
目の前には気難しそうな眉間のシワと、鋭い視線を持つ公爵家家宰ザイゲンが不機嫌そうな表情で座っている。その横には極悪非道な盗賊も
「まず、名誉男爵というものを理解してもらう。名誉貴族は一代限りの貴族位だ。よってトーイ殿の子孫に引き継がれるものではない」
俺自身も貴族位なんて要らないんですけど。
くすんだ金髪に白髪が混じるザイゲンは、どさりと二十センチくらいある紙の束をテーブルに置いた。
「これは持ち帰って全てに目を通してもらうが、重要なところだけはここで説明する」
これを全部読めだと!? 厚さが二十センチもあるんだよ!? ゲームのペラペラな取説でさえ読まない俺なのに……。
救いは羊皮紙のような厚手の皮紙の束だということか。百枚はないと思いたい。
「爵位としては、男爵と同じ権限と責任を持つ」
権限と責任……。大げさな表現だけど、そう言うからには何か面倒なことが含まれているんですよね。
「公爵家の有事の際には、何をおいても駆けつけてもらう」
「有事というのは、どんなことでしょうか」
「戦争、大規模な盗賊討伐などだ。あとは大評議会が年に二回、定期的に行われる。これの予定は事前に決まっている」
その大評議会の内容を聞きたいんだけど。
「年初に行われる大評議会は、公爵家における昨年の総括、そして新しい年の新方針を公爵閣下が発表される」
何その難しそうな内容。そんなものに出席しても、俺には何もできませんけど。
「晩夏から初秋に行われる大評議会は、中間発表のようなものだ。これらは公爵家に仕える全貴族に出席が義務づけられている」
「私は公爵様の発表を聞くだけでしょうか?」
「次に行われる年初の大評議会では、新しい貴族として自己紹介をしてもらうことになる」
うげ、マジか。自己紹介なんてできないぞ、俺。異世界から転生してきましたトーイです! なんて言えるわけないじゃん!
「自己紹介後は、意見を求められない限り発言しなくてもいい」
意見を求められたら
「そのほか不定期に発生するものについては、その時にこちらから連絡する」
「あの、探索者としての活動をしてもいいですか?」
ダンジョンに入ってレベル上げできないなら、完全拒否するよ。
「今のところトーイ殿に役職はないから問題ない」
拒否しても押しつける感じだったからもらったけど、公爵側は俺のことをよく調べているようだ。逃げてもよかったが、これだけ調べられていると無理ではないにしても、厳しいことになるんだろうな。逃げたら、少なくともこの国では生きていけなくなる。他国に逃げてもいいが、それは最後の手段だ。我慢できることはして、できなくなったら逃げるなり公爵を追い込むなりすればいい。それまでに公爵を追い込む力を蓄えよう。
幸い、ダンジョンには入れるようだから、レベル上げできる。暗殺者のレベルを上げて公爵はもちろんのこと、バルカンに気づかれないようになりたい。かなりレベルを上げないといけないけど、今のところ実害はなさそうだから問題ない。
「名誉男爵には年間一二〇〇万グリルの俸給が与えられる。役職に就いた場合は、その役職手当もつく」
一二〇〇万グリルって一億二〇〇〇万円かよ。そんな大金を大評議会に二回出席するだけでもらえるのか。貴族ってパネェな。
「通常、屋敷はこちらで手配するが、今トーイ殿が住んでいる屋敷を買い上げて与えるように手配する。それでいいか?」
「屋敷まで……いいのですか?」
あの口ぶりから色々調べていると思っていたけど、屋敷の場所くらい把握しているよね。借家ってことも。はてさて、どこまで俺のことを調べているのか?
「他の貴族家にも同じことをしているから問題ない。それにトーイ殿が住む屋敷の規模は、男爵として相応のものだ。ただし他にも屋敷を買う場合は、自分で購入してもらう。公爵家が与えるのは、あくまでも一軒だけだ」
別荘買いたいから金出してなんて、普通は言わないよね。
「俸給は毎年年初に一括で支払われる。男爵は年間一二〇〇万グリルを与えるが、今年はあと二カ月を残すのみだから月割りの二〇〇万グリルと、支度金一〇〇万グリルを渡しておく」
この世界でも一年は一二カ月だから、月当たりの俸給は一〇〇万グリルになる。残り二カ月だから二〇〇万グリル。そして支度金の一〇〇万グリルを合わせた三〇〇万グリルが入った革袋がテーブルの上に置かれた。
もらったら最後、もう逃げられない。公爵が無茶ぶりしてこなければ逃げるつもりはないけど、
「トーイ殿が雇う使用人と騎士、兵士については、その俸給で賄ってもらう。男爵には最低一人の騎士と五人の兵士を雇う義務が発生する」
使用人はともかく、騎士と兵士を雇うなんて初めて聞いたんですけど!?
「トーイ殿は探索者であり、他の土地から流れてきたようだから、既知の者が少ないだろう。必要であれば騎士と兵士はこちらで紹介しよう。今すぐ決めろとは言わぬ。今年中に雇うようにしてくれ」
二カ月で騎士と兵士を雇えというのか。紹介してもらおうかな……。いや、まずは帰ってモンダルクに相談してみよう。モンダルクは貴族に仕えていたと言っていたから、そういうことに詳しいはずだ。
「細かいことは資料をしっかり読んで頭に入れてもらうが、まずは家名を十日以内に決めてくれ」
「家名……ですか」
「貴族には家名が必要だ。そして紋章だな。紋章は他で使われていないものをデザインしてもらう。明日の朝、またここに来てくれ。紋章官に引き合わせよう」
オリンピックの銀メダルのような、シルバーのメダルをザイゲンがテーブルの上に置いた。
「ガルドランド公爵家の臣下の身分を証明するメダルだ。どこへ行ってもそれを出せば、ガルドランド公爵
失くしたら爵位の没収と聞いて心躍ったが、プラスアルファの処分があるのかよ。ちっ。
「さて、最後に……貴族は特権を与えられているが、それは犯罪をしてもいいということではない。逆に厳しく処罰されることになる。特権を持つがゆえに、平民に範を垂れるのだ。それを決して忘れぬように」
犯罪者になる気はない。この世界はレコードカードで簡単に犯罪歴が確認できる。犯罪者は一生犯罪者として生きていかないといけないのだ。
特権の話が出たから、あのことを確認するか。貴族の特権で支配奴隷を解放できないかと思ったんだ。刑期を決めているのは貴族のはず。だったら刑期を軽減できるんじゃないかと。
「質問はあるかね?」
「支配奴隷の解放はできますか?」
その質問に、ザイゲンの眉間のシワが深くなる。そんなに嫌そうな顔をしないでよ、クズは解放しないから。
「重犯罪者でなければ、トーイ殿がその後の行動を保証するということで解放は可能だ」
「重犯罪者……」
「等級で言うと、一級と二級犯罪者だ。つまり三級以下の犯罪者は解放可能である」
たしかアンネリーセは二級犯罪者だったはず。事故だったけど、被害が大きかったのが痛い。それくらいしか使い道のない特権なのに、この特権で解放できないのはとても残念だ。
アンネリーセを解放することで割り切ろうと思ったけど、無駄なものをもらってしまった……。
「トーイ殿の魔法使いの奴隷は支配奴隷だったな」
「はい。彼女はダンジョンで呪いを受けて、その呪いを解く研究をしていて事故を起こしました。情状酌量の余地はあると思ったのです」
「ほう、呪いを……それはどんな呪いなのだ?」
「年齢に三百歳加算される呪いです。彼女はエルフだから生きていましたが、ヒューマンなら呪いにかかった瞬間に死んでいたでしょう」
「なるほど……三百歳か……」
ザイゲンはブツブツ言って考えに
「ふむ。その件は公爵閣下に伝えておこう」
「え!?」
「呪いが原因なら情状酌量も考えられる。もっとも被害者にとっては納得できるものではないため、公爵閣下がどのような判断を下すかは私にも分からぬ」
それでも奴隷から解放される可能性があるの? それだけでも希望があるってことですよね!
