は万全。元気すぎて困ってしまう。どことは言わないが。

「お昼は何がいいですか?」

「うーん……アンネリーセが食べたい」

「……いいですよ」

「えっ!?

 アンネリーセの唇が俺の唇に合わさる。

 なんて柔らかいんだ。これがアンネリーセの唇なのか。ファーストキッスはレモンの味とか誰かが言っていたが、それはうそだ。甘くて甘くて、とっても甘いじゃないか。

「アンネリーセの唇はしいね」

「唇だけですか?」

「唇だけじゃないと思う。でもさ、これ以上はいけないよ」

「なぜです? ご主人様は私を自由にできますよ」

 潤んだ瞳にドキリとする。ああ、俺はアンネリーセが好きなんだと、心の奥深くにあるものを感じた。

「そ、そうだ。アンネリーセは奴隷から解放されることが決まったよ」

 このままではアンネリーセを押し倒しそうだから、話を変える。

「え?」

「今回の悪魔撃退の褒美で奴隷から解放してもらえることになったんだ」

「それは……私はもうご主人様には不要なのですか……?」

「そんなわけないだろ! アンネリーセは俺の大事な人だ。奴隷から解放されても離しはしない!」

「っ!?

 思わずまくしたててしまった。恥ずかしい。

「声を荒らげてしまって、ごめん。でも今の言葉は本当のことだから、俺はずっとアンネリーセと一緒にいたい。俺のそばにいてほしいんだ」

「……はい。ありがとうございます。死が二人を分かつまで、私はご主人様のそばにいさせていただきます」

 うれしいことを言ってくれる。俺もアンネリーセといつまでも一緒にいたいよ。

 エルフは長寿だけど、ハイヒューマンになった俺も長寿だ。嬉しいことに、アンネリーセと長い時を過ごせる。こんなに嬉しいことはないよ、本当に。

「奴隷から解放されるのは嬉しいのですが、私が起こした事故によって、多くの方にご迷惑をかけてしまいました。本当に解放されていいのでしょうか……」

「その事故は不幸な出来事だ。負い目はあるだろうが、それでもわざとやったわけじゃない。被害にあった人たちのことを忘れず、生きていけばいいと思うぞ」

「はい……」

 アンネリーセが泣き出した。嬉し泣きだよね、俺も嬉しいよ。


 昼食後、俺はステータスを確認した。

 あの下級悪魔パティスとの戦闘で両手剣の英雄と暗殺者、そして転生勇者がレベルアップした。

 両手剣の英雄と暗殺者は共に一つ上がってレベル二六になり、転生勇者はなんとレベル九になっている。下級悪魔でもレベルが三〇もあったからかな。

 転生勇者を使うつもりはなかったが、聖属性の攻撃ができる数少ないジョブだったからしょうがないよね。使うつもりのないジョブだったけど、出し惜しみして皆が傷ついたら後悔してもしきれない。


 さて、問題はあの下級悪魔パティスからドロップした宝珠(下級)だ。

 この宝珠(下級)を使えば、スキルを覚えるらしい。ジョブではなくスキルだ。

 そもそもスキルを覚えるのはいいが、ジョブは関係ないのだろうか? もし対応するジョブがないと使えないとかなら意味のないものだ。詳細鑑定でもそこら辺は教えてくれなかった。

「でも使うんだけどね」

 テーブルの上に置いた宝珠(下級)を持ち上げ、使う、と念じる。

「俺に精霊召喚を与えろ」

 宝珠(下級)はスーッと消えていった。え、これだけ?

 慌ててステータスを確認する。

 スキルじゃなく、ユニークスキル欄にあったよ。


下級精霊召喚(〇/一):下級精霊一体を召喚し、使役する。召喚される精霊はランダムで決まる。現在使役中の精霊はいません。


「ここで召喚してもいいのだろうか?」

 自室が破壊されたら嫌だから、外に出よう。

 庭ではガンダルバンと兵士たち、そしてロザリナが訓練していた。今朝もしていたらしいけど、昼からもしてるんだね。バルカンの脳筋遺伝子受け継いでないか?

「ご当主様も剣を振りますか」

 ガンダルバンとロザリナはバルカンほどではないが、脳筋だ。この二人につき合っていると、朝から晩まで訓練することになる。信じられないよ。

「いや、俺はちょっとやることがあるから」

 ちゃんとお断りして脳筋たちから離れる。せっかくバルカンのしごきから解放されたんだ。しばらく自由を満喫するぞ。

 庭の端に陣取り、下級精霊召喚を意識した。

「精霊よ、出てこい」

 俺の声に呼応するように、地面が盛り上がる。なんだ、何が起こった?

 盛り上がった地面から芽……植物の芽が出てきて、それが成長していくつもの枝が絡み合っていく。いや、これはつるか? その蔓にとげがあることからバラ系のようだ。複雑に絡み合っていく蔓が半径五十センチの球体を形成して動きが止まった。

 蔓でできたボールのようなものがぱかりと開き、そこから淡いピンク色の光の玉がふわりと浮き上がる。

 なんとなく分かったが、この光の玉が精霊のようだ。

「俺の言葉は分かるか?」

 ふわふわと浮いているが、大きく上下する。分かるようだ。

「お前はなんの精霊なんだ?」

 俺の精霊のイメージは、火とか水などの属性があるものだ。

 精霊は自分が出てきた蔓の周りを飛んだ。植物の精霊っぽい。

 思っていたよりも地味な精霊だった。痛い、痛いって、蹴るなよ。なんで光の玉なのに蹴れるんだよ。

 ふと気配を感じて、振り返る。

 ガンダルバン、ロザリナ、兵士たちが口を開けて俺を見つめていた。

「どうした?」

「……どうしたではないでしょう。その光るものはなんですか? まさかと思いますが、精霊なんて言わないですよね」

 ガンダルバンの眉間のシワがすごい。今はザイゲンよりも深くなっているぞ。てか、ちゃんとていかんしてるじゃん。

「うん。精霊。植物系の下級精霊だって」

「「「「「………」」」」」

「うわーっ、精霊様なんですね! さすがはご主人様なのです!」

 ガンダルバンたち五人はぼうぜん、ロザリナだけがぎょうぼうの眼差しだ。でも精霊に様をつけて呼ぶのなんで? 精霊信仰とかあるのかな?

