「そ、そうなんだ……うう、
「美菜?」
「……ううん、なんでもない」
「なんなんだ?」
「何って、そりゃ……その……」
ゴニョゴニョとリサラまで、聞き取りにくく呟く。
「ま、いいか。リサラ、とにかくお前の名前を早くこの表紙裏に書いてくれ」
良介はそう言いながら、ずいっと身を乗り出す。
「良介、ほ、本気なの?」
「ああ、本気だ」
しっかりと
「きっと多くの困難があるはずだ」
「こ、困難って……そ、それは確かにそうだと思うけど、で、でもね、良介」
「いや、今は
「え……はい」
良介の
「屋上に向かって欲しい」
(屋上って……え、
まじまじと良介の顔を見てしまう。そのリサラの視線から
なんというか、その真剣さとらしくないシリアスさに、リサラの
「ただの屋上じゃダメだ」
「え?」
「屋上の
「そ、そうなんだ」
「ああ。そして何より、校内で一番高い場所だ。どこからも見られることはない」
ドッキーン! リサラの心臓が、
(そ、そこまで高い所にこだわるって……その、そこまで良介は私と……)
もうドキドキバクバクが止まらない。
意識したことがないと言えば嘘になる。確かにエロ介だし、エッチだし、
それでも自分が──リサラがピンチの時には、いつも
それに女の子には
もっとも、リサラに対してだけではなく、女の子
それでもその優しい姿勢は、悪くない。
(って、な、ななななな、何を考えてるのよ、私は!)
思念を
「あ、あのね良介、まずは落ち着いて考え──っ!!」
良介がリサラの手を
「
「ひゃ、ひゃい」
変な返事と共に頷いちゃってました。
顔がカァァァァァと耳まで赤くなる。
なんかもうフワフワ
ただ良介の顔をまともに見ることが出来なくて、
それを良介はリサラのOKサインだと思ったのか、
「ありがとう、リサラ」
(ああもうっ、そんな嬉しそうに言われたら……こ、断れるわけないじゃないっ)
心の中でそう
そして──我ながら、何でこんなに手が
「こ、これでいいんでしょ!」
なんでか
だが、そんなリサラに良介はにっこりと微笑む。
「ああ、ありがとう」
「え、あの……私だって、か、書きたかったから」
微笑む良介にそう答えてから、リサラは固まった。
(な、何言ってるのよっ、私はっ。これじゃまるで、私もおまじないで良介と
大混乱です。
そんなリサラの耳元に顔を近づけて、良介が呟く。
「さてと、俺はまず
「ひゃい」
「頼むぞ」
良介はリサラの頭を軽く
ゴンッ。
リサラが机の上に頭を落とす。
(
周囲からはどう見ても叩かれたんだけど。
(良介の手、あんなに大きかったっけ……うう、意外に男らしい手じゃないの)
机に突っ
(心臓、こんなにドキドキしてるのに……なんで私、嬉しくなってんだろ……)
※ ※ ※
「加賀良介!」
「
本の
「ふふふ、大平くんから
まるで悲劇の主人公のように
「分かっちゃない。分かっちゃないよ、先輩」
「なんだと?」
「みんなでワイワイ読むもんじゃない。一人で、一人静かに
「……それは僕達と分かち合う気は全くない、そういう回答だと思っていいのかな?」
玉野が
「そう取ってもらって構わないな」
「そうか、残念だ」
静かに呟き、玉野が指を鳴らした。
瞬間、良介の後方に玉野が部長を務めるボクシング部の部員達が四人現れる。
「キミのように心が
「…………」
「やれっ!」
玉野の号令と共に、部員達が
が、良介は
袋を取り上げようとする部員達のなすがままになっている。
「ハハ、
「ま、俺じゃ勝てっこないしね」
「ふむ、
ツカツカと玉野が近づき、部員達が取り上げた袋を受け取り開ける。
「なっ!」
「どういうことだ、これは!」
「どうもこうも教科書だよ」
「
「ふっふっふっ」
良介がそう不敵に笑った時だ、玉野の携帯が鳴り響く。
「大平くんからメールだな」
携帯を開いてメールを読み、玉野がニヤリと笑った。
