
「俺が卒業して、もう六年か。懐かしい」
映:きすみくん、今年の文化祭は絶対に遊びに来て! 絶対だよ!
その圧の強い連絡をきっかけに、俺は永聖高等学校の文化祭へ足を運ぶことに決めた。
我が妹である瀬名映は小学生の頃からの宣言通り、晴れて俺の母校の後輩となり、おまけに一年生の時から生徒会長まで務めている。
せっかくだからと瀬名会のみんなにも声をかける。社会人となった今、全員集合は難しいが今日が休みのメンバー数名が集まることになった。
永聖高等学校を訪れたのはいつぶりだろうか。
見慣れた校舎も、自分が通っていた頃に比べればなんだか小さく感じる。
それでも文化祭の賑やかな雰囲気は変わらない。
現役の頃は文化祭実行委員会として裏方でバタバタしていたから、純粋な客として満喫した記憶は薄い。特に高二の時は、ぶっ倒れたから余計にそう思う。
そんな俺も二十四歳になった。
今は就職して、ある企業の経営企画室の一員として働いている。
仕事内容を簡単に言うと、社内の便利屋かつ調整役。その業務の幅は多岐に渡るが、メインは色んな部署の人や経営陣と関わりながら会社全体の舵取りをサポートする。とりあえず潰しの利く営業職志望で採用面接を受けたところ、最終の役員面接で今の上司にやたら気に入られて現在の部署へ一本釣りされた。
『君みたいなタイプはパイプ役に向いているから、早く会社中の人に顔を覚えてもらって社内を活性化させてくれたまえ』
要するに社会人になっても、相変わらず橋渡し役だ。
自分の働きが結構色んな人からありがたがられているので、毎日忙しいがやりがいは感じている。
さて集合場所である昇降口の前に行く前に、俺はひとりで校舎裏へと向かう。
ここだけは時が止まったようにあの頃と変わらない。
俺が有坂ヨルカに告白した桜の木は今も残っていた。
秋だから美しい花が咲いてはいない。
春の盛大に開花している印象があまりにも鮮烈だから、他の季節だと思わず枯れ木と勘違いしてしまいそうになる。
かといって年がら年中満開だとありがたみも失せてしまう。
長い一年の、ほんの一時だからこそ特別に思えるのだ。
目を閉じれば、いつでも満開の桜を浮かべることができる。
最後にここで桜を見たのは卒業式の日だ。
式を終えて、ヨルカとふたりで並んで見上げながら高校時代を振り返り、将来のことを語り合った。
忘れようとしても忘れられるわけがない。
すべてはこの桜の木の下ではじまった。
この場所で俺が告白をしなければ、また違った人生を歩んでいたと思う。
しばし感傷に浸っていると、ふいに背後から声をかけられる。
振り返ると、そこにはよく知っている顔があった。
「朝姫さん」
支倉朝姫がそこに立っていた。
「さびしそうな背中をしちゃって。私が慰めてあげようか?」
「それってお医者様の治療ってこと?」
「ご希望とあらば、お好みで」
「さすがに本物のお医者様に友達価格は申し訳ないので遠慮しておく」
「あら、残念」
念願叶ってお医者さんになった朝姫さんは多忙な日々を送っていた。理想と現実の間で自らの技術と経験を磨きながら、命と向き合っている。
彼女の髪は学生時代よりも伸びており、より知的な顔つきになっていた。
「朝姫さん、少し瘦せた? ちゃんと食事できている?」
「心配ありがとう。今日は当直明けで、一応ひと眠りしてから来たからいつもより元気よ」
強がることなく自然に言う彼女の顔には充実感があった。
俺は朝姫さんと一緒に、集合場所である昇降口のところに移動すると、見知った面々が既に集まっていた。
「きー先輩と、え、アサ先輩ッ!?」
最初に声をかけてきた紗夕はやけに驚いた声を出す。
「なによ、私達が一緒だとそんなに変?」
紗夕の声に、寝不足気味な朝姫さんは不機嫌な表情をつくる。
その迫力に気圧されて、紗夕はそれ以上余計なことを口にはしなかった。
「紗夕。帽子にマスクにサングラスって、風邪でも引いたのか?」
幸波紗夕は一見して彼女とわからないような格好をしていた。ほとんど変装に近い。
「ぶぅ! 私の名前を出さないでくださいよッ。他の人に気づかれたら、皆さんにまで迷惑をかけちゃうんで」
「すっかり有名人だな。よ、出世頭」
幸波紗夕は現在キー局のアナウンサーとして働いており、毎日のようにテレビで見かける。