「ご当主様には常識などないと思っていましたが、本当に常識がないですな。精霊を召喚できる存在がどれほど貴重か、ご当主様は理解しておいでですかな。言わなくても分かります。理解してないのでしょう。ええ、分かっておりますとも。その上で申し上げますが、何かする時はそれがしかアンネリーセ殿に相談してからにしてもらいたいものです。それでもご当主様の非常識は隠せないでしょうが、多少は和らげることができるかもしれません」

 おおお、まくしたてたな。

「ストレスまってるのか?」

「誰のせいですか、誰の……はぁ……」

 そんなに大きなため息をかなくてもいいじゃないか。

「で、精霊召喚は非常識なんだな?」

「ちょっと待っていただけますか。心を落ちつけます」

 なんだかすまん。

 大きく息を吸って吐くガンダルバンが、キッと俺を見てくる。

「さて、ご当主様」

「はい」

「精霊を使役する者がこの世界にどれほどいるとお思いでしょうか?」

 どれほどと言われてもなー……。ユニークスキルがこのケルニッフィに数人いるかどうかだから、もう少し広げて国に数人だとすると、世界に数十人から百人くらいかな?

「百人くらい?」

「はぁぁぁ」

 滅茶苦茶大きなため息なんですけど。もっと多かった?

「私が知る限り精霊召喚ができる、いえ、できたのは十数人です。それも歴史上十数人ですよ」

 歴史上十数人とか、少なすぎるだろ。悪魔を倒せば宝珠がドロップするんだろ? だったらもっと精霊召喚できると思うんだけど。

「その顔は分かってないですね。いいですか、精霊召喚ができたのは過去の勇者や聖女などのごく一部の絵本になるような伝説的な方々なのです。もしご当主様が精霊を使役していることが知られたら、どれほど大きな騒動に発展するか分かってないですよね?」

 ガンダルバンのこわもての顔が近いんですけど。

「お、おぅ……なんかすまん」

「さて、今の話を踏まえて、ご当主様はどうされますか?」

 いきなり質問!? これはなんと答えるのが正解なの?

「な、内緒にする?」

「そうです。人に知られないように、いんぺいしてください」

 正解だったーっ!

「まずは、精霊を出すのは人目につかないところでだけ。この屋敷の庭は石塀があるとはいえ、安心できません。屋敷の中に入ってください」

「はい」


 参ったー。ガンダルバンの奴、屋敷の中でめっちゃ説教するんだもん。しかもアンネリーセまで加わって、俺は小さくなって「はい、ごもっともです」しか言ってない気がする。

 くだんの精霊は、俺が二人から説教されている間、俺の周りをふわふわ飛んでいた。気楽なもんだ。

 幸いにも精霊は姿を消せるから、他人に見られなくすることができる。姿を消した状態でも、俺にはなんとなくホワーッと光って見えた。見えない精霊に話しかけていると、危ない人に見られそうだけどさ。

 あと、宝珠から精霊召喚のスキルが得られるというのは、あまり知られてないようだ。少なくともガンダルバンやアンネリーセは知らなかった。


 ガンダルバンとアンネリーセの説教の後、二人の立ち会いのもとで精霊は何ができるのか検証することになった。

 精霊を詳細鑑定すると、こうなる。


▼詳細鑑定結果▼

下級いばら精霊 レベル二〇:固有名称はない。トーイ=フットシックルの契約精霊。召喚、送還できる。送還時は元々んでいた場所で過ごす。能力は次の通り。植物を操り、成長させる。精霊ひょうして使役者を強化できる。


 植物のなかでも茨の精霊だったようだ。あの蔓を見たら、バラ系の植物なのは納得だな。

 そんなわけで能力検証は、植物を育てるところを見せてもらう。

 と思ったんだが、下級茨精霊が自力で出せるのは茨のみらしい。だから植物の種を色々購入することにした。

 こういう時は、なんでもそろうゴルテオ商会が便利です!


「これはこれは、トーイ様。ようこそおいでくださいました」

「ゴルテオさん。お久しぶりです」

 貴族になった後、ゴルテオさんのところで使用人の服やガンダルバンたちのよろいや武器など色々購入させてもらっている。

 モンダルクの話では、酒や食料、その他色々なものをここで購入しているとのこと。ちょっとしたお得意様になっている。

「今日は植物の種とか苗などを見に来ました」

「植物の種ですか? たしか今回の悪魔騒動でも大活躍され勲章を授与されると聞いております。領地でも下賜されたのですか?」

 さすがは大商人。お耳がよろしいようで。こういう時は、早いと言うのかな?

