転生十六日目。まだ十六日目なんだ。結構濃密な日々を送ったせいか、もっと時間が経過していると思っていた。

 今日は朝からダンジョンに入る。摘発を逃れた盗賊がいるかもだから、警戒は怠らない。

 一昨日のシャルディナ盗賊団の一斉摘発のことは今一番ホットな話題らしく、町中ではうわさばなしが飛び交っている。


 俺たちが住む屋敷は、ダンジョンからちょっと離れている。ダンジョンへ行くその途中に、初めて池イカ焼きを買った露店がある広場を通る。あの露店は今日もやっていたから、立ち寄った。

「お、可愛かわいい嬢ちゃんたちだ。おじさん、サービスしちゃうぞ!」

 俺の顔は覚えていないようだ。一回会っただけでは覚えないだろうからいいけど、今回も俺を女の子だと思い込んでいる。構わないから、サービスしてもらおう。

「池イカの姿焼きを十五本もらうよ」

「お、たくさん買ってくれるんだね! 前の時みたいにゲソを十五本サービスしちゃうよ!」

「覚えていたの?」

「そりゃー、こんな可愛い子を忘れるわけないよ」

 なかなかの記憶力だ。商売人としては好感が持てるが、ゲソを十五本もサービスしたら赤字だろ。

「また来てくれよー」

 気前のいいおじさんに手を振ってあいきょうを振りまいておく。アンネリーセとロザリナの笑顔つきだ。

 俺とロザリナは身のほうを、アンネリーセはゲソのほうを食べながらダンジョンへ向かう。

しいですね」

「美味しいなのです」

 朝食を食べたばかりだけど、二人は美味しいと何度も言いながら食べきった。俺も美味しいと思うからお代わりしたいところだが、これからダンジョンに入るからめておく。

 ダンジョンの前でフルーツを買った。キウイとスモモみたいなフルーツだ。キウイのほうは使用人たちが用意してくれた昨日の朝食、スモモは今日の朝食に出た。共に美味しかった。

 もうすぐ冬なのに季節感がないけど、フルーツは隣の国から輸入しているらしい。共に日持ちするフルーツらしく、輸送期間中に熟成されて甘さが増すらしい。輸送費とかかかっているからそれなりにお高め。でも美味しいから買った。美味しいは正義だ。


 ダンジョンに入ってすぐに五階層へ移動。ダンジョンムーヴ便利。

 この五階層を探索できるようになると、探索者として一人前だと言われるそうだ。俺もいよいよ一人前の探索者の仲間入りだね。

 ダンジョン内を歩く時は探索者、戦闘の時は両手剣の英雄に転職する予定。探索者の時に宝探しが発動すればうれしいかな。その程度の期待を込めて探索者で歩く。ロザリナがいてくれるから、ジョブを変えているうちにモンスターの接近を許すことはないだろう。アンネリーセもいるけど、彼女は後衛だからね。

 五階層では迷宮牛が出てくる。赤茶色の分厚い毛皮に守られた迷宮牛は防御力も高いが、何よりも突進力が危険なモンスターだ。

 さっそく迷宮牛が現れた。頭部に四本の角を持ち、俺の背丈くらいの体高で、俺の知っている黒毛和牛よりもかなり体幅が大きいから通路が狭く感じられる。

 ジョブを両手剣の英雄に変えているうちに、ロザリナが飛び出す。迷宮牛の突進とロザリナの突進がぶつかった鈍い衝撃音が耳に入ってくる。なんと巨体の迷宮牛が押し負けている。スゲーなロザリナ。アッパー気味のパンチで上体が起きた迷宮牛に、さらに蹴りを入れる。あ、迷宮牛が消滅した。

 俺、一発も殴ってない。ロザリナが強いのはいいことだけど、俺の出番がないのはどうなんだ? そそくさとジョブを探索者に戻す。なんか無情だな。

「迷宮牛肉がドロップしました」

 アンネリーセがほおのような葉に包まれた肉を拾い上げる。一キロくらいある肉の塊だ。あまりサシは入ってない赤肉だけど、これの串焼きはい。

「ドロップした迷宮牛肉は全部換金するんじゃなく、少し持って帰ろうか」

「それがいいと思います」

 アンネリーセが良い笑顔。それだけで不毛なダンジョン内が華やぐ。

「お肉大好きなのです」

 ロザリナも満面の笑みだ。ちょろんと牙が見えるのもチャーミングだな。


 通路を進んでいると、今度は二体出てきた。ジョブを両手剣の英雄に変更。その間にロザリナは迷宮牛を殴り飛ばし、二体目に蹴りを入れた。

 俺も負けてられない!

