「《グラム》よ、《折れたけんグラム》よ。けいやくの名のもとに、この私、リサラ・レストールにかきいだいたれいりよくわたすのよ」

「ちょ、吸い取るのはやめっ、やめてー!」

 良介の叫びもむなしく、リサラが情けようしやなく良介のたましいの奥底にある生きる力──エッチな心を吸い取りスピリットマネーとしてたくわえていく。

 徐々に、なんだかもう全てのやる気が失われていく。

 魂がシオシオとからびていく感じだ。

 そんなきよとらわれた良介にはお構いなく、リサラは吸い取ったスピリットマネーを術式にへんかんする。

「我が前の男に問おう、知識をうばいし《最後の質問ヴアフスルーズニル》を!」

 リサラが術式を一気に組み上げ、叫んだ。それは霊力によって生み出された物の効果を奪い去る術式だ。

「今ので、じようざいの効果が消えるのかい?」

 玉野が良介をのぞき込んだ。

「ええ、そうよ。ほら良介、いつまでひっくり返ってるのよ」

「いや、なんかもー、どうでもよくてさ」

 どーにも虚しくて、起き上がるのがめんどうな良介だ。

「仕方ない、僕が手を貸してやろう」

 玉野が手を差しべた。めんどくさいが、はらうのもまた面倒で、良介はその手を取るべくうでを伸ばした。

 ──時だった。

 玉野の手が良介の手をどおりして、胸に伸びる。

貴方あなたたち、そーいう関係なの!?

「ヤメテくれっ。僕はね、これが目的だったのさ」

 良介の胸ポケットから、玉野が残りの錠剤の全てを取り出した。

「それ……もしかして、死神界の」

「そうさ。これを飲むとね、か知らないが霊力で出来ていない衣服をとう出来るようになるんだよ」

 錠剤を掴んだ拳をおおぎように空に突き上げ、玉野がニヤリと笑った。その目の前で、

「《装束デイスラード》」

 リサラが静かに死神姿へと変身をげる。黒い素材で出来たボディラインがはっきりと分かるしようだ。スカートは短く、スラリときやくが伸びている。

「え……?」

「これで、それを飲んでも透視は出来ないってことよね。だって死神装束は霊力のかたまりみたいなものだし」

「ひ、きようなっ」

「さ、その錠剤を返しなさい」

 立ち上がったリサラが、玉野をあつするべく一歩足を前に出した。そう、良介の側頭部わきにだ。

「あ、パンツ丸見え」

 当然、あおけにひっくり返ったままの良介の目にリサラのパンティが飛び込んでくる。

「コンビニ下着か……はぁ、下着に色気がないうんぬんの前に、ただの布きれにしか感じない。虚しい、とにかく虚しい」

「人のパンツ見ておいて、何よその言いぐさ!」

 あわててあしを閉じしゃがみこみ、リサラがこうする。

「あのな、不用意に見せたのはお前だし、俺が見ても興奮しないようにしたのもお前だぞ」

「う、それは……」

「ちなみにリサラ」

「何よ?」

「玉野せんぱいげ出してるけどいいのか?」

「あ──────────────!」

 大声と共にリサラが走り出した。死神装束によって運動能力も上がっているリサラなら、すぐに玉野に追いつくはずだ。

「うーん、まぁ、俺がもらった錠剤だし……回収はするか」

 よっこらせと良介は立ち上がり、玉野とリサラがけ上がっていく非常階段に、自分も向かった。さすがに駆け上がる気力はかず、ノタクタと二分ほどかけて屋上に出た時だ。

「ああぁぁぁぁぁぁ!?