「いやいやいや。家庭菜園でもしようかと思っているだけです」

「家庭菜園ですか……?」

 あまり深く考えないでくださいと言い、種のある場所に連れていってもらう。

「聞いておりますよ、アンネリーセのこと」

 歩いていると、ゴルテオさんがそう切り出してきた。

「アンネリーセは悪魔の撃退に大活躍してくれましたから。そのご褒美だと公爵様がおっしゃってくださいました」

「それはようございました。こちらが植物関連のものを扱うエリアです。ごゆっくり見ていってください」

 棚が区切られ、種や球根などが置いてある。苗はないか。

「おお、そうでした。トーイ様は例の話を聞きましたか?」

 例の話? なんのことだ? 自慢じゃないが、こちとらうわさばなしに敏感じゃないんだ。

「いえ、どういった話ですか?」

 ガンダルバンたちに買い物を任せて、俺はゴルテオさんの話を聞こう。どんな噂なんだろうか。

「勇者の話です」

 ドキッとしたが、どうやら俺の話ではなく、あいつらもこの国にいたんだよね。

 バルカンのしごきを受けている時に、騎士や兵士が噂話をしていたのを聞いた。あいつらはこの国の王都に召喚されてかなり好き勝手やっているらしい。

「勇者相手に商売でもしましたか?」

「ははは。その逆ですよ。勇者がうちの王都の店にやってきて、魔剣を献上しろと言ったらしいです」

「はぁ?」

 魔剣ってあの数百万グリルするやつだろ。それを献上? バカじゃないのか? いや、あいつらはバカだった。少なくともクズだ。

「それで魔剣を献上したのですか?」

「もちろん、丁重にお断りしました」

 ゴルテオさんは笑みを浮かべているが、目が笑ってない。

「勇者アカバ様のパーティーがダンジョンに入り始め、一カ月半以上経過していますが、全然探索が進んでいないそうです。なんでも十四人でパーティーを組んでダンジョンに入り始めたそうですが、たった一週間でパーティーは三つに分裂したそうですよ」

 この世界の一週間は六日、一カ月は五週間三〇日、一年は一二カ月になる。

 それはともかく、あいつら仲間割れしたんだな。

 元々全員が協調性のない奴らだった。異世界に来てあかは父親の後ろ盾がなくなり、さらにジョブを得た取り巻きが赤葉に対抗できるようになったから、空中分解したってところだろう。どーでもいいことだが、本当に何をやっているのかとあきれるしかない。

「アカバ様をはじめ、元パーティーメンバーの方々はダンジョン探索が進まず、荒れているとか。おかげでうちの王都本店にやってきて魔剣を出せと言う始末です」

 勇者ならスキル・聖剣召喚が使えるんじゃないか。勇者の名をかたる他の奴かもしれないけどさ……多分あいつらだよな。

「ダンジョン探索が進んでないというと?」

「アカバ様のパーティーは、ダンジョン探索を始めてすぐに三階層まで到達したようですが、今も三階層止まりだとか」

 三階層でくすぶっているわけか。あいつらの性格じゃあ、いらっているだろうな。

「アカバ様のパーティーとアカバ様から独立した二つのパーティーのほうはひどい状況のようですが、もう一人の勇者様が率いるパーティーは順調らしいですよ。そちらのパーティーはしっかり訓練を積んでからダンジョンに入ったようで、今は五階層を探索しているとか」

 赤葉の取り巻きじゃなかった奴らの集まりだな。あいつらは俺が赤葉たちに暴力を受けていても止めようともしなかった。俺もあいつらに頼ろうとは思っていなかったから構わないが、だからといって応援する気はない。

「そうそう。生産系ジョブの方々は素晴らしい成長を見せているとか。熟練とまではいかないものの、最近は良いものを作っておいでのようです」

 たしか生産系ジョブだったのは、六人だったか。誰が戦闘系ジョブで誰が生産系ジョブか知らないが、せいぜいがんばってくれ。俺は応援しないが、お前らが活躍することをこの国の人たちは願っているはずだ。

 そういえば、彼女もこっちに来ているんだろうな。いつくしまさんだけは俺を気遣ってくれた。彼女には無事に過ごしてもらいたい。あとの奴らはどーでもいい。

「面白い話を聞かせてもらいました。ありがとうございます」

「いえいえ。こんな噂話ならどこでも聞けますから」

 ガンダルバンたちのほうも買い物が終わったようだからおいとまする。

 色々あったから、全部買ったらしい。兵士四人で担げる量は持ち帰り、あとはゴルテオ商会が屋敷まで届けてくれることになっているようだ。

 アイテムボックスを使えば全部持ち帰れるけど、さすがにここでは使えないからね。

「今日はありがとうございました。また戦功をお立てになり、本当におめでとうございます」

 店を出る際にゴルテオさんに丁寧に送り出してもらった。また買いに来ますから、よろしくです。


 屋敷に帰って、さっそく下級茨精霊の能力検証を始める。

「これらの種をけばいいのか?」

 庭の空いているとこに、種を蒔けと下級茨精霊はジャスチャーで伝えてくる。

 豆の一種だと思う種を二十粒ほど手に取って等間隔に土に埋めようとしたら、下級茨精霊はばらけばいいと伝えてきた。

「本当にばら撒けばいいのか?」

 ふよふよ上下する。

「ご主人様。私が」

 アンネリーセがやると言うので頼んだ。

 れいな所作で種を蒔くアンネリーセ。何をやっても絵になるね。

「よし。下級茨精霊。豆を成長させてくれ」

 上下して了承の意を表現。

 種を蒔いた辺りの上をひゅーっと飛び回ると、りんぷんのような光の粉が地面に落ちていく。それは種にまとわりつくようにコーティングした。

 ん? これは……俺の中から何かが抜けていく感覚がしたからステータスを確認すると、魔力が減っていくのが分かった。

 どうやら植物を成長させるのには、俺の魔力を消費するようだ。

 地面に落ちている種から芽が出てきて、どんどん大きく育っていく。根は地面に刺さって伸びているようだ。

「おおお」

「凄いです」

 ニョキニョキと大きくなって、青々とした葉をつけ、さらに枯れていく。

「ゴゴップです」

 ゴゴップという豆らしい。大豆に似ているが、大豆よりちょっと小ぶりの豆だ。

 二十粒ほどの種を成長させたが、消費魔力量は大したことない。これなら十倍でも問題なく成長させられる。この屋敷の食料なら軽く賄えそうだ。

「収穫します」

 アンネリーセが腕まくりして、農機具を持つ。

「どうやるんだ?」

 自慢ではないが、俺は都会っ子だ。農業なんてテレビで田植えをしているところを見たことがあるくらいだ。

「私にお任せください。幼い時は両親の手伝いで農作業をしていましたから」

 元村人のアンネリーセの親は農家らしい。手際よくゴゴップを収穫していく。

 しかしこんな寒い日に、耕してもない地面からゴゴップが収穫できるのか。食料チートだな、これ。

「ゴゴップはこんな冬に収穫できるのか?」

「だいたい九の月の後半から十の月にかけて収穫できたはずです。冬に収穫できる豆類は少ないですよ」

 俺の常識と同じだ。普通はできないことも、精霊の力があればできるわけか。しかも下級精霊でさえこれだけのことができるのだから、中級や上級になったらどうなるのか?


