「希き墨すみ、見て! イルミネーションが綺き麗れい!」

 俺の両りよう想おもいの恋こい人びとである有あり坂さかヨルカは、いつになくはしゃいでいた。

 今日は十二月二十四日、クリスマス・イブ。

 俺とヨルカは遊園地デートに来ていた。

 学校の授業を終えると制服のまま電車に乗りこみ、園内全域にイルミネーションが施ほどこされていると話題の遊園地をデート場所に選んだ。

 夕ゆう闇やみの敷しき地ち内に一歩入ると、そこはさながら光の庭。

 極ごく彩さい色しきの光に彩いろどられた眩まばゆい景色が広がっている。

「ここを選んで正解だった」

 俺もヨルカと同じ気持ちだった。

 想像以上のイルミネーションの美しさに、クリスマスを恋こい人びとと過ごすにはピッタリの場所だと確信する。

 アトラクションや建物の外がい壁へきはもちろん植しよく栽さいや売店、柵さくやベンチに到いたるまで園内あますところなくイルミネーションで装そう飾しよくされている。

 特に見物なのは、園内各所に特設されたクリスマスツリー。

 大小様々な種類のツリーはそれぞれデザインが異なる。園内を歩いているだけで色んなクリスマスツリーが楽しめることから、この冬の人気デートスポットとして注目を集めていた。

 寒空の園内には、俺達と同じようにカップルや家族連れが多い。

 人ごみを苦手とするヨルカも圧巻の煌きらびやかなイルミネーションや華はなやかなクリスマスの雰ふん囲い気きでテンションが上がって楽しそうだ。

「ねぇ、早く行こう。アトラクションもいっぱい乗りたい」

 待ち切れないとばかりにヨルカが俺の手を引く。

「焦あせらなくても遊園地は逃にげないから」

「けど、列には並ぶでしょう?」

「それが遊園地の宿命だからな。特に冬場は忍にん耐たい力を試ためされる」

「あ、予備のカイロ持ってきたよ。希き墨すみにもあげるね」

 ヨルカはカバンから取り出したカイロを俺に手て渡わたす。

「準備万ばん端たんだな。そんなに楽しみだったのか」

「だって希き墨すみと一いつ緒しよに過ごすはじめてのクリスマスだよ!」

「……恋こい人びとになったのが四月だから、ずいぶんと時間が経たったもんだな」

「いろいろありすぎて、あっという間に冬になっちゃったよね」

 ヨルカは制服の上に冬物のコート、マフラー、手て袋ぶくろと防寒対策は万ばん全ぜん。

 寒い季節は着ぶくれてしまいがちだが、それでも俺の恋こい人びとの美しさは隠かくし切れない。

 艶つややかな長い髪かみ。流れるような綺き麗れいな形の眉まゆ、大きな目は長く濃こいまつ毛で縁ふちどられ、整った鼻び梁りよう、薄うす桃もも色いろの唇くちびる。それらを収めた小さな顔は芸術的なまでに整っていた。白い肌はだは雪のように内側から光って見える。スカートの下から伸のびる長い脚あしには思わず目がいってしまう。

