
ダブルジョブの特徴は、二つのジョブのスキルを全て使えることだ。さらにサブジョブの能力が五十パーセント加算されることから、単純に考えて能力が一・五倍になる。ではない。
たとえば、メインジョブが剣士・レベル一の時に、サブジョブに剣豪・レベル二五をセットするとどうなるか。答えは剣士・レベル一六くらいの能力値になるのだ。しかもスキルの能力補正が別にあるから、実際にはそれ以上の能力値になる。これは素直に
さて、俺は最適なジョブの組み合わせを考えることにした。
物理攻撃力値と物理防御力値の高さは剣豪か両手剣の英雄。やや剣豪のほうが上だけど、両手剣の英雄はバランスがいい。
魔法使いはエンチャンターしかないが、こちらは打たれ弱いことからメインにするのは怖い。今のところはサブ一択。
使い勝手がいいのは、暗殺者だ。暗殺者の能力は俊敏値が最も高く、何よりもスキル・隠密と急所突きの併用で百パーセントのウルトラクリティカル(ダメージ四倍)が発生する。
気配を感じられ、容姿やステータスを変え、姿を消せる。逃げ足も速いし、いざという時は一番頼りになる気がする。
相手がバルカンだと隠密を発動していても気づかれる可能性はあるが、捕縛からの神速発動で逃げることは
そんなわけで、外を歩く時はメイン剣豪、サブ暗殺者にする。ダンジョンでは状況に合わせて変更だ。
今日は転生五十九日目だ。俺がレベル上げしている間、バルカンをはじめとする騎士団は昼夜を問わず町中を巡回していた。騎士団が巡回を始めてから、首斬りネストは現れていないらしい。
騎士団の巡回のおかげで他の犯罪も減っているらしく、住民からこのまま続けてほしいという要望も出ているとか。騎士団はそれだけ犯罪者から恐れられているということなんだろう……そうか、バルカンか。バルカンが恐れられているから犯罪者たちは鳴りを潜めているんだ。あの顔、怖いもんな。
こんな騎士団の内情を俺が知っているのは
「ところで今回はプレゼントはないのか?」
「今回は、という意味が分かりません。公爵様」
今さらだけど、俺は絶対に認めないからな。
それにそんなに都合よく犯罪者の情報を持っているわけないし。ちょっとは考えてよね、公爵様。
「まったく……」
なぜ
「首斬りネストなる犯罪者がいることは知っているな?」
唐突だね。
「はい。知っています」
「その首斬りネストを捕まえたい」
「……私にどうしろと?」
「捜索に手を貸してもらいたいのだ」
途中から予想していたけど、マジかぁ。
「私にそのようなことができるでしょうか?」
「
質問を質問で返すなよ。
「首斬りネストは騎士団の巡回が行われるようになって、他の町へ行ったのではないですか?」
「二度と現れないならそれでいい。しかしその保証があるわけではない。どうだろうか、騎士団の中隊を配下につける。やってくれないか」
公爵がここまで下手に出るなんて、どうしたの?
叙爵の時は決定事項のように言われたけど、あの後によく考えてみたら俺は乗せられたんだと気がついた。
公爵は褒美を渡すと命令したように見えたが、命令じゃない。あれは公爵の都合を話したのであって、命令じゃなかった。それを了承した俺に、公爵は爵位を与えただけなんだ。駆け引きというやつなんだろうけど、それをすぐに判断するのはただの高校生だった俺には難しいよ。
そして今回は命令じゃなくて、とても困っているから助けてほしいという
断ることはできるけど、それをすると俺の後味が悪い。俺の性格をさらに調べていて、こうやって頼んでいるのか? それはそれで気分のいいものではないけど、そのように決めつける証拠はない。
殺人鬼が町にいると安心して暮らせないから、俺も首斬りネストについては早く捕まってほしいと思っている。聞いたところでは
公爵の顔を見ると、なんとも言えない表情だ。無表情のようだが、何かを訴えているような表情にも見える。さっさと解決してこいと言っているようにも見えるのは、俺の性格が
多分、これは公爵家にとって有事に相当するんだろう。死亡者が増えて領内が不安定になったらいけないんだろうな。
犯罪者を捕まえるのは悪いことではないし、今回は公爵の頼みを聞いてやろう。もっとも、俺が首斬りネストを捕まえられる保証などないけど。
「私に何ができるか分かりませんが、拝命いたします」
場を騎士団詰所の一室に移し、俺の部下に指名された中隊と引き会わされた。
どの騎士団員も俺よりも屈強な体をしている。俺のこの体は成長するのだろうか? せめて背が百七十センチくらい欲しいんだけど。
そんな騎士団員の中でも、中隊長は身長二メートル超の
「第十三中隊隊長のローク=バルカンです」
「ん、バルカン?」
「父がお世話になっております。フットシックル名誉男爵」
こ、この人……あのバルカンの息子か!?
どうりでデカくて凶悪な顔をしてるわけだ。遺伝子がいい仕事をしている。
「いつも騎士団長殿にはお世話になっております」
バルカンの息子だと思うと、気後れしてしまう。いやいやダメだ。こんなところで気後れしてどうする。俺はバルカンをぶっ飛ばすんだ。
「父がいつもすみません。気に入った方がいると、見境ないのです」
俺は気に入られているのか? 何度も殺されかけたんだが?