「はぁぁぁっ

 ミスリルの両手剣を大上段から振り下ろす。

 スパッと迷宮牛を斬り裂くと硬質な破壊音と共に消滅した。ミスリルの両手剣はこの五階層でも強力な武器ですよ。

 俺が迷宮牛を倒すと同時に、ロザリナがもう一体を倒した。強いな、バトルマスター。


 俺たちはどんどん進んで、三体同時出現の迷宮牛でも余裕で倒せるのを確認した。

 そんな俺のスキルに反応があった。宝箱だ!

「ちょっと待ってくれ」

 二人を止めて、ペタペタと壁を触ってみる。

「………」

 普通の壁にしか見えない。

「アンネリーセ。この向こうに宝箱があるから、壁を壊してくれるか」

「お任せください!」

 アンネリーセがマナハンドを発動させて、壁を殴った。ゴンゴンッと何度か殴ったら壁が崩れてその先に通路があった。

「魔物はいないなのです」

 俺が何も言わなくても、ロザリナは一番先に通路に入ってわながないか確認した。俺はそんな教育をしてないが、どうもアンネリーセが教育しているようだ。

 罠がないことが分かり、俺たちも中に入ると宝箱があった。さて、今回は何が入っているか。

「お待ちください。その宝箱、怪しい気配がします」

「罠か?」

「罠とは何か違うような、変な感じです」

 アンネリーセの魔力感知が嫌なものを感じたようなので、話し合ってマナハンドでふたを開けることにした。

 俺は両手剣の英雄に転職し、ミスリルの両手剣を構える。ロザリナも身を低くして身構えているのを確認し、アンネリーセに目で合図する。

「開けます」

 マナハンドがヌーッと伸びていき、蓋を開ける。せつ、宝箱が飛びかかってきた。宝箱はモンスターだったのだ。

 蓋が口のように開き、鋭い歯が見える。底は見えず、しんえんを思い起こさせる漆黒だ。

 反射的に詳細鑑定を発動。

「トレジャーボックスモンスターだっ」

 そのモンスターの種族名を叫んでいた。つーか、そのままのネーミングかよ!?

「やっ」

 飛びかかってきたトレジャーボックスモンスターを、ロザリナはカウンターで蹴り飛ばした。

「こいつ、体力と生命力が異常に高いぞ」

「私も戦います」

「頼む」

 アンネリーセの魔法なら体力は関係ない。魔法に対する耐性は精神力だからだ。

 俺もミスリルの両手剣を振りかぶって、戦闘に加わる。

「たぁっ」

 みつこうとするトレジャーボックスモンスターの攻撃をかわし、ロザリナはパンチを三発入れる。

「うりゃっ」

 俺は横から斬りつけるが、硬い。手が少ししびれた。

「撃ちます!」

 アンネリーセの魔法が発動。俺とロザリナが飛びのく。

 炎の球がトレジャーボックスモンスターに命中し、その木(?)の体を焼く。

 トレジャーボックスモンスターはかなり嫌がって後方に下がるが、俺とロザリナが追撃する。

 ガンッガンッガンッガンッと殴るロザリナ。

 ガツンッガツンッガツンッガツンッと斬る俺。これ、斬る音じゃないぞ。

 何度か噛みつかれそうになるが、ロザリナがフォローしてくれる。彼女はまったく危なげなくトレジャーボックスモンスターの攻撃を躱す。

「撃ちます!」

 後方に飛びのくと火の球がしょうし、トレジャーボックスモンスターを焼いた。これがとどめとなってトレジャーボックスモンスターが消滅した。

 俺だけ危ない場面があったが、アンネリーセとロザリナのおかげではない。

「あっ!?