「ああ、奴隷で思い出したが、シャルディナのことだ」
シャルディナって、あの盗賊の
「シャルディナは一級の支配奴隷として鉱山に送られることになった」
シャルディナのレコードカードの記載は犯罪歴のオンパレードだった。殺人や詐欺、強盗、放火、なんでもござれだ。性別関係なく女性でも男性でも強姦していた。それには素直に驚いた。
そんなシャルディナだけど、死刑じゃないんだね。この世界に死罪は滅多にないのかな?
「鉱山に送られたほうが、長く苦しみを与えられるという判断だ」
過酷な労働環境で使い
「それをなぜ私に?」
言っておくけど、俺には関係ないととぼけるからね。
「ふっ。特に他意はない」
それでザイゲンの話は終わった。さて、バルカンはなんのためにここにいる?
「バルカン殿から何かあるかね?」
「明日紋章を決めた後、訓練場に」
「公爵様にも言いましたが、私は戦えませんので」
「
ガバッと立ち上がって部屋を出ていく
「まったくバルカン殿にも困ったものだ……」
「行かなきゃダメでしょうか?」
ザイゲンが目頭を押さえてから、俺を見る。もったいぶるなよ、心配で心臓発作起こしそうだよ。
「行かねば、屋敷まで押しかけると思うぞ」
「……それは勘弁してほしいですね」
今夜のうちに夜逃げしようかな。
自分の屋敷の玄関ドアを開けたら、アンネリーセが飛びついてきた。柔らかいアンネリーセの体を受け止めて、OPPAIを触る。これはわざとではない。たまたまそこに手があり、OPPAIがあっただけだ。
「ご主人様……」
その後ろではロザリナと全使用人が待っていた。夜遅くなったのに、帰りを待っていてくれたんだね。
「アンネリーセ、それに皆。ただいま」
全員の「おかえりなさい」の大合唱。この言葉がこんなに気持ちいいものだとは思わなかった。
「俺は大丈夫だ。ちゃんとここに帰ってきた」
そう言って使用人たちに寝るように促す。
「モンダルク。夜遅いところすまないが、少し話がある。リビングで待っていてくれ」
「承知しました」
俺から離れようとしないアンネリーセを見る。
「今日は遅いからアンネリーセも寝なさい」
「ご主人様と一緒がいいです」
「……分かった。リビングに行くから離れてくれるか」
「このままではいけませんか?」
うっ。そんな
「分かったよ」
まるで子供みたいだ。可愛いからウエルカムだけどね。
「ロザリナは先に休みな」
「私もご主人様と一緒にいたいなのです」
ご主人様の言うことを聞こうとしない。俺の奴隷たちは困ったものだ。
二人を連れてリビングに入ると、モンダルクはハーブティーを
「
「ありがとう存じます」
モンダルクに座るように促し、俺は名誉男爵になったと語った。
「それはおめでとうございます」
めでたいのかな? 一般的にはめでたいんだろうな? 俺、一般じゃないのか?
「ご主人様。おめでとうございます!」
「おめでとうなのです。ご主人様」
アンネリーセとロザリナも喜んでくれているが、地雷のような気がするんだよな……。
公爵にいいように
「今年中に騎士一人と兵士五人を雇わないといけないらしい。俺はこの土地に来てまだ日が浅い。そういった人材に心当たりもなければ、どういう人物がいいのかも分からない。モンダルクに心当たりはないか?」
「わたくしもこちらに来て日が
「本当か。その人はどういった人なんだ?」
身を乗り出してその人物のことを聞くと、モンダルクはゴホンッと一回
「わたくしと同じ国の出身で元々騎士をしていた者です。わけあってわたくし同様このケルニッフィに流れてきております」
元騎士なら、騎士の教育とか受けているだろう。人物さえ良ければ、雇いたい。
「人柄は?」
「真面目な人物です。真面目すぎて融通が利かないところがありますが、人間としては信用できる者です」
真面目は嫌いではない。だけど、何事にも程度がある。度を越した真面目は害悪になるから、そういった人じゃなければいいと思う。
「その人物に会いたい。手配できるかな」
「承知いたしました。連絡いたします」
その人物で決まってくれればいいな。探索者の多くは他の公爵をはじめとした貴族たちが唾をつけてるようだし、切羽詰まったらザイゲンに頼めばいいだろう。紐付きになるのは嫌だけど、もう紐付きになってしまったもんな……。
「あと、貴族のことがまったく分からないんだ。この資料を読めと言われたけど、この中に書いてあることが全てではない。俺はそう思う。モンダルクが分かる範囲でいいから、貴族のことを教えてほしい」
「わたくしがどれほどのお力になれるか分かりませんが、全力でお手伝いさせていただきます」
「そうか。助かるよ」
今日は遅いから細かい話は明日城から帰ってきてからということになった。
さて、風呂に入って休むか。
アンネリーセが離れない。さすがにロザリナは風呂についてこなかったけど、アンネリーセは風呂にもついてきた。もちろん一緒に入ったよ。いつも通りだ。二人で体を洗いっこする。洗う目的でアンネリーセの体をくまなく触りまくる。
精神力値が一番高いエンチャンターに変えておいてよかった。俺の理性は精神力に支えられていると感じたよ。
「今日は遅くまで待っていてくれて、ありがとうな」
「私は何もしてません。ただ寂しかったです。とても不安だったのです。もうご主人様と離れるのは嫌です」
「アンネリーセ……」
俺は思わずアンネリーセを抱きしめていた。彼女に寂しい思いをさせてしまい、すまない気持ちでいっぱいだ。本当にすまない。
風呂場の外でロザリナは待っていた。一緒に入ればいいとは思わないが、寒いから部屋で待てばよかったのに。
寝る時は左にアンネリーセ、右にロザリナ。もっともこれはいつものこと。だけど今日は二人とも俺の腕にしがみつくように寝ている。
二人とも俺がバルカンに連れていかれたのが、とても怖く不安だったようだ。アンネリーセだけじゃなく、ロザリナにも悪いことをしてしまった。
「俺はどこにも行かないよ」
「はい」
「はいなのです」
二人を腕枕して、髪を撫でる。
この二人を捨ててどこにも行かない。仮に逃げることになっても、二人は必ず連れていくから安心してくれ。
公爵から褒美だと名誉男爵に叙されることになった翌日、俺はザイゲンに言われたように紋章を決めるため城に入った。中年の男性と紋章について話をし、少し驚かれはしたものの問題なく話は進んだ。
紋章の話が終わると、訓練場に入った。俺は帰ろうとしたんだ。でもバルカンに捕まってしまい、訓練所に連れてこられた。そして……。
「あぁぁ……」
俺は地面に膝をつき、荒い息で肩を弾ませる。こんなことになったのも、バルカンのせいだ。
「立て。立って剣を振れ」
なぜか俺は剣を振らされている。有無も言わさずというのは、このことだろう。
ドナドナされた俺は、いきなり剣を持たされバルカンに打ち込めと言われた。
あれからかれこれ三時間……。
「み、水を……」
「訓練中に水など飲まぬ」
昭和のスポ根かよ!