 メインジョブをエンチャンターにしサブジョブを暗殺者にしている俺の魔力は四六〇ポイントあるが、今回の二十粒の種からゴゴップを収穫するまでに二〇ポイントしか消費してない。

 一粒の種から数十、数百のゴゴップが収穫できるが、一粒を育てるための消費魔力はたったの一ポイントということになる。しかも種を蒔いてすぐに収穫できるのだから、精霊の力は本当に素晴らしい。

 ガンダルバンとアンネリーセが説教するだけのことはあるということか。二人が言うように、人前で見せるものではないな。

「てか、下級茨精霊じゃあ言いにくいな。名前つけていいか?」

 いいらしい。

「それじゃあローズで」

 イバラもバラというくらいだから、ローズでいいよな。

 なんか嬉しそうに大きく動いている。気に入ってくれたようだ。よかった、よかった。


 転生六十一日目。今日はダンジョンの七階層を探索。ダンジョンに入ってすぐダンジョンムーヴで七階層に移動。

 俺たちは一瞬で移動できるが、普通の探索者は往復で何日もかかる。一度ボスを倒した人が一人でもいると、ボス部屋をショートカットして次の階層に抜けることができるらしいが、それも俺たちには必要ない。

「おおお、七階層はトカゲか」

 詳細鑑定で見ると、ファイアリザード・レベル二四とあった。体長は三メートルほどで、赤い皮。口からは火が漏れている。しかも六本足。

「ローズはあれを倒せるか?」

 横にふるふる動く。どうやら無理のようだ。レベルが足りないか。

「ん、火は嫌い? なるほど、植物だもんな」

 ちゃんと自己主張ができるローズはおこうだ。もし中級精霊、上級精霊になったらしゃべることができるのだろうか?

 そもそも精霊は成長するのか? そういった検証も行いつつダンジョン探索をしよう。

 ローズを自身が嫌がる相手と戦わせるのは可哀かわいそうだから、普通にボッコにするか。

「ロザリナは素手だから、気をつけるんだぞ」

「はいなのです」

 ミスリルの両手剣を構える。

「アンネリーセの魔法で先制攻撃。次いでガンダルバンのアンガーロック。あとはいつものようにボコボコにする。火を吐くから注意しろよ」

 全員がうなずく。

「いきます。マナスラッシュ」

 火属性のファイアリザードに、火魔法は効果が期待できない。それを考えて無属性のマナスラッシュを放った。

 マナスラッシュはファイアリザードに命中し、怒ったファイアリザードが六本の足を駆使して駆けてくる。

 なんか足の動きが面白い。平行に動くのではなく、前の四本と後ろの二本が逆の動きをしている。

 ファイアリザードが口を開けた。いきなりブレスか!?

「アンガーロックッ」

 ゴォォォッ

 兵士たちはガンダルバンの後方でブレスをやり過ごすが、一人だけやりを棒高跳びのように使ってガンダルバンとファイアリザードを飛び越えた。

 彼女はネコ獣人のリン。非力だが身軽なところがある女性兵士だ。

 リンと同様にロザリナもジャンプでブレスをかわしていた。

 二人は無防備な後方から攻撃を仕掛ける。

 ガンダルバンと三人の兵士は、盾でブレスを防いだといっても完全に防げたわけではない。

「ヒール」

 ガンダルバンと三人の兵士の生命力が回復する。これは転生勇者のスキル・聖魔法だ。

 今日の俺はメインジョブがエンチャンターで、サブジョブが転生勇者。転生勇者は育てるつもりはなかったが、悪魔なんてものがいることを知った以上、転生勇者のレベルは上げておくべきだ。

 外では転生勇者なんて地雷でしかないが、ダンジョン内なら鑑定持ちは滅多にいないから大丈夫なはず。

「セイントアタック」

 ドガーンッ。パリンッ。

「あ……倒しちゃった……」

 ステータスポイントが一二〇以上溜まっていたから、知力に全振りしてみたら魔法おにつよだった。

「ご当主様。今のはなんでしょうか?」

「聖属性の攻撃」

 転生勇者の聖魔法(低)で覚えた魔法だ。

「ジョジョクたちの訓練のためにも、もう少し控えてください」

 ガンダルバンが諦め顔。すまん。

 ステータスポイントを知力に全振りすると、魔法攻撃力が六〇〇超えになる。ガンダルバンの剛腕騎士は装備とスキル込みで物理攻撃力が二〇〇ないくらい。実に三倍の攻撃力!

 しかもセイントアタックの消費魔力はたったの五ポイント。なんて燃費がいいんだ!

「ドロップアイテムは火の魔石のようです」

 ロザリナが拾ってきた魔石を見て、アンネリーセが火の魔石だと言う。

 魔石は赤く、見た感じが火属性っぽい。詳細鑑定でも火のEランク魔石と出た。

 属性魔石は普通の魔石よりも高額で取り引きされているらしい。換金額が良いから、嬉しいよ。

「ご主人様。今ガンダルバン様が仰りましたが、本当に自制してくださいね」

「お、おう。分かっているよ」

 アンネリーセにもくぎを刺されてしまった。


 次は水色のトカゲが出てきた。アクアリザード・レベル二四だ。色違いで口から水が垂れている。よだれじゃないよな?