「あ、すみません。隊員たちにお言葉をいただいてよろしいですか」
心を平静に保つんだ。こいつはバルカンでも違うバルカンなんだから。
「トーイ=フットシックルです。公爵様より首斬りネストの捜索を命じられました。若輩者の俺の下で働くのは不本意でしょうが、よろしくお願いします」
拍手も何もない。これは無視されているのだろうか?
「それではフットシックル名誉男爵。これまでの状況をご説明いたします」
ロークはさらっとこの状況を流した。いい性格をしている。
「俺のことはトーイと呼んでください。名誉男爵もつけなくていいですから」
「……そうですか。それでは、トーイ殿とお呼びします」
ロークと隊員たちに現状を説明してもらった。
「地図を見せてもらえますか?」
「地図……ですか? ございませんが」
「はい?」
何を言っているんだ、
「マップですよ?」
「はい。地図ですよね」
地図で通じていたようだ。
「地図がないのにはいくつかの理由があるのです」
聞こうじゃないか。
「まず一つ目は地図は金庫に大事にしまわれており、私たちのような下の者が目にすることはありません。二つ目に十数年もすると街並みが変わりますので、わざわざ作ることはありません。三つ目に地図を正確に描けないこと。四つ目に地図が敵の手に渡らないようにです」
俺が理解できるのは、四つ目だけなんだけど。
一つ目は公爵かザイゲンか知らんが、金庫から出せばいいだけだ。
二つ目は当たり前のことだ。街並みが変わるのが嫌なら、区画整備して新築の規制をすればいい。公爵ならそれくらいできるだろ。議論する気にもならない。
三つ目はバカかと言いたい。地図職人を育てればいいだけの話だ。職人でなくても、ある程度距離感覚に優れて絵が
まさか異世界の地図事情がここまで低迷しているとは思ってもいなかった。
「それですとケルニッフィだけでなく、ケルニッフィ周辺の地図もないということですか?」
「周辺地図は簡易的なものがあります」
「それを見せてもらっても大丈夫ですか?」
「はい」
ロークは部下に周辺地図を取りに行かせた。部下はすぐに帰ってきて、A2サイズ(A3サイズの倍の大きさ)くらいの皮紙を広げた。
「………」
声もない。こんなの子供のお絵描きじゃないか。これを地図と呼ぶなら、大概のものが地図になる。
以前テレビで見た旅番組を思い出した。外国でも
「これは方向と町と村の位置関係を表しています」
「金庫に入っているケルニッフィの地図もこんな感じですか?」
「先ほども申しましたが、私たちでは見ることもないものですから、私では分かりません」
そうだったね。
さて困ったぞ。ジョブ・探索者にはスキル・マッピングがあるから、歩き回れば地図を描くことはできる。だけど地図自体を描いてはいけないとなると、話がややこしくなる。
俺はザイゲンに面会を求めた。
「地図を見せろとな?」
「はい。聞けば、ケルニッフィの地図は金庫にしまわれているものしかないとか。それを見せてほしいのです」
ザイゲンが八の字眉になる。そんなに困ったような顔をしなくてもいいと思うんだが? 戦略物資なのは分かるけど、金庫にしまい込むくらい貴重なのか?
「それは首斬りネストの件と関係あるのかね?」
「それを確認するためのものです」
「……いいだろう。地図を見せよう」
公爵の許可は要らないのか?
ザイゲンが自分の執務室にある金庫を開けた。その金庫かよ。
「これがケルニッフィの地図だ」
やっぱりかなりラフなものだ。こんな地図を後生大事にしまい込んでいるなんて、信じられないな。
「ちょっと失礼」
デスクの上に広げられた地図を凝視する。通り名や探索ギルドなどの目立つ建物などが記載されているから、なんとなく分かる。
「ローク隊長。一件目の被害はどこですか?」
「あ、はい。アームズ通りの四五番です」
アームズ通りの四五番に目印を置く。ザイゲンの机の上にあったものを勝手に使わせてもらう。
「二件目は?」
「イヤー通りの一二八番です」
同じく目印を置く。
そうやって全部の現場に目印を置いた。
「こ、これは……」
ザイゲンが何かを言いかけたのを無視して、俺は地図の目印を
「これを見る限り、犯行現場はこの周辺に固まっています。このことから首斬りネストはこの辺りに住んでいるか、標的になる娼婦がこの辺りに多いか、もしくは土地勘がある人物でしょう」
「この辺りは娼婦が特別多い地域ではありませんね……」
住居が近いか土地勘のある可能性が高まった。
「よく知ってますね」
「騎士団に入る前は警備隊に所属し、そこに近い場所を受け持っていましたから」
へー、バルカンの息子でも下積み時代があるのか。
以前聞いた話だが、騎士団員の多くは元々警備隊員らしい。警備隊でしっかりと働き、優秀な者が騎士団に引き抜かれていくそうだ。
「まさか地図にこのような使い方があるとは……」
いや、戦略物資なら防衛計画を練る時などに使うだろ。地図は宝としてしまい込むものではなく、有効に使うものだぞ。ザイゲンは頭が良さそうに見えるのに、抜けてるな。
「ローク隊長。警備隊と騎士団が巡回する経路と、その時にどういった格好をしているか教えてください」
「経路はその者たちに任されていますので、担当はありません」
組織立った捜査はされていないわけか。
「格好は公爵家から支給されている
犯罪者を威嚇して犯罪率を下げるのには効果がありそうだけど、犯罪者を捜すには適さない格好だ。そんな格好の兵士を見たら普通は逃げるか何もしない。
「俺はこの辺りが怪しいと思います。今夜、平服とは言いませんが、探索者に見えるような格好で巡回しましょう。できるだけ小汚い格好のほうがいいですね」
「それは騎士団だと分かったら、首斬りネストは出てこないということですね」
分かっているじゃないか。それなら最初からそうしてくれ。
「その通りです。騎士団がずっと巡回し続ければいいのでしょうが、それでは騎士団も大変でしょうから、首斬りネストが出てきやすい状況を作らなければいけません。なので他の騎士団の巡回はこの地域を外してもらうように手配してください」
「承知しました」
他にやるべきことをロークに頼み、俺は一度屋敷に帰って探索者の装備に着替え、夕方に現地近くの警備隊詰所に集まることにする。
寒風が建物の間を吹き抜け、ぶるりと体を震わせる。
「そろそろ雪が降りそうですね」
アンネリーセが、俺の首にスカーフを巻いてくれた。この世界にはセーターのような毛糸の服はあるけど、マフラーはないようだ。
「ありがとう、アンネリーセ」
警備隊詰所の前のベンチにアンネリーセとロザリナと共に座って騎士たちの準備ができるのを待っていると、ロークが俺を呼びに来た。
「トーイ殿。全員
詰所に入ってローク配下の部隊員たちを見る。俺が言ったように小汚い格好の者が多かった。あくまでも多いというだけで、鎧姿の者もいた。
「彼らは巡回しないの?」
鎧姿の二人のことを聞いた。連絡係も必要だから、その要員なんだろう。
「いえ……あの者たちはその……」
言いにくそうだ。何かな?