「きゅ、休憩を……」
「休憩などしたら強くなれん」
レベル上げれば強くなれるだろ!
こいつ、完全に昭和スポコン野郎だ。いや、戦前の軍隊だ。
やっぱり俺はこいつに殺されるのか……。
いつの間にか気を失っていたようだ。
「っ!?」
起き上がると、体中が痛い。筋肉痛なんて何年ぶりだ?
腕プルプル、足ガクガク、ちょっと体を動かそうとしたら激痛が走る。
「起きたか。あの程度で倒れるとは情けない」
お前のような化け物とは違うんだよっ。
「それでは戦場で死んでしまうぞ」
戦場なんて出たくないよ。
「鍛えろ。さすれば、戦場でも生き残れる」
まさかとは思うが、俺のことを心配してるのか?
「さあ、続きをするぞ」
げっ!?
屋敷に帰った頃には夜になっていた。体中が痛くて、帰ってくるのに
バルカンの野郎め、いつか勝ってやる。絶対勝つ。そしてバルカンをぶっ飛ばす!
悔しいが、これは俺にない剣の腕を磨くのに丁度いい。レベル頼みではいつか頭打ちになりかねない。思わぬところで剣の訓練ができたと前向きに考えよう。
バルカンのような奴はレベル以上の力を持っている。俺もレベルに依存しない地力をつけてやる。そしてあの化け物に勝って地面を
「ご主人様。お帰りなさいませ」
「お帰りなのです」
「ただいま」
倒れそうになった俺を二人が支えてくれた。
「どうしたのですか?」
「大丈夫なのですか?」
「バルカンの野郎にしごかれただけだ。筋肉痛が
モンダルクが音もなく近づいてきて一礼する。
「お風呂の支度が整っております。お入りください」
「助かるよ」
できる執事は分かっているね。風呂に入って筋肉疲労を少しでも
二人に支えられて風呂場へ。服を脱ぐのを二人に手伝ってもらう。というよりも、二人に脱がせてもらう。体が悲鳴をあげていて、無理だ。そして当然のように服を脱ぐアンネリーセと、外に出ていくロザリナ。
手を伸ばせばアンネリーセのきめ細かな肌に触れられる。悪魔(右手)と天使(左手)が
「どうしたのですか、ご主人様?」
「な、なんでもない。体中が痛いだけだ」
「そうですか。では、お支えしますね」
ボインッ。ムニュッ。OPPAIが当たってます! 二つの大きなOPPAIが俺を支える。柔らかな肌の感触が、OPPAIの感触が、俺の脳内を侵食していく。
俺は横たわって体を洗ってもらうのだが、目の前を二つのメロンが行ったり来たり。とても
今日のアンネリーセはいつも以上に積極的だ。
朱に染まったアンネリーセの
「あ、アンネリーセ。そこはもういいから……」
「承知しました」
これ以上は本当にダメだから。
石鹸をお湯で流してもらう。ああ、元気な息子がよく目立つ。もうお婿さんに行けないよ。
恥ずかしいから、今日決めてきた紋章のことを考えて気分を変えようと思う。
公爵家の紋章は二体のドラゴンが向かい合って竜玉を
俺は植物の藤を使った。前世で俺の家の家紋に藤が使われていたからだ。あの勇者たちが俺の家の家紋を知るはずがないので、少し変えて藤が左右に垂れているものにした。
藤を紋章に使っている貴族はいない。紋章官は藤のことさえ知らなかったし、植物を紋章に使う貴族は少ないからかなり珍しいと言われた。
風呂から上がって、紋章のデザインをモンダルクに渡した。屋敷の門のところにこの紋章を掲げるらしい。他にも騎士や兵士の
さて、転生十八日目の昼は散々だったが、最後は良い一日になったよ……。今日もアンネリーセとロザリナと共にベッドに横になる。俺は動けないから、二人がベッドに横たわらせてくれた。今日はよく眠れそうだ。昼の激しい訓練の後に、風呂でアンネリーセのなすがままだったなんて思うと、恥ずかしくて
両腕にかかるアンネリーセとロザリナの頭の重さで目が覚める。こんなに可愛い少女たちの寝顔を見て目覚める朝は最高だ。
「これで筋肉痛がなければ……」
一晩中二人の頭を乗せていた腕だけじゃなく、足も腹筋も背筋も体中がどこもかしこも痛い。
「ごしゅじんしゃみゃぁ……」
ロザリナに呼ばれたが、どうやら寝言のようだ。幸せそうに寝ている。
「おはようございます。ご主人様」
アンネリーセが起きたようで、宝石のようなエメラルドグリーンの瞳が真っすぐ俺を見つめる。引き込まれそうなくらい澄んだ瞳だ。
ロザリナも起きた。だけど、俺はベッドから起き上がれない。筋肉痛のせいだ。
転生十九日目の朝は動くのも厳しい状態から始まった。
情けないが二人に支えられながら一階へ下りていく。モンダルクたちがすでに食事を用意してくれている。
「おはようございます。旦那様」
「おはよう」
椅子に座ると、ホッと息を
だが、問題はここからだ。腕が上がらないんだ。
「ご主人様。食べさせて差し上げます」
「すまない、頼む」
アンネリーセがすぐ横に移動し、料理を切り分けてくれる。
「ご主人様。あーん」
アンネリーセが切り分けた目玉焼きを、俺の口に。
「あーん。もぐもぐ……美味い」
ゾッパの料理は元々美味いが、アンネリーセにあーんしてもらうと魔法のスパイスがかかったようにさらに美味しくなる。
アンネリーセのおかげでひもじい思いをせずに済んだ。本当に助かるよ。
「旦那様。本日のご予定ですが、食後に例の騎士候補者の面接をお願いします」
「了解」
モンダルクの知人の騎士候補者がもうすぐやってくるらしい。そういえば、俺、貴族らしい服を持ってないな。公爵に会った時も正装じゃなかった。どーでもいいか。
「それとテーラーを呼んでおります。面接の後にご対応をお願いいたします」
「テーラー?」
なんじゃそれ?