「けど、楽しいことばかりだ」

 有あり坂さかヨルカと付き合ってから退たい屈くつとは無む縁えんになった。

 どれだけ一いつ緒しよにいても飽あきないのは、俺がヨルカに心底惚ほれているからだろう。

 彼女と話しているだけで、何気ない日常さえも華はなやかに彩いろどられる。

 きっと、こういうことを幸せと呼ぶのだろう。

「ふふ、イブをもっと楽しみましょう! まずはジェットコースターに行くよ!」

 光の宝石を敷しき詰つめた眩まばゆい園内は夜を煌きらびやかに彩いろどる。

 だけど、どんなイルミネーションよりも彼女の笑え顔がおが輝かがやいていた。



「面おも白しろかった。叫さけびすぎて喉のど痛い」

「ヨルカがこんなに絶ぜつ叫きようマシン好きとは意外だった」

「解放感が気分いいじゃない。あれが結構クセになるの」

「たまに来ると楽しいもんだよな」

「でしょう」

 寒空の下、ヨルカは遊園地デートを満まん喫きつしていた。

 ジェットコースターは、猛もうスピードで光ひかり輝かがやく園内を駆かけ抜ぬける。昼間は視界が開けていて爽そう快かい感があるが、夜の乗り心ごこ地ちはまた一味違ちがう。無数とも思える光が一いつ瞬しゆんにして通り過ぎていく感覚はまるでSF映画で宇宙船がワープするシーンを思い起こさせる。高い場所まで上ったと思ったら、一気に急降下。上下左右に揺ゆさぶられながら、となりでキャーキャーとはしゃぐ声を聞いているうちに一周が終わってしまった。

「じゃあ、もう一回! ねぇ乗ろうよ」

「耳がちぎれそうなくらい寒いんだが」

 冬の冷たい空気を切きり裂さくようなハイスピードに晒さらされて、冷えた耳が痛い。

「さっき渡わたしたカイロで温めれば大だい丈じよう夫ぶだよ。はい、わたしのも貸してあげるから、両耳ともバッチリでしょう?」

 ヨルカは、新しい場所へデートに行く時はいつも楽しげだが、今日は特に上じよう機き嫌げんだ。

「だいぶ間ま抜ぬけな格好じゃないか?」

 二周目のジェットコースターに乗るため、ふたりで列に並びながら俺はカイロを両耳に当ててみた。あ、温かい。

「恥はずかしいの? じゃあ、わたしが温めてあげるよ」

 ヨルカは自分の手て袋ぶくろを外して、俺の両耳に手を添そえる。彼女の細い手は温かかった。

「どう?」

「温かい、けど……」

「けど?」

「イチャついているみたいじゃないか?」

 ふたりきりの時ならいざ知らず、周りには他の人もいるのに大だい胆たんなものだ。

 このまま手を添そえた顔を引き寄せて、キスでもしそうな感じに周りから見られているのではないだろうか。

「希き墨すみ、照れてる」とヨルカは案外余よ裕ゆうそうだった。

 美しい顔が近ければ、そりゃ照れるに決まっている。見慣れたつもりでも間近にあれば見み惚とれるのは仕方ない。

 俺の恋こい人びとはすごくかわいいのだ。

「ほら、列が動くぞ。もう手を離はなせって」

「耳は温まった?」

「まぁまぁ」

「遠えん慮りよしなくても、もっと温めてあげるよ」

 ヨルカはそう言って、俺に身体からだをピッタリ寄せてくる。

 恋こい人びとが心底楽しそうで、俺も幸せだ。耳の冷たさくらいどうってことない。

 その後もヨルカの希望で激しい系を中心としたアトラクションを乗のり継つぐ。

 メリーゴーランドに休きゆう憩けいがてら乗ると、今度はフリーフォール。園内を一望できる最高地点から落とされる浮ふ遊ゆう感と恐きよう怖ふ感には声も出ない。あの落ちた瞬しゆん間かんの、座席からお尻しりが浮うく感覚が最高に恐こわい。

 俺達はアトラクションに乗りつつ、移動しながら園内のイルミネーションを楽しんだ。

 違ちがうエリアに移動し、新しいイルミネーションの前で記念撮さつ影えい。

 誰だれもがこの光のアートにスマホやカメラを構えているので、撮さつ影えいをお願いする相手には困らない。こちらのツーショット写真を撮とってもらったら、同じように俺も相手の写真を撮とる。