「我々は誉れある騎士だ! こんな汚い格好などできぬ!」
「そうだ、我らは名誉ある騎士だ。騎士としての待遇を要求する!」
なんだか察してしまった。多分貴族出身のボンボンたちなんだろう。それも高位の貴族家だ。
ロークもバルカンの息子だからボンボンだと思うが、あのバルカンの息子だから
しかし上司の命令を聞けないなんて、職務怠慢もいいところだ。
「ローク隊長。彼らは邪魔なので他の場所の巡回をさせてください」
「邪魔とは失礼にも程があるっ!」
「たかが名誉男爵のくせに、生意気な」
好きで名誉男爵してるわけではないんだけどさ。
「彼らには考える頭がないのですか?」
俺は二人を無視して、ロークに質問した。
「え、いや……そういうことはないかと」
「今回の目的は説明したんですよね?」
「はい」
「じゃあバカでしょ」
「「貴様っ!?」」
俺とロークの会話に、二人が割って入ってきた。
「うるさいっ。俺はローク隊長と話しているんだ!」
一瞬で二人を殴り飛ばした。メインジョブは剣豪だけど、サブジョブが暗殺者の俺の動きは二人に見えなかったようで、面白いように飛んでいった。死んでないから問題なし。
俺とこの二人は友達ではない。少なくとも今は俺の部下だ。騎士団といえば軍隊も同じ(多分)。上官が許可してないのに
公爵に半ばハメられて名誉男爵になった俺に比べれば、お前たちは自分の意志で騎士をしているんだろ。まさか親に言われて騎士になったのか?
どちらにしろ、騎士の名誉だのなんだのと言っているんだから、騎士として上官の命令を命をかけてでもやり遂げようぜ。俺の下で働くのが嫌でも、それが騎士の仕事じゃないの?
それにその程度のことも分からん奴は、本当に捜査の邪魔だ。
俺はさっさとこんな刑事ゴッコを終わらせて、ダンジョンでレベル上げをしたいんだよ。
「ローク隊長。公爵家の騎士団には、部下が上官の命令に逆らう権限を与えているのですか?」
「……いいえ、上官の命令は絶対です」
「なら、こいつらは命令違反を犯しているわけですね。俺が知っている軍隊では命令違反した者は厳しく罰せられますが、この騎士団では違うのですか?」
顔が引き
「いえ、トーイ殿の
「では、すぐにこの二人を独房に放り込んでください。あとは軍規に従って、処分をお願いします」
「承知しました。おい、こいつらを独房に入れておけ」
二人は独房へ、俺はロークとお話。うん。めでたし、めでたし。
「それでは、今日の巡回について説明します」
アンネリーセとロザリナが壁に紙を貼っていく。これ、俺が描いた首斬りネストが出やすいと思われる場所の地図。
ザイゲンにはこの周辺だけの地図ならと、ちゃんと許可をもらっている。
地図は黒インクで描かれている。その上に赤いインクでマーキングしてあるのが、首斬りネストの犯行現場だ。
「ここからここまでは一班、ここからここは二班───」
ロークの中隊には、六個分隊が所属している。その分隊単位で受け持つ範囲を地図に記載する。これで誰でも自分の持ち場が分かる。
あの二人が分隊長をしていた分隊は、部下を仮の分隊長にしてちょっと外側に配置。
「最後にそこにある酒を服にかけてから巡回に出てくださいね」
わざわざ酒屋でエールの
「飲むのではないのですか?」
ロークの質問に、俺は苦笑を返す。
「これから巡回するのに、飲んでどうするんですか。これは皆さんの体に酒の匂いをつけるだけのものです。酒の匂いで酔う人はつけなくていいですが、これを服に染み込ませておけば、酔っ払いのフリができます」
「なるほど。酔っ払いのフリをすれば、繁華街に近い路上にいても不自然じゃないですね」
「その通りです。まずは首斬りネストを安心させないと、カメが甲羅の中に閉じこもるように出てきませんからね」
俺の説明に納得した隊員たちは、服にバシャバシャッとエールをかけて詰所から出ていった。
「ローク隊長。俺たちも行きますよ」
「はい」
俺はロークにエールをかけた。それは盛大に、投げつけるようにかけた。
「ちょ、なんか痛いんですけどっ」
「そんなことないです。気のせいですよ」
バルカンへの恨みを息子で晴らしているわけじゃないからね!