「服を仕立てる者にございます。旦那様は服に無頓着にございますので、お呼びいたしました」
「お、おぅ……了解」
服のことを考えた途端に、テーラーを呼んだことを言うモンダルクはエスパーなのか?
自室でザイゲンにもらった資料を読んでいると、モンダルクの知人がやってきた。
応接室に入ると、大柄のクマの獣人がいた。どこかで見たような人物だ、どこだったか?
「トーイという。よろしく」
「ミリス=ガンダルバンと申します」
「ミリス……」
どう見ても男だが、女性なのか? クマの獣人は女性でも大きいと思うが、こんなに
「よく女性と間違われますが、男です」
俺が考え込んでいたら、苦笑された。悪いことをしてしまったようだ。
「……すまん」
「いえ」
ソファーに座って、ミリス……ガンダルバンにも座るように促す。そこで思い出した。このガンダルバンとはダンジョンの四階層のボス部屋の前で会っている。
「久しぶりだな」
「まさかあの時の方が、貴族になられるとは思ってもいませんでした。その節は大変失礼いたしました」
いや、ガンダルバンは失礼なことはしていない。失礼なのはそのパーティーメンバーのオオカミ獣人だ。
ガンダルバンは青みがかった黒い毛を短く刈り
「あのオオカミの獣人は元気にやっているか?」
とりあえず、共通の話題を振ってみた。
「あの者は田舎に帰しました」
「ん、どうした?」
仲間割れか? その気持ちは分かるぞ。俺なら即行でパーティーから追放するな。あいつが追放系主人公だとしても、そんなことは知らん。
ガンダルバンは言いにくそうに口を開いた。
「四階層のボスはなんとか無事に倒せましたが、五階層の迷宮牛に腕をやられてしまい、探索者を続けることができなくなったのです」
あのオオカミ獣人は俺が感じたように問題児だったらしく、メンバーと連携することなく戦っていた。もちろんガンダルバンはそれを何度も注意したが、跳ねっ返りのオオカミ獣人は聞く耳を持たなかったらしい。
五階層の迷宮牛は複数で出てくることもあり、ガンダルバンが一体を引き受けている間に他の五人が別の一体を倒す戦術を取っていたらしい。
好き勝手やっていたオオカミ獣人は、一人で迷宮牛に突っ込んで鋭い角に右腕を貫かれて、腕を切断する
ポーションはある程度の傷を瞬時に治してくれるが、ちぎれた腕を治すほどの効果はない。ポーションを何本も使って傷口を
「話を聞く限りは自業自得だが、それを俺に話したらガンダルバンの統率力の評価が下がるぞ」
俺に仕官しようと面接に来ているのに、マイナスの話をしていいの? まあ、俺はむしろ好感度が上がったけどね。そういうマイナスの話は誰でも隠したがるもので、それを隠さない誠実さが感じられる。モンダルクが言っていたように、真面目な人のようだ。
「そういったことを隠して仕官するつもりはございません」
世間話をするつもりが、重い話になってしまった。さっそく、本題に入るか。
「以前、騎士として貴族に仕えていたと聞いた。その家のことを話せとは言わないが、その家でどのようなことをしていたか聞きたい」
どんな仕事をしていたかは、重要なことだ。俺が求めている人材は、兵士を指揮して戦場を駆けられる人物だ。それ以外では家の警備だな。
もちろん戦場に出たいとは思わない。俺はダンジョン探索しながら楽しく過ごせればいいんだ。
「前職では部隊長を務めておりました」
俺の求めることをしていたか。だけどそれだけじゃダメだぞ。
「部隊の人数は?」
「五〇人から六〇人ほどになります」
へー、結構な数の部下がいたんだな。そこそこの立場だったんじゃないか。
公爵家の基準では騎士一人に五人の兵士がついて分隊を構成する。二から三個分隊で小隊になり、二から三個小隊で中隊になるから、公爵家の基準に照らすとガンダルバンは中隊長クラスになる。
「ジョブは?」
「剛腕騎士にございます。レベルは二二になりました」
俺の詳細鑑定でも剛腕騎士・レベル二二と出ている。間違いない。
クマの獣人プラス剛腕騎士だけあって、腕力や体力は素晴らしい数値だ。
「俺に仕官したら、パーティーはどうするんだ」
「そのことでトーイ様にお願いがございます」
「言ってみろ」
「
これは俺にとっても悪い話ではない。
俺が兵士を雇う場合、ザイゲンに紹介してもらうか探索者を引き抜くかの二択になる。ガンダルバンのように、モンダルクの知人が都合よく出てくるほうが珍しいのだ。
ザイゲンに紹介してもらった兵士だと、俺の監視をして内情を漏らされそうで怖い。いや、魔法契約書があるから大丈夫なのか? だけど紐付きは危険だ。性格の悪そうなザイゲンなら、魔法契約書の
探索者を引き抜くにしても、これから探していては大変だ。それに良い探索者は公爵家や他の貴族家が唾をつけている可能性が高い。俺のような新興貴族に仕えようという奴は珍しいんじゃないか。
「ガンダルバンを雇うと、他の四人もついてくるわけか。だが、俺は他の四人の人柄を知らない。簡単に返事はできないな」
「もっともな
なんとも用意がいい。俺がガンダルバンを必ず雇うと思っていたのか? なかなかの自信じゃないか。
ガンダルバンと共に外に出た。
「何もトーイ様が足を運ばずとも、某が呼んできましたものを」
そんなことを言うガンダルバンに向き直る。
「ガンダルバンはここで待て」
「……承知しました」
ガンダルバンを玄関の前で待たせる。自慢じゃないけどかなり広い屋敷だから、玄関から門までそれなりの距離がある。俺は門から出るルートから
ガンダルバンのパーティーメンバーが塀に沿って並んで待っていた。北風が吹いて寒いが、それでも塀に沿って一列に並んで微動だにしない。
あのオオカミ獣人はいただけなかったが、この四人は良いと思った。誰かに雇ってもらおうというのだから、それなりの真面目さが必要だ。この四人は俺がいつ出てきてもいいように、背筋を伸ばして待ち続けていて好感が持てる。こういう心がけができる人は、信用できるかまでは分からないけど真面目に仕事をするはずだ。
塀から飛び降りて、ガンダルバンのところへ戻った。
「お前と四人を雇う。四人を連れてこい」
「よろしいのですか?」
「そのために来たんだろ?」
「ですが、レコードカードも確認されておりませんが……」
そういえば、犯罪歴とかはレコードカードで確認するんだったな。詳細鑑定がレコードカード以上の情報を教えてくれるから、すっかり忘れていたよ。
「俺がいいと言っているんだ。気が変わらないうちに四人を連れてこい」
「はっ!」
ガンダルバンはビシッと背筋を伸ばし、頭を下げてから駆け足で四人を呼びに行った。
四人は男女二人ずつで、イヌ獣人の男が剣士レベル一一のバース、リザードマンの男が剣士レベル一二のジョジョク、ネコ獣人の女性が
ガンダルバンたちと今後について話し合っていると、モンダルクが近づいてきて耳打ちする。
「公爵家より使者の方がお越しにございます」
「使者? そんな予定は聞いてないけど、応接室に通してくれるかな」
「承知いたしました」
使者だなんて、何の用だろうか?