彼女は、お忍びの芸能人みたいに正体を隠すのがすっかり板についていた。
「若い子への人気なら、こちらのグラフィック・デザイナー様の方がもっとすごいですよ。ね、ひなか先輩」
みやちーはトレードマークの金髪を伸ばしていた。その服装もデザイナーらしくオシャレに磨きがかかっていた。
大学卒業後に大手デザイン事務所に就職、そこで手掛けた作品が有名な広告賞を受賞。
もともと学生時代からSNS上での個人活動も盛んで、大勢のフォロワーがついており、今や名実ともに飛ぶ鳥を落とす勢いで大活躍していた。
「みやちーの作ったポスター見たよ」
「スミスミ、ありがとう。けど目立つって意味なら、やっぱりななむーが断トツじゃない」
残念ながら七村竜はここにはいなかった。
というか日本にすらいない。
やつは宣言通り、ほんとうにNBA選手になった。
高校三年、最後の夏に惜しくも全国大会を逃すも、関東大会での活躍がスカウトの目に留まりスポーツ推薦で大学に進学。そこで良き指導者に恵まれて、あれよあれよと急成長を遂げてアメリカへと旅立った。
外国人にも当たり負けしないフィジカルとゴールへの執念で、チームで頭角を現しつつある。またあいつの陽気な性格のおかげで、チームメイトと地元の人々から愛される人気者になっていた。
俺も七村のチームの試合は常にチェックしている。
「私、高校の先輩後輩ってことでこの前七村先輩のインタビューを担当したんですけど、あの人マジで変わってなくて超話しづらかったです」
「そのニュース番組見てたよ。紗夕、七村にかなりいじられておもしろい感じに編集されていたな」
「笑い事じゃありませんよ! せっかく知的なお姉さんキャラとして売り出していたのに、最近バラエティー番組の仕事がどんどん増えちゃって」
「それだけ場を回す受け答えが上手いってことだろう?」
俺は、紗夕の愚痴を宥めてやると彼女は満更でもない顔になる。
「メイメイも今海外でレコーディング中だから、来れなくて悔しがっていたよ」
みやちーと叶は今でも仲良しだ。
叶ミメイは永聖では珍しく大学へは進まず、卒業後はそのままプロのミュージシャンとしての活動を本格化させた。アーティスト・叶ミメイは次々とヒット曲を世に送り出し、彼女への楽曲制作の依頼は途切れることがない。
そんな叶の楽曲のアートワークを、みやちーが今も担当していた。
新しいアルバムが出る度に送ってくれて、そこには〝リンクスのリーダーより〟という一文が必ず添えられていた。
俺達の腐れ縁は今も変わらない。
「ひなかちゃん、花菱くんは今日仕事?」
朝姫さんはわざとらしい含み笑いを浮かべて、みやちーに質問する。
「……朝姫ちゃん。なんでまたあたしに訊くかなぁ」
実家が病院をやっている花菱もまた医者になった。医者という肩書きを手に入れてますます女性へのモテっぷりに拍車がかかるのかと思いきや、そうでもないらしい。
かつて『瀬名ちゃん、僕は本気である人に恋をしているのかもしれない』と相談を受けて、今度は俺が背中を押して以来、流されるままの女遊びは収まったようだ。
「でも、たまに花菱とは飲んでいるんだろう?」
「お互い不規則だから、たまの息抜きでタイミングが合うのが花菱くんなだけ!」
俺の質問にみやちーは困りつつも、以前ほどの拒否反応は薄れていた。
「あら、有坂さんはまだいらっしゃらないのですか?」
そこには我らが担任、神崎紫鶴先生が立っていた。
映の計らいにより、ここで先生と合流して体育館に向かうことになっていたのだ。
俺達の顔を見渡し、みんなが変わりないことに満足そうな楚々とした微笑を浮かべた。
「先生。有坂さんっていうのは……」
みやちーが俺に気を遣って、それとなく注意する。
「──、そうでした。いけませんね、私ばかり昔のままでは」
「むしろ先生が昔と一切変わっていないことに驚きなんですけど」
「瀬名さん、お世辞は結構です」
先生はいつも通り表情は少なく、静かな態度で応じる。
「いえ、大マジな感想です」
俺が高校生だった時に教わっていた神崎先生が、ビックリするほど昔のままである。
この場の誰もが等しく年齢を重ねているのに、ひとりだけ時間が止まっているみたいに美貌は翳らない。むしろ自分達の大人になった分、余計に神崎先生の変わらなさに驚きを隠し切れない。
あれ、タイムスリップでもしたのか?