「あいつは大丈夫か?」

 ローズが大丈夫とジェスチャーする。

「それじゃあ、あいつの口をふさぐことはできる?」

 大丈夫だそうだ。

「アンネリーセ」

「はい。マナスラッシュ」

 先ほどと同じようにアンネリーセの魔法で開戦。

 ガンダルバンのアンガーロック。

 ロザリナ、ジョジョク、バース、リン、ソリディアが躍りかかる。

「エンチャント・アイス」

 ロザリナにエンチャント・アイスをかける。ステータスポイントはリセットしているから、普通のダメージだ。それでもサブジョブに転生勇者がセットされているから、エンチャンターだけの時よりはダメージが出る。

「せいっ」

 リザードマン剣士のジョジョクが良い一撃を与えた。

 嫌がったアクアリザードが身をよじり、丸太のように太い尻尾がロザリナに当たりそうになったが、ロザリナは何事もなかったかのようにけた。

「パワーアタックッ」

 ガンダルバンのスキル・パワーアタックは、物理攻撃力三倍だから強力だ。

「「スラッシュ」」

 剣士のジョジョクとバースのスキル。こっちも物理攻撃力三倍。

「「三連突き」」

 やりのリンとソリディアのスキル。これは物理攻撃力三・五倍だ。

 どのスキルも熟練度が(中)になると、高い攻撃力を誇る。しかし剣士と槍士は、ガンダルバンの強腕騎士より物理攻撃力値が低い。

 ガンダルバンは鋼鉄の片手剣、剣士と槍士は両手武器だけど、それでも物理攻撃力はガンダルバンのほうが高い。同じ物理攻撃力三倍や物理攻撃力三・五倍でもガンダルバンのほうがダメージが出てしまうのだ。

「ラッシュなのです」

 物理攻撃力値+三〇ポイントと手数が三倍になるロザリナのスキル。

「マナスラッシュ」

 アンネリーセの無魔法がとどめになって、アクアリザードは消滅した。

 今回はブレスもなく、簡単に終わってしまった。ローズがアクアリザードの口を塞いでいたからだ。

 火属性じゃなければ、ブレス封じとして便利に使えそうだ。

 しかし俺は一回も攻撃してない。攻撃させないようにしたのか? そうなのか? 嫌がらせなのか?

 ドロップアイテムは水のEランク魔石だった。


 今度は緑色のトカゲ。エアロリザード・レベル二五だ。なんかヒューヒュー言ってるぞ。ぜんそくか?

「ファイアストーム」

 炎の竜巻がエアロリザードを包み込み焼く。

 怒ったエアロリザードが猛突進。

「アンガーロック」

 敵対心がガンダルバンに向き、エアロリザードが口を開く。その口に茨が巻きつき、塞ぐ。しかも茨の棘がエアロリザードの硬い皮に食い込んで地味に痛そう。

「ブレスを防いだ。一気に畳みかけろ」

 俺もセイントアタックで攻撃。今回は先ほどのようなことはなく、瞬殺しない。そう思っていたら、エアロリザードの動きがピタリと止まった。

「どうした?」

 エアロリザードが消滅。

「どうやら石化したようです」

 アンネリーセの言葉で思い出した。

「ガーゴイルバスターの効果か」

 二人の剣士、ジョジョクとバースはガーゴイルバスターを装備している。タイミング的にジョジョクの攻撃で石化が発動したようだ。

「石化が発動すると、動かなくなって消滅するんだな」

「そのようですね」

 ロザリナが拾ってきたドロップアイテムは、風のEランク魔石だった。こうなると次は土が出てくるかな。


 はい、やってきましたサンドリザード・レベル二五です。土じゃなく砂でしたね。体色は黄色っぽく、口からさらさらと砂がこぼれている。砂を落としているのに、この周辺に砂は見当たらない。ダンジョンの七不思議だよね。

 こいつもタコ殴り。ブレスはローズが防いでくれる。結構順調。考えたら俺以外はレベル二八ばかりだった。属性リザードが弱いのではなく、俺たちが強くなったのだ。

 ドロップアイテムはなぜか土のEランク魔石。砂じゃなく土だ。違和感あるんですけど。

 今回はガーゴイルバスターの石化は発動しなかった。ファイアリザードとアクアリザードの時も発動してないから、レジストされているのかもしれない。特にサンドリザードは石化に耐性がありそうな属性だしな。


 俺たちは順調に七階層を進んだ。ファイアリザードはローズが苦手だから、口を塞いでブレスを防げない。代わりに知力マシマシで全力セイントアタックで瞬殺するか、アイテムボックスホイホイで対処。

 アイテムボックスホイホイを久しぶりに使ったけど、ブレスはどんな属性でも回収できた。あとは皆に活躍してもらって、危なげなく進めている。

 二十体ほど倒したところで、スキル・宝探しに反応があった。

 移動時はサブジョブを探索者にしていてよかった。

「あっちだ」

 あったぞ、宝箱だ。今回は隠し通路はなく、普通に宝箱を発見できた。

 トレジャーボックスモンスターの可能性があるから詳細鑑定で見たら、普通の宝箱だった。ただしわなありだ。

「罠があるな。ちょっと待ってくれ」

 メインジョブを暗殺者に変更し、スキル・罠で宝箱の罠を解除。

「よし、これでいいぞ」

「何が入っているのでしょうか。わくわくなのです」

「ロザリナが開けてみるか?」

「いいのなのですか?」

「ああ、もう罠もないから構わないぞ」

 嬉しそうにお礼を言うロザリナに、宝箱を開けさせてやる。その笑顔が俺には宝物だよ。

「ご主人様。本が入っているのです」

「本……?」

 宝箱をのぞき込むと、魔導書が鎮座していた。

「「「「「おおおっ」」」」」

 魔導書に当たるとは運がいい。

 問題はこれを誰が使うかだ。屋敷に帰ってからゆっくり考えるとして、アイテムボックスに収納。


 さらに数十体のリザードを倒しながら、俺たちは七階層のボス部屋へと至った。もちろんボスを倒すつもりだ。

 休憩している間に、全員のステータスを確認した。

 全員のレベルが上がって、レベル三一になっている。俺もエンチャンターがレベル二九になり、転生勇者のレベルは二六まで上がっている。


 七階層のボスは白いトカゲだ。今までのリザードよりも大きく、五メートルくらいあるだろう。

 ライトリザード・レベル三五。光のトカゲ。こいつの吐くブレスは光のレーザーっぽい。コロ●ーレーザーか!? あれは光らせたらダメなんだぞ! そんなことを思いつつ、皆に指示。