「ぐわっ……」
バルカンの剣圧に吹き飛ばされて、地面を何度も転がる。手加減というものを知らんのか、こいつは。
そう、公爵家の使者というのは、バルカンのことだった。バルカンの野郎が屋敷まで呼びに来て、俺はドナドナされたわけだ。
筋肉痛にやっと慣れてきたところだったのに、また筋肉痛になるじゃないか。しかも今日は
「早く立て」
「少しは手加減をお願いします」
「手加減している」
それで俺は十メートルも吹き飛ばされたのかよ。こいつの手加減は手加減のうちに入らないと思うのは俺だけか?
他の兵士たちに視線を向けると、目を逸らされた。こいつら、バルカンを俺に押しつけやがったな!
立ち上がるとすぐにバルカンが打ち込んでくる。それを受けたらまた吹き飛ばされるから、受け流すように動くが……。
「うわっ」
受け流しが甘いから吹き飛ばされてしまった。
この日も夕方まで休憩なしにしごかれた。バルカンの野郎は本当に脳筋で、俺は何度も死ぬかと思った。
俺はダンジョンに入れないまま一カ月が過ぎ、転生四十九日目にして十二の月に入った。そのあいだ何をしていたかって? 毎日のようにバルカンにしごかれていたんだよ。
ただ、訓練に参加していたのは、俺だけじゃない。ガンダルバンと部下たちも参加するようになったのだ。しかもロザリナまで一緒に参加している。
アンネリーセは訓練場の隅の邪魔にならないところで訓練を見ている。彼女はどこにいてもスポットライトが当たっているような存在感がある。
「やぁっ」
「なんのっ」
「とうっ」
「まだまだっ」
ロザリナとバルカンの訓練は、さすがと言うほかない。
ロザリナが参加してくれたおかげで、俺のしごきは少なくなった。まったくなくなったわけでないのが残念だ。
毎日バルカンにしごかれた俺は、剣士のジョブに転職できるようになった。
そこで俺は剣士を飛ばして剣豪に転職した。旅人から剣豪に転職したんだが、これは神殿でちゃんと転職の実績を残した。
転職時に神官が騒ぎ公爵に呼ばれる羽目になったが、ここは剣豪で通すことにした。
ジョブ・剣豪の取得条件は分かっていないらしいから、構わないだろう。
おかげでこれからは大っぴらに剣豪として活動できる。バルカンのシゴキもたまには役に立つ。
神殿は大きな町ならどこにでもあり、転職するのに一万グリル白金貨を二枚(二〇万円相当)も取られた。ぼったくりだろと思いつつ、剣豪に転職した。
ちなみに神官は転職可能なジョブを見ることができるらしいが、ステータス画面で非表示に変えることができたから他の転職可能ジョブは消しておいた。便利なものだ。
今は剣豪レベル五になっている俺だが、ロザリナとバルカンの動きはほとんど見えない。
剣豪もそうだが、剣士、槍士、騎士などのジョブは訓練するだけでレベルが上がる。
ただしレベルが上がれば上がるほど訓練だけではレベルが上がりにくくなる。おかげでレベル五から全然上がらなくなった。それは戦闘ジョブだとしょうがないことだ。
そんな訓練場に兵士が駆け込んできて、バルカンは訓練を中断して報告を受けた。
「何かあったようですね」
俺と訓練をしていたガンダルバンが
ガンダルバンの剣を受け流し距離を取る。
「俺たちに関係あることなら、呼ばれるだろう」
「左様ですな」
ガツンッ。動きを止めず打ち合う。俺は両手剣、ガンダルバンは片手剣と盾だから剣同士の打ち合いは俺のほうが有利なはずなんだけど、ガンダルバンは片手剣で俺の攻撃を受け止める。剣豪のレベルが低いこともあるが、訓練を積んだガンダルバンの剣
「集合っ」
バルカンの怒号のような声が訓練場に響き渡る。
兵士がキビキビと動き、バルカンの前に集まる。俺たちもそれに交じった。
「これより騎士団は厳重警戒巡回を行う。昼夜問わずだっ」
公爵家には騎士団の他に、町中の治安を守る警備隊がある。
通常は警備隊が町中を巡回しているが、騎士団も巡回するとなると何かが起きたのは間違いないだろう。
「団長。質問をよろしいでしょうか」
「構わん」
「我ら騎士団が巡回を行うということは、警備隊からの応援要請があったと愚考いたします。それはあの件によるものでしょうか」
バルカンに質問したのは、中堅どころの騎士だ。この一カ月で騎士や兵士の顔と名前、それに役職はある程度把握している。
「昨夜、また首斬りネストが現れた。これで犠牲者は十人になる。警備隊も昼夜問わず巡回を行っているが、首斬りネストは
十一の月に入った頃から首斬りネストという殺人鬼が現れるようになった。殺人鬼のペースなんて知らないけど、一カ月ほどで被害者が十人になったことを考えるとかなりハイペースの犯行じゃないかな。
「狙われているのは、主に
彼女たちは自分の体を売って、日々の
命令してもいいと思うが、食えないといずれ
バルカンの指示で騎士団員たちが訓練場から走って出ていく。
「フットシックル殿。訓練は今日までだ。首斬りネストの件が片付いたらまた相手をしてやろう」
なにその上から目線!? 俺がいつ稽古をつけてくれと言ったよ!? と怒鳴りたいが、できないのが
ちなみにフットシックルというのは、この世界での俺の家名になる。俺の先祖を
まあ、深く言う必要もないから家名の話はこれで終わるとして、暇になったから久しぶりにダンジョンにでも行こうかな。
俺は犯罪者を取り締まる必要はない。騎士団も動いているんだから、俺のような捜査のその字も知らない奴が出しゃばっても邪魔になるだけだろう。それに騎士団も動員されたのだから、そのうちなんとかなると思う。……なると思いたい。
「屋敷で昼を食べたら俺たちはダンジョンに向かうが、ガンダルバンたちはどうする?」
「主人を守るのが我らの役目です。お供いたします」
「それじゃあ、先に飯だ。行くぞ」
屋敷に帰る間に何度も騎士団員を見かけた。全員の顔を知っているわけではないが、顔見知りも交じっていたから挨拶をする。
屋敷で早めの昼食を食べ、ダンジョンへ向かった。