 玉野の悲痛な声が耳に入った。

「僕の、僕の夢と希望と裸がぁぁぁぁぁ」

 給水とうをボコボコとたたいている。

「どうしたんだ、あれ?」

「落としちゃったのよ、あの鹿先輩」

 やれやれとリサラがかたをすくめた。

「落としたって、あの錠剤を、給水塔の中にか?」

「ええ、給水塔に逃げ込んで……ぽちゃんと」

「平気……なのか?」

「まぁ、たったあれだけなら問題ないと思うわよ」

 リサラが軽く言い、かなあみに寄りかかった。

「はぁ、おかげで体育の授業サボりになっちゃったじゃないの。サッカー楽しかったのに」

 グラウンドをながめつつくちびるとがらせる。

 体育館やグラウンド脇にある水飲み場では、つかれ切ったクラスメイト達が水をがぶがぶと飲んでいた……。


    ※   ※   ※


「さてと、そろそろ特異者が見つかった頃かしらね。キュールも、ちょっと学校に顔を出してみますわね。カエサル、お留守番をよろしく」

 キュールは桃園学園に向かうべく、立ち上がった。

 自分の計画が順調に進んでいることを、じんも疑わずに。

「ふふふ、リサラお姉様にどう恩に着せてあげようかしら。あは、楽しみですわ!」


    ※   ※   ※


 三時間目の授業中、一番後ろに座っているおおひらから良介の机にメモが回ってきた。

「なになに……『俺はちようのうりよくに目覚めたらしい。どんどん制服がけてきてるんだ。つきましては、お前の前に座っている大倉美菜の、スケスケ制服姿を、おしりを見たいので、横にずれろ! お前のきたないスケスケ姿なんて見たくない!』。スケスケ?」