 ドロップアイテムを拾おうとしたロザリナが叫んだ。

「どうした?」

「ご主人様。これなのです!」

 ロザリナが持ってきたのは、本だった。

「それはっ!?

 アンネリーセも叫んだ。

「これってもしかして……?」

「はい。魔導書です」

「おぉぉぉ!

すごいなのです!」

 休憩しながら、魔導書についてアンネリーセからレクチャーを受ける。

 池イカの姿焼き、うまし!

「魔導書を使うと魔法使いに転職できます。ですがもう一つ転職できるジョブがあります」

「魔法使いだけじゃないのか?」

「はい。まれに呪術士に転職可能になります」

「呪術士?」

 初めて聞くワードだ。

「呪術士は魔法使いと違って呪術を使います。呪術は触媒が必要になりますが、魔法と同等のことができます」

「触媒……か。その触媒は買うのか? それともダンジョンで得られるのか?」

「モンスターからドロップしたアイテムを素材にして作ります。触媒を作れるのは呪術士か錬金術師です」

 触媒を作る手間がかかり、アイテムを購入または取得することで金銭的な負担もあるわけか。魔法使いのほうが優秀に思えてしまうな。

「魔法使いのほうがお金がかからないから人気ですが、呪術士は魔法使いと違って全ての属性の呪術を行使できます」

「触媒の属性次第かな?」

「はい。触媒の属性によって、呪術士は全ての属性を使うことができるのです」

 はんよう性では呪術士だが、魔法使いのほうがお手軽に使えるわけか。

「聞いた話では、呪術士が出る確率は三十分の一くらいだそうです」

 その三十分の一に当たりそうな気がするのは、考えすぎかな。

 考えたらアンネリーセという魔法使いがいるから、呪術士のほうがつぶしが利くか。と思っているが、まだ使うかどうか決めてないんだよね。

「この先、魔法使いか呪術士が多くいたほうがいい階層はあるかな?」

「物理攻撃が利きにくいモンスターは少ないですが、いないわけではないです。そういうモンスターには魔法や呪術のほうが効果的です」

「……よし、保留しよう。今はアンネリーセの魔法だけで十分だから、様子を見ながら使うか売るか決めるよ」

 魔導書はアイテムボックスに収納。


 迷宮牛を倒しながら進み、ボス部屋の前に到着。三パーティーが順番待ちをしている。五階層のボスは人気のモンスターらしい。

「防御力は高いですが、攻撃が直線的で一体しか出てきません。ですから人気なのでしょう」

 一体しかいない上に直線的な攻撃しかしないから、比較的安全に狩れる。しかもレアドロップ率はモンスターによって差があり、五階層のボスはレアドロップ率が比較的高いので、おいしいボスとして有名なんだとか。俗に言う金策モンスターだね。

 そんな話を聞きつつ休憩していると、俺たちの番になった。前の番の探索者の遺品はなし。倒し方が確立されているモンスターだから、滅多なことでは全滅しないのだろう。

 五階層のボスは迷宮大牛レベル一八。デカい。迷宮牛よりもかなり大きい。

「はぁぁぁっ

 ドンッ。腹の底に響くような重低音がした。

「迷宮大牛も押し込んだよ、あの子……」

 ロザリナがとてもパワフル。あの細い体のどこにそんなパワーがあるんだ?

