温かい。
なんというか、背中がとっても温かい。
「ん……んぅっ」
くすぐったいけど、温かい。
「んっ、ん─────」
身じろぎして、より強く、
月夜に桜の花が
こんな
振り返るとすぐリサラの
この公園は、
「んふふふ♡」
なんでか
ない、貧しい、残念と、散々言われているリサラのおっぱいが、
当然と言えば当然だった。
だって、良介の視線の先には、リサラのブラジャーが転がっているのだから。
幾らリサラのおっぱいが残念といったって、ノーブラなのだ。
良介の背中にダイレクトにおっぱいが吸い付いてくる……。
「う、うゔ……」
良介は泣いた。
この
良介には、ただ泣くことしか出来なかった。
そうこれは、今日の昼から起きた悲劇だった。
※ ※ ※
「明日は日曜日だしさ、花見でもしないか?」
それは、良介の何気ない提案から始まった。
四月の足音がすぐそこに聞こえそうな春の土曜日のことだ。正午の教室は、春の
窓から校庭を見れば、あと一~二週間も
「また
赤く長い
スラリとした長い手足、キュッと
ただし、胸は
そのリサラが、整った顔に
「いきなりどうしたのよ」
「なんだよ、俺が花見を言い出しちゃおかしいか?」
少し
「ええ。良介はどちらかと言えば、花より団子だと思ってたもの」
「失敬な。俺が一番好きなのは、女の子っていう花さ」
キラリと白い歯を見せて、良介はかっこつけた。
が、無視だ。
「
「え、もう行くことに決まったの?」
リサラに声を掛けられた美菜が、眼鏡の下の目をパチクリとさせる。こちらは、リサラと
ただよく見れば、眼鏡の下に
まさに
「ええ。良介にしてはまともでステキな意見だし、何より私は人間界で花見なんてしたことがないもの。折角だから楽しみたいって思うのが
「そっか。うん、それもそうだね」
「お弁当は私と美菜が、それぞれ作りましょうか」
「
「まさか。二人が別々に作った方が、バリエーションがあって
リサラが、ちょっと
「問題は、どこで花見をするかよね。美菜はいい場所を知ってる?」
発案者の良介を完全に放置して、リサラと美菜の間で花見の計画がみるみる出来上がっていく。
「良介くんの家の近所にある公園は、かなり綺麗かな。ただ……」
言葉を切ってやや難しい顔をした美菜に、
「あの公園、
「でもでも、花見をしたいってのは、イリアもだいだい、だーい賛成♡」
「イリア、言い当ててあげましょうか?」
リサラが冷たい視線をイリアに投げかけた。
「え……な、なぁに、リサラちゃん」
「私と美菜が作るお弁当が目当てなんでしょ」
「ゔ……」
イリアがものの見事に言葉に
「あ、あのね、美菜さん。イリアってばここ数日、パンの耳カレーライスしか食べてないのぉ。お願いだから、
リサラ相手では分が悪いと判断したイリアが、美菜にすがった。
「……あの、パンの耳カレーライスってなに?」
「コンビニで賞味期限ギリギリのレトルトカレーを買ってきて、三週間前に無くなったお米の代わりに近所の
「え、ええと、要するにパンの耳をご飯の代わりにしてるってこと?」
「うん。あらでも、意外に
「ま、まぁ、シチューだってフランスパンに合うし、美味しいとは思うけど……あ、あはははは、リサラ。連れて行ってあげようよ」
あっさりとイリアの
「ったく、美菜がそういうならいいけどね」
「やったぁ!」
パァァァァっとイリアの顔に、
「あのさ、ちょっといいか?」
声を上げた良介に、リサラ達の視線が集中する。
「公園が混雑するって件はどうなったんだよ」
言いながら、良介は例年の混雑ぶりを思い出していた。確かに混雑するのだ。
「…………」