 良介の目にはつうの教室に見える。が、そう思ってわたすと、男子達の目が一様に血走っているし、女子達はみように縮こまって、困った顔をしている。

「もし……かして、これ、さっきの錠剤か?」

 もしももなにも、ほかに考えようがない。良介はリサラの肩をつつくと、外に出るように目配せし、トイレといつわって教室を出た。

「何よ、良介」

 一分ほどして、リサラがろうに出てくる。

「ここだと話しにくいし、空き教室に行くぞ」

「ちょっと、どういうことよ」

 慌てて後を付いてきたリサラに良介は、大平のメモの内容と生徒達の様子を歩きながら、ため息混じりに伝えた。

 リサラの顔がみるみる青ざめていく……。

「で、でもそんなこと」

 空き教室で、リサラがうめいた。

「思うにだ。体育で疲れて、みんな水飲んだから、錠剤の効果が出てるんじゃないか?」

「で、でもでも、たったあれだけの錠剤なのよ?」

「俺に聞くなよ。そもそも効果だって変わってるんだし、えいきようだって変わるんだろ、きっと」

「そんなぁ~」

 リサラが情けない声を上げた。

「あのさ、お前が俺の効果を消したじゃないか。あれを、みんなにけられないのか?」

「あのね、給水塔の水は学校中で使われてるのよ? 学校全体に掛けるって……」

「なら、この学校がヌーディスト学校になってもいいってのかよ」

「ゔっ」

「しかも、玉野のドジを止められなかったのに」

「う、うゔ……はぁぁ、分かったわよ」

 がっくりとリサラが肩を落とした。

「でもね、良介。貴方にまた協力してもらうわよ?」

 顔を赤らめてリサラが良介を見つめてくる。

「さっき《装束デイスラード》まで使ったんだもの。大規模なかいじゆには、スピリットマネーの補給をしなきゃ無理なのよ……」

「俺の生きる力をまた吸い取るのかよ」

「そ、そうよ……そして、今の良介じゃ、そんな霊力ないから、そ、その……しなきゃ、いけない、のよ……」

「え?」

 良介が小首をかしげる。

「だ、だからっ、良介のエッチな心を満足させて、霊力を復活させる必要があるって言ってるのよ!」

「………………俺にエッチなことしろってのか!」

 ようやく思いついて、良介がリサラをまじまじと見た。

「お前、よくもまぁそんなずかしいこと言えるな」

だれよっ、解呪しろって言ったのは!」

 声をあららげる。

「ば、ばか、声が大きいって」

「だってだって!」

「悪かったって。まーでも、うん、他に方法ないなら仕方ないか」

「他に方法あれば、当然そっちにしてるわよぉぉぉ」

 なみだごえだ。

「し、仕方ないよな……うん。それで、こ、ここで?」

「あ、空き教室だし、授業中だし……時間、な、なさそうだから、ここ、かしら」

 そうおたがいに言い合って、固まってしまう。イヤラシイ気持ちは全く湧かないのだが、さすがにきんちようするのだ。

 そんな時だ。

「あれ、誰かいますかぁ?」

 廊下から担任教師らんばしの幼い声がひびいて来た。その幼い声の通り、前なのに外見もまた小学生にしか見えない女性だ。

「やべっ……かくれるぞ!」

「え、あ、うん!」

 先生につかまれば解呪どころのさわぎじゃない。良介は慌ててせいそう用具が入っているロッカーにリサラごと飛び込んだ。

「おかしいなぁ~。話し声が聞こえたんだけど……。まぁいいやぁ。ここならおこられないし、まんを読んじゃおうっと」

 乱橋がのんに漫画雑誌を読み始めた。

 良介とリサラの気も知らず、そして学園にしのび寄るヌーディストの危機も知らずにだ。

「リ、リサラ、どうする?」

「う、うう、乱橋ちゃん、漫画に思いっきり集中してるし、お、お願い、ここで、あの、そっと、ね?」

 消え入りそうな声でリサラが言った。

「マジかよ……」

「だって、急がないとダメ、だし。もし大事になったらしにがみわざってすぐ分かるわ。そしたら、私やキュールのことばれちゃう、から」

「そっか、それもそうだよな……なら、そ、その……」

「う、うん……」

 ゆっくりと手をばす良介に、リサラは真っ赤になりながらうなずいたのだった。


    ※   ※   ※


 ロッカーに閉じこもって十分は過ぎていた。

「だ、だからぁ、だ、だめっ、あせすごいから、んあっ……あ、ああぁ」

 リサラが、熱いいきらしながら身をよじった。

 その汗がにじんだ背筋は、なぞっているだけで不思議なこうようかんを覚える。まるでリサラの熱が、良介の手にみこんでくるような、そんな感覚だ。

「ねぇ、だからぁ……んっ、お、お尻をなでても、い、いいからぁ。汗、汗でびしょびしょでしょ、あんっ、背中は……お願い、恥ずかしいのよぉ」

 こうの声は確かに届くが、どうしてもその背筋から手をはなす気になれない。

 背筋を指先でそっとなぞり、かみの毛が汗で付着したうなじを手の平でなでる。

「はぁ……はぁ、はぁ……」

 たましいがユラユラとれ動く。熱く熱く、揺れ動く。リサラが恥ずかしがることをしている。リサラの体液──汗をさわっている。リサラの汗のにおいが、良介の肺を満たしている。

 それらすべてが魂を加速度的に熱くしていく。

 鼻息が荒くなり、目が血走り、人間の男が本来持つ、野性的なじゆうせいが目覚めていく。

「良介、うそ……なんで、汗ばんだ背中を触ってただけなのに、も、もうれいりよくが復活してる!?

「リ、リサラっ、制服の中に手を入れて直接背中を──」

 興奮のあまりそう言った時だ。

 リサラの手が良介の胸に当てられた。

「サービスタイムはしゆうりよう

「え……そ、そんなぁぁぁぁぁ?」

 一気に生きる力を吸い取られていく。それはもうようしやなく。今の今まで興奮していたのが、嘘のように、良介がシオシオになるまでだ。

「じゃぁ、唱えるわよ、良介」

「はぁ~、どーでもいいぞぉ~、好きにしてくれぇ。俺は早く、ここから出たい」

「……あ、あはは、良介ごめんネ」

 両手を合わせて軽く謝ると、リサラは術式を唱え始めた。

「我がにんしきおよぶ全ての者に問おう、知識をうばいし《最後の質問ヴアフスルーズニル》を!」

 そのしゆんかんからびた良介にも何かが体を通りけていったのを感じた。

 学校中に、解呪の術式が広がっていく。

「ふぅ、これでばん解決のはずよ」

 リサラが制服のむなもとを反らして、片手で風を送る。そんな無防備な姿にも良介は……何も感じない。感じられない。

(うう、むなしい……)

 そうなげいた時だ。

「うわぁ、校庭にはだかの女の子がいますぅ!?

 乱橋がさけび声を上げて、教室から転がり出て行く。

「おい、解呪したんじゃないのかよ?」

「そ、そのはずよ!」

 あわてて二人もロッカーから転がり出て、乱橋が窓から見下ろしていた校庭を見る。

 そこには人だかりが出来ていた。

「おい、裸だよっ」

じよか、痴女なのか?」

「いいや、救世主だっ、俺達の救世主だよ!」

ちがうね、俺達のもうそうが具現化したんだ!!

 男子生徒達が思い思いの声を上げ、ひざまずき拝み始めるヤツまで現れていた。

 その中心にはっ裸になった、

「なんでですのぉぉ、どうしていきなりっ、キュールの服が消し飛んだんですのよぉぉぉぉぉぉぉ!!

 キュールがしゃがみこんでいたのだった。

 そう、霊力で作った衣服を全て解呪されちゃって……。