「なるほどね。リサラくんを巻き込んでいたか……」
「なっ……くそっ、大平め、俺の行動を読んでたのか」
「キミにしてはよく頭を使ったと褒めておこう。でも残念だったね、結局あのコミックは僕達の物になるのさ!」
勝ち
※ ※ ※
「……この本を
屋上へと続く階段でリサラが、危険な色を瞳に浮かばせながら、前を
「え、そ、その……そ、そうとも!」
リサラに睨まれてびくつきながらも、大平がきっぱりと言う。
「どうしてかしら」
ギュッとコミックをリサラが
「どうもこうも、そ、その本は俺達が持っているべきだから」
「いやよ」
プイッと
「なっ……ど、どうして!」
「こ、こ……この本には、その……」
顔を赤らめる。その様子を、大平達は思わず
「その、えっと……だから、あ、あのね」
しどろもどろになってしまうリサラだ。
「……こ、これには」
「これには?」
「こ、これには……その、わ、私の……私の名前が、か、書いてあるからよ」
顔を赤くしながらリサラは、ようやく言い切った。
「名前……? え、リサラさんの名前がその本に書いてあるってことで?」
大平が目を丸くする。
「そ、そうよ、悪いかしら?」
「しまった……くそっ」
大平が
「俺達が女の子の持ち物を
「なんだかよく分からないけど、もう通っていいのかしら?」
「ええ……俺達にはもう、何も出来ない。負けです……」
がっくりとうなだれて、大平と男子生徒達が階段を下りていく。
その様子を見ながらリサラはもう一度、大事そうにコミックを抱きしめたのだった。
※ ※ ※
屋上の
夏休み前のこの季節は
それでも周囲に
リサラは左手でコミックを持ったまま、右手で軽くその赤く長い髪をかき上げた。
「良介のヤツ、なにしてるのよ。自習の時間終わっちゃうじゃない」
そう
「あれよ、別に私が待ち望んでるとか、そーいうことじゃないのよ。ただほら、約束破られるのが
そこまで言って、リサラは
だって独り言でなにやってんだろうと思ってしまったのだ。
「はぁ、なに変なスイッチ入っちゃってるのよ、私」
手に持ったコミックをじっと見つめる。
「ドキドキで死んじゃう前に、早く来なさいよね良介……」
「え、そんなに走ったのか?」
横に良介の顔があった。
一秒、
二秒、
三秒──。
「キャァァァァァァァァァッ!」
いきなり良介の声が聞こえて、リサラは思わず悲鳴を上げてしまった。
「な、なんだよいきなりっ」
良介が耳元で
「そ、そそそそ、それはこっちの
「いきなりって、
「う、うっさいっ。私が気が付かなかったんだから、いきなりなのよ!」
「ボケーとしてる方が悪いと思うぞ……」
「ふんっ」
リサラは顔を
「ま、いいや。走ってドキドキしてるんだろ?」
良介がペットボトルをリサラの前に差し出す。そのペットボトルを受け取ってから、リサラは数度
「なによ、これ?」
「なにってスポーツ飲料。いやぁ、俺も玉野先輩から
「え……」
折角平静を装ったのに、また顔が熱くなってくる。
慌ててリサラは顔を背けた。
「なんだよ?」
不思議そうに聞いてくる良介に、リサラは答えない。
ただ内心で、
(なんだよっじゃないでしょうが。これって間接キスになっちゃうじゃないのっ。そりゃ
「……ええと、お願いして
黙っているリサラに、良介が心配そうに聞く。
「そんなわけないでしょ!」
「お、怒ってるようにしか」
「
「ご、ごめんなさいっ」
「ああもうっ、謝ってる
グイッとコミックを突きつける。
「え……あ、ああ、確かに俺も書くべきか」
良介が
そして、コミックの表紙をめくるとサラサラと自分の名前を書き
「なっ……もっと
「へ?」
「だから、こういう重要な時は、ちゃんと丁寧に、心を
「じゅ、重要ってなんで?」
「なんで? ですってっ。当たり前じゃないの! そ、そのあの、ほら……こ、これからがある意味決まるかもっていうか、その……ああもうっ、そのくらい分かりなさいよね!」