 今日だけでたくさんの写真が増えた。

 あれだけカメラを嫌いやがっていたヨルカも今は昔。

 いつも周囲に対して明確な一線を引いていた俺の恋こい人びとはずいぶんとオープンになった。

 今では普ふ段だんの教室でも、俺や瀬せ名な会かいの友人以外のクラスメイトともふつうに話すようになった。

「希き墨すみ? どうしたの、ぼうっとして」

 クリスマスツリーの写真を自分のスマホでも撮とっていたヨルカは、俺を不思議そうに見る。

「ヨルカは文化祭が終わってから、特に変わったなって」

「それは、希き墨すみがプロポーズしてくれたおかげじゃない」

 ヨルカは、思い出したように頰ほおを緩ゆるませる。

 それはもうゆるゆるに緩ゆるみ切っていた。

 秋の文化祭で俺とヨルカは、リンクスというバンドのメンバーとしてステージに立った。

 本番までの忙いそがしい日々でふたりだけの時間がろくに作れなかった上に、前日に俺が過労で倒たおれるというアクシデントにも見み舞まわれた。病室で俺が目を覚ました時には本番までギリギリの時間。そうしたいくつもの困難を乗のり越こえて演奏を見事に成功させた俺は、ヨルカへの感謝と愛情が感かん極きわまって、大勢の観客の前でプロポーズをしていた。

