ぐいっとあごを上げて、一気にてんじようを見上げた。が、マルベックが許してくれるわけもなく、良介はぐいっと乱暴に両側頭部をつかまれてしまった。

「先生を見なさい!」

 そして、グイッと良介の頭を下げて、自分を見させる。

「──!」

 良介の目の前に、オッパイがあった。

 ななめやや上から見下ろす、巨大な九十センチのきよう。それは、深い深いグランドキャニオン級の谷間だった。

 その頭頂部にあるサクランボが──めとばかりにふるえていて、素直にうでびる。

「ホワチャァァァァァァァァァッ、ダメェェェェェ!」

 伸びかけた右腕を、慌てて左手で掴む。手首をしっかりと掴むが、伸ばしたいしようどう、サクランボをしゆうかくしたい衝動もまた強く、野性と理性がきつこうして激しく震えてしまう。

「ど、どうしたわけ?」

「腹痛ですっ。保健室で休みます!」

 鼻血を垂らしながら、良介は天井を見上げて宣言した。

「そ、そう?」

「そうなんですっ」

 許可を得る間もなく良介は保健室へ歩き出した。そう、天井を向いたままでだ。

 ゴガンッ!

 さっそくべんけいき所を強打してなみだ

「良介、連れて行って上げようか?」

 リサラだった。

「リサラ、わ、悪いけどたのむわ……」

 天井を見上げながら保健室に向かうのは自殺こうに近いと、すねの痛みが教えてくれている。そしてリサラは、ゆいいつ制服を着た状態で見られる、願ってもない相手だった。

 リサラが、保健室に向かうべく良介の手を取って歩き出した。

 呆然とした空気が流れる教室を後にして……。


    ※   ※   ※


「平気なの、その頭……じゃない、おなか

 保健室のベッドにもぐり込んだ良介に、リサラが失礼なことを聞いてきた。

「うるせぇ。俺には俺の深い事情があるんだよ」

「ま、いいわ。保健の先生は留守みたいだけど、静かにてるのよ」

「子供あつかいするなよな、ったく」

 そもそも校内は裸の楽園──危険地帯だ。一時間目が終わるまで、出歩けるわけがなかった。

「じゃ、私は教室にもどってるわね。それとも、ここに居て欲しい?」

「だから子供扱いすんなって!」

「あはは、りようかい。ゆっくり休んでなさいよ」

 軽く微笑ほほえんで、リサラは保健室を出て行く。

「ったく、人を何だと思ってるんだ」

 静かに閉められたとびらを見つつ、良介は軽く口をとがらせた。あれでは、まるでリサラの弟か何かだ。よっぽど向こうの方が手が掛かるのに……。

 そう毒づいた時だった。

「ふわぁぁぁぁ、寝かしてもらうよ」

 三年のたまひかるが扉を開けて、堂々と入って来た。

「ぬあぁぁぁぁっ!?

 モロに飛び込んでくる、男のシンボル。しかもそこはか、ツルッツルだ! 無毛のそこでブラブラとれている姿を、良介は思いっきり見てしまい慌てて顔をそむける。

「なんで下の毛をってるんだよっ、アンタは!」

 良介の悲鳴にも近いてきに、玉野はいつしゆん小首を傾げてから両手をこしにやり、まんげにき出した。

「初めての時は、生まれたままの僕を見て欲しいのさ。そう、つねごろからその時に備えるっ、それがボクシング部部長にしてももぞの学園一のテライケメン、玉野光、十七歳!」

 キラッと歯を光らせて笑う。

「って、加賀良介、なんでキミが僕のひそやかなたしなみを知っているんだ?」

 ズカズカと近づいてくる。ブラブラと揺らしながらだ。

「ギャースッ、来るな寄るなっ、そのきたない物を俺に近づけるなぁぁ」

「まったく、せんぱいへの言葉遣いがなってないな、ん?」

 玉野がまくらもとに立ってのぞき込んでくる。そう、立ち位置的に丁度顔の横にソレをブラブラさせながらだ。顔を背けて目をつむっていても、えられるものではない。

「言うっ、言うからっ、お願い、そのポジションだけはヤメテ下さい!」

「ふむ、仕方ないな」

 玉野が一歩下がり、となりのベッドに腰掛けて足を組んだ。

「さ、説明したまえ。なんで知っている?」

「知ってるんじゃなくて、見えたんですよ……今、まさに」

 玉野とは逆側のかべを見ながら、良介はしぶしぶと答える。

「今、見えたって、透視でも出来るのかい?」

「ええ、キュールの持ってきたじようざいのせいでね」

「キュールくんっ!?