俺の言葉に、女性陣が口火を切ったように悲鳴じみた感想を上げる。
「記憶の中の先生とまったく変わらないですけど」と朝姫さん。
「なんで老けないんですか」とみやちー。
「どんな化粧品とか使っているんですか! ぜんぶ教えてください!」と紗夕。
JKを経て、彼女達も働く大人の女性になった。
その美容に対する食いつき方がすごい。
「体育館へ先に移動しましょうか。あまり時間もありませんし、美容の話はまた後で」
反応に困った神崎先生は、とりあえず俺達を先導する。
体育館に着くと、俺達の在学中とはステージが大きく様変わりしていた。
「へぇ、今のステージは花道があるんですか」
「これも生徒会長である映さんの成果のひとつですね」
増設されたメインステージは上から見るとTの字の形になっている。中央部から客席に向かって花道が突き出した。
その先端に立つと単純に目立つだろうし、各団体の演出の幅も広がったに違いない。
「派手なことするなぁ」
「演劇部や軽音楽部、それにアイドル研究部などは上手く活用して盛況でしたね」
あぁ、俺が手助けした頃はアイドル同好会だったのに、いつの間にか部に昇格したようだ。
「なんで映はこんな目立つ場所を増やしたんですか?」
「それは、見てのお楽しみです」
神崎先生もまた意味深な言い方をする。
映にいくら訊ねても『当日のお楽しみ』と、詳しい内容については教えてくれなかった。
妙にソワソワと浮き足立つ会場内はほぼ満員。
花道を設けた分、座席数は俺達の頃より減っている。
座席は外部のお客さんを優先し、生徒達はほぼ立ち見にも拘わらず大勢が集まっていた。
ありがたいことに生徒会長の権限により、事前に俺達の席は確保されていた。
しかもちょうど俺がリンクスとして演奏していた時、先生やアリアさん、映がステージを観ていた場所だった。わざわざ同じ位置にしたのは映の小癪な気配りか。
みんなで順番に詰めていき、最後に俺が座ると一席分だけ空いていた。
壁に面した通路側なので、いつでも後から入ってこれる。
俺は首を後ろに巡らし、出入り口を見ながら彼女の姿を探す。
ヨルカのために用意された席に──彼女はいない。
「気になる、ヨルカのこと?」
となりの朝姫さんが見透かすように囁く。
「遅いのが心配だからさ。なにかトラブルでもあったのかな」
連絡を入れてみても彼女からの返事はない。
「もう大人なんだから大丈夫でしょう」
「そりゃそうだけど、この混み具合だとヨルカひとりだと大変だろうし……」
「入れ違いになった方がもっと面倒になるでしょう。それに映ちゃんは希墨くんに見てほしくて今日呼んだわけだし」
朝姫さんは相変わらず冷静だ。
まもなくイベントの開始時刻となり、入り口からひっきりなしに生徒が入ってくる。
一度体育館を出てしまえば戻ってくるのも大変そうだ。
「なによりヨルカが希墨くんを見失うわけないじゃない」
朝姫さんは、今や親友であるヨルカのことをよくわかっていた。
「いや、だけど……」
それでも落ち着かない。
俺の心配事はヨルカのことだけではなかった。
「────、放っておいても私がこういうことすると」
朝姫さんが急に俺の膝の上に覆い被さるように、通路の方へ身を乗り出そうとした。
「え、朝姫さんッ!?」
いきなり近づかれて、俺は思わず動揺してしまう。
脳裏によぎる非ラブコメ三原則。
久しくそんな心配もなかったから、完全に油断していた。
こんなところを彼女に見られたりでもしたら──
「ちょっと朝姫。わたしの夫に近づいたら許さないんだからね」
振り返ると、ヨルカがいた。
「ヨルカの姿が見えたから、手を振ろうとしただけじゃない。相変わらず嫉妬深いところは、子どもができても変わらないわね」
「ヨルヨル!」「ヨル先輩!」
ヨルカがようやく姿を見せて、みやちーと紗夕は喜んだ。
「瀬名さ──、この場に三人もいると不便ですね。ヨルカさん、お久しぶりです。美月ちゃんもお元気そうで」
左手の薬指に結婚指輪を輝かせて、ヨルカはベビーカーを押して俺の横にやっと来た。
瀬名ヨルカ。今は俺の妻だ。
「神崎先生、ご無沙汰しています。美月、この人がパパとママの先生だよ」
ヨルカはベビーカーから大切な娘・美月を抱き上げる。
