「いや、俺はも好きだぞ?」

 かさを差したままりようすけは、前を歩くリサラの不満に答えた。

「本気なの? 毎日雨が降ってジトジトしてる季節が好きだなんて、どうかしてるんじゃないの?」

 うんざりとした顔で、リサラがあしもとの水たまりをける。

 季節はまさに梅雨真っさかり。今日でもう一週間連続で雨が降っているのだ。おかげでだんはサラサラとうリサラの長いあかがみも、心なしか重苦しい。

「死神学校で梅雨って季節を習ってはいたけど、まさかここまでうつとうしい季節だったとはね。せんたくものは外に干せないし、はしけるし……」

 ぶつぶつとリサラが、死神界の名門中の名門レストール家のごれいじようのくせして、みように所帯じみたを垂れた。

 そのとなりが、傘しに雨空を見上げる。

「ジメジメしてるから、部屋干しでもなかなかかわかないもんね」

「でしょでしょ。そもそも部屋干しって、なんだかにおいが付くし。ほんと梅雨って最悪よね」

 我が意を得たりと、リサラがにくにくしげに言い放つ。

「そーかなぁ。俺は梅雨は梅雨でありだと思うんだけど」

 前をしっかりと見ながら良介は答えた。その言葉にリサラが少しいらいらとしながら聞き返してくる。

「なら聞くけど、梅雨のメリットって何よ」

「そうだな……」

 良介は目をこらした。

「まずは、湿しつだな」

「湿気って、それが最悪なんじゃないの」

「いいや、湿気だっていいことがあるんだぞ。服がはだにへばりつくところとか」

「それのどこがいいのよ……」

「普段よりもブラジャーのラインが見えるところ」

 言ったしゆんかん、リサラが傘を持っていないひだりうでを背中に回した。

「……なんでずっと後ろにいるんだろうって思ってたけど、そういう目で私の背中を見ていたのね」

「失礼な。この俺がブラジャーのラインだけを見ていたと思うのか。ちょっとれた髪の毛がうなじにからむのもイイッ」

 良介は立ち止まり、強く言い切る。

「湿気と暑さで、無意識のまま制服のすそを上げておなかに空気を入れる。その時の肌色が最高だ。水たまりんじゃってれてそうな足の裏も想像するだけでワクワクする」

 目を閉じればありありとリサラの足の裏が目に浮かぶ。うすのストッキングが濡れて、ちょっと肌色がにじんでいる足の裏。ああ、らしいじゃないか。

「もういっそ、傘なんてやめて女の子は全員雨の中で濡れたりしたら、そこは夢の国じゃないだろうか。そうとも、傘なんて発明捨てちまえ!」

 にぎりしめたこぶしを上げて良介は高らかに宣言したが、

「……あれ?」

 リサラと美菜は、とっくに先に歩いて行ってしまっていた。

「くそっ。あいつら!」

 あわてて後を追いかける。

「おいてくなんてひどいじゃないか!」

「良介が聞くにえないひどいことを言い出すからよ」

 良介のこうに返って来たのは、リサラのつれない一言だ。

「良介くんらしいけどね」

 美菜がしようする。

「ま、それはそうだけど……。それより良介、先に行きなさいよ」

 リサラと美菜が立ち止まってしまう。仕方ないので、良介もいつしよになってその場に止まった。

「先に行けって、なんで?」

「あのね。人の背中をエッチな視線で見ているって宣言したのは、どこのだれよ」

「俺だな」

「ど、堂々と言い切るわね」

「だって事実だし。今だってそんな視線だぞ」

「だからっ、先に行けって言ってるんでしょう!」

 リサラはそうるとくるりとり返り、ずんずんと良介の後ろに回った。美菜もちょっとなやんだ後に、リサラに続く。

「梅雨の楽しみが……」

「どうでもいいから、さっさと歩く」

 うなだれた良介に、リサラがようしやなく告げる。

「はぁ~、分かったよ」

 仕方なく良介はトボトボと歩き出した。

 目の前に女の子の湿しめった背中がない。それだけで、梅雨は一気に最悪なものに思えてくる。だってジメジメしているし、濡れるのだ。

「そもそも、この傘ってやつはなんでこうめんどうなんだ。握るせいで片手がつぶれるじゃないか」

「ならレインコートでも着ればいいじゃない」

 リサラがそくっ込んでくる。

「あれは、なんというか、なんか子供っぽい気がする」

「そういうものかしら」

ながぐつもちょっと子供っぽい気がするかな。本当は便利なはずなんだけど」

 美菜が苦笑気味に言う。

「でも、それを言うなら美菜の傘も、ちょっと子供っぽくない? そもそも、少し小さい気がするし」

 確かにリサラの言う通りだ。

 美菜の傘は青地に子犬のプリントがいくつかしてある。傘の骨のせんたんも大きめの球で包まれているし、そもそも普通の傘より一回り以上小さい。おかげで美菜は、リサラや良介よりも雨に濡れてしまっている。

「うん。だって小学校のころから使っている傘だもん」

 美菜の返事は、とてもにこやかだ。

「小学校の頃って……どうして、小さい頃から使い続けてるの?」

「良介くん、おぼえてる?」

 リサラが疑問を口にしたのに、美菜はなぜか良介に声をかけた。

「憶えてるって、その傘のことか?」

「うん」

「…………」

 良介はおくの底を必死にあさってみた。

 おさなみである美菜との記憶は多い。小学校に上がる前、美菜はよくおらしをした。泣きわめく美菜をなだめてパンツをえてやる。良介の家でお漏らしした時なんて、自分のパンツを貸してやったこともある。

 というか、泣いている美菜からパンツをがしたのも自分だ。

 今思うと、ものすごいことをしていたものだ。

 だって女の子のおしっこパンツを脱がして、アレをの当たりにして、あげくに自分のパンツを穿かせたのだ。

 あまりにマニアックなプレイである。

(って、そうじゃないだろ)

 美菜+おしっこラベルが付いた記憶の引き出しを、良介は慌てて閉じた。

 だって油断すると、今の美菜の姿でそんなプレイをもうそうしそうになる。九十センチをえるバストに、やや地味だが学内でも評価の高い眼鏡をかけた可愛かわいらしい顔。そんな美菜に、このプレイは危険過ぎる。

 そもそも記憶を漁る目的はそこじゃない。

 傘だ、傘。

 ……。

 ……。

 ……。

 何も思い出せない。

 美菜が初めてブラジャーをした時とか、そんな記憶ばっかりだ。

「良介くん、憶えてないんでしょ」

 美菜がクスクスと笑う。