とりあえず、キュールが持ってきてくれた缶コーヒー(HOT)を口にする。体の中から温まってきて、すごく幸せだ。キュールの問いけなんて、どうでもよくなってくる。

 そんな良介をキュールがにらむ。

「ちゃんと考えてますの?」

「あー、うん」

「まったくもう。いいですか、簡単なことなんですわよ?」

「ほう」

 適当に相づちを打ちながら、良介はちびちび缶コーヒー(HOT)を飲む。

いて」

「ブッホォォォォォォッ……げふっ、げほっ、げほっげほっ」

 キュールの回答に、良介は思いっきりむせた。HOTなコーヒーが気管支に入ってしまい、かなりつらい。

「りょ、良介くん平気?」

「げほっ、げほっ……い、生きてはいるぞ」

 美菜にうなずきつつ、良介はキュールを睨む。

「なんですの、その視線は?」

 キュールはました顔だ。

「あのなっ、自分が何を言ったか分かってるのかよ」

「あら、キュールは『抱いて』って言っただけですわよ。体温が下がってる時に抱きしめられたら温かいでしょう? それとも、なんですの? もしかして『エッチ』してってキュールに言われたって思ったんですの?」

 キュールが視線だけを良介に送ってくる。

「え……あ……いや」

「少なくとも、こんな場所で、しかも美菜さんもいるのに初体験をお願いしたりはしませんわよ」

 フンッとキュールがあごななめ上の夜空に向ける。

「まぁそりゃそうだよなぁ……」

 うんうんと良介は頷いた。そんな良介に、か美菜がため息だ。

「ホントにぶいっていうか……」

「口がすべったってのに、ホントですわね。はぁ」

 キュールまでため息だ。

「ええと、なんだよ?」

「なんでもありませんわよ」

 かたい口調でキュールは言うと、立ち上がった。

「さてと、美菜さん。そろそろ帰りましょうか」

「え、もう帰るの?」

 美菜がキョトンとキュールを見上げた。

「ええ。そうしないと、このままを引きそうなお鹿な人がいますので」

「?」

 さらに美菜がキョトンとした。

「それに明日の準備もありますわ。リサラお姉様は、ちよう特急でもう終わらせていましたけど、美菜さんはまだでしょう?」

「うん、そうね。でも、リサラはもう準備しちゃったんだ。だったら、キュールちゃんがさそってあげれば良かったのに」

 美菜の言葉を受けたキュールが、しげみを見た。そして、ニマァァァァと笑う。

「キュールとしては、誘って欲しかった……そう言っておきますわ」

「え、ええと?」

「ま、こっちの話ですわ。では良介さん、明日までがんってくださいね」

 ぺこりと頭を下げ、キュールは美菜とカエサルを引き連れて去っていったのだった。


    ※   ※   ※


「ようやく帰るのね……。ううん、でも今さら夜食を持って行っても間抜けなだけだし、やっぱり私も、もう帰ろうかしら」

 茂みの中で、リサラはつぶやいた。

 美菜が持ってきたおにぎりを食べ、キュールの缶コーヒーを飲んだ良介、今さら自分の夜食が必要とは思えない。

 というか、すっごく間抜けだ。

 最初に来て、最初に食べてもらえたはずなのに、こんな所に身をひそめて……そのタイミングをいつしたなんて、絶対に良介にも美菜にもキュールにも、ばれるわけにはいかない。間抜け過ぎる。

「よし、帰ろう」

 リサラがそう呟いた時だ。

「もうばれてますわよ、キュールとカエサルには」

 横の通りから、呟きがひびいた。

 あわてて顔を上げると、キュールがニヤニヤとした顔をしながら歩いていた。

「………………」

 完全に固まってしまったリサラだった。


    ※   ※   ※


「キュールちゃん、どうしたの? 何か呟いてたみたいだけど」

 何か聞こえた気がして、美菜はとなりを歩いていたキュールに声を掛けた。

「なんでもありませんわ。あんまりにもけなんで、ちょっと塩を送っただけですわ。ね、カエサル」

 呆れた口調でキュールが言うと、カエサルもまたやれやれと頭をったのだった。


    ※   ※   ※


「はっ……」

 キュールに声を掛けられてから一分ほどだろうか。リサラは、ようやくこうちよくから解放された。

「ま、まさかばれてたなんて」

 茂みの中で頭をかかえる。このまま中身が入った夜食を持って帰ったら、絶対に、確実に、百パーセント、キュールにバカにされる。

 ものすごく呆れかえった顔をされるに決まっている。

「ああもうっ」

 リサラは立ち上がった。

 お手製のBLTサンドイッチが入ったバスケットを片手に、茂みからおおまたで歩み出る。

「食べる食べないは良介の勝手だし、押し付けて、それで家に帰ればいいのよっ」

 自分に言い聞かせながらノシノシと進む。

「…………すぅぅぅ、はぁぁぁぁ」

 良介の背中が間近にせまってきて、リサラは大きく深呼吸をした。そして、名前をさけぶ。

「りょ──」

「あ、リサラも来てくれたのか?」

「──げほっ、げほんげほん」

 ちゆうで振り返られてしまったリサラだ。そのまま名前を呼ぶわけにもいかず、思いっきりむせてしまう。

「どうしたんだよ?」

「な、なんでもないわよ!」

 照れかくしに叫び、リサラは隣に座った。そして固まる。

(え、ちょ、なんで私ってば座ってるのよっ。押し付けて帰る予定がぁぁぁ)

 今から立ち上がって夜食を押し付ける。

 不自然だ。一度座った意味が完全にない。

(……そうだ。夜食を押し付けてから、風邪引かないようにとか忠告して、それから立ち上がれば……うん、すごくスムーズな気がするわね)