その様は少女ではなく、もう立派な母親だ。
「ヨルカ、どこに行ってたの?」
「美月のおむつ交換で女子トイレ。その後、人が大勢並んでいたから体育館に入るの時間がかかっちゃって」
なるほど。おむつを交換して、ベビーカーを押していればスマホも簡単にはいじれないから連絡もつかないのも当然である。
「それより希墨、ちょっと美月をお願い」
「おー美月、ママと学校を回って楽しかったか?」
俺の顔を見ると、娘の美月はニコリと笑う。
ずっしりとした命の重さと温もりに、俺も自然と頰が緩む。
愛おしさが止まらない。
子どもという存在はかわいらしいものだと思っていたが、我が子は別格だ。
必死の受験勉強の末に俺はヨルカと同じ大学に合格した。
その後、ヨルカとの楽しいキャンパスライフを経て、就職と同時に同棲を開始した。
有坂家のご両親に預けていた婚姻届を引き取り、役所へ提出。
俺とヨルカはついに結婚する。
このあたりは、ヨルカのお父さんの完全なる読み通りだったのだが、それからすぐに美月を授かった。
両家の家族は初孫に泣くほど喜び、特に映の号泣ぶりには驚かされた。
あんなに泣いている妹を見たのは赤ん坊の頃以来だ。
臨月に差しかかる頃には、ヨルカのご両親もアメリカから緊急帰国。
孫パワーの偉大さを思い知った。
俺が指を差し出すと、その小さな手がしっかりと握ってくる。
「ヨルヨルに似て美人さんだね。おめめパッチリ」
「私も早く寿退社したーい」
「美月ちゃん、ずいぶんと大きくなりましたね」
みやちー、紗夕、神崎先生も身を乗り出して美月の顔を見てくる。
「元気いっぱいで、毎日振り回されっぱなしです」
俺とヨルカの娘の名前は美月。
ヨルカの名前のイメージである夜を引き継ぎつつ、俺の名前である希墨にも連なるように、「きすみ」→「みつき」としりとりのように繫がっている。
それに俺とヨルカがはじめて連絡先を交換した夜も、「月が綺麗ですね」と俺がメッセージを送った。そのことをヨルカはずっと覚えていてくれた。
美月が生まれた日も、ちょうど満月が美しい夜だった。
俺達は両想いの恋人から夫婦へ、そして両親になった。
ステージの花道にスポットライトが当てられ、映が現れる。
映はチラリとこちらを見て、俺達が来ていることを確認すると得意げな笑みを浮かべた。
映の登場に満員の会場から大きな歓声が上がる。
俺の妹はずいぶんと人気者らしい。
「ほら、映だよ。美月も応援してあげようね」
俺の膝に乗りながら、美月は不思議そうにステージを見つめていた。
「こんにちは、生徒会長の瀬名映です。皆さん、今日はお集まりくださりありがとうございます。いよいよ永聖高等学校の文化祭もフィナーレです」
実に慣れた様子で、映は客席との会話のキャッチボールを楽しんでいた。
「映ちゃん、大したものね。わたしも高校生の時にこれくらい話せたらな」
ヨルカがそっと耳打ちしてくる。
「それだと俺の出番が無くなって、美月にも会えなくなるぞ?」
「それは困るな。今より幸せな自分なんて想像つかないもの」
ステージ上で、映は今回の企画の説明に入った。
「この永聖高等学校では昔から、文化祭のステージで出し物を終えたタイミングで告白すると成就するジンクスが伝わっています。皆さんはご存じですよね?」
俺はヨルカと顔を見合わせる。
おいおい、今はそんなことになっているのか。
まさか自分達の行いが、そんな風に後輩達に引き継がれているとは思ってもみなかった。
「あれ、実は文化祭実行委員会的にはかなり迷惑なんですよね。告白で休憩時間に食いこむと、どんどんプログラムが遅れちゃうので」
冗談っぽい言い方に、客席から笑い声が零れる。
「だけど、これを他ならぬ私が否定することはできません。なぜなら、そのステージでの告白を最初にはじめたのは、なにを隠そう私のお兄ちゃんだからです! しかも正しくは告白じゃなくてプロポーズ!」
映が打ち明けると、会場がどよめく。
俺だけは妹がようやく人前で「お兄ちゃん」と呼んだことにひとり謎の感動を覚える。
「よかったね、希墨」
俺の妻は、その密かな達成感にきちんと気づいてくれていた。
「ずいぶんと時間がかかったよ」
「映ちゃんが生徒会長なんて不思議な気持ち」