 男・瀬せ名な希き墨すみ、渾こん身しんの叫さけびにヨルカは恥はずかしそうに〇をくれた。

 あれから、ヨルカはみんなの前でも平気でデレるようになった。

 公開プロポーズにより俺とヨルカが両りよう想おもいの恋こい人びとであるのは、クラスどころか学校中にまで知しれ渡わたっている。

 もはや揺ゆるぎない周知の事実である以上、隠かくす必要もないと彼女は開き直った。

 本人曰いわく、我が慢まんしなくていいと案外楽しそうにやっている。

 今までのように羞しゆう恥ちに満ちた過か敏びんな反応や照てれ隠かくしの行動が減り、美術準備室以外でも俺の側そばに寄ってくるようになった。

 ──愛の力は人間を成長させる。

 ヨルカが幸せなら、俺にとっても万ばん々ばん歳ざいだ。


◇◇◇


 俺達は長めの休きゆう憩けいも兼かねて、観覧車に乗った。

 ゆっくりと高さを増していくゴンドラの中は動く密室だ。

 ふたりきりの空間で、窓の外には輝かがやくイルミネーション。

 なんとロマンチックなシチュエーションだろう。

「こういうの、いいね。素す敵てき」

 対面の席に座るヨルカも同じように感じていた。

「クリスマス・イブ当日に、カップルでわざわざ人の多いド定番のデートスポットに行くのも悪くないな。これぞイベントの醍だい醐ご味み」

「人気があるのにはそれなりに理由があるってことでしょう」

「その上、ここなら人ごみも関係ないしな」

 観覧車のゆっくりとした回転に身を委ね、地上の混雑とはしばしおさらばだ。

 今ここはふたりだけの世界である。

「うん。賑にぎやかなのもたまにはいいけど、わたしはやっぱりふたりきりが一番好き」

 ヨルカは窓の外の上じよう昇しようしていく景色から、視線を切ってこちらを見てきた。

「ねぇ、そっちに行っていい?」

「もちろん。俺の横はいつでもヨルカのために空けてある」

「自分だけの特等席があるって最高」

 ヨルカはすぐに俺のとなりに収まる。ピッタリと密着されて、俺も非常に落ち着く。もはやこれが馴な染じみすぎて、付き合う前には二度と戻もどれない。

「寒いだろうから上着をつかえよ」

 俺は自分のコートを脱ぬいで、ヨルカの膝ひざの上にかける。

 いくらニーソックスを履はいているとはいえ、スカートでは脚あしが冷えるだろう。

「しかも彼かれ氏しがとっても紳しん士し」

「文化祭でもジャージ貸しただろう」

「いつだって好きな人がやさしくしてくれるのが、女子としてはポイントが高いの」

「迷めい惑わくでないなら、なにより」

「希き墨すみも寒くならないように、わたしが温めてあげるね」

 ヨルカは腕うでを回して、俺をぎゅーっと抱だきしめてくる。

 ここでは誰だれも見ていないから遠えん慮りよする必要もない。今日は美術準備室にも寄らずに下校したから本日初のハグ。

 好きな人を抱だきしめると「幸せホルモン」であるオキシトシンが分ぶん泌ぴつされるそうだ。

 その効果をさらに高めようと、俺も抱だきしめることでさらに密着感を高めた。

 ヨルカの顔が間近にある。

 薄うす暗ぐらいゴンドラの中で、ヨルカの大きな瞳ひとみが美しく輝かがやく。

 その光に魅みせられるように、俺はゆっくりと顔を近づける。

 言葉は不要で、ヨルカもそっと目を閉じた。

 もう何度も重ねた唇くちびるが愛いとおしい。

 やさしいキスの感かん触しよく。

 いつの間にか俺の上着がヨルカの膝ひざから落ちるのも構わず、キスを続ける。

 片方の手で彼女の肩かたをしっかりと抱だき、もう一方の手で指を絡からめ合う。

 俺達は、ずっと我が慢まんしていたことを解消するようにお互たがいの唇くちびるを求める。

「希き墨すみ、積極的すぎ」

「ヨルカだって」

 長い時間キスをしていた。

 俺の恋こい人びとは頰ほおを上気させて、とろんとした目をしていた。

 キスする前より艶つやめいた唇くちびるは小さく開閉する。

 それは酸素を求めているのか、それともキスの続きをおねだりしているのか。

「だって、なんか最初の頃ころよりキスが巧うまくなっているから……」

 ヨルカはそんな男おとこ冥みよう利りに尽つきる申しん告こくをしてきた。

「いっぱいキスしたからな」

「ハマっちゃったの?」

「あぁ。病やみつきだ」

「それは大変ね」

「他ひ人と事ごとみたいに言って。ヨルカの方もだろう」

「わたしは、別に」

「そんな幸せそうな顔をしているのに、説得力ないぞ」とヨルカの頰ほおに手を添そえる。

「仕方ないでしょう。生理的な反応なんだから!」

 ヨルカは目を閉じ、犬が親愛を示すように、俺の手に頰ほおずりをしてきた。

「顎あごでもくすぐって、頭を撫なでればいいか?」

「恋こい人びとを犬みたいに扱あつかわないでよ」

 そう言いながらもヨルカは離はなれない。

 すっかり甘えたいモードだ。

 ここまで全ぜん幅ぷくの信しん頼らいと愛情を向けられると、俺の中で抑おさえていた獣けものの部分も疼うずいてしまう。

 自分の興奮を冷静に自覚してしまい、段々と焦あせってくる。ヤバイ。

 ヨルカはとにかくカワイイし、いい匂においがする。

 コート越ごしでもわかるくらい密着している身体からだの線の細さややわらかさは刺し激げき的。

 しかも普ふ段だんはクールな美人がこんな無防備な顔で求めてくるのだ。

 落ち着け、瀬せ名な希き墨すみ。

 いくらふたりきりでも、ここは観覧車の中だ。

 これより先の展開はデンジャラスすぎるッ!

 そう葛かつ藤とうしている間に、ヨルカが俺の手から顔を離はなした。

「希き墨すみも文化祭が終わって少し変わったよね?」

「俺? どこが?」

 なにか見み抜ぬかれたのかと一いつ瞬しゆんドキっとしつつ、鋼はがねの精神で平静を保つ。

「落ち着きが出たよ」

「特に実感はないけど」

 まぁ、いざという時に以前よりボロが出なくなったのは確かだろう。

「ほんとに? 最近なにか変わったことは?」

 ヨルカは、つんつんと俺の頰ほおを指でつつく。

「そうだな……、期末テストの順位はかなりアップしたぞ」

 直近の変化として思い至るのは、二学期の期末テストが以前よりずいぶんと点数がよかった。文化祭でのライブの成功体験の影えい響きようか、不思議と日々の生活でのヤル気も増してテスト勉強にも身が入った。その成果はきちんと点数となって現れた。

