「ふふふっ、なんだか暑くなってきちゃった」

 解毒が効き始めたのか、話し方が戻りつつある。

 リサの頬に触れ、汗で張り付いた横髪を後ろに梳かしながら、体温の下降を確かめたシェンフゥは、ひとまず安堵の息を吐いた。

「ねえ、キスだけで終わり?」

 リサがつとスカートを捲り、まだ桃色の残る太腿を露わにする。

 肝心な場所はエプロンで隠れて見えないものの、白い布の向こうに下着が透けている状況に、シェンフゥは思わず生唾を飲んだ。

「……さすがのわしも、もう理性が保たぬぞ……」

「いいよ?」

 シェンフゥの太腿の上に乗ったまま、リサがエプロンを取る。

「シェンフゥの好きにして?」

(この破壊力、さすがのわしも理性が飛びかけたぞ)

「……あぁ、でも汗いっぱいかいたから、ダメかなぁ……」

 いつの間にかリサの顔に珠のような汗が浮かんでいる。

 発汗は全身に及び、白いブラウス部分も薄く透けて肌に張り付いていた。

「……はぁ……。どうなることかと思ったが、ようやく解毒が効いてきたようじゃな」

「なんのこと……?」

 シェンフゥの顔に指先を這わせながら、リサがぼんやりと訊ねる。

「そろそろ正気を取り戻したころかの、ご主人?」

 シェンフゥが鼻先に口付け、目を細める。

と、焦点の合っていなかったリサの目が、はっと見開かれた。

「え……?」

 咄嗟に飛び退き、ベッドの端に避けたリサが、シェンフゥを驚愕の視線で見つめている。

「これ……夢じゃない——?」

 ベッドに膝を立ててリサを端へと追い詰めたシェンフゥは、仕返しとばかりに軽くリサの頬をつねってみせた。

「そうじゃよ。やっと正気に戻ってくれたかの?」

「……私、バーで飲んでたら、お酒をもらって……その後——」

 記憶を辿りながら呟くリサの顔が、アルコールの影響とはまた違う朱色を帯びていく。

「その酒に、魔族が一服盛っておったようじゃな」

「……え……?」

 シェンフゥの言葉に、リサが絶句する。

「まったく、敵が潜んでいるというのに、不用心が過ぎるぞ」

 そう言いながらも安堵の息を吐いて、リサを抱き寄せぽんぽんと頭を撫でる。

 リサはシェンフゥの胸に頭を預け、がっくりと項垂れた。

「……だって、飲み放題って言ってたし、他にも飲んで全部大丈夫だったから——」

「そういうのを油断を言うのじゃ。充分に用心せねばならぬはずじゃろう?」

「……うん。ごめんなさい……」

 先程までの声とはまるで違う、静かな謝罪の言葉が紡がれる。

「わかったなら、しばらく禁酒じゃ」

 シェンフゥはその言葉を受け容れてベッドから降り、乱れた衣服と髪を整え始めた。

「ごめんね。凄く楽しい夢を見ていた気分で……その、迷惑かけちゃった……よね?」

 リサも自分の衣服を整えながら、おずおずと問いかける。

 シェンフゥは髪を く手を止め、リサの方に向き直った。

「……迷惑?」

「ええ。私、なんだか凄く楽しい夢を見ていて……」

「まあ、大変は大変だったが——、しかし、積極的なおぬしもなかなか良かったぞ」

 すっかり正気に戻ったリサに、シェンフゥが尻尾を揺らして近づく。

「……そ、そんなに……?」

 慌てた様子で見上げるリサに、シェンフゥは八重歯を覗かせて、見ようによっては意地悪な笑みを浮かべ、顔を近づけた。

「今の今じゃ、覚えておるじゃろう?」

「お、覚えてない——かも」

「では、その身体に思い出させてもらおうかの?」

 優しくゆっくりと力をかけ、今度はシェンフゥがリサをベッドに押し倒す。

「どうじゃ? 思い出せそうじゃろう?」

「……うぅ……」

 恥ずかしさで熱くなった頬を押さえ、リサが力なく頷く。

 シェンフゥはそれにかかかっと声を上げて快活に笑い、ベッドからゆっくりと降りた。

「まあ、おぬしが意外と積極的になることがわかっただけでも収穫かのぅ。普段からあれぐらい積極的なら、わしの『食事』もさらに捗りそうなんじゃが——」

「お願い、もう止めて……?」

 ちらちらと横目で見つめてくるシェンフゥに、リサが白旗を上げる。

「まあ、この償いはあとでしっかりとしてもらおうかの」

 シェンフゥはいつになくしおらしいリサを、頬を緩ませながら楽しげに尻尾を揺らし、試すように見つめている。

「……本当、忘れてください、シェンフゥお嬢様」

「さあ、どうしましょうかしら? それはあなた次第よ?」

 くつくつと笑いながらリサに合わせて答えたシェンフゥは、表情を引き締めてベッドの縁に腰掛け、脚を組んだ。