「ダンジョンに入るのも久しぶりだな」
「ご主人様がバルカン様に気に入られて、訓練漬けでしたから」
「あれを気に入られてと言うなら、世の中間違っていると思うぞ。アンネリーセ」
「うふふふ。そうでしょうか」
バルカンの野郎に気に入られたら、もれなく命の危機を感じるとかおかしいだろ。
さて、今回俺はダンジョンにアンネリーセ、ロザリナ、ガンダルバンほか兵士四人を連れてきた。
兵士は五人必要なんだが、あと一人は募集中だ。それはさておき、今回はガンダルバンたちが一緒だ。
五人は俺が自分でジョブを変えられるとは知らない。でも守秘義務を魔法契約書で交わしているから問題ない。
「俺のジョブやスキルのことは、口外することを禁止する。いいな」
一応、こう言っておかないと守秘義務が適用されないらしい。
「剣豪のことはすでに多くの者が知っていると思いますが?」
ガンダルバンは不思議そうに首を
「そうだ、俺のジョブは剣豪だ。いいな、誰かに聞かれてもそう答えておくんだぞ」
「承知しました……?」
五人は
「それじゃあ、行くぞ」
───ダンジョンムーヴ。
「「「「「えっ!?」」」」」
壁にドアが現れたのを見て、五人が驚いた。
「ほれ、さっさと進め」
ドアを開けて五人を押し込む。俺たちも入って、皆が移動したのを確認して解除。ドアが消えたことにも五人は驚いた。
「こういうことができると言わないように。そういうことだ」
「な、なるほど……承知しました。お前たちも決して他言するなよ」
「「「「はいっ」」」」

魔法契約しているから安全だけど、ガンダルバンは兵士たちに念を押している。
「今のはもしかしてダンジョンムーヴですか?」
「その通りだ。ガンダルバンはダンジョンムーヴのことを知っているのか」
「以前、一度だけジョブが探索者の者と一緒にダンジョンに入ったことがありますので」
その時にダンジョンムーヴを使って移動したんだな。
「便利だろ?」
「ええ、とても便利です。ところで、ここはどこでしょうか?」
「ここは六層のボス部屋の近くだ」
「たしかダンジョンムーヴは行ったことがある場所にしか移動できないはずですが……ご当主様はここまで来たことがあるということですね」
よく知っているな。俺はそれを肯定した。
「某はともかく、この四人はレベル一〇少々です。さすがに六層のボスは危険です」
ソードガーゴイルのレベルは二四。倍以上のレベルのボスと戦うのが無謀なのは、俺でも分かっている。
「そのための作戦を今から説明する。今日はボスを何度も狩るから、しっかりと作戦を理解してくれ」
ドン引きするガンダルバンたちを尻目に、俺は作戦を説明した。といっても大した作戦ではない。簡単だからすぐに覚えられるはずだ。
「作戦は理解しましたが、まさかボスがソードガーゴイルだったとは……」
ガーゴイルは物理が効きにくいから、厄介だと思っているようだ。
だけど、戦力は揃っている。
剛腕騎士・レベル二二のガンダルバン。魔法使い・レベル二一のアンネリーセ。バトルマスター・レベル二〇のロザリナ。そしてエンチャンター・レベル一八の俺。
四人の兵士は横からチクチク殴ってくれればいい。レベルの低い四人に、ダメージは期待していないから大丈夫だ。
六階層のボス部屋に入ると、すぐにソードガーゴイルが現れる。
「ガンダルバン、行け」
「応!」
ガンダルバンが飛び出し、スキルのアンガーロックを発動した。
アンガーロックは敵対心を引きつけるスキルで、騎士系のジョブの多くが持つものだ。
アンガーロックを見届けると、アンネリーセのファイアが火を噴く。ソードガーゴイルの生命力がかなり減ったが、まだまだだ。
ロザリナもソードガーゴイルに取りついて攻撃を始めた。さらに四人の兵士たちも攻撃に参加。
「エンチャント・アイス」
氷属性の追加ダメージを与えるエンチャント・アイスを、ロザリナに付与する。
「エンチャント・ファイア」
さらにエンチャント・ファイアもロザリナに付与。
兵士の四人にエンチャント・アイスやエンチャント・ファイアを付与してもいいが、この二つのエンチャントは手数が多いほうが多くのダメージを出せる。手数は剣士や槍士よりもバトルマスターのロザリナのほうが圧倒的に多いから、どうしてもロザリナに付与することになる。
「アンガーロック!」
再びガンダルバンがアンガーロックを発動。敵対心を固定する。
ガシガシとソードガーゴイルの生命力が削れていく。
兵士たちもチクチクしている。四人には一発だけ当てて、あとは攻撃を受けないようにだけ立ち回れと指示している。あの四人の攻撃力ではとてもじゃないけどダメージを与えられないから、戦闘に参加した既成事実だけ作ればいい。
「生命力回復!」
ソードガーゴイルの攻撃を一身に受けるガンダルバンの生命力も減っていくが、スキル・生命力回復を使って回復している。
スキル・生命力回復はロザリナも持っているが、バトルマスターの生命力回復と剛腕騎士の生命力回復の効果には差がある。同じスキル名でも、ジョブによって効果が変わるようだ。当然ながら、剛腕騎士の生命力回復のほうが効果は高い。
「撃ちます! ……ファイア」
アンネリーセの魔法でソードガーゴイルを焼くと、生命力が三割を切った。
「生命力が全回復したぞ」
「この程度の攻撃なら、一日でももたせてみせますぞ! アンガーロック!」
ソードガーゴイルの攻撃を一身に受けるガンダルバンだが、喋る余裕があるようだ。
兵士たちはソードガーゴイルの攻撃をガンダルバンが引きつけてくれるから、攻撃を受けることなく安全にチクチクやっている。
ガンダルバンの敵対心コントロールが、ここまで安定しているとは思わなかったよ。剣でもそれなりにダメージを与えているからだと思う。さすがは剛腕と名がつくだけはある。
最後はアンネリーセの魔法がとどめになって、ソードガーゴイルは消滅した。
「完勝だな。よくやった」
「………」
褒めた俺を、ガンダルバンがジトーッと見てくる。なんだよ?