 ギシッと玉野が腰をかせた。何しろ玉野は先日、キュールに利用されて、あげくに捨てられて死にかけたのだ。その名前は聞きたくないだろう。

「ふむ、あの子の胸は中々に将来性がありそうではあったな」

 良介もだが、玉野もまためげない男の子だった……。

「しかし、キュールくんの名前が出るとなると、また死神、それも特異者関係かい」

「ええ、特異者をさがしてるんでね。キュールが言うには、錠剤を飲めばれいりよくの強い人間を見分けられるって話だったんですが……」

ちがったのかい?」

「違うとか違わないのレベルじゃないっすよ。教室中がヌーディストビーチ状態で」

「なぁっ!?

 玉野が思わず腰を浮かせる。

「色んな意味で立つなぁっ、ブラブラさせるなぁ!」

「お……おお、すまない。つい、な」

 ベッドに再び腰掛けた玉野をちらっと見て、はぁとため息をくと良介は説明を続けた。

 リサラだけが霊力で生成された制服を着ているので平気なこと、効果時間……等々をだ。

 一通りの説明が終わった時には、授業終了を知らせるチャイムが鳴りひびいていた。そのチャイムが終わるまでだまっていた玉野が、良介をにらんだ。

「で、その錠剤ってのは?」

 実物を見ない限り信用出来ない、そんな口調と共に玉野が立ち上がった。

「これがその錠剤です」

 これ以上、近寄られたくないっ。そんな一心で、良介はあわててキュールからもらった錠剤を一つ胸ポケットから取り出した。その瞬間だった。

「頂いたよ、加賀良介」

 ボクシング部部長の実力は見事だった。左腕が電光石火のごとく動いて、良介の右手から錠剤をうばい取ったのだ。

「玉野先輩っ!」

「フフフ、安心したまえ。無差別ノゾキなんて、そんなしん的じゃないことは考えていない。そう僕は、リサラくん、彼女のスレンダーで引きまったたいを見たいんだっ。初めてリサラくんに会ってから、ずっとこの僕の胸にある思い、それをなんとしても解消する必要がある!」

「先輩、も、もしかしてリサラのことが──」

「そうっ、赤いかみの毛の子の下も、赤いのかどうか。そして赤いアンダーヘアってなんかステキだし!」

「おい─────っ!」

 思わずり返って良介が突っ込んだ時には、もう玉野の姿は扉の外だった。よくぼうのなせるわざか、すさまじい速さで走り去っていく。

「くそっ、なんてげ足だよ。でも、リサラの服は霊力で出来てるから、とう出来ないって言ったぞ、俺……」

 そう考えつつ同時に、あの玉野なら何をしでかすか分からないとも思う。

「ったく、仕方ない」

 腰を上げて、保健室からそっと顔を出した。効果が一時間というのは、キュールにしてはめずらしく正しかったようで、ろうを歩く生徒達はしっかり服を着て見える。

「さてと、次の授業は体育か」

 授業開始のチャイムを聞きながら、じよじよに急ぎ足になりつつ体育館に向かい、

「って、女子はグラウンドだったぁぁぁぁ!」

 あせのしたたるむさ苦しい男子だらけの体育館から、グラウンドに走った。

 グラウンドでは、夏のしを浴びた女子達がボールを追っていた。鹿しかのようにスラリと伸びた白いあしが、やくどう感と共にねている。当然、その際にはおしりも震える。視線を少し上に向ければ、いくつもの胸がユサユサと、人によっては小ぶりに揺れている。さらに上着からチラリとのぞく背中のはだ……。

