~死神と逆恨み~


「ええと、そんな理由なんですか?」

 マルベックが思いっきりあきれた視線を送ってきた。

 イリアはそんなマルベックをにらみ付けると、まるで悲劇のヒロインのようにそうな顔をかべて訴える。

「そんなって何よっ。イリアの心を傷つけるには十分過ぎるほどの事件じゃない。そもそも、ちゃんと謝らないリサラが悪いんだしっ」

「うーん……そういえば、室長の今の話だとリサラさんは結局謝ってないですもんね」

 しぶしぶとマルベックが同調するが、イリアは首を左右にした。

「机の引き出しに、謝罪文が入ってたけど」

「へ?」

「まぁ、イリアってばけっこう色々な物を突っ込むくせがあったからぁ、寮を出る時まで気が付かなかったんだけどね」

 うんうん仕方ないとイリアは頷いた。

「ちょ、ちょっと……え、それって室長が悪いんじゃ」

「イリアは悪くないもん。ちゃんと口で言わなかったリサラが悪いだけだもん」

「そうかなぁ。ちなみに、なんて書いてあったんですか?」

「えっとねぇ。確か……ちゃんと謝りたいから、下着ショップに一緒に行こうって待ち合わせ場所と時間が書いてあったわね」

 イリアの返答にマルベックが固まる。

「え、ええと、リサラさんはその時……」

「あ~、そういえば指定日には確かに部屋にいなかったかな

「ひっどいっ、それは誰がどう見ても室長があく──ゲフッ」

 上司を敬わない部下の脳天を、イリアはとりあえずぶんなぐった。

「ちゃんと口で伝えないのが悪いのよっ。その後も色々あって……絶対にリサラにだけは負けないって、必死に勉強したんだから。ま、結局イリアがおっぱいの大きさで勝って首席になった上に、秘宝《フロッティ》を持ってレストールじゃなくてメルロー人生保障に入ったからね。リサラの怒りようったらなかったわよぉ」

「ど、どう考えても悪魔……」

「なに?」

「い、いえなんでもありません!」

 マルベックがなぜか敬礼した。

「ま、いいわ。とにかくマルベック。最近、りようすけくんとリサラ、それにさんに何か変化があるのは確かよ」

「えー、まとめた報告書がいまいちそうは見えないんですけど」

「うんにゃ。これは長年リサラと付き合ってきたイリアのかんよ。最近のリサラは、絶対におかしいもん。ってことはつまり」

「つまり?」

「《イレギュラー》に関して、何かしら動きがあったと考えてもおかしくないわ」

「そんなごういんな」

「そうなのっ。分からない?」

「全然」

 たよりにならない無能部下があっさりと首を左右に振る。

「ライファンだのアルカレアだの、《雷神の雹テイールハガル》が最近積極的にリサラ達と接触してるでしょうが」

「はぁまぁ」

「にもかかわらず、ここでリサラ、良介くん、美菜さんのだれかが下手な動きをすると思う? ずっとあやふやなまま来てたのに」

「うーん、誰かの後押しでもあったんですかね」

「そうよ。イリアのね、女の野心──じゃない、女の勘がなんだかうずくのよ。きなくさいってね」

「まぁうん、室長の野心はホント見事なもんですからね」

めてるの、それ?」

「一応」

「まぁいいわ。とにかく、全力で連中をかんするわよっ。そしてレストール家と《雷神の雹テイールハガル》がめてる間に、このイリアが《イレギュラー》を手に入れてしにがみかいを支配してみせるってわけぇ!」

 イリアはこぶしを強くにぎった。が、部下であるマルベックからはあまり気乗りしない返事しか来ない。

「はぁ」

「マルベックっ。イリアが死神界を支配したあかつきには、イケメンとの合コンと、毎晩のお肉を約束するわよ」

「室長、がんりましょうっ。すべてメルロー人生保障と、そしてだいなるイリア室長のために!」

「ええっ。ここまで来てリサラに負けてたまるもんですか!」

 ろうきゆう化したワンルームマンションの一室で、イリアは自分のかがやかしい未来のためにとうそう心を新たにしたのだった。