「しかも娘と一緒に眺めるなんてな」
かつて、俺とヨルカはステージの上にいた。
今は客席から家族三人でステージを見上げている。
その変化がこそばゆくも嬉しくて、なんだか笑ってしまいたくなる。
映の演説は続く。
「だから、ここにいる皆さんには特別に、お兄ちゃんとその恋人がどうなったのかをお伝えしようと思います」
聞きたーい! という声がそこら中から上がる。
もはや映のオンステージ状態。完全に会場を掌握していた。
「お兄ちゃんはこのステージでプロポーズした恋人と結婚しました!」
おめでとう! とノリのいい誰かが叫ぶと、そのまま盛大な拍手が沸き起こる。
「しかも、子どもまで生まれました! 名前は美月ちゃんといいます。私の姪っ子で、すごくかわいいです! 愛しているよ~~美月ちゃーん!」
俺の妹は手本を見せるようにステージ上で、いきなり愛を叫んだ。
おい、生徒会長。
ロックスターさながら会場を震わせるようなステージ上での告白。
あぁ、俺のプロポーズも客席で見るとこんな感じだったのね。
我が娘はそれをわかっているのか、キャッキャと喜んでいた。
「っと、こんな感じで色んな告白をしたい子達を一堂に集めて、それ自体をイベントにしようと思って今年のフィナーレ企画〝花道で愛を叫べ〟を立ち上げました。これならスケジュール通りに進むし、面白いでしょう?」
完全に温まった会場が告白の背中を押すように、笑っちゃうほどテンションが高い。
こんなにお祭りモードなら、たとえ告白に失敗してもスッキリと終われるだろう。
「これまで何度も言ってきましたが念のため注意事項です。これはガチの告白です。この場もこの後も周りの人が笑ったり、いじったりするのだけは絶対禁止。勇気を出した人をみんなで応援してあげましょう。それから返事をする人も正直に答えてください。空気なんかは読まず、自分の気持ちに素直でいきましょう。成功すればお幸せに。失敗してもお互い恨みっこなし。白黒ハッキリさせて、スッキリ文化祭を終えましょう」
事前にずいぶんと周知してきたのだろう。
映のお願いに、会場ははーいと行儀よい反応を返す。
勇気ある挑戦は等しく讃えられるべきなのだ。誰もが自分の告白に後悔してほしくない。
「そのために、告白の返事は即答してね。待たされる方はとてもツラいんですから」
映は付け加えて、かわいくウインクを飛ばす。
「ヨルカ、言われてるぞ」
「最初だけじゃない!」
俺達夫婦にとっては笑い話だが、小学生だった映には告白の返事を待っていた俺の姿がよっぽど記憶に刻まれていたのだろう。
会場が静まり返るのを待って、映が最後の言葉を告げる。
「これは映の、大切な師匠からの伝言でもあります。好きなら絶対言った方がいい。イベントでも願掛けでも、勇気を出すきっかけになるならなんでもいいの。言わないで後悔するより、全力で愛を叫ぼう。もしかしたら両想いかもしれないじゃん!」
人生には言わずにしまってしまった大切な感情がいくつあるだろうか。
俺達は照れ屋で不器用だ。
自分の気持ちに正直になるのが苦手だし、それを言葉にして伝えるのはとても難しい。
傷つくのが恐くて、勇気が出せなくて、勝手に諦めてしまう。
それでも想いを伝えるのは決して無駄じゃない。
昨日よりも、一歩だけ自分を前に進められる。
人と人が繫がることで、新しい未来が開かれることがある。
ひとりがふたりになれば、現実も超えていけるかもしれない。
コミュニケーションはその第一歩だ。

「希墨の行動が、こんな風に未来まで繫がっていくなんて感動するね」
「あぁ。あの頃は想像もつかなかった」
「あなたが愛を叫んでくれたおかげで、わたし達は一緒にいられて、この子が生まれて、今度は知らない誰かの背中を押しているよ」
ヨルカの言葉に頷く。
それはなんて素敵なことだろう。
ステージの花道に、一人目の男子生徒が立つ。
あれはかつての自分だ。
君に告白して、俺の人生は変わった。
どうか彼らにも幸福な未来を。
少年は好きな少女の名前を呼び、シンプルにこう告げる。
「好きです。俺と付き合ってください」
愛は巡り、そしてまた両想いの恋人が生まれた。
『わたし以外とのラブコメは許さないんだからね』 完