「それはおめでとう」

「不動の学年一位に祝福されるほどじゃないさ」

 かたやヨルカは安定の首位キープ。ちなみに二位が朝あさ姫きさん、三位が花はな菱びしと成績上位陣じんには特に変動なし。みんな頭よすぎ。

「テスト以外で、もっと他に露ろ骨こつに変わったところあるでしょう」

 どうやらヨルカの想定している答えではないらしい。

「さっぱり心当たりがないんだが」

 ヨルカは物言いたげにこちらを見てくるが、なにも思い当たらない。

「しらばっくれるの?」

「マジでわからない」

「やましいこと、隠かくしていない?」

「俺がヨルカに噓うそをついてなんの得があるんだよ?」

 自じ慢まんじゃないが、俺の恋こい人びとへの一いち途ずぶりは学校ナンバーワンだと自負している。

 もしも公然と学校一の美少女に愛を誓ちかった男が不ふ貞てい行こう為いを働いたら、全校生徒から糾きゆう弾だんされて、学校での居場所がなくなるだろう。

 間ま違ちがいなく俺の高校生活は終わる。

 そんなリスキー極きわまりない愚ぐ行こうをするわけがないし、なによりヨルカを傷つけるような真ま似ねはしたくない。

「だって、心配なんだもの」

「ヨルカ。なにか気になることでもあるのか? あるなら聞かせてくれ」

 俺の知らないところで恋こい人びとがストレスを抱かかえているなら、それは由々しき事態だ。

 その不安を少しでも軽くしてあげたい。俺は真しん剣けんな顔で問う。

「……最近、希き墨すみがさらにモテているんだもの」

 ヨルカが打ち明けたのは、まったく身に覚えのない指し摘てきだった。

「どこが?」

 頭に無限のクエスチョンマークが浮うかぶ。

 しかも、さらにってなんだ?

「この前も廊ろう下かで、わたしの知らない大勢の女の子に声をかけられていたじゃない!」

「大勢って……、あーもしかしてアイドル研究会の子達のことか」

「やけに盛り上がっていたけど、なんの話をしてたの?」

「文化祭のステージで披ひ露ろうしたビヨンド・ジ・アイドルの『七色クライマックス』のおかげでメンバーが増えた報告と、その動画をアップしたので見てくださいって宣伝されただけだ。で、最後にはお決まりの公開プロポーズの話題となり、有あり坂さか先せん輩ぱいとお幸せにと応おう援えんされた」

 ただの雑談だ。

 断じてモテているなどという浮うかれた状じよう況きようではない。

 俺としては関わった子達が、単純に成果を出せたのは喜ばしいことだ。

「それなら、いいんだけどさ」

 ヨルカは微び妙みようにモヤモヤしている様子だ。

「廊ろう下かで声をかけられるなんて、文化祭以降はよくあることじゃないか」

 俺は有あり坂さかヨルカにプロポーズした男として学内で有名人になってしまい、プロポーズ先せん輩ぱいと応おう援えん半分冷やかし半分に声をかけられる機会が増えた。

「けど、わたしの知らない女の子と希き墨すみが仲良くしているのは気になる……」

「浮うわ気きをしたわけじゃあるまいし」

「そんなのは当たり前でしょう」

 笑え顔がおで、語ご尾びにはハートマークがついていそうな甘くやさしい言い方。

 なのだが、目の奥が笑っていない。

「そういう早とちりは、ラブコメ漫まん画がみたいなラッキースケベが起こった時だけにしてくれ」

 俺はヨルカの杞き憂ゆうをなだめる。

「は? この期に及およんでラブコメみたいな状じよう況きように巻きこまれること自体、希き墨すみの気が緩ゆるんでいる証しよう拠こ。そういう状じよう況きようからは徹てつ底てい的てきに距きよ離りを置く! 起こさず、近づかず、起こさせず──の非ラブコメ三原則を徹てつ底ていすること。わかった?」