「はぁ、俺もあそこに混じりたい」

 思わず見とれてしまい、良介はその光景をのうから振りはらうように頭を振った。

「今はリサラと玉野先輩だ。ったく、どこに……」

「良介くん、どうしたの?」

 キョロキョロとグラウンドをわたしていると、おおくらが近寄ってきた。

「かなりしん者なんだけど」

「今日は観賞しに来たんじゃないぞ」

「観賞って……」

 美菜が苦笑いを浮かべる。

「リサラを探してるんだけど、知らないか?」

「リサラさんなら、さっき玉野先輩に間違って水をけられてえに行ってるよ」

 良介の顔に疑問が浮かんだのを見て、美菜がさらにくわしく続けた。

「うん。なにしてたかは知らないけど、玉野先輩がホースで水をリサラさんに思いっきり掛けちゃったの。それでビショビショになったリサラさんは、着替えに行ってるところ」

「体操服でビショビショ……ずりぃぃっ、俺だってそれは見てみたいぞ!」

 思わず欲求を口から出してしまってから、良介はふと思った。

「着替えって、先生から借りたのか?」

「うん。まだ始まったばかりだし、予備の体操服を着て授業に出なさいって先生が」

「そういうことか!」

 良介が手をたたいた。

 しにがみかいに帰ればおじようさまのリサラも、人間界では良介の財力にたよっているのでびんぼうだ。体操服も制服と同じで霊力を使って生成している。

 そして、霊力で作られた衣服は透視出来ない。

 ならば、つうの衣服に着替えさせればいい。

 そのために玉野はおくめんもなく、水をリサラに浴びせたのだ。

「クソッ、太陽の下でれたはだかとかっ、俺が見た裸よりさらにいいじゃねぇかっ。ズルイぞっ!」

「りょ、良介くん……暑いから、かなぁ」

 走り出した良介の背中を美菜は、ぼうぜんと見送ったのだった。


    ※   ※   ※


 女子こう室まで走ってきた良介が見たのは、ニタァとだらしない顔を浮かべた玉野だった。

「フフ、すべてはこの僕の神の如き計画通りだ。では、そろそろ錠剤を飲んでおくとするかな」

 玉野が、手の平にのせた錠剤を口に運ぼうとする。

「玉野先輩っ、ズルイぞっ」

 良介はその手首をつかんだ。

「加賀良介ぇ……」

 女子更衣室の入り口から目をはなし、玉野が振り返る。

「さすがだと言っておこう、加賀良介。この僕の綿密な作戦に気が付くとは、エロすけの異名を取るだけのことはあるな」

「綿密……か?」

「成功したからいいんだよっ。さ、その手を離すんだ。この僕がによたいという名の真理に一歩近づくのを、そこで黙ってみているんだ」

 そう言って、玉野が左手にこぶしを作った。部長を務める玉野のボクシングの実力は、確かなものがある。ひるがえって良介は、体育の成績もあまりいいとは言えない上に、ケンカなんて数えるほどしか経験がない(主に子供のころに)。

 勝ち目なんてあるわけがない。

 でも、だ。

(俺以外があいつの裸を見るのは、なんか腹が立つんだよ!)

 そう心の中でさけび、良介は一つのほこりを捨てた。

「ゴメンっ、俺の舌!」

「なぁぁぁぁぁ!?

 レロォォン。

 錠剤がのった玉野の手の平を、思いっきりめる。錠剤を舐め取る!

「うわぁぁぁ、きたないじゃないかっ!」

 すかさず玉野が良介をき飛ばした。良介は、ゴロンと一回転して、女子更衣室の入り口に背中をぶつけ、

「ごくん」

 舐め取った錠剤を飲み込んでしまった。だが今は、そんなことが問題ではない。

「うぐっ、う、うゔ、ゴメンな俺の舌、あんなおかしなものを味わわせて……」

 ただただ自分の舌に謝っていた。なんか、舌先に残る玉野の手の平の、汗の味が、ものすごく心を締め付けるのだ。

「何よ、さわがしい」

 ガチャリととびらを開ける音と、リサラの声が同時に響いた。

 そしてとつじよ、寄りかかっていた扉を失った良介がゴツンとゆかに後頭部からたおれ込む。

「良介?」

 リサラが、足先に転がった良介を見下ろす。

「………………………………赤い」

 かろうじて良介は一言だけらした。そう、錠剤を飲んでしまった良介には、体操服も下着も見えていないのだ。視界のはしが、うすい胸と赤い毛の一部をとらえている……。

「はい?」

「ダメだリサラくんっ、今の加賀良介は透視能力を持っているんだっ。キミの裸体が、僕が見るはずだった裸体が、丸見えなんだ!」

 玉野が悲痛な叫びをあげた瞬間、声も立てずにリサラはしゃがみこんだ。

「…………見た、のね?」

 顔を赤くし、なみだになったリサラが、良介を睨む。

「い、いやその、ちょっとだけ……その赤い毛をちらっとだけ」

「赤い、やはり赤いのか!」

 玉野が思いっきり反応してくる。その顔に、リサラがキッと強い視線を投げ、

「二人とも目をつむって!!

 金切り声を上げた。

「「はい!!」」

 逆らえずに、良介も玉野もぎゅっと目を閉じた。

 それをかくにんしてリサラが、良介の胸に手をやる。