 俺も迷宮大牛の側面からミスリルの両手剣を振り下ろす。

 こいつ本当に真っすぐにしか攻撃してこない。普通の迷宮牛とは通路で戦闘したから真っすぐなのは通路のせいなんだと思っていたが、この系統のモンスターの特徴なのかな。

 攻略法が分かっているから、迷宮大牛は簡単に倒せた。苦労はない。もない。

「しかし、よく迷宮大牛の突進を受け止めて押し込んだな」

 コツを教えてもらったら、俺もできるかなと思って聞いてみた。

「力ではなくタイミングなのです」

「タイミング?」

「牛がゴーッて来たら、ダンッてするなのです」

 身振り手振りを交えて教えてくれるけど、ロザリナは天才肌でしたよ。俺には、タイミングなんだろうなということしか分かりませんぜ。

「レアの迷宮大牛角がドロップしました」

 アンネリーセが大きな角を抱えてくる。

「これ一個で一万一〇〇〇グリルになるんだから、本当に金策モンスターだな」

 通常ドロップの迷宮大牛革でも三二〇〇グリル。しかもレアドロップ率が高いから、何度か挑戦すれば迷宮大牛角がドロップする。その証拠ではないけど、俺たちは一回でドロップした。

 難点は順番待ちが多いことか。ただ、戦闘時間は短いから、そこまで待ち時間はない。

 考えた末、俺は六階層に進むことにした。金銭的にまだ余裕がある。今のうちにできるだけ深い階層へ行こう。そうすれば、必然的に収入が増える。


 六階層は探索者ギルドの冊子がない。売っていないのだ。

「アンネリーセは六階層を探索したことある?」

「私は四階層の途中で魔導書を手に入れ、王都に拠点を移しましたから六階層は探索したことがありません」

 ここからは自力でマッピングすることになる。幸いなことにジョブ・探索者にはマッピングのスキルがある。マッピングがあれば迷うことはないだろう。

 六階層の通路の幅は五階層までの倍以上広い。元々高かった天井はさらに高くなっていて、開放感がある。大きなモンスターが出てくるのか、それとも大量のモンスターで囲んでくるのか。

「さて、何が出てくるか」

 六階層に出てくるモンスターはガーゴイルだった。空飛ぶ悪魔の石像だ。だから天井が高くなっているのか。

 詳細鑑定のおかげで、ガーゴイルの特徴を把握するのは簡単だ。ただ、鑑定結果を読むのに時間がかかる。

「ロザリナ。ちょっと時間をかせいでくれ」

「はいなのです」

 飛び出したロザリナがジャンプし、かなり高い場所を飛んでいるガーゴイルに迫った。

「てやっ」

 ロザリナの拳がガーゴイルにたたき込まれる。同時にガーゴイルの鋭い爪がロザリナに向けられるが、ロザリナはガーゴイルを蹴って空中を数回転して着地。アクロバティックな動きだ。俺ではとてもできないな。

 ガーゴイルはその姿のイメージ通り硬い。ロザリナの攻撃を受けてもピンピンしている。

 詳細鑑定でも体力が異常に高く、スキルに物理攻撃耐性(微)がついている。

「スキル持ちのモンスターなんて初めてだな」

 物理攻撃に高い耐性があるから、ロザリナでも倒し切れないようだ。ただ、ロザリナの動きにはまだ余裕があるように見える。……詳細鑑定の内容を読破! 理解した。

「ガーゴイルは魔法に弱い。もう少しがんばってくれ」

「はいなのです」

 幸いにもアイテムボックスの中に魔導書がある。これを使えば俺も魔法使いになれるはずだ。低確率で呪術士になる可能性もないわけではないが、それを引いたら素直にアンネリーセに頼ろう。

 魔導書を開くと、この世界で見慣れた文字ではない別の文字が書いてあった。でもなぜか読める。俺は言語チート持ちらしい。それは魔導文字と言われるもので、読んでいくとその文字が浮かび上がって俺の両の瞳に飛び込んでくる。不快感はないが、ちょっと怖かった。

 文字が浮かび上がって瞳に飛び込む不思議な経験をしてしばらく待つと、魔導書はその役目を終えたようにスーッと消えていった。

 ステータスから選択可能ジョブ一覧を出す。

 あった! でも思っていたのと違う。『エンチャンター』というジョブがそこにあったのだ。

【ジョブ】エンチャンター レベル一

【魔 法】魔力強化(微) エンチャント・ハード(微) エンチャント・アクセル(微)

     エンチャント・ファイア(微)

【ユニークスキル】詳細鑑定(中) アイテムボックス(中)