「対応は今まで通りだ。ローズも頼んだぞ」

 ふわふわと了承するローズ。

「よし、行け!」

「「「「「応!」」」」」

「はいなのです!」

「ファイアストーム!」

 アンネリーセの魔法で開戦。それぞれが、それぞれの役目を果たす。

 ガンダルバンはアンガーロックでライトリザードの敵対心を固定し、ロザリナと兵士たちは力の限り攻撃する。

 俺もセイントクロスを発動。これは聖魔法の熟練度が(中)になって使えるようになった攻撃魔法だ。

 光の十字がライトリザードに吸い込まれ、爆発する。光属性のライトリザードに、光の十字攻撃は効くのだろうかと心配だったが、属性が聖だから効いたようだ。

 ライトリザードが口を開け、ブレスの予備動作を行った。

 何もない空中から茨が出てきてライトリザードの口から顔全体に巻きついていく。茨の棘が細かいうろこを突き抜けて刺さり、ライトリザードの血が垂れる。

 ローズはレベルアップしてレベル二九になっているから、茨の威力がかなり上がってきた。

 茨で口を塞がれ、ブレスを吐けないライトリザードは巨体を駆使して暴れまくった。ある意味、全体攻撃の暴れ方だ。

 ガーゴイルバスターの石化は発動しない。ボスには効かないのか、レジストされているかのどちらかだろう。

 ボスだけあってライトリザードは物理防御力や魔法防御力、それに生命力が高い。苦戦しているように見えるが、ガンダルバンが安定しているから危なげなく戦えている。

「集中を切らすな、あと半分だぞ」

 俺はライトリザードの生命力とガンダルバンの生命力を管理しながら、ガンダルバンを回復しつつセイントアタックとセイントクロスでチクチク攻撃。

 前衛たちもそうだが、後衛の俺とアンネリーセもちゃんと働いている。

 ダメージとしてはアンネリーセの魔法が一番削っている。俺も魔法で攻撃しているが、全体を見ながら指示しているしガンダルバンの生命力管理もしているからダメージはそこまで多くない。

うなれ、ヴァイオレンスアタックッ!」

 ガンダルバンが剛腕騎士レベル三〇で覚えたスキル・ヴァイオレンスアタック。攻撃を受けたら受けただけ物理攻撃力値が上昇するスキルだ。

 今のガンダルバンのレベルだと、十五発も被弾したら物理攻撃力三倍のパワーアタックよりも物理攻撃力値が高くなる。おかげでライトリザードの生命力が大きく減った。

「「「「はっ!」」」」

 ジョジョク、バース、リン、ソリディアもスキルを発動。

「ラッシュなのです」

 ロザリナも鉄拳、しゅうげき、ラッシュを発動させて、畳みかけた。

「あと少しだ」

「ブースター。多重魔法。マナストライク。ファイアストーム」

 アンネリーセもスキルを重ねがけする。

 ブースターは魔法威力を二倍にするスキル。レベル二五で覚えたものだ。

 多重魔法は二つの魔法を同時に発動できるスキル。レベル三〇で覚えている。

 二つの魔法を同時に発動させ、さらに威力が二倍になる。魔法の派手なエフェクトがライトリザードを包み込んだ。

 苦しんだライトリザードが後ろ足立ちになって、ドスンッと倒れて消滅した。どうやら倒したようだ。

「皆、してないか?」

「問題ありません」

 血を流す怪我をしていると、継続的に生命力が減っていく。誰も怪我していないことを確認し、改めて皆をねぎらう。

「ご主人様。これがありましたのです」

「槍?」

 槍の穂先の部分が光っている。うす暗いダンジョン内では照明代わりにいいかも。

 詳細鑑定したら、ライトランスだと分かった。ライトリザードのノーマルドロップだ。

「「あっ!?」」

 ライトランスの詳細を読んでいると、ジョジョクとリンが声を出した。なんだと思ったら、二人がうっすらと光った。

「これは……種族進化?」

 ロザリナの時に似ているが、光の量が少ない。

 光はすぐに収まり、二人の容姿は変わっていない。考えたら、俺がハイヒューマンになった時は光らなかったし、容姿も変わっていない。

 種族によって進化時のエフェクトに違いがあるのだろうか?

