「ハッ、少しは知恵をつけたか!?」
一太刀目を
「その攻撃にも飽きてきたわ」
槍を飛び越えて下から刀を突き上げて槍を払い、ギルマンの懐へと一気に距離を詰める。
「ぬるい!」
石突を跳ね上げてリサの攻撃を受け止めたギルマンの頭上に、フッと影が差した。
「シェンフゥ脚ッ!」
「貴様、いつの間に!」
リサの攻撃の軌道に合わせて接近したシェンフゥが、リサと入れ替わりに肉弾戦に持ち込む。
「チッ!」
床に槍を突き立てて飛び退き、ギルマンがシェンフゥに応戦する。
「シェンフゥ拳!」
氷狐を拳に
「……このままでは埒があかんな」
手のひらを拳で叩きながら、シェンフゥが苦しげに息を整える。
その拳から痛々しく血が滲んでいることに気づき、リサは思わず息を呑んだ。
「シェンフゥ——」
「悪いが、わしに補給を頼めるかの?」
言いかけた言葉を遮り、シェンフゥが片目を閉じてリサを見つめる。
「補給って——」
その視線にシェンフゥの限界を感じ取り、リサが言葉を失ったその時。
「何をごちゃごちゃ言っている!?」
槍を取り戻したギルマンが旋風を起こし、二人を薙ぎ払った。
「!!」
風圧で吹き飛ばされた二人は、プールの中へ転落する。
「……っ!」
咄嗟に息を止めて水中で目を見開いたリサの手をシェンフゥが強く引く。
引き寄せられたかと思うと、シェンフゥの唇がリサの唇に強く重ねられた。
「……っ!?」
その瞬間、さながら『食事』の時のような感覚がリサの全身を駆け巡り始める。
身体の深部から広がった熱は、瞬く間に肌の表面にまで到達し、高揚感は熱となってリサを覆った。
「ぷはっ」
シェンフゥに誘導されて水面に顔を出し、大きく息を吐く。
戦闘での疲労や負傷が驚くほど和らぎ、リサは目を瞬いてシェンフゥを見つめた。
「身体の調子はどうかの?」
にっと笑ったシェンフゥが、リサの額にそっと口付ける。
「悪くないわ」
リサが苦笑混じりに頷くと、シェンフゥは妖術で竜巻のように風を起こし、巻き上げた水で壁を打ち立てた。
渦の中心は水が消え、プールの底が現れる。
そこに向き合わせに立ったリサとシェンフゥは、惹かれ合うように互いの手を取った。
「ははは、何をしている。それでこの私に勝てるとでも?」
目を合わせた二人が、どちらともなく深く口付ける。
口付けを通じてシェンフゥの力が分け与えられているような感覚が、はっきりとリサを包み込んだ。
足元から巻き起こる穏やかな風が、濡れそぼった二人をあたたかく包み、その髪や服から水滴を取り払っていく。
「……くふっ、ん……」
肌を桃色に変えるような高揚感にリサが声を漏らすと、シェンフゥがそれを塞ぐように唇を深く重ね直し、互いの息が続く限り口付けが続けられた。
「……ご主人」
シェンフゥの唇が離れ、瞼に熱い口付けが落とされる。
ふっと息を吐いたリサは、そっと目を開き、シェンフゥを見つめた。
髪も身体も服も、もう濡れてはいない。
水の壁がなければ、ここがプールの底であることを忘れてしまいそうになる。
「ねえ、シェンフゥ、あのオイルってもしかして——」
言いかけたリサの唇を、シェンフゥが追いかけて捕まえる。
「良く効いておるじゃろ?」
もう一度深く口付けたシェンフゥに唇の間で囁かれ、リサは静かに頷いた。
「それで隠れたつもりか!?」
渦の中心を狙って、ギルマンが鋭い貝殻のようなものを浴びせてくる。
「ハッ!」
ばらばらと降り注ぐ、鋭利な棘を備えた貝殻を避けて同時に跳躍し、プールから上がる。
「はぁあああっ! シェンフゥ拳四倍!!」