俺の部隊の持ち場は、繁華街から少し離れた路地裏を含めた百五十メートルほど。俺、アンネリーセ、ロザリナ、ガンダルバン、兵士たち四人。兵士たちは探索者になった頃の質素な服を着て男女で組んでカップルを装う。
犯罪者を捕まえるために違法なことをしたら本末転倒だけど、
アンネリーセは娼婦に変装している。日頃化粧っけのないアンネリーセが、本気の化粧をするとさらに
そのアンネリーセは、とても
きっと首斬りネストもアンネリーセの美しさに
一方ロザリナは
さて俺だけど、アンネリーセのすぐ近くで監視中だ。メインジョブを暗殺者にして、サブジョブを剣豪にしている。これが一番俊敏値が高くなる組み合わせだから、もしもの時には素早く対応できるだろう。
当然ながら隠密で姿を消している。
最初は俺が偽装で娼婦を演じるつもりだったけど、アンネリーセがどうしてもやらせてほしいと言ってきた。アンネリーセは言い出したら聞かないところがある。困ったものだ。
そんなわけで、俺はアンネリーセのそばで彼女を警護している。
囮捜査を開始して三時間ほどが経過した。
「うー、冷える……」
足の指の感覚がなくなってきたよ。こんなことは早く片付けて温かい風呂に入りたい。風邪をひきそうだ。
マントを羽織っている俺でもこれだけ寒いんだから、薄着のアンネリーセはもっと寒いはずだ。早く終わってほしいものだが、こればかりは首斬りネスト次第だからな……。
これまでに何度か男が近づいてきたが、アンネリーセが白金貨一枚と言うと、暴言を吐いて去っていった。貴族や金持ちなら白金貨くらい出せるけど、一般人には大金だ。
誰かの気配が近づいてくるのを、スキル・感知が察知した。
暗がりから現れたのは女だ。彼女も娼婦のようで、胸元の開いた真っ赤なドレスを着ている。
真っ赤なドレスが赤毛によく似合うが、やや地味な顔の女性だ。ばっちり化粧しているが、すっぴん時のアンネリーセには
「あら、見ない顔ね。ここは私のシマよ」
ドラマで聞きそうなセリフだ。
「そう……ごめんなさいね……」
立ち去ろうとするアンネリーセを彼女が呼び止める。
「いいわよ、どうせすぐに客がつくわ。
その言葉を否定できない俺がいる。俺だってアンネリーセが奴隷じゃなければ、とっくの昔にお願いしているところだ。
ただ、彼女がそばにいると首斬りネストが出てこないと思う。できればどこかに行ってほしい。
「あんた、名前は?」
「……アニー」
「そう。私はリネンサよ」
リネンサがアンネリーセの頭の先からつま先まで品定めするように見た。
「アニーは美人ね。こんなところで客引きなんかしなくても、店に所属すれば人気になるんじゃないの?」
「たまにしか取らないから」
「ふーん。美人は言い値で買ってもらえるから、楽でいいわね。私なんか……」
リネンサが
「大丈夫?」
アンネリーセがリネンサの肩に手を置く。
リネンサは左手で両目を覆い、すすり泣く。
「大丈夫よ、私なんか首斬りネストに殺されればいいんだから」
「そんなことないわ。死んではいけないわ」
「あなた、優しいのね」
リネンサの右手がアンネリーセの肩に。
「大丈夫よ、死ぬのは私じゃないから!」
「っ!?」
ドレスのスリットから出てきた太ももにはナイフが。
ヤバいと感じた俺は無意識に手を出していた。
ガシッ。
リネンサのナイフは、アンネリーセの首の手前で止まった。そのナイフの刃を俺が
「な、なんだい、あんたは!?」
「それはこっちのセリフだっ」
リネンサの顔面を殴り飛ばす。
手加減したつもりだけど、鼻が折れるくらいは構わないだろう。
「ご主人様!?」
ナイフの刃を握る俺の手を、アンネリーセの両手が包み込む。
柔らかい手の感触が、俺の指を一本一本広げていく。
「俺は大丈夫だ」
暗殺者でも防具をつけているから、物理防御力はそれなりにある。ステータス制の良いところは、生命力がゼロにならない限り死なないということだ。
ナイフを掴んで減った生命力はたったの五ポイント。幸いナイフに毒は塗られてなかったから、それだけで済んだ。
「ご当主様!」
「ガンダルバン。逃がすなよ」
「はっ!」
ガンダルバンがリネンサを押さえ込む。巨躯でレベル二八の剛腕騎士に押さえ込まれては、小柄なリネンサに逃げる

ロザリナが俺のところに駆け寄り、俺に抱きつく。
「ご主人様!」
「俺は大丈夫だ」
「はいなのです」
涙目のロザリナが、ギューッとしがみついてくる。痛い、痛いからちょっと力を緩めてくれ。
「ご主人様、ポーションをお飲みください!」
「薄皮一枚切れただけだから」
「お飲みください!」
「お、おう……」
アンネリーセのあまりの勢いに
たった五ポイントの生命力のためにそこそこ高価なポーションを飲むのはもったいないが、それでアンネリーセの気が済むならいいか。