良介の顔に「?」が大量に
「あ───っ、やっぱりここにいるぅ!」
イリアの声が
「イリアっ、どうして!?」
給水塔の上に、イリアと美菜が登ってくる。
「うーん、でもぉ、まさか本当に二人がこういう仲だったなんて……イリア、ちょっとびっくりよねぇ」
「あ……あ、あの、その……お、おめでとう……ござい……ます」
美菜の声はどんどん小さくなって、聞こえなくなっちゃう。
「そのあの、だって……良介が」
リサラの声も、
「あのあの、俺には何がなんだかさっぱりなんだけど」
キョトンと良介が言う。
「あれ、良介くんは夕べの『
イリアの疑問に良介は、首を
「見たけど……まぁ、
「…………」
「…………」
「…………」
リサラとイリアと美菜が、
「ん?」
良介、またキョトン。
「はぁ……あのね、実は夕べの『汁だくミチル』はおまじない特集で、そこに恋愛のおまじないがあって──」
イリアの言葉は途中で、
「違うっ、違うからぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
リサラの叫び声に打ち消されてしまった。
「リ、リサラ?」
「違うっ、違うのよっ、これはそーじゃなくて───っ。誤解よぉぉぉぉっ、誤解ったら誤解なんだからっ、私は、ス、スイッチなんてぜぇぇぇぇったいに入ってなかったんだからねぇぇっ!」
もう
立ち上がり、顔を手で
「お、おい、危ないって」
「あ───っ、何も聞こえないっ、聞こえないもの───っ!」
「だから危ないっての!」
良介がリサラの
「──っ」
そして──端で足を
「……え?」
視界が
「リサラっ!」
良介が飛びつくように、その
「え?」
もう落ちかけてるリサラの体重に引っ張られて──良介の視界も傾く。
「ああぁっ、もっと
「わ、私は重くないからねっ!」
「そんなこと言ってる場合じゃねぇだろっ!」
叫びながら、良介が必死にリサラを
「《
イリアが術式を発動させた。
フワリ、
そのままストンと、さして
「…………助かった、のか?」
良介の
だって近いのだ。
ものすっごく良介の顔が近い。
良介がギュッとリサラを抱きしめてるせいで、
そして、初めて自分で気がつく。
リサラ自身も良介に強く抱き付いちゃってる……。
あまりに恥ずかしくてリサラは良介から
「あんっ」
思わず
「え……んぅっ!?」
おそるおそる後ろを見ると、
リサラが動くたびにパンツ
「りょ、良介っ、足っ、足をっ!」
「え?」
「だから足を──ん?」
一緒に落ちて、左右に開いている。つまり、中身が見える。
「…………」
そこにあったのは、お色気シーン。
もうどのコマもお色気シーン。
「良介、一つ聞いていいかしら」
「なんだよ」
「このコミックはなにかしらね」
「今日発売の『だから僕は、Hができる。』に決まってるじゃないかっ。お色気ギリギリシーンの連続で男の子に大絶賛っ。ヒロインにエッチに
「そ、そう……私ったら、こんな漫画にサインしちゃったのね。しかも良介の名前まで書いて……おまじない完成してるし」
「ん……あ、そういえば、夕べの『汁だくミチル』でそんなまじないやってたな。あっ、そうか、じゃぁリサラは今日から俺に、エッチな誘惑をいっぱいして──あ、ちょ、ちょっと
「ふ、ふふふふふふふふふふふ」
低い声で笑い、リサラがそっと良介の胸に手を当てる。
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁっ、吸わないでぇぇぇぇぇぇ!」
「問答無用よっ。《折れた
良介のエッチな心が……リサラに吸われていったのだった。
「…………
ぐったりと
空が青い。
ああ、どうして空はこんなに青いんだろうと、虚しさと共に思ってしまう。
「はぁ、モテない男の