「ジョブが進化したようです」

 渋めの声でジョジョクが言う。

「私も進化したみたいです」

 リンは女の子独特の高い声。

 しかし種族ではなくジョブのほうが進化か。どれどれ……。

 おおお、本当だ。ジョブが進化しているぞ。

 ジョジョクは剣士からソードマスターに、リンは槍士からそうせいに進化だ。

 レベルは引き継いでいて、能力が大幅にアップ。スキルも増えて戦闘力を上げている。

 皆の能力を比較すると分かりやすいと思う。

〈ジョジョク・ソードマスター レベル三二〉

 生命力=二〇一

 魔力=一〇二

 腕力=三七

 体力=三〇

 俊敏=二八

 知力=一七

 精神力=一七

 器用=二五

 物理攻撃力=一一一

 物理防御力=九〇

 魔法攻撃力=五一

 魔法防御力=五一

〈バース・剣士 レベル三二〉

 生命力=一五九

 魔力=九六

 腕力=二八

 体力=二五

 俊敏=二四

 知力=一六

 精神力=一六

 器用=二一

 物理攻撃力=八四

 物理防御力=七五

 魔法攻撃力=四八

 魔法防御力=四八

〈リン・槍聖 レベル三二〉

 生命力=一七七

 魔力=一〇五

 腕力=三三

 体力=二六

 俊敏=三〇

 知力=一七

 精神力=一八

 器用=二五

 物理攻撃力=九九

 物理防御力=七八

 魔法攻撃力=五一

 魔法防御力=五四

〈ソリディア・槍士 レベル三二〉

 生命力=一四七

 魔力=一一一

 腕力=二六

 体力=二三

 俊敏=二四

 知力=一九

 精神力=一八

 器用=二〇

 物理攻撃力=七八

 物理防御力=六九

 魔法攻撃力=五七

 魔法防御力=五四

 装備とスキルなしの状態の能力値でこれだけの差になるが、ガンダルバンはもっと能力が高い。

〈ガンダルバン・剛腕騎士 レベル三二〉

 生命力=二八五

 魔力=一四一

 腕力=四七

 体力=四八

 俊敏=二四

 知力=一二

 精神力=三五

 器用=二四

 物理攻撃力=一四一

 物理防御力=一四四

 魔法攻撃力=三六

 魔法防御力=一〇五

 ガンダルバンは十代の時に騎士から剛腕騎士に進化したから、ジョジョクやリンよりも能力が高いのだろう。

 ジョブが進化するメカニズムは解明されておらず、詳細鑑定でも教えてはくれない。それが分かったら、最強軍団が作れそうだ。

 また、ロザリナが種族進化した時は村人からバトルマスターに自動で転職して、レベルがリセットされていた。今回はジョブが進化したためか、レベルは引き継がれている。

 今回の探索でアンネリーセとロザリナはレベル三二になっている。俺はエンチャンターがレベル三〇、転生勇者はレベル二六だ。


 ボス戦をしていたらいい時間になったから、ダンジョンから出て探索者ギルドに向かった。最近は盗賊もうろついていないから、町中の治安は少し良くなったと思う。

「換金を頼む」

 ギルドのカウンターでドロップアイテムを出す。

 火、水、風、土のEランク魔石はどれも一個二万五〇〇〇グリル。四七個で一一七万五〇〇〇グリル。

 レアドロップは火のほうせきと風の宝魔石が二個ずつ、水の宝魔石と土の宝魔石が一個ずつで、宝魔石はどれも一個二五万グリルだから一五〇万グリルになった。

 合計で二六七万五〇〇〇グリル。

 ボスのライトリザードからドロップしたライトランスは、使うつもりだから売らずに持っておく。

 しかし一日で二六七万五〇〇〇グリル(二六七五万円相当)の稼ぎになるとはな。八人で均等割りしても、三三四万円以上。七階層は狩場としておいしい。しかも魔石と宝魔石はあまり大きくないから持ち運びも楽だ。

 ここで気づいたが、これまでの稼ぎを皆に分けてなかった。分配しよう。

「お待ちください」

 皆に均等に配分しようとしたが、アンネリーセに止められた。

「ご主人様の考えは素晴らしいですが、ガンダルバン様をはじめ皆さんには毎月給金を支払う契約です。ダンジョンに入った時は危険手当を増やす程度でいいのです」

 均等分配したらダメとやんわりいさめられた。ガンダルバンたちは仲間ではなく配下だからだそうだ。

 そんなわけで、ガンダルバンには五パーセント、兵士たちには三パーセントを危険手当として配分することになった。

「アンネリーセとロザリナも三パーセントでいいかな」

「奴隷に給金を与える方はいません」

「な、なるほど……」

 ビシッと断られてしまう。いつもは微笑ほほえみながら応援してくれるアンネリーセだけど、こういうところはシビアだ。

「それじゃあ、これはお小遣いね」

「……ご主人様の優しさに感謝を」

「ありがとうなのです」

 収入の八割を俺がもらうのって、気が引けるんだよ。少しでもそれを分散させたいわけ。


 さて、魔石は属性を表す鈍い色をしているが、宝魔石は宝石のように綺麗な色をしている。実際に金持ちが宝石として使っているらしく、お値段はそれなりに高額だった。


 魔石のほうは親指の先くらいの大きさで、宝魔石は小指の先くらいの大きさ。それでも内包されている魔力は段違いに宝魔石のほうが多いらしい。

 れいだから俺も指輪にしてアンネリーセに贈ろうかな。きっとアンネリーセならどんな色の宝魔石でも似合うと思うんだ。




 勇者たちをねぎらうパーティーを開きましたが、戦闘系ジョブを持つ方々の表情は二極化しています。


 シンジ=アカバは剣士の方と二人だけのパーティーを組んでいますが、その剣士は目の周りやほおくぼみ、病人のような顔をしています。シンジ=アカバが無茶なことを言って剣士を困らせているのでしょう。

 剣士をそろそろ救済しなければいけませんね。それによってシンジ=アカバは孤立してしまうでしょうが、それは彼自身の招いたことです。受け入れてもらうしかないでしょう。


 嵐の勇者ハヤテ=ウチダは五人パーティー、黄金の勇者サダオ=ツチイは七人パーティーですからシンジ=アカバのパーティーよりは安定しているようです。それでもパーティーメンバーからギスギスした雰囲気が感じられます。


 これら問題がある勇者のパーティーと違い、せいかいの勇者イツキ=ミズサワのパーティーは順調にダンジョン探索が進んでいます。

 十四人のパーティーで、荷物の運搬も話し合いで決めているようです。おそらく先の三勇者のパーティーの状況を見て、反面教師にしているのでしょう。


 問題の三勇者パーティーには、期待が持てません。騎士団長や魔法師団長も色々手を尽くしているのですが、彼らは我が強くわたくしたちの言葉に耳を傾けてくださらないのです。

 探索の成果でも差が出ていて、シンジ=アカバのパーティーは二階層、ハヤテ=ウチダとサダオ=ツチイのパーティーは三階層、イツキ=ミズサワのパーティーは五階層を主に探索しています。しかもイツキ=ミズサワのパーティーは次で五階層のボスに挑戦すると聞いています。