シェンフゥはそのまま全身に赤い狐火を
らせ、ギルマンに連撃を浴びせた。
「観念なさい!」
徐々にギルマンを圧倒し始めるシェンフゥの攻撃に合わせ、リサも魔導散弾砲でギルマンを狙撃する。
「おのれ、ちょこまかとッ!」
ギルマンが牙を剥いて吠え、鋭い爪をシェンフゥの肩に振り下ろす。
「……、はぁッ!」
流れるように身体を左に
「かかったな!」
反撃を受けたギルマンが右腕を犠牲に、シェンフゥの身体を蹴り上げる。
「くっ!」
防御の体勢を取ることもままならず、まともに攻撃を喰らったシェンフゥの身体は、デッキチェアとテーブルが並ぶ一角まで吹っ飛んだ。
「シェンフゥ!」
日よけの傘が音を立てて崩れ、シェンフゥの姿が見えなくなる。
「……っ! シェンフゥ、シェンフゥ!」
咄嗟にシェンフゥに駆け寄ったリサが、日よけの傘を力尽くで取り払いながら、シェンフゥの姿を探す。
「……っ、げほっ」
微かに咳き込む音が折り重なったデッキチェアの隙間から聞こえたかと思うと、シェンフゥがそっと顔を覗かせてリサを見つめた。
「シェンフゥ!」
「……やれやれ。わしのシェンフゥ拳の効果が切れてしまったぞ」
差し伸べられたリサの手を取り、テーブルとデッキチェアの山からシェンフゥが身体を起こす。
「怪我はない?」
「なぁに、掠り傷じゃ」
起き上がり、ドレスの裾を叩いたシェンフゥはリサの髪を指先で撫で、悠々と歩み寄るギルマンへと視線を戻した。
「まさか、右腕を犠牲にするとはのぅ」
荒くなった呼吸を整えながら、シェンフゥが小さく呟く。
その声に頷きながらリサは魔導散弾砲を構え、ギルマンに狙いを定めた。
「次の技で決めたいところじゃの」
「策はあるの? シェンフゥ拳……って、もう解けちゃったのよね?」
手のひらに宿した狐火を一瞥して握り込め、シェンフゥが苦笑を浮かべる。
「とっておきの技が、あと一つだけある。あとは、わしの
「……あのデカい頭に風穴でも空けるつもり?」
シェンフゥの視線からその意図を汲み取ったリサが、魔導散弾砲に散弾を装填する。
「そういうことじゃ。一発勝負じゃが、行けるか?」
「もちろん。やるしかないじゃない」
シリンダーを戻し、引き金に指をかけて構える。
「……このギルマンの右腕の代償は、貴様らの命でも足りんぞ」
左腕に槍を構えたギルマンが、二人との間合いを計りながら近づいてくる。
「それだけの価値があるとは思えんがの」
シェンフゥは鼻先で笑って唇の端を持ち上げ、一度目を閉じ、直立の姿勢を取った。
「…………」
呼吸の乱れはもう収まっている。
シェンフゥの身体に巡るエーテルの高まりがリサには感じられた。
「わしが合図する。頼んだぞ、ご主人」
「ええ」
囁くような声に答えると、シェンフゥは左肘をゆったりと上げ、右の拳を添えて構えを取った。
「まどろっこしい! 貴様が来ぬのなら、攻めるまで!」
ギルマンが槍を振り回し、跳躍する。
その気配に先んじて素早く身体を開いたシェンフゥは右の手を前に出し、左腕を叩いてエーテルを流すと、左足を高く上げて一歩前に踏み込んだ。
「シャアアアッ!」
「はぁあああっ!」
頭上目がけて突き立てられた槍の軌道を見切っていたかのように、シェンフゥが右足でギルマンの懐に踏み込み、肘で鋭く胸を突く。
「ぐあああああっ!」
シェンフゥの
打頂肘
シェンフゥのエーテルを乗せた
「今じゃ、ご主人!」
舷に
「「ジャックポット!」」
二人が放った弾はギルマンの額に命中し、崩れた舷の残骸の中にぐったりと崩れた。