「ご当主様は剣豪と探索者の他に、魔法系のジョブまで持っているのですか?」
ロザリナにエンチャント・アイスやエンチャント・ファイアを付与しているから、バレるよな。一緒にダンジョンに入った以上は、隠すつもりもないけど。
「ふふふ。エンチャンターを持っているぞ」
「エンチャンター? 初めて聞くジョブ名ですな」
一万分の一の確率でしか出ない珍しいジョブだから、知らないのも無理はない。
「エンチャンターは自分では攻撃できない補助魔法を使う魔法使いだ。だが、ロザリナのように手数があるジョブに火属性や氷属性の追加効果を付与してダメージを増やすことができるんだよ」
「そのエンチャンターがあったから、ご当主は余裕の表情をされていたのですな」
ガンダルバンが妙に納得した表情をする。
「エンチャンターがなくてもアンネリーセの魔法もあるから、問題ないだろ」
「それもそうですな」
話が終わると、ガンダルバンは兵士たちを呼んだ。
「レベルはどうだ?」
「一二に上がりました!」
イヌ獣人兵士のバースは剣士レベル一二になった。
「俺もレベルが上がって一三です」
リザードマン兵士のジョジョクは剣士レベル一三だ。
「上がりました!」
ネコ獣人兵士のリンは槍士レベル一二だ。
「私も上がりました」
キツネ獣人兵士のソリディアは槍士レベル一一になった。
兵士たちは全員レベルが上がった。一〇以上もレベルが高いソードガーゴイルとの戦闘だから、上がらないほうがおかしい。
ちなみにアンネリーセ、ロザリナ、ガンダルバンのレベルは上がらなかった。でも俺は上がった。これでエンチャンターレベル一九だ。
「おーい。感動しているところ悪いが、今日は最低でもソードガーゴイルを五回は狩るからな」
「「「「「えっ!?」」」」」
ガンダルバンと兵士たちが驚く中、さすがはアンネリーセとロザリナだ。まったく驚かなかった。
「ボス狩りでレベル上げ。お前たちのレベルが上がっても、俺のレベルを上げるまでは何日でも続けるからね」
そんなわけで俺たちはソードガーゴイル狩りを続けた。
六回のソードガーゴイル狩りで俺のエンチャンターはレベル二一へ上がった。レベル二〇の時に新しい魔法を覚えた。これがまた使える魔法でニコニコだ。
アンネリーセは魔法使いレベル二三、ロザリナはバトルマスターレベル二二、ガンダルバンは剛腕騎士レベル二三になっている。
そして四人の兵士たちもレベル一七から一八になって、かなりいい感じに成長している。
ドロップアイテムはノーマルドロップ品のガーゴイルソードが五本と、レアドロップ品のガーゴイルバスターが一本出た。ガーゴイルバスターは両手剣だ。
ガンダルバンとバースにガーゴイルソードを、ジョジョクにガーゴイルバスターを使ってもらうことにした。
ガーゴイルソードは一本で一万六〇〇〇グリルになる。三本売って四万八〇〇〇グリルだ。
ガンダルバンと兵士たちの装備を整えたし、俺の貴族用の服も仕立てたから結構な出費があった。他にもどんどんお金が出ていくから、資金稼ぎは大事なんだ。
それなのにバルカンの野郎に毎日のように拉致られ、しごかれていたから体も財布も痛いんだよ。
転生五十一日目もソードガーゴイル狩りに出かけた。
今回はエンチャンターではなく両手剣の英雄を使うことにした。
ロザリナもレベルが上がって自力でダメージを出せるようになってきたから、俺が両手剣の英雄のレベルを上げてもいい頃合いだ。
「それはミスリル……。ご当主様ですから、何も言いません」
ミスリルの両手剣を見たガンダルバンが、何か達観している。
「ガンダルバンさんもご主人様のことが分かってきましたね」
いやいや、何言ってるのさアンネリーセ君や。
「ご主人様なのです!」
ロザリナはお黙り。
「よし、行くぞ!」
「「「「「応っ」」」」」
「はい」
「はいなのです」
俺はソードガーゴイルをミスリルの両手剣でガッツンガッツン殴った。斬れないんだよ、こいつ。
やっぱり硬い。レベル一四の両手剣の英雄では、ほとんどダメージが出ない。
「
だけど両手剣の英雄には属性攻撃がある!
「………」
ダメージはショボかった。
仕方がないよな、魔法使いじゃないから魔法攻撃力はそんなに高くないんだ。
「まあ、ダメージがないよりはマシだな」
まったくダメージが出ないわけじゃない。それだけが救いだ。
アンネリーセのファイアでとどめを刺すと、両手剣の英雄のレベルが上がった。この調子でバンバン上げよう。
幸いなことに、六階層は不人気で探索者はほとんどいない。ボス部屋の前で順番待ちせずに連戦できる。
「これで!」
アイススラッシュを放つと、ソードガーゴイルは消滅した。
さすがに両手剣の英雄レベル二五は強い。いや、ステータスポイントが素晴らしいと言うべきだろう。
ステータスポイントはジョブを変えると、振ったポイントが全てリセットされる。現在保有しているステータスポイントは六六ポイントあり、これを知力に振ればアイススラッシュでソードガーゴイルに与えるダメージが半端ないものになる。
転職する度に振り直さなければいけないけど、効果絶大なのだからその程度の労力は大したことない。
転生五十二日目は暗殺者、転生五十三日目は休んで、転生五十四日目から五十五日目は探索者、そして五十六日目を休みにして五十七日目と五十八日目で剣豪のレベル上げを行った。
暗殺者は急所突きプラス隠密が優秀すぎて苦労しなかったが、探索者のレベル上げはさすがにきつかった。剣豪はさすがの強さを発揮し、三ジョブ共レベル二五まで上げた。
剣豪のレベル上げをしている時に気づいたんだが、俺のユニークスキルに新しいものが増えていた。
「ご主人様。分かっておいでと思いますが、ユニークスキルが増えるなんてあり得ないことです」
アンネリーセの顔が近い。チューしていいかな。
「でもさ、ロザリナはユニークスキルを覚えたじゃないか」
「ロザリナさんは種族進化したからです。種族進化の時に、
凄い勢いでまくしたてられた。
ステータスを見たら、あら不思議。なんと種族はハイヒューマンになってました(ドン引き)。
「ダブルジョブのことも、ハイヒューマンのことも、絶対に他の人に知られないようにしてくださいね!」
アンネリーセは取り乱すくらいの勢いで叫んでいた。あの時のアンネリーセの顔は、よく覚えている。美人ってさ、どんな顔しても