 問題の三勇者パーティーはダンジョン探索を始めて二カ月ほどになりますが、イツキ=ミズサワのパーティーはまだ一カ月です。訓練をしっかり積んで、準備をした人とそうじゃない人の差がありありと表れています。


「シンジ=アカバのパーティーメンバーの剣士が心配です。しばらく休養させるように取り計らってください」

「承知しました」

 騎士団長にそう指示してわたくしはパーティー会場を後にしました。問題児たちのおかげで、苦情が色々来ていて対処しなければいけません。困ったものです。


 ある日のこと、廊下を歩いているとシンジ=アカバがわたくしを呼び止めました。

 呼び止めるのは構わないのですが、わたくしを呼び捨てにするのはめていただきたい。これでもわたくし、王女ですから。

「なんでしょうか、シンジ=アカバ殿」

「タケヒコの野郎を休養だとか言って、オッサンが連れていった。俺はこれからダンジョンに行くんだ、タケヒコを返せよ」

 シンジ=アカバがこのことで文句を言ってくるのは分かっていました。

「彼には休養が必要だと判断しました。ダンジョン探索はしばらくお休みください」

「休養っていつまでだよ?」

「それは状況を見て判断します。当面は安静が必要です」

「っざけんなよっ。そんなんじゃ、ダンジョンに入れねぇじゃねぇか」

 シンジ=アカバは床に唾を吐き、大声で怒鳴り散らしました。これまでこうやってわめいていたら、自分の思い通りになったのでしょう。しかし国を動かすわたくしにどうかつは効果がありませんよ。そういったことは、いくらでも経験していますから。

「だったら代わりを用意しろよ」

「シンジ=アカバ殿とパーティーを組みたいという者はおりません。ご自分の行動の結果です。少しは改めてはどうかしら」

「俺が何をしようが、俺の勝手だ」

「タケヒコ=オオバ殿を巻き込むのはお止めなさい。また、シンジ=アカバ殿への苦情が多く来ています。今のまま言動を改めることをしなければ、いずれろうの中で暮らすことになりますよ」

「けっ、説教なら他でやれ」

 シンジ=アカバはわたくしに背中を向けて、肩を怒らせて歩いていきました。彼は言動を改めそうにありません。困ったものです。


「エルメルダ様。ガルドランド公爵閣下より火急の報告が届きましてございます」

 わたくしが執務室に入ると、文官が封書を差し出してきました。

 ガルドランド公爵家は王家に連なる名家。その影響力は王家にも匹敵するほどです。勇者召喚を行うのを反対されていましたので、今の勇者のうわさを聞きつけて何か言ってきたのでしょうか。

 ゆううつな気持ちで封書を開け、手紙を読みます。

「っ!?

 わたくしは思わず目を見開き、奥歯をんでしまいました。

「直ちに騎士団長と魔法師団長、各大臣を招集してください」

「は、はいっ」

 手紙には悪魔が現れ、撃退したが行方は不明とありました。悪魔は聖属性を持った者にしか倒せません。それこそ勇者や聖騎士などの聖属性のジョブが必要なのです。

 父が病に倒れている時に……弟はまだ十歳。責任を負わすには若すぎます。ここはわたくしが踏ん張らないといけません。


 騎士団長、魔法師団長、そして各大臣が集まり、ケルニッフィに悪魔が現れたことを話しました。

「悪魔を倒せていないにしても、撃退できたのはさすがガルドランド公爵家ですな。おそらくバルカン殿が撃退したのでしょう」

 騎士団長が腕を組んでそう言いました。

「バルカン殿ではありません。最近ガルドランド公爵が名誉男爵に取り立てた方が悪魔を撃退されたそうです」

 公爵からの手紙を騎士団長に渡します。

「まさかバルカン殿以外に悪魔を撃退できる者がいるとは……」

 騎士団長が噛みしめるようにつぶやきます。

 王家に仕える者の中に、悪魔を退けることができるつわものが何名いることでしょう。騎士団長と魔法師団長はバルカン殿と同等の強さを持っていますが、あとはこの二人には劣る者が数名でしょうか。総勢で十人もいないでしょう。

 本当でしたら勇者たちの名を挙げるのですが、彼らはまだレベルが低い。それに期待できるのはイツキ=ミズサワ殿とそのパーティーの数名のみ。

 今は成長に期待するしかない状況ですが、いつどこに悪魔が現れるか分からないのが嫌ですね。悪魔に備えるにしても、地方で現れられたら町が壊滅するかもしれません。


 手紙は騎士団長から魔法師団長、そして各大臣へと回ります。

「公爵家から各貴族へ警戒を促しておりますが、王家としても積極的に警戒を促すべきでしょう」

「魔法師団長のおっしゃる通りです。これは王家が主導する案件にございます」

 大臣たちが手分けして各貴族家に、悪魔が現れたと警戒を促すことになりました。

「このフットシックルなる名誉男爵について、もう少し情報を集めましょう」

「いっそのこと、王都に呼んではいかがでしょうか?」

「名誉男爵を王都に呼べば、公爵殿が不機嫌になりましょう」

「そこは褒美を与えるとでも言えば、断ることはしないでしょう」

 そうですね。その名誉男爵を王都に呼び、褒美を与えましょう。

「褒美は何がいいでしょうか?」

「爵位では公爵が良い顔をしないでしょうから、金銭か魔剣のようなものではいかがでしょうか」

「魔剣を与えましょう。宝物庫にいくつかあったでしょう」

「悪魔を退治したならともかく、撃退ですから宝剣を与える必要はございません。町で売っているもので、良いものを見繕って与えればよろしいでしょう」

「分かりました。それについては財務大臣に任せます」

「承知しました」

 あとはそのフットシックル名誉男爵なる人物の情報を集めるよう指示し、会議は終了です。