エピローグ 自称普通の女の子、シスターを手に入れる

ジェインが横領と脅迫の罪で捕らえられてから一週間経ったある日。リスティアが食堂でクルクルと踊るように給仕をしていると、シャーロットが訪ねてきた。

「お帰りなさい──いえ、こんにちは、シャーロットさん」

妹モードで出迎えかけたリスティアだが、シャーロットの服装が前回と同じようなドレスであることに気付いて言い直した。

「こんにちは、リスティアさん。今日は事件の顛末と、前回話せなかったことをお伝えしようと思っているのですが、お時間ありますかしら?」

問われたリスティアはちらちらっと店内を確認。「えっと……大丈夫ですよ。それじゃ、奥でお話を聞きますね」とシャーロットを控え室に案内した。

そうして上座を勧めたのだけれど、シャーロットは手前の席に。そして座ることなく、リスティアをまっすぐに見つめた。

「まずは、ジェインの件を謝らせてください。一歩間違えれば、リスティアさんに多大な迷惑をかけるところでした。本当に申し訳ありません」

シャーロットが深々と頭を下げる。

「えっと……どうしてシャーロットさんが謝るんですか?」

「ジェインをこの街の市長に任命したのは、我がウォーレン伯爵家ですから。ジェインの不始末は、わたくしの不始末でもあります」

「あぁ、なるほど」

リスティアは真祖の一族のお姫様なので、上に立つものが部下の不始末に責任を持つという考え方は理解できる。

けれど──

「あたしはシャーロットさんに対して、なにも思うところはないですよ。もちろん、謝らないと気が済まないっていうなら、謝罪は受け入れますけど」

「ありがとうございます、リスティアさん」

「どういたしまして。ということで、良かったら座ってください」

シャーロットに席を勧め、自分もその向かいに腰掛ける。そうして、シャーロットの顔を少しだけ盗み見ると、シャーロットはほっと息をついて微笑んでいた。

きっと、心配してた問題が一つ解決して安心したのだろう。その微笑みが可愛らしくて、リスティアはあたしの妹になってくれないかなぁ? などと考えた。

「それで、ジェインは取り調べ中ですが、裏でかなりあくどいことをやっていたみたいで、おそらく死罪は免れないと思いますわ」

「そうですか、それを聞いて安心しました」

マリア達を傷つけた黒幕。

ジェインを罰しても、マリアの過去がなかったことになるわけではないけれど、少なくともあらたな被害者を生むことはなくなると、少しだけ安堵した。

「そして、売られた子供達ですが、可能な限り行方を追って保護するつもりです。ですので、情報提供をお願いしたいのですが……」

「分かりました。あたしも色々と調べておきますね」

マリアを除く子供達は、孤児院を卒業した子供達がどうなったのか知らない。だから、マリアに話を聞くのが良いだろうとリスティアは思った。

「それで、ここからが本題なんですが……その前に、あらためて問いますが、リスティアさんは、わたくしに対して思うところはないと言ったのは事実ですか?」

「ええ、もちろんです。それどころか、優しい女の子だなって思ってますよ」

そして、あわよくば、あたしの妹にしたいと思ってるよ! と、心の中で付け加えた。そんなリスティアを前に、シャーロットは身を震わせる。

「わ、わたくしも、リスティアさんは可愛くて優しい女の子だと思っています、わよ?」

「えへへ、ありがとうございます」

「べ、別に、本心を言っただけですから、感謝されるようないわれはありませんわっ」

ちょっと照れているところも本当に可愛らしい。

妹、ぜひあたしの妹に! なんて、リスティアは内心で叫んだ。

「こほんっ。話を戻しますわよ。じつはこの街を治める次の市長ですが……わたくしがなろうと考えているんです」

「……シャーロットさんが、ですか? でも、シャーロットさんはウォーレン伯爵家の一人娘なんですよね? それが、一つの街の管理をするんですか?」

「ウォーレン伯爵領にそんなにたくさんの街があるわけではありませんし、身内が管理するのは珍しいことではありませんわ」

「でも、ジェインさんの件で、領主に対する不信感とかもあるんじゃないですか?」