・ダブルジョブ:ジョブを二つセットできる。メインジョブの能力値は一〇〇パーセント、サブジョブの能力値は五〇パーセントが反映される。二つのジョブのスキルは全て使用可能。
ダブルジョブに熟練度を示す(微)の表示はなかった。おそらく熟練度がないのだろう。
しかしかなりビックリする内容だな。これは間違いなく切り札になるユニークスキルだと感じた。
あと俺の各ジョブのレベル上げにつき合った全員のレベルが二八になった。どうやらソードガーゴイルではレベル二八より上にレベルアップしないようで、俺以外の全員がレベル二八になっている。
ドロップアイテムもかなり多い。おかげで換金額が凄いことになっている。
・ガーゴイルソード 一三二本×一万六〇〇〇グリル=二一一万二〇〇〇グリル
・ガーゴイルバスター 二〇本×八万グリル=一六〇万グリル
※合計三七一万二〇〇〇グリル
ガーゴイルバスターが二二本ドロップした。剣士のジョジョクはすでに使っているから、もう一人の剣士であるバースにも使ってもらうことにした。それから俺の予備用に一本をストック。あとの二〇本は換金した。
これでうちの剣士二人と俺が、ガーゴイルバスター装備になる。
ちなみにガーゴイルバスターでソードガーゴイルを攻撃しても、ソードガーゴイルは石化しない。元々石像だからだと思うが、どれだけ攻撃しても石化しないんだ。
また、ガーゴイルバスターとミスリルの両手剣では、ミスリルの両手剣のほうが性能はいい。
俺のメイン武器はミスリルの両手剣のままだけど、外ではガーゴイルバスターを装備するつもり。ミスリルの両手剣のほうが価値は高いから、身分相応(?)な剣を装備している感じかな。
〈トーイ〉
【ジョブ】エンチャンター レベル二一
【魔 法】魔力強化(中) エンチャント・ハード(中) エンチャント・アクセル(中)
エンチャント・ファイア(中) エンチャント・アイス(中)
エンチャント・アタック(微) エンチャント・リジェネーション(微)
【ユニークスキル】詳細鑑定(高) アイテムボックス(高) ダブルジョブ
・エンチャント・アタック(微):味方一人または全員の物理攻撃力値+五〇ポイント。消費魔力八×人数。効果時間三分。発動後五分間使用不可。(アクティブスキル)レベル一五で発現。
・エンチャント・リジェネーション(微):味方一人または全員の生命力を自動で回復させる。生命力回復毎分三〇ポイント。消費魔力七×人数。効果時間十分。発動後五分間使用不可。(アクティブスキル)レベル二〇で発現。
〈トーイ〉
【ジョブ】両手剣の英雄 レベル二五
【スキル】指揮(中) 全体生命力自動回復(中) 身体強化(中)
バスタースラッシュ(中) アイススラッシュ(中) アシッドストライク(低)
完全見切り(低) 経験値集約(微)
・アシッドストライク(低):両手剣技。物理攻撃力値二倍の攻撃。追加効果として五十パーセントの確率で敵の物理防御力値と魔法防御力値を三十パーセント低下させる。追加効果発動時消費魔力一二。効果時間三分。発動後二分間使用不可。(アクティブスキル)レベル一五で発現。
・完全見切り(低):敵の攻撃を見切って完全に回避する。消費魔力一五。効果時間四十秒。発動後十分間使用不可。(アクティブスキル)レベル二〇で発現。
・経験値集約(微):指揮下にある全ての者が得た経験値の三割を取得する。(パッシブスキル)レベル二五で発現。
〈トーイ〉
【ジョブ】暗殺者 レベル二五
【スキル】急所突き(中) 隠密(中) 痕跡抹消(中) 神速(中) 感知(中)
壁抜け(中) 偽装(中)
・偽装(中):容姿、ステータスを偽装する。消費魔力毎分七ポイント。(アクティブスキル)レベル一三で発現。
・罠(低):罠を設置、発見、解除する。(パッシブスキル)レベル一九で発現。
・捕縛(微):敵を一時的に行動不能にする。効果時間十秒。消費魔力五。発動後十分間使用不可。(アクティブスキル)レベル二五で発現。
〈トーイ〉
【ジョブ】探索者 レベル二五
【スキル】ダンジョンムーヴ(中) 宝探し(中) マッピング(中) 危機感知(中)
脱出(低) レアドロップ率上昇(微)
・危機感知(中):危険を察知する。(パッシブスキル)レベル一五で発現。
・脱出(低):スキルの発動を無効化される場所から脱出する。消費魔力二五。発動後一時間使用不可。(アクティブスキル)レベル二〇で発現。
・レアドロップ率上昇(微):レアアイテムのドロップ率を一〇パーセント上昇させる。(パッシブスキル)レベル二五で発現。
〈トーイ〉
【ジョブ】剣豪 レベル二五
【スキル】ダブルスラッシュ(中) 心眼(中) 質実剛健(中) 鋭敏(中)
一点突破(低) 夢幻剣(微)
・ダブルスラッシュ(中):剣技。両手剣、片手剣の区別なく、敵に連続二回攻撃を行う。物理攻撃力三・五倍。消費魔力一〇。発動後三分間使用不可。(アクティブスキル)
・心眼(中):敵の攻撃を予測し所持者の動きを最適化する。(パッシブスキル)
・質実剛健(中):自身の腕力、体力、俊敏、器用の各能力値を三五ポイント、知力と精神力の各能力値を二五ポイント上昇させる。(パッシブスキル)
・鋭敏(中):気配や危機を察知しやすくなる。(パッシブスキル)レベル八で発現。
・一点突破(低):一回だけ敵の物理防御力値を〇、スキル効果を無効にして攻撃できる。消費魔力八。発動後三分間使用不可。(アクティブスキル)レベル一六で発現。
・夢幻剣(微):発動中全ての攻撃が命中する。効果時間十秒。消費魔力八。発動後五分間使用不可。(アクティブスキル)レベル二二で発現。
【ジョブ】剣豪 レベル二五
【種 族】ハイヒューマン
【能 力】
生命力=四九二
魔力=三二一
腕力=八六
体力=七八
俊敏=七〇
知力=五四
精神力=五三
器用=七五
物理攻撃力=二九三
物理防御力=二六一
魔法攻撃力=一六二
魔法防御力=一五九
ハイヒューマンになると、種族の基礎能力が上がるらしい。だからヒューマンの時よりも能力が高くなっている。
〈アンネリーセ〉
【ジョブ】魔法使い レベル二八
【スキル】火魔法(中) 無魔法(中) 魔力操作(中) 魔力感知(中)
魔法威力上昇(中) 魔力の源泉(低) ブースター(低)
〈ロザリナ〉
【ジョブ】バトルマスター レベル二八
【スキル】剛撃(中) 鉄拳(中)
気法(中) ラッシュ(低)
【ユニークスキル】闘気(中)