混雑問題を提起し、提起しながら思い起こしつつ、良介は観念していた。
「分かったよ。リサラと美菜の腕によりを掛けた弁当が食べられるんだ。夜通しの場所取りは俺がやる」
「いいの、良介くん?」
すまなそうな顔を美菜がするので、良介は思わず
「俺がこういう
「うん、そうなんだけど……ごめんね」
「謝るなって」
「うん」
「何よ?」
ジロリとリサラが良介を見返した。
「いや、別に」
「……ま、春近しといってもまだまだ寒いから、
そう言うとリサラは机から降りて、鞄を取った。そして
「これ以上ないくらい、その舌とお
ぶっきらぼうにリサラは宣言したのだった。
※ ※ ※
春が近いとはいえ、夜はまだまだ
ぶっちゃけ、太陽が出ていなければ三月はまだまだ冬と同じだ。というわけで、夜の公園は冬だった。
「寒い……」
運良く
場所を探していた時やブルーシートを敷いていた時は、まだ良かった。人間、体を動かしているだけで少しは温まる。
それらの作業が
「寒い……」
もう何度目になるか分からない単語を良介が
「おーっす!」
いきなり声を
普段は
ただ……。
「うぃぃぃ、ひっく。ウチのイリア室長がさぁ、良介くん一人じゃ
出来上がっていた。
どうやら居酒屋からの直行らしい。しかも右手にはコップ酒、左手にはお酒やつまみが入っていると思われるコンビニのビニール
「あ、これぇ?」
良介の視線に気が付いたマルベックが、よろけながら袋を上げた。
「ほらぁ、桃園学園の臨時講師もやってるじゃない?」
ただの
「お給料のほとんどはさぁ、メルローとイリア室長に取られちゃうんだけどねぇ。少しはへそくりしてるってわけぇ、えへへへぇ」
ケタケタ笑いながら良介の
「もーさー、呑むだけが生き
外見
「お、そうだ。良介くんも呑む呑む? 呑んで、
さらに、でろーんと寄りかかってくる。
ダウンジャケット
「いやあの、そんなに酔うと……今夜ここで
良介の忠告なんて、アルコール
「うわぁぁぁぁんっ、エロ
へそくりを飲み
※ ※ ※
「な、何なのよ、あれ……」
別に好き好んで茂みに入っているわけではない。寒くて
ついでに、何故か自分でも分からないけれど、そのまま茂みで良介と女性を
「……ええ、自分でもホント何故か分からないんだけどね」
「って、なんだ……マルベック先生じゃないの」
ようやく、良介に
「別に、相手がどうとか、誰とか、どうでもいいことだし。でもまぁ、結局良介はまだ寒い夜空の下に一人だけってことよね。マルベック先生は、なんだか一人で酒盛りしてるし」
良介が
良介は、そんなマルベックに再び巻き込まれないように、少し
「まーしょうがないわよね。うん、この
ブツブツ独り言を言いながらリサラは立ち上がり、再びしゃがんだ。
だって、誰かが良介に近寄っているのだ。
「いや別に、私がわざわざ夜食を作って差し入れするのがばれたって、そりゃ問題ないんだけど、でもほら………………」
リサラが考え込む。
「あ、そうそう。でもほら、まるで私が良介に使われているみたいで、ちょっとしゃくに
うんうんと、
ただリサラがそんなことしている間に、新たな
※ ※ ※
「良介くん」
いきなり名前を呼ばれて、良介は思わず
「……美菜か」
「うん、私です」
ニコニコと笑いながら美菜が、良介の横に座る。両足を横にずらして、ブルーシートにぺったんと女の子座りだ。
「何しに来たんだよ?」
「来たらダメかな?」
「そりゃそうだろ。夜中に女の子が一人で歩くなんて、不用心にもほどがあるぞ」
「心配してくれるんだ」
「当然だろ。ってか、昔っから美菜は、
「ブランコから落ちたり、