「そんな三原則があるなんて初耳だぞ!?」

「あるの! 文句ある?」

「ございません」

 ヨルカは俺の表情に偽いつわりがないことを認めつつも、最後に念を押す。


「わたし以外とのラブコメは許さないんだからね!」


 そう高らかに宣言するヨルカは、ほんとうに楽しそうだ。

 好きで好きでたまらないという気持ちが彼女の全身から溢あふれていた。

 愛ゆえの嫉しつ妬とも悪くない。

 大好きになった人と付き合えて、ずっと仲良し。

 こんなに幸せなことはない。

 お互たがいを想おもい合い、一いつ緒しよにいられる日々に胸は満たされる。

 クリスマスだから特別なのではない。

 年を越こしても、高校を卒業しても、大人になってもこんな毎日がずっと続けばいいと願う。

「じゃあ恋こい人びととの、さらなるラブコメ展開への期待をこめていいものをあげよう」

 俺は落ちていたコートをヨルカの膝ひざにかけ直し、さり気なく自分のカバンからある物を取り出す。

「はい、どうぞ」

 俺は小箱をヨルカに手て渡わたす。

「これってもしかして」

 刻印されたブランド名と箱の大きさから、ヨルカは中身を察したようだ。

「もしかしなくてもクリスマスプレゼント」

「ありがとう! 開けてみていい?」

「どうぞ」

 俺は若じやつ干かん緊きん張ちようしながら、ヨルカの開かい封ふう作業を見つめる。

 包装を解き、小箱の蓋ふたをとる。その中に入っていた指輪ケースをおもむろに開けた。

「これ、わたしが気になっていた指輪!」

「よかったら俺がつけようか?」

「お願い!」

 俺は指輪を慎しん重ちようにヨルカの右手の薬指に通す。

 シンプルだが王道のデザインはヨルカの白く細い指によく似合っていた。

「わぁ、指にピッタリ! いつの間にわたしのサイズを調べたの?」

 感動するヨルカは、うっとりした視線で指輪を見つめる。

「前にデートした時にアクセサリーショップで試ためしに指輪をつけていただろう? 後でトイレ行くふりしてお店に戻もどって、接客してくれた店員さんからサイズを聞いたんだ」

「希き墨すみ、ありがとう。すごく素す敵てき。大切にするね!」

「喜んでくれて俺も嬉うれしいよ」

 今日一番の大仕事を終えて、俺も胸を撫なで下おろす。

 もしもサイズが間ま違ちがっていたらどうしようとちょっとだけ心配だったので、俺も一安心だ。

「じゃあ、わたしもお返し」

 同じようにヨルカもカバンからプレゼントを取り出す。

「気に入ってくれるといいんだけど」

「マフラーだ。ありがとう」

 俺は早さつ速そく首に巻いてみる。

 シンプルなデザインのマフラーは落ち着いたボルドー色で大人っぽい印象をあたえる。

 薄うす手でながら温かく触さわり心ごこ地ちもいい。どんなファッションにも合いそうなので、これなら冬場は毎日つかえる。

「希き墨すみによく似合っている。よかった」

 実際に身につけた俺の姿を確かく認にんして、ヨルカははしゃいでいた。

「大事につかうよ」

 キスやプレゼント交こう換かんをしているうちに、観覧車はいつの間にか頂点をとっくに過ぎていた。

 ヨルカは俺の腕うでを抱だきしめながら、ずっと自分の指輪を見つめる。

 俺は首元のマフラーととなりにいるヨルカの温ぬくもりで、すごく穏おだやかで満たされた気持ちになっていた。

 これからも俺は両りよう想おもいの恋こい人びとを愛し続けるのは言うまでもない。

「ねぇ、希き墨すみ。来年も、この先もずっと一いつ緒しよにいようね」

「もちろん」

 きっと俺達の関係が揺ゆらぐようなことはないだろう。

 観覧車のゴンドラはそろそろ地上へ戻っていく。

 ふたりきりの甘い時間はおしまいだ。

「あーこうしてクリスマス・イブを一いつ緒しよに過ごせてよかった。やっぱりアメリカ行きなんて絶対に嫌いやだなぁ」

「ん? アメリカ? なんの話」

 ヨルカの口から不ふ穏おんな言葉がこぼれた。

「あれ、言ってなかったっけ。パパからアメリカに引ひっ越こそうって提案をされて──」

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ─────────?」

 ヨルカの言葉を遮さえぎるように絶ぜつ叫きようしてしまう。

 そのあまりの動どう揺ように、観覧車のゴンドラが落ちそうなくらい激しく揺ゆれた。

 俺にとっては天変地異に等しい知らせ。

 穏おだやかに満たされていたはずの心は、激しくかき乱された。