騒動を聞きつけて、ロークたちが駆けつけてきた。
あとはロークに任せればいいだろう。寒いから早く風呂に入りたい。
「トーイ殿!」
ローク隊長が駆け寄ってくる。暗闇から顔面凶器が現れると、かなり怖いものがある。無意識に攻撃しなかった俺を自画自賛。
「あの女が首斬りネストなのですか?」
「ナイフでアンネリーセの首を斬ろうとしたのは確かですが、首斬りネストかどうかは」
「レコードカードを確認させます」
「そうしてください」
詳細鑑定をしておけば、もっとスマートに捕縛できたはずだ。アンネリーセに怖い思いをさせずに済んだ。ちょっと反省だな。
「間違いない。こいつが、この女が首斬りネストだ」
レコードカードを確認したロークが自慢げに叫んだ。
しかし首斬りネストの正体が娼婦だとは思わなかった。いや、まだ娼婦と決まったわけではないか。でも女だとはまったく思っていなかった。思い込みはダメだよね。
多分だけど、騎士団や警備隊の誰もが男だと思っていたはず。俺だけが勘違いしていたわけじゃないのが救いだな。
「なんで騎士団がいるのよ。あんたたちの巡回は終わったって聞いたのに!」
リネンサが叫ぶと鼻血が飛び散った。
「お前を捕縛するための
ロークがとても誇らしげにリネンサを見下ろしている。それ俺の作戦だからね。
首斬りネストをおびき出すために、この辺りの
まさか一日目で首斬りネストを捕縛できるとは思っていなかったから、情報操作の有用性を思い知ったよ。
「ローク隊長。あとは任せてもいいですか」
「はい。お任せください!」
縄でぐるぐる巻きにされたリネンサを見て、俺は
細かいことは置いておいて、俺は
「ぎゃぁぁぁっ」
なんだ?
悲鳴が聞こえたほうを見ると、騎士団員が吹き飛ばされて壁に激突したところだった。
何が起こった?
「ウガァァァァァァァァッ」
リネンサの筋肉が盛り上がって、それが縄を引きちぎった。
「えぇ……なんの冗談だよ?」
「「ご主人様」」
アンネリーセとロザリナが俺を
「ご当主様。お下がりを」
ガンダルバンがさらに前に出ると、それに続いて兵士たちも俺たちを守るように展開して警戒マックス状態。
リネンサの筋肉はどんどん大きくなり、まるで巨大なゴリラのようになっていく。
「あれはなんだ? 何が起きているんだ?」
「まさかあれは!?」
「ガンダルバンはあれが何か知っているのか?」
「……おそらくですが、あれは悪魔
「悪魔憑き……?」
「悪魔と契約した者のことです」
なんとまぁ……。まるで映画のような話だな。
詳細鑑定でリネンサを見た。マジか……。
▼詳細鑑定結果▼
【ジョブ】娼婦 レベル一五 (悪魔憑き レベル三〇)
【スキル】房中術(中) 性病耐性(低) 絶倫(低)
【契 約】下級悪魔パティス
本当に下級悪魔と契約していたよ!
リネンサは本名みたいだけど、なんでネストなんだろうか? それなら首斬りリネンサでいいじゃないか。
あー、でも首斬りリネンサじゃ、こいつが犯人ですってタレこまれそうだな。
てかさぁ、ジョブが娼婦っていいのか。スキルに性病耐性があるからいいのか?
おっと、こんなことを考えている場合じゃないや。
「こいつ、悪魔憑きだぞ! 盾持ちは前列に!」
「隊長、盾持ちなんていませんよ。俺たちは探索者や平民の格好をしているんですから」
「うっ……こんな時に」
なんかすみません。その作戦、俺が提案しました。
しょうがない。ここは一肌脱ぐか。
「俺を囲んで、騎士たちから見えないようにするんだ」
「はい。お前たち、ご当主様を囲め」
ガンダルバンたちは俺よりも大きな体をしているから、俺を隠すのは簡単だ。
アイテムボックスからガンダルバンたちの盾と武器を取り出して渡す。俺もガーゴイルバスターを取り出した。
「ローク隊長。ここは俺たちが」
「す、すみません。おい、すぐに援軍を呼ぶんだ」
俺たちが前に出ると、ロークは近くに展開している騎士団を呼びに行かせた。
その間にもリネンサはまるで巨大なゴリラのように変形して、二階建ての建物くらいの大きさになった。まるでニューヨークのビルに登ったゴリラのように大きいが、その頭には羊のような巻き角があり、ついでに尻尾まである。
特撮の怪人が変身するのを見ているようで、ちょっとだけウキウキしてしまったのは内緒だ。
「#%(&$%($#%&(%#&%&$#」
「何を言っているんだ?」
まるでノイズのような不快な声を発するリネンサ。いや、すでに下級悪魔パティスに体を乗っ取られている。受肉というやつっぽい。
下級悪魔パティスは、体が巨大ゴリラ、頭は雄羊、背中にコウモリのような被膜の翼の化け物になった。
「モウスコシ チカラヲ タクワエテカラ ジュニクスル ツモリダッタガ マアイイ オマエタチヲ イケニエニシテヤロウ」