美菜が良介の顔をじっと見て、微笑む。特に意識している相手でなくても星空の下、並んで座っている女の子にじっと顔を見られたら……ドキドキしてしまう。
「…………」
「……ん?」
美菜が
「あ……いや……」
良介は、気恥ずかしさから全力で
「そ、そうそう。あと犬に
「…………はぁ」
いきなり美菜がため息を
「な、なんだよ」
「こんな時に、よりにもよってそんな思い出を言わないでいいと思う……」
非難がましい目をされてしまった。
「わ、悪い……」
頭を
「はい、これ。差し入れ」
「え?」
「コンビニで買ったおにぎり。もう、お
場所取りのために良介は、夕方四時に食事をした。あれからもう七時間は
──グゥゥゥゥ。
「ありがとな」
「いいえ、どう
おにぎりを食べ出した良介に、美菜が
「はいはい、アピールタイムは終わりですわよ」
キュール・ゼリアだ。
フワリと
リサラの
それを証明するかのように、いつの間にかひっくり返っているマルベックを、ペイッと横に押しやってしまう(半分ブルーシートから落ちた)。そして空いたスペースに、美菜とは逆側の良介の隣に座る。
「いい星空ですわね。
かなり寄り
※ ※ ※
(ああっ、キュールまで……な、何をしてるのよっ!)
リサラは
当然、良介達にはそんな叫びは届かない。
(ゔゔ……私も中に混ざろうかしら。で、でも、美菜がもう夜食の差し入れしちゃったみたいだし、今から出すのってなんか
自分の荷物を
良介の姿をじっと見ながら……。
※ ※ ※
「キュール、お前まで来たのかよ」
「ニュアンスが
キュールが
「キュールとカエサルと美菜さん、三人一緒に来たんですわ」
「え、そうなのか?」
美菜を見ると、うんと頷く。
「カエサルがいれば、安全でしょ?」
良介の家の番犬にして、朝ヶ谷町内犬社会の頂点に立つジャーマン・シェパード、それがカエサルだ。
「ま、アイツがいればな」
「キュールもいるんですけれど」
「キュールの強さは言うまでもないからな。でも、美菜を送ってきてくれてありがとな」
良介がそうフォローすると、キュールがさらにむすっとしてしまう。
「キュール?」
良介がキュールの顔を
「あっつっ!」
熱い。すっごく熱くて、良介は慌てて顔を引っ込めた。
「あはははははははは」
何かを押し付けたキュールが、嬉しそうに笑い声を上げる。
「なにすんだよっ!」
「はい、差し入れですわ」
「え、これ、俺に?」
「だって寒いでしょう?」
「あ、ああ」
コクンと頷いて良介は缶コーヒー(HOT)を受け取り、すぐに熱くてお手玉してしまった……。
「あっつ、あちぃっ」
「学習能力を身につけた方がいいですわよ、まったく」
「ほらでも、裏表無いっていうか、素直に行動するタイプだから良介くん」
「
「悪かったな……」
手袋を持ってない良介は、缶コーヒーを持つために
「いやでも、温かいものはマジでありがたいな」
「あら、でしたらお礼は行動で表して欲しいものですわね」
「行動って言われてもな……ええと、
「もっと簡単なことですわ。そうですわね、この寒空の中を歩いて来た女の子はどうなると思います?」
「どうなるんだ?」
分からずに美菜に聞いてみた。
「え……ええと、くしゃみが出る? はっくち」
ホントにくしゃみが出てしまった美菜だ。
「いや、それはキュールが言いたいことと違うんじゃないかな……」
「あら、
キュールが答える。
「…………
「まったく。いいですか、女の子ってのは寒さに弱いんですのよ?」
「はぁ」
「つまり、寒空の中を歩いた女の子の体は冷え切っているってことですわ」
「なるほど」
そこまでは理解出来ても、ならそのために何をすればお礼になるかが良介にはさっぱり分からない。