エンチャンター:強化魔法を操る者。エンチャンターは一万分の一の確率で発現する。スキル・魔力強化(微)、エンチャント・ハード(微)、エンチャント・アクセル(微)、エンチャント・ファイア(微)が使える。取得条件は魔導書を使うこと。


魔力強化(微):魔力値+四〇、知力値+一五、精神力値+一〇ポイント。(パッシブスキル)


エンチャント・ハード(微):対象を硬くし全てのダメージを無効化する。消費魔力八。効果時間十秒。発動後二分間使用不可。(アクティブスキル)


エンチャント・アクセル(微):対象の俊敏値を二倍にする。消費魔力八。効果時間三十秒。発動後五分間使用不可。(アクティブスキル)


エンチャント・ファイア(微):対象に火属性を付与する。対象が攻撃した際に、火属性の追加ダメージを与える。追加ダメージの威力は術者の魔法攻撃力値に依存する。消費魔力一〇。効果時間五分。発動後六分間使用不可。(アクティブスキル)


 おいおい、一万分の一に当たってしまったぞ。三十分の一の呪術士どころじゃないぞ、この確率。なんでここで出ちゃうかなぁ。魔法使いではなかったが、転職。

【ジョブ】エンチャンター レベル一

【種 族】ヒューマン

【能 力】

 生命力=六六

 魔力=一七五

 腕力=一三

 体力=九

 俊敏=七

 知力=二五

 精神力=二〇

 器用=一四

 物理攻撃力=七四

 物理防御力=四二

 魔法攻撃力=七五

 魔法防御力=六〇

「くっ……」

 転職した瞬間、ミスリルの両手剣がとても重く感じられた。これはヤバいレベルの重さだ。肩が抜けるかと思った。

 ミスリルの両手剣をアイテムボックスに収納。ジョブが武器を拒否した感じがした。剣は装備できないのかと思い、鋼鉄の片手剣を装備したがやっぱり重い。鉄の片手剣もダメだ。さらに鋼鉄の盾も重くて装備できない。鉄の盾も。ただし、鋼鉄の胸当ては問題なかった。迷宮牛革のヘッドギア、迷宮牛革のグローブ、迷宮牛革のブーツ、幸運のネックレスも使える。手に持つ武器枠がNGのようだ。

「アンネリーセ。悪いけど、そのつえを貸してもらえるかな」

「どうぞお使いください」

 アンネリーセが恭しく杖を差し出してくる。どんな仕草をしても可愛いね。

 杖は重くない。これがアウトだったら、何を装備すればいいのかって言いたい。明日はエンチャンター用の装備を見に行かないといけないようだ。

【ジョブ】エンチャンター レベル一

【種 族】ヒューマン

【能 力】

 生命力=五七

 魔力=一八一

 腕力=六

 体力=一三

 俊敏=七

 知力=二六

 精神力=二一

 器用=九

 物理攻撃力=一八

 物理防御力=六六

 魔法攻撃力=八三

 魔法防御力=六三

 防具のおかげで物理防御力はそこそこ高いが、物理攻撃力はショボい。魔法使いや呪術士は物理で殴るな、ということだろう。

「ロザリナ。今からエンチャント・ファイアをかける。もう少し頑張ってくれ」

「問題ないなのです」

 魔法を発動させるイメージを固め、エンチャント・ファイアを発動。俺の中から何かが抜ける感じがした。魔力が消費されたようだ。

 他のジョブでも魔力を消費するスキルはあったけど、魔力が減る感覚はなかった。エンチャンターは魔力の消費に敏感なようだ。

 ロウソクくらいの小さな火がゆらゆらと飛んでいき、ロザリナの腕にまとわりついた。その火はボワッと大きくなってロザリナの拳を包み込む。あれ、熱くないのかな?

「ロザリナ。大丈夫か?」

「まったく問題ないなのです」

 ガーゴイルの攻撃を躱して、着地と共に床を蹴ってガーゴイルに迫る。動きに支障はないようでよかった。支障があったら使えないクズスキル認定だったところだ。

 殴った瞬間、拳の炎がガーゴイルを焼く。先ほどまでガーゴイルの生命力の減りは一から二ポイントだったが、エンチャント・ファイア後の一撃を受けると八三ポイントも減った。追加効果で八〇ポイント以上削れたことになる。

 いくらガーゴイルの精神力値と魔法防御力値が低いとはいえ、ここまでのダメージが出るのか?