あ、喋った。さっきのノイズはなんだったんだよ。
「しかし片言なんだな。
「ワレヲ バカニスルトハ イイドキョウダ」
睨まれてしまった。
下級悪魔パティスが体をちょっと動かすと、石造りの建物が破壊された。
「うわー、迷惑な奴だな」
「ご当主様。悪魔の強さは尋常ではありません。後方に」
ガンダルバンの表情に余裕がない。それほど強いということか。
「いや、俺も一緒に戦う。勝てそうにない時は、逃げるけどな」
「そうしてください」
「フフフ ワレカラ ニゲラレルト オモウナヨ ヒトヨ」
「ふふふ。逃げる気はないから安心しろ、下級悪魔よ」
俺は下級悪魔パティスと睨み合いながら、不敵に笑う。
「いきます!」
ガンダルバンがアンガーロックを発動。
「グオォォォッ」
ガツンッと鈍い音。下級悪魔パティスの拳を、ガンダルバンが盾で受け止めた。
ガンダルバンの足元の地面が
「こんなものっ」
ガンダルバンが下級悪魔パティスの拳を押し返す。パワーで引けはとらない。
「ナンダト」
下級悪魔パティスは驚いているようだけど、レベル差はほとんどない。
下級悪魔パティスのレベルは三〇。対してガンダルバンのレベルは二八。四人の兵士もアンネリーセもロザリナも皆レベル二八だ。
多少の不利はあっても、決定的な差ではないのだよ、下級悪魔くん。
ロザリナと兵士たちが下級悪魔パティスを囲んで殴る。アンガーロックが効いている間は、ロザリナたちに攻撃が向くことはない。
下級悪魔パティスが暴れるにつれて、周囲の建物が破壊されていく。民間人が
ロークたちが民間人の避難誘導をしている。父親は脳筋だけど、ロークはまともだ。顔は同じDNAだけど。
俺はメインジョブを両手剣の英雄にし、サブジョブを暗殺者に変更した。
隠密を発動させ、下級悪魔パティスの後方に移動。
ジャンプしてガーゴイルバスターを振り下ろす。
ズバンッ。
「グギャァァァッ」
下級悪魔パティスが振り向くが、俺はすぐに隠密を発動しているから姿は見えないはずだ。
「ドコダッ」
怒りの声だと分かる。
虫けらくらいにしか思いつかない人間に、大きなダメージを受けて怒っているんだな。
下級悪魔パティスはガンダルバンに攻撃するが、それが周囲の建物へも被害をもたらす。
石の破片が雨のように降り注ぎ、それが避難する民間人に当たって被害を出していた。
「ブチコロス デテコイ」
そう言いながらガンダルバンを殴る。怒りは俺へ向いているようだが、体がガンダルバンを攻撃するようだ。見ていてちぐはぐな言動になっている。
だいたいさ、怒りたいのは俺のほうだぞ。こいつがリネンサにとり憑いたおかげで、三時間以上も寒風に曝されていたんだからな。風邪ひいたらどうしてくれるんだよ。
アンネリーセだって囮とはいえ危ないところだった。この怒りはまとめて全部こいつに
「ドコニ イルゥゥゥッ」
ここにいるさ。ズバンッ。
「グアァァァッ」
「アンガーロックッ」
「ファイア」
ガンダルバンがアンガーロックをかけ直すと、アンネリーセのファイアが命中。
火に焼かれて悲鳴をあげる下級悪魔パティス。いい気味だ。
───アシッドストライク。
「ギャァァァッ ヒキョウモノッ スガタヲ アラワセ」
リネンサにとり憑いて、悪さをしていた奴にだけは言われたくない。
今のアシッドストライクで、下級悪魔パティスの物理防御力値が三〇パーセント低下した。
「今だ、ぶちかませっ」
「「「「「応!」」」」」
「はいなのです」
ガンダルバンのスキル・パワーアタック(中)。物理攻撃力値が三倍になる攻撃だ。
二人の剣士のスキル・スラッシュ(中)。こちらも物理攻撃力値が三倍になる攻撃だ。
二人の
ロザリナのスキル・ラッシュ(低)。これは一分間攻撃回数が三倍に増え、物理攻撃力値+三〇ポイントになるスキルだ。
そしてアンネリーセの無属性魔法・マナストライク(中)。マナの
「グアッ……」
ズドンッ。
下級悪魔パティスが倒れた。生命力もゼロになった。終わりだ。
「ご主人様」
「ご主人様~」
アンネリーセとロザリナが抱きついてくる。うん、いい感触だ。何とは言わないが、とても柔らかい。
「ご当主様。お
「怪我はない。皆もご苦労様」
「思ったよりも楽に倒せました。レベルが上がったおかげです」
四人の兵士は、俺のところに来る前のレベルで出会ったらヤバかったな。
「トーイ殿!」
「ローク隊長。後始末をお願いしていいですか?」
「もちろんです!」
寒くて死にそうだ。早く風呂に入りたい。さっさと退散だ。
「ぎゃぁぁぁっ」
今度は何!? え、また?
振り返ると、なんと下級悪魔パティスが立ち上がっていて、キング●ングよろしく片手で兵士を掴んでいた。むさい
なぜ美女にしない!?