 そくに次の策が出てきた。ちょっと自分のに感心するリサラだったが、

「あれ、その持ってるのって……もしかして俺への差し入れか?」

 良介に先をされてしまい、策は完全にほうかいしてしまった。

「あの、ええと、その……」

ちがうのか?」

「違わないわよっ!」

 良介にバスケットを押し付ける。

「ま、ほうびんの中に温かい紅茶もあるから」

 そう言いつつ、何故か良介の顔をリサラはまともに見ることが出来ない。

「お、気がくな」

「当然でしょ。でもほら、おにぎりとか食べておなかがいっぱいなら無理して食べないでもいいわよっ」

「ん? おにぎりもらったこと、よく知ってるな」

 バスケットを開けながら良介がたずねてくる。

「え……」

 リサラは自分の顔が真っ青になっていくのを感じた。

 これでは、茂みの中からこっそりかんしていたことが、良介にまでバレてしまう。

「ああ、そこにゴミ置いたままだもんな」

 良介の視線の先には、コンビニおにぎり特有の包装ビニールがある。

「そ、そうそう、それよ、それを見て思ったのよ」

 声がうわってしまうが、本質的に鈍い良介は気が付かない。リサラはほっと、我ながらない胸をなで下ろした。

「おっ!」

 いきなり良介が叫ぶ。

「今度はなによ!」

「……いや、その、リサラおこってるのか?」

「怒ってなんかないわよっ。で、何なのよ、今度は」

「あ、いや、サンドイッチを手作りしてくれたんだなぁって思ってさ」

「え……あ、ほら、その別にそんなに時間けたわけじゃなくて、明日あしたの準備の合間に、ちょっと、そのほんのちょっとやっただけだから」

 なぜか身振り手振りでリサラは、いかに自分が苦労しなかったかを力説した。自分でも、なんでそんなことを説明しないといけないか、さっぱり分からないのだが。

「短時間でも、これだけのものが作れるんだなぁ」

 良介が、サラダとローストビーフをはさんだパンを手に取る。

「ロ、ローストビーフもお手製だから」

 自然と主張してしまうリサラだ。

「……すごいひま掛かってるじゃないかよ」

「え、いや、その明日持って行く中から使ったから、別にその、良介のために作ったわけじゃないわよ……ごめん」

「……いや、謝られても」

「え……つ、ついよ、つい。でもでも、そのドレッシングは、このサンドイッチ向けに作ったヤツだから」

 喜色満面でリサラが、ドレッシングを指差し、固まり、星空に視線を泳がして、うつむいた。

「って、ああっと、その、うん。なんでもない」

「へ、変なヤツだな」

「悪かったわね。そもそも、お腹いっぱいじゃないの?」

「いや、まだまだ入るし、それにリサラが持ってきてくれた差し入れを、俺が食べないわけないじゃないか」

「──っ」

 俯いたまま、リサラはこぶしにぎりしめた。

 隣では良介がもぐもぐとサンドイッチを食べ始める。

 うれしい。嬉しく思ってしまうリサラだ。

(ええ、嬉しいわよっ、嬉しいですともっ、くぅぅぅぅぅ)

 顔が赤いのが分かって、食べている姿を見ることが出来ないのが、なんでこんなにくやしいのか。

「ああもうっ!」

 ばくはつだった。

 なんだか調子がくるいっぱなしの自分にまんが出来ない。

「リ、リサラ?」

のどかわいたのよ!」

 手近にあったかんつかむ。

「あ、おい、待てっ、それって!」

「うるさい!」

 り、缶の中身を一気に飲み干す。

 飲んだことのない味だ。

 ちょっと喉が熱く、いや、体全体が熱くなってくる。

「…………あ、あのリサラ、それは」

「にゃによ」

「マルベックさんが持ち込んだお酒というか、なんというか……しにがみでも、やっぱり高校生は、よろしくない気がですね」

「うるひゃい!」

 しかったので、手近な缶の中身をまた飲む。

「ぷはぁぁっ、おいひぃ!」

「うわぁ、もう顔が真っ赤だよ」

「……悪いか──っ、顔が赤くなって、ひっく、どっこがわりゅいのよぉぉ!」

 叫び、リサラはいきなり服をぎ始める。

「ちょ、ちょっと待て───!」

「にゃによっ、えるんだから、止めないでよねぇ!」

「いやその、着替えるって、何に?」

「ぱじゃま」

「いやいやいや、ここにそんな着替えないから!」

 良介の言葉に、リサラは周囲を見回した。確かにパジャマはなさそうだ。

「よろしい」

 うなずき、手を服の中に入れる。そして、ブラジャーのホックを外した。そして投げ捨てる。

「な、何をしてるんだ?」

「何って、る時に……ヒック、ブラジャー付けない派なのよ、私は」

「まぁ、形を保つ必要性はない大きさだしなぁ……って、寝るのかよ!」

 良介のっ込みを無視して、リサラは厚手の毛布を手に取った。

「良介!」

「は、はいっ」

「私が、ひっくっ、引いたら、どーしゅんのよ!」

「え、ええと、え?」

「寒いでひょ!」

「ええと、まぁ、うん、まだ夜は寒いよな」

 リサラがいきなり良介のうでを掴み、引き寄せる。

「お、おい?」

 まどう良介を、そのままブルーシートの上に転がす。そして、その背中にまるでまくらのように抱き付く。

「ふわぁぁぁ、あったかいわねぇ……」

「え、あ、おい、ちょっと」

 抱き枕がていこうする。

「うっさい……《》!」