~報告書の存在を忘れる死神達……~


「そんなことありましたっけ?」

 イリアの話を聞き終わったマルベックが、思いっきり考え込んだ。

「私は全然記憶がないんですけど」

「そ、そう?」

「ええ。室長、夢でも見たんじゃないですか?」

「なんだか、そうはっきり言われると……じ、自信無くなってくるんだけどぉ」

「だって、私にはホントに全然記憶にないし」

 自信たっぷりにマルベックが言い切る。そんな態度をされると、イリアもどんどん記憶があやしくなってしまう。

「でもでも、とにかくっ、キュールちゃんとライファンが、りようすけくんをねらっているのは事実よ。ええ、これだけは絶対の自信を持って言える事実なんだから!」

 イリアが力説すると、マルベックが少し考え込んだ。

「ライファンって、《雷神の雹テイールハガル》幹部のライファン・ピグノートですよね」

「そうよ。人間としにがみの関係を改革して、人間が死神にれいぞくする世界を構築しようとしてるテロリスト集団よ」

「そこの幹部が、良介くんにれちゃったりとか、ちょっと信じられないんですけど」

こいもうもくって言うじゃない。それに《雷神の雹テイールハガル》の幹部って言っても、トップのガルダーブロウグにり捨てられた節もあるからぁ……まぁ、良介くんになびいても仕方ないんじゃないかしら」

「でもでも、二人は知ってるんですか?」

「何を?」

「リサラさんも、良介くんのことが……たぶん好きってことを」

「ふ~ん、その程度は気が付いてたのねぇ」

「まぁ、まん本に名前を書く書かないのそうどうのええと、レポート名『死神と初コミック』の話で、なんとなく」

 マルベックが、報告書をぱらぱらとめくった。

「まぁ、キュールちゃんもライファンも気が付いてるとは思うわよ」

「じゃぁ、リサラさんと良介くんそうだつせんり広げる気なんで?」

「さあ、それはどうかしらね」

 イリアは二人の顔ではなく、良介をおもっているであろう三人目の顔を思いかべた。

「ええと、私にはさっぱりなんですけど……」

「そうね。これは……カエサルに聞いたエピソードなんだけど」

 イリアの言葉をメモしつつ、マルベックが顔を上げた。

「カエサルって、良介くんの家で飼っている……あのシェパード犬の?」

「そうよ。犬の中の特異者ってほどれいりよくを持ってる犬だけど、彼が教えてくれたことがあるのよ。良介くんと、彼をずっと想い続けているおおくらさんの話をね」

 イリアは目を閉じた。

 美菜の顔が浮かぶ。

 良介をめぐって、ただ一人リサラと正面からぶつかるだけの想いを持っているであろう、美菜の、いつもはやさしそうな顔が、なぜかつらそうな顔で浮かんでくるのだった……。