避難したから近くに美女なんていないけどさ。
「なんで生き返っているんだ?」
「そうか!?」
ビックリしたー。どうしたんだよ、ガンダルバン。
「忘れておりましたが、たしか悪魔は聖職者か勇者でないと殺せないと聞いたことがあります」
「はあ? ……もっと早く思い出せよぉ」
「申しわけございません。随分昔に聞いた話だったので……」
ガンダルバンを責めてもしょうがない。詳細鑑定をしっかり読んでなかった俺が悪いんだ。
しかし悪魔って面倒だな。
【ジョブ】下級悪魔 レベル三〇
【スキル】ヘルファイアブレス(低) 悪魔契約(低)
たしかにスキルに復活・悪魔がある。
このスキルによって勇者や聖騎士、聖者のような聖属性を扱えるジョブ以外ではとどめを刺せないとある。
下級悪魔パティスが背中の翼をバサッバサッと羽ばたかせて飛び上がる。逃げる気だな。
「コノクツジョク カナラズハラス クビヲアラッテ マッテイルガイイ」
そういうの要らないから。
「アンネリーセ。あいつを落としてくれ」
「はい! マナハンド!」
ヌーッとマナハンドが伸びていき、下級悪魔パティスの足を掴んで引きずり落とす。
「グッ コンナモノッ」
なおも逃げようとしている下級悪魔パティスは、必死に翼を羽ばたかせている。
「必死だな」
ズドンッ。
「ナッ!?」
隠密を発動して近くの建物の壁を何度か蹴上がって屋根に上り、そこから大ジャンプして下級悪魔パティスの翼を斬った。
「ギャァァァッ」
片翼を失った下級悪魔パティスは地面に落下、その衝撃で掴んでいた兵士を手放した。
「アンガーロック!」
ガンダルバンがすかさずアンガーロックで、下級悪魔パティスの敵対心を引きつける。これで下級悪魔パティスは逃げたくても逃げられなくなった。ざまぁ。
「今だ、殴れ!」
俺の指示でロザリナと兵士たちが再び下級悪魔パティスを囲んでボコボコにする。
俺たちが殴りかかると、ロークが捕まっていた兵士を回収した。
「ウットウシイ ヤツラダ」
「オマエタチデハ ワレヲ コロス コトナド デキヌト シレッ」
腕を振り回し暴れる。
「うるせぇんだよ、この雑魚がっ」
ズバンッとガーゴイルバスターを振り抜く。急所突きと隠密の効果でウルトラクリティカルが発動し、生命力がグンッと下がる。
「ローク隊長。今のうちに全員を退避させてくれ」
「承知しました」
騎士団員も含めて、逃げ遅れていた全員を退避させる。これからやることに、ロークをはじめとした騎士団員は邪魔だ。
「うおおおっ、アンガーロックッ」
ガンダルバンはタンクとしてよくやってくれる。ガンダルバンがいなかったら、下級悪魔パティスを倒そうなんて思わなかっただろう。
「キサマラァァァッ」
口から黒い炎が放たれる。
ガンダルバンはその炎を盾で受け止め、ロザリナは後方へ大きく跳んで退避、兵士たちは下級悪魔パティスの後方に回り込んで炎を回避した。
戦い慣れているのは知っていたが、初見のヘルファイアブレス攻撃を
「生命力回復!」
ガンダルバンはスキル・生命力回復(中)を使った。これで生命力が一〇〇ポイント回復する。全快だ。
「アシッドストライクッ」
俺も負けてられない。アシッドストライク、急所突き、隠密のトリプルコンボを発動。
「よし、物理防御力が下がったぞっ」
スキル・アシッドストライクは五十パーセントの確率で物理防御力を低下させる。今の一発で効果発動だ。
皆がそれぞれの必殺技(スキル)を放つ。
「グギャァァァッ……」
ズドンッ。下級悪魔パティスが倒れた。
ここで先ほどは気を抜いて復活させてしまった。
今回はそんなヘマはしない。
「聖剣召喚!」
メインジョブを転生勇者に変更し、スキルを発動させた。
現れたのは俺が扱い慣れている両手剣だけど、ゲームに出てくるような装飾を施された剣だった。中二病を発症しているような、とても派手な剣である。
その
「もう二度と悪さするなよ」
聖剣を逆手に持ち、胸に突き刺す。
下級悪魔パティスは一瞬ビクンッとしたが、胸の傷口から光の帯が四方八方に飛散。まるで砂山のような
「ご主人様!」
「ご主人様~」
先ほどと同じくアンネリーセとロザリナが抱きついてくる。うん、良い感触だ!
「ご当主様……その剣は……」
聖者や勇者じゃなくても下級悪魔パティスの生命力をゼロにすることはできる。数秒かもしれないが復活までに時間がかかるのは分かっているから、動かない間ならレベル一の転生勇者でも安全に下級悪魔パティスを攻撃できると思ったんだが、本当に倒せた。
「あー、これのことは絶対に口外したらダメだからな」
聖剣召喚を解除すると、聖剣は光の粒子になって四散した。
「そんなものを召喚できるなんて、絶対に言えませんよ!」
日頃冷静なガンダルバンが叫んだ!
「ご主人様ですから、諦めてください」
アンネリーセさんや、それ、何気に酷くないか。
「ご主人様はご主人様なのです!」
うん、ロザリナはお黙り!
「まったく……いったいいくつの秘密をお持ちなのですか……」
「知りたい?」
「いえ、知りたくないです。言わないでください。今はあの剣だけでお腹一杯です!」
すっげー拒否られた。そんなに拒否らなくてもいいのに。
「ご当主様。こちらをご覧ください」
兵士の一人───リザードマン剣士のジョジョクが地面に落ちている何かを発見した。
「む、これは……」
直径十センチくらいの球の中で火が燃えているように見える。危ないものなんだろうか? 触ったら爆発しそうだ。
▼詳細鑑定結果▼
・宝珠(下級):使用することでスキル・精霊召喚を取得し、下級精霊一体と契約できる。価値は計り知れない。
ある意味、危ないものだな、これは。
しかし悪魔を倒すとこんなものが手に入るのか!? これは俺に悪魔狩りをしろと言っているんだよな? むふふふ。面白くなってきたぞ!