 俺のエンチャンターのレベルが上がれば、追加効果はもっと高くなる。ロザリナは手数を意識してくれたほうが、与えるダメージが多くなるわけだ。さらに、ロザリナがアクティブスキルの鉄拳やしゅうげき、そしてユニークスキルの闘気を発動させれば、もっと多くのダメージが出るはずだ。

 もっとも闘気を発動させたら、エンチャント・ファイアは不要だと思うけど。

 ロザリナがガーゴイルを倒した。攻撃は受けていないものの、これまではロザリナの攻撃もほとんど通らずかなり苦労していたが、エンチャント・ファイアがかかるとすんなり倒せた。

 あのロザリナがここまで苦労するということは、剣士ややりだけのパーティーでは、とてもガーゴイルを倒せないんじゃないか? ガーゴイルは石だけあって動きは遅いけど、空を飛んでいるしとても硬い。下手をすれば、剣士たちは全滅だろ。

「あれだけ苦労していたロザリナが、ご主人様の魔法を受けてガーゴイルを倒してしまいました。あのエンチャント・ファイアという魔法はどういったものなのですか?」

 魔法使いのアンネリーセでも知らない魔法のようだ。そういうのって、ちょっと優越感に浸れるよな。

「エンチャント・ファイアは火属性を付与する魔法になる。ロザリナのような物理攻撃しかできない探索者の攻撃に火属性の効果を付与し、火属性のダメージを敵に与える。ロザリナのような手数の多いジョブだと、とても効果的だと思うぞ」

