エピソード3 自称普通の女の子、孤児院をあれこれする
孤児院で貸し与えられた自室のベッドで横になっていると、部屋の扉がわずかに軋む音を立てて開き、そこから二人の男達が踏み込んできた。
片方の男が、ランタンで部屋の中を照らしてくる。
「……おい、部屋を間違ったんじゃないか?」
「なにを言ってるんだ、この部屋で間違いない」
「だが、貴族の娘でも住んでそうな部屋だぞ?」
「それこそ、なにを言ってるんだ。この孤児院にそんな部屋は──あったあああ!? な、なんだこれは! こんなもの、さっきまでなかったはずだぞ!?」
「娘が持ち込んだのか?」
「いや、リスティアは手荷物すら持っていなかったはずだ」
部屋の入り口付近で、男達がひそひそと話している。リスティアは、なんだか知らないけど、寝ている女の子の部屋に入ってくるなん失礼だなぁと起き上がった。
「……こんな夜更けに、なにかご用?」
「なっ、リスティア! お前、薬が効かなかったのか!?」
荒っぽい口調でそんなことを言う。
なんだか聞き覚えのある声だなと思ったら、その声の主はゲオルグ院長だった。
「……どうしたんですか、ゲオルグ院長。なんだか口調が違いますが」
「むっ。いや、これは……その、と言うか、キミはなぜ起きているんだね?」
「なぜと言われましても……」
強力な睡眠薬をお酒と一緒に飲んで、なにをされようとも朝までぐっすりな状態のはずなのに! なんてゲオルグ院長の内心が分かるはずもなく、リスティアは困惑顔で首を傾げた。
「おい、ゲオルグ、どうするんだ?」
「どうもこうも、どうせ、抵抗なんて出来るはずがない。たまには強引なのも良いだろう?」
「ふっ、まあそうだな。いつも無抵抗ばかりではつまらんからな」
ゲオルグ院長と一緒にいる、屈強そうな男がいやらしい笑みを浮かべた。それでゲオルグ院長達の目的を確信したリスティアは、凄く不快そうな表情を浮かべる。
「ふっ、ようやく自分の状況が分かったようだな。だが、もう遅い。せっかくの院長の申し出だ、その美しい身体を存分に楽しませてもらおう!」
屈強な男がいやらしい笑みを張り付かせ、リスティアが座るベッドまで詰め寄ってきた。そして問答無用でリスティアの胸を触ろうとしたので──
──取りあえず、手刀を振るった。
「……は? な、なんだ? どうして腕が、腕が動かないんだ!?」
「お、おい、お前、そ、それ……」
ゲオルグ院長は、男の足下を指さしている。
真っ赤に染まった絨毯の上には、彼の一部だったものが転がっている。
「ひ、ひぃ、なんで、なんで俺の腕が!?」
「ダメだよ。そんなに大声を上げたら、子供達が起きちゃうじゃない」
リスティアは魔法を使って部屋の声が外に漏れないように遮断する。そうしてゲオルグ達を睨みつけたリスティアの紅い瞳は、ランタンの炎で爛々と輝いていた。
「──ま、魔法使いか!」
「お、おい院長! 魔法使いだなんて聞いてないぞ!」
「俺だって聞いてない! くっ、仕方ない、逃げるぞ!」
ゲオルグ院長が踵を返し、扉から逃げようとする。けれど、ドアノブをガチャガチャと回すだけで、扉を開くことが出来ない。
「おい、なにをやっているんだゲオルグ! さっさと扉を開けてくれ!」
「やってるが開かないんだ!」
「無駄だよ、さっき部屋の音を遮断するついでに、扉が開かないようにしたから」
ベッドから降り立ったリスティアが応え、魔法でもってその意識を奪い去った。
直後、男はバタリと絨毯の上に倒れ伏す。
ただ、切断された腕から、止めどなく血があふれている。そのままだと出血死しそうだと思ったので、取り敢えず止血だけはしておく。
「お、お前は何者なんだ? 領主のよこした密偵かなにかか!?」
ゲオルグ院長が震える声で、けれど荒々しく叫んだ。恐怖に負けぬように、精一杯の虚勢をはっているのだろう。
対して──
「あたしは普通の女の子だよ?」
「ふざけるな! どこの世界に、お前みたいな普通の女がいる!」
「……しょんぼり」
普通じゃないと言われて、しょんぼりとするリスティアは平常運転である。