それにしても悪魔からのドロップアイテムなのに、精霊と契約か。そういうのって、悪魔と契約できるとかじゃないのか? 悪魔などと契約しないけどさ。
「ご主人様。ローク様です」
「ん、了解」
宝珠(下級)をアイテムボックスに収納。メインジョブも剣豪にチェーンジッ!
これで証拠はなくなった。
「悪魔は逃げた。これで通すぞ。いいな」
「「「「「承知しました」」」」」(ガンダルバン、兵士たち)
「はいなのです」(ロザリナ)
「それがよろしいでしょう」(アンネリーセ)
「トーイ殿!」
ロークが息を切らせて走り寄ってきた。
「あの悪魔は?」
「すみません。飛んでいってしまい、逃がしてしまいました」
翼があったのは、ロークも見ていたから納得してね。片翼を斬ったのは忘れてくれ。追及されたら生えたことにしよう。うん、そうしよう。
「そうですか……。すぐに公爵閣下に報告をします。一緒に登城してください」
えぇぇぇ……嫌だよ。早く風呂に入りたいのに。などと言えず、俺は城へ向かった。はぁ……。
目の前には眉間にシワを寄せた公爵。眉間のシワはザイゲンのキャラだよね。そのザイゲンはシワどころか溝になっていたよ。
ロークの部下たちが首斬りネストことリネンサについてあの
そりゃー恨むよな。俺ならその男を殺しているところだ。でもリネンサはその男ではなく、寝とった女を恨んだ。それはその女だけではなく、他の女もだ。世の中の女全てとまではいかないが、寝とった女と同じ娼婦を恨んだ。
その結果、悪魔に憑かれてしまい、娼婦たちを殺すようになった。悪魔は殺した女たちの魂を食い、とり憑いたリネンサの
「悪魔は倒しても倒しても復活すると聞いたことがある。討伐できなかったのは痛いが、致し方ないか……」
しょうがないよね、だから早く俺を解放してちょーだい。
「悪魔の件は国に報告しなければいけません」
「うむ。次はどこに現れるか分からぬから、私はここを離れられぬ。誰を使者にするか」
公爵とザイゲンが国への報告の使者について話し合って、誰それに任せるとか言っている。俺、いなくてもいいよね。
「バルカンは領内各所に警戒をさせよ」
「承知いたしました」
悪魔は俺が倒したから警戒しなくていいとは、言えないんだよね……。倒したのを知られると、俺が聖職者や勇者なのかと怪しまれる。面倒なことになるのは、間違いない。
「さて、フットシックル名誉男爵」
「はい」
やっと帰れるんだね。
「今回の件、よくやった。褒美を取らす」
「えぇぇ……」
褒美は呼び出さないことでお願いします。
「なんでそんなに残念そうにしてるんだ?」
「あ、いえ、なんでもないです」
「まあいい。フットシックル名誉男爵のこの度の働きは、素晴らしいものだ。よって勲三等
OK、勲章とお金もらって終わりね。眠いし風呂も入りたい。早く頂戴。
「悪魔を撃退したが、倒したわけではないから牡丹が妥当であろう」
え、俺に聞いているの? 勲章の種類なんて知らないんですけど。
「勲三等牡丹勲章は中位の功績に対する勲章だ。今回は悪魔の撃退ということで、討伐ではないため牡丹が妥当だと仰っておいでだ」
ちょっと待てよ。褒美にアンネリーセの奴隷解放を頼んだら、OKされるんじゃない?
「あの……」
「何か」
「勲章は要らないので、私の奴隷を解放していただけないでしょうか?」
「その奴隷のことはザイゲンから聞いている」
ザイゲンはちゃんと公爵にアンネリーセの話をしてくれていたようだ。
「アンネリーセがいなければ、悪魔の撃退はできなかったでしょう。ですから、どうか恩赦を与えていただければと」
公爵は腕を組み、数秒考えた。
「いいだろう。恩赦を与えよう。その上で、フットシックル名誉男爵に勲章を与える。いいな」
勲章はどうでもいい。アンネリーセの解放が
「感謝いたします。公爵様」
「後日、そうだな、五日後に勲章の授与式を行う。奴隷の解放もその時に行う」
「へ?」
何それ? 勲章の授与式? そんなのするの?
「勲章は授与式を行うものだぞ、フットシックル名誉男爵」
ザイゲンに
「でも名誉男爵になった時は何もしなかったですよね?」
「其方の叙爵理由が他の者に
シャルディナ盗賊団を壊滅させた功績だっけ? 俺は認めてないよ。
「あの時は貴族の中にも関係者がいて、いくつかの家を
「献金ですか?」
「献金の額が多い者に、年に数人名誉男爵を授爵している。それに紛れ込ませたのだ」
「なるほど」
公爵も考えているんだ。
「今回は悪魔の件だ。このケルニッフィの存亡の危機とも言えるような事案だからな。盛大に勲章授与式を行うとしよう」
それは要りませんから。
そんなわけで勲章をもらうことになってしまった。残念に思っているとバルカンと目が合った。
「ふむ。良い気配だ」
「え?」
バルカンに