「そんな魔法があるのですね……まるで魔法で魔剣を作っているようです」

 そういえば、魔剣なんてものもあるな。エンチャンターなら、簡易魔剣を作れるという考え方で間違いないだろう。パーティーに一人は欲しい補助ジョブかもしれないな。

 いつの間にかロザリナがドロップアイテムを拾って戻ってきた。Fランクの魔石だ。

「今回俺が魔導書から得たジョブは、エンチャンターという珍しいものだった。エンチャンターは直接攻撃できない代わりに、仲間を魔法で強化するジョブだと思ってくれ」

「承知しました。ロザリナさんもいいですね」

「はいなのです」

 元気いっぱい返事をしたロザリナだけど、多分分かっていない。それでも彼女は本能で対応してくれるからそれでいい。

「しかし、相変わらずご主人様は非常識ですね」

「ん?」

「本来は神殿に行かないと転職できません」

 今さらだな。

「それに得られるジョブが珍しいものばかりです」

 それは俺も思っている。

 両手剣の英雄や剣豪などは取得条件を満たしたからたまたま得られたけど、このエンチャンターは完全に運の要素が強い。一万分の一なんて、滅多に出るものではないからな。

「魔法使い自体が珍しいのですが、さらに珍しいエンチャンターなんてよく引きましたね。さすがはご主人様です」

「さすがなのです」

 分かってないけど、流れに乗って喜ぶロザリナの頭をでる。

「分かっていると思うけど、ジョブのことは全部秘密だからな」

「もちろん理解しております」

「はいなのです」

 実を言うと、両手剣の英雄のレベルが一四になっているんだけど、レベル一〇の時にスキル・アイススラッシュを覚えた。

 このアイススラッシュは氷属性の斬撃を飛ばすスキルで、飛んでいるガーゴイルへの攻撃手段として丁度いいし、氷属性の攻撃だからダメージも通るはずだ。


 その日、俺たちは六階層を途中まで進んでダンジョンから出た。

 ボス部屋まで行っていたら、夕飯の時間に間に合わない。使用人たちがせっかく美味しい料理を作ってくれるから、食べない選択肢はない。

 料理人のゾッパの腕はさすがとしか言いようがなく、毎日食事が楽しみなんだよ。

 美味しい料理を自分で食べるために、料理人になったと言っていただけのことはあるんだよね。


 探索者ギルドでアイテムを換金。盗賊たちのおかげで四階層のアイテムもアイテムボックス内に残っているから、それも換金だ。


〈四階層〉

 ・綿糸 二二個×八〇グリル=一七六〇グリル

 ・Gランク魔石 三六個×二五〇グリル=九〇〇〇グリル

 ・綿布(レア) 一個×一六〇〇グリル=一六〇〇グリル

 ・こう 一九個×一一〇グリル=二〇九〇グリル

 ・酸袋(レア) 二個×一八〇〇グリル=三六〇〇グリル

 ・毒袋 一一個×一八〇〇グリル=一万九八〇〇グリル

 ・グリーンリーフ(レア) 一個×四五〇〇グリル=四五〇〇グリル

 ・てっこう 五個×二三〇〇グリル=一万一五〇〇グリル

 ・黒蟻鉄甲(レア) 一個×八〇〇〇グリル=八〇〇〇グリル

 ※四階層合計六万一八五〇グリル。


〈五階層〉

 ・迷宮牛肉 三一個×二〇〇グリル=六二〇〇グリル

 ・Gランク魔石 二四個×二五〇グリル=六〇〇〇グリル

 ・迷宮牛革(レア) 五枚×二五〇〇グリル=一万二五〇〇グリル

 ・迷宮大牛角(レア) 一個×一万一〇〇〇グリル=一万一〇〇〇グリル

 ※五階層合計三万五七〇〇グリル


〈六階層〉

 ・Fランク魔石 一三個×六〇〇グリル=七八〇〇グリル

 ※六階層合計七八〇〇グリル


 総合計一〇万五三五〇グリルになり、三日分のアイテム換金額でモンダルク一家の一カ月分の給料を稼げたことになる。

 全部換金しようと思ったが、五階層のボスの迷宮大牛からドロップした迷宮大牛角は持ち帰ることにした。これで剣を造ろうと思ったんだ。

 それから面白いことにガーゴイルのノーマルドロップアイテムはFランク魔石だけだった。動く石像だからなのかな?

 迷宮牛からドロップした迷宮牛肉四個はお持ち帰り。四キロくらいになるから、アイテムボックスに入れておいて定期的に出して料理してもらおう。

 ガーゴイルのレアドロップの石化の短剣だが、最初から換金する気がないから査定に出さずに持っておく。短剣だから護身用として使えるだろう。石化の短剣は十五パーセントの確率で石化が発動する効果があるから、チクチクやっていれば石化が発動すると思う。ちなみにエンチャンターの俺が装備しようとしても、やっぱり重く感じられた。剣類は全部ダメなようだ。

 石化の短剣はゴルテオさんの店でも売っていたが、小売価格は五万グリルだった。探索者ギルドの査定だとおそらく二万五〇〇〇グリルだから、二倍になっている。探索者ギルドがいくらで卸しているか知らないけど、税金もかかるはずだからそれくらいにはなるのだろう。

〈トーイ〉

【ジョブ】エンチャンター レベル八

【魔 法】魔力強化(低) エンチャント・ハード(微) エンチャント・アクセル(低)

     エンチャント・ファイア(低)

【ユニークスキル】詳細鑑定(中) アイテムボックス(中)

〈トーイ〉

【ジョブ】両手剣の英雄 レベル一四

【スキル】指揮(低) 全体生命力自動回復(低) 身体強化(中) バスタースラッシュ(低)

     アイススラッシュ(微)

【ユニークスキル】詳細鑑定(中) アイテムボックス(中)

〈アンネリーセ〉※変化なし

【ジョブ】魔法使い レベル二一

【スキル】火魔法(中) 無魔法(中) 魔力操作(中) 魔力感知(中) 魔法威力上昇(中)

〈ロザリナ〉

【ジョブ】バトルマスター レベル一六

【スキル】剛撃(低) 鉄拳(低) しゅうげき(低) 防御破壊(低) 生命力回復(微)

【ユニークスキル】闘気(低)