水晶玉に腕が撓るほど強く手のひらを押し立て、全力で刃を突き立てる。

「頭蓋骨も硬いなんて、聞いてないわよ!!」

 悲鳴のように叫びながら渾身の力を込めるが、その力に耐え切れず、刀の方が先に折れた。

「——!!」

 折れた切っ先を額にめり込ませたまま、ギルマンは激しく身を よじ り、華凛を振り払う。

「……っ! 何度も同じ手が——」

 続いて射出された背びれを折れた刀で払い落とし、ギルマンに次の一手を浴びせようとしたリサは、相討ち覚悟で華凛の共鳴魔導炉を狙うギルマンの鋭い牙に気づき、目を見開いた。

「しまっ……」

「ご主人!」

 シェンフゥが水流を操り、華凛を吹き飛ばす。

 岩礁に叩き付けられた華凛は、土煙を巻き上げ、その中に埋もれた。

「無事か!?」

 シェンフゥの叫びに、やや遅れて岩礁の中から答えが返される。

「……ええ、お陰様で」

 荒い息を吐きながらリサの声が響く。

 その声の合間に聞き慣れない異音が混じっている。

「どうしたのじゃ……?」

 音から華凛の異変に気づいたシェンフゥが不安の声を漏らす。

「ただ、不味ったわね」

 舌打ちしながら答え、リサは 操縦槽 そうじゅうそう の足元を忌々しく見下ろした。

 ガラスが砕けた操縦槽に水が入り込み始めている。

「相討ち覚悟で共鳴魔導炉を狙ってくるなんて……。でもそっちは無事よ」

 損傷箇所を示すように、映像盤の一部が真っ黒に変わっている。

 胴体の方に頭を向けたリサは改めて共鳴魔導炉の無事を確かめ、代わりに ひしゃ げた胴の一部に顔を歪めた。

「損傷箇所は搭乗扉付近。操縦槽に浸水してるわ。つまり傷は操縦槽まで達してる」

 水圧で歪みを広げた扉から入り込む水が、徐々に勢いを増していく。

「なんじゃとー!?」

「……落ち着いて。三分は保つわ。次の攻撃で決めましょう」

 驚愕の叫びを上げるシェンフゥに対し、リサが努めて落ち着いた声を出して告げる。

「このままだと機体内で溺れるハメになるぞ」

「わかってる。だから、今決めるしかないの。絶対に逃す訳にはいかないわ」

 シェンフゥの警告に、華凛が折れた長刀の柄を握り締めている。

 シェンフゥは低く唸り、右手にエーテルを集中させて光を生み出すと、それを華凛へと投げ寄越した。

「わかった。ご主人、これを使え!」

 光は氷で作られた巨大なドリルへと変わる。

「これは……?」

「わしの特製ドリルじゃ! そいつなら奴の頭蓋も砕くこともできよう!」

「ド、ドリルって。いきなりこんな訳の分からない物を渡されても……」

 華凛が受け止めたドリルを見つめながら、リサが困惑の声を上げる。

 それを制するように、シェンフゥが力強く声を上げた。

「心配するでない。ドリルは必ずおぬしの勇気に応えてくれる! ドリルはどんな強大な敵も打ち破る最強の武器なのじゃ!」

「でも——」

「安心せい、わしが一緒じゃ。わしが必ず奴のもとにおぬしを送り届ける。大丈夫じゃ、二人一緒ならどんな敵にも決して負けはせん。そうじゃろう、リサ!」

 名前を呼ばれてリサも覚悟を決める。

「……そうね。やるしかないわ」

 迷っている余裕がないことは、膝上にまで達した浸水が明らかにしている。

 リサはドリルを右腕に装着し、ギルマンを迎え撃つべく潜水を始めた。

「……感じるか、ご主人」

 ダメージから回復したギルマンが湖底で大きく旋回して、突進の態勢に入っている。

 その気配を察したシェンフゥに頷き、リサはやや深い場所にある岩礁の上に降り立った。

「来るぞ!」

「ええ!」

 ドリルを構え、華凛の両脚に力を込める。

 と、不意に天狐が華凛の腰に腕を回し、しがみ付いて来た。

「え、ちょっと!?」

「わしに身を委ねろ!」

 シェンフゥがエーテルを通じて華凛と強く共鳴を始める。

「か、身体が勝手に……」

 天狐との共鳴により、薄く明滅を始めた華凛は、岸壁の上に力強く両脚で踏ん張り、震脚の体勢を取った。

「……キタキタ、来たぁ!」

 シェンフゥの叫びに応えるように、華凛の右手が挙がり、強くドリルを握り締める。

「行くぞ、必殺!」

 次になにをするかは、既に身体が理解している。

 通じ合う二人の共鳴を受け、華凛が右手を高く掲げると、ドリルがシェンフゥの氷狐を纏い、巨大化した。

「ギガァア——シェンフゥゥゥウ!!」

 強く叫び、華凛にしがみ付いたまま、天狐が高速で回転を始める。

 華凛ごと高速回転を始めたドリルは、勢いよく前進したが、直ぐにその勢いをその場に留め、回転だけを速めていった。

 勢いで前に進まないように天狐が設けた水流の壁が、二機を押し留め、気泡を激しく立ち上らせている。

 その姿が見えないほど辺りを白く濁らせ、ギルマンの気配が殺気となって近づき始めたその瞬間——

「ブレイクウウウウゥゥゥゥ!!」