「なおさらです。それにこれはわたくしの勘ですけど、この街はこれから、ウォーレン領にとって、なくてはならない存在になっていくと思うんです」

「……そうですか」

この街が重要になる原因が、リスティアを指していることには気付かない。けれど、シャーロットが本気であることは分かった。

だから、口出ししたらいけないんだろうなぁとリスティアは自らの想いを呑み込んだ。

「……もしかして、わたくしの心配をしてくれているんですの?」

「うん、それは心配ですよ」

心の綺麗な年下の女の子はみんな妹候補なので、リスティアが気にかけるのは当然である。

と言うことで、リスティアはアイテムボックスから魔石とプラチナ等の素材を取り出し、シャーロットに似合いそうな花をかたどったブローチを製作。

エンチャントの内容は、状態異常の無効化と、再生能力である。

「……え、リスティアさん、いま……なにをなさったんですか?」

驚きに目を丸くする。そんなシャーロットに向かって、リスティアは「秘密です」と人差し指を唇に。それから、テーブルを迂回してシャーロットの横に。

その胸もとに、ブローチをつけた。

「えっと……これは?」

「あたしからのプレゼント、お守りです!」

「お守りですか……凄く綺麗ですわね。本当にもらってもよろしいのですか?」

「うん、もちろんです。シャーロットさんに怪我とかして欲しくないですから」

「……リスティアさん」

シャーロットは、感極まったかのように頬を上気させる。

普通のブローチと思っていてもこの反応。

もし、贈り物がエンチャント品。それもオークションに出品された状態異常の無効化に加えて、再生能力まで付与されていると知っていれば、とんでもないことになっていただろう。

まあ、リスティアは空気を読んで秘密にしたのだが──シャーロットが事実を知ったときに起きうる騒動を先送りにしただけであることまでは気付いていない。

それはともかく、シャーロットはリスティアに抱きついてきた。

かなりぎゅっと抱きつかれているのだけれど、お互い同じくらいの背丈で、胸が非常に豊かなために、一部以外の密着度は意外に少ない。

もし、貧乳組がその光景を目にしていたら、胸囲の格差社会に絶望していただろう。

「ありがとうございます! わたくし、このようなプレゼントを年の近い女の子から頂いたのは初めてで、凄く嬉しいですわ!」

「えへへ、喜んでもらえたのなら、あたしも凄く嬉しいです!」

抱きついてくるシャーロットを受け止めつつ、そのまま、あたしをお姉ちゃんと呼んで甘えてくれても良いんだよ! と、心の中で叫ぶ。

「本当に、凄く嬉しいですわ。ぜひ、わたくしからもなにかお礼をさせてください」

ほどなく、落ち着きを取り戻したシャーロットが、リスティアから身を離した。

「お礼なんて、あたしがあげたくてあげただけだから、気にしなくて良いですよ」

「そうはいきません。なにか欲しいものはございませんか?」

「うぅん、あたしは……特に欲しいものはないですね」

「そうですか……あっ、でしたら、一つ提案があるのですが」

「……提案、ですか?」

なんだろう。あたしの妹になりたい! とかなら良いなぁと、リスティアは夢想する。

「わたくしは一人娘で、今まで年の近い話し相手がいなかったんです。だからなのか、リスティアさんが特別なのか分かりませんけど、凄く親近感を抱いていて……」

「う、うん……」

これは、これはもしかして、本当にあたしの妹になりたい! っていう流れ? ホントに、本当にあたしに妹が出来るの!?

リスティアは必死に平静を取り繕いつつ、思いっきり期待する。

「ですから、その……わたくしと、姉妹のちぎりを、交わしてくださいませんか?」

きたああああああっ! 来たよぅ! あたしの妹ちゃん、一人目だよぅ! わーい、妹ちゃん、凄く優しくて綺麗な妹ちゃんだよ!

「あの……もちろん、形だけとなるのですが……お嫌ですか?」

「うぅん、そんなことないよ! あたしも凄く嬉しいです!」

「良かった! でしたら、今からあたしを──」

「うん!」


──妹ちゃんにするね!

「──お姉ちゃんと慕ってください!」


リスティアの心の叫びに重ねられたのは、なんだかちょっと予想と違う言葉。その意味を理解したリスティアは──思わずテーブルの上に突っ伏した。