そして誰かの願い『いつまでも、いつまでも』



──時は二十一世紀、日本。

 現代日本を代表する巨大複合企業、様々な業種に節操なく手を広げて成長した『根津ファーム』。江戸時代の豪農・商人である根津甚八丸が創設して三百年近い歴史を持つその会社では、年に一度の大忘年会が開かれていた。

 根津一族を始めとして系列会社に所属する幹部ら、更には地方で議員や町長をしている関係者も集まっている。

 江戸から明治、大正昭和にかけてひたすら先進的な商売を成功させてきた根津ファーム(旧根津財閥)は陰謀論者が真っ先に槍玉に挙げるぐらいの巨大企業群であり、日本の社会へと浸透しているのだ。

 そんな大企業の幹部となればエリート中のエリートであるはずなのだが……

 忘年会は千駄ヶ谷にあるかなり大きな公民館(根津ファームが寄付して建てた)で行われていた。

 集まった幹部の数は百人。本来はもっと参加する資格と意思を持つ者は居るのだが、人数制限という形で毎年抽選が行われて受かった者だけがやってくる。

 幹部のほとんどは忘年会に参加したがり、互いに恩の貸し借りや私財の取引で抽選券を奪い合うのが毎年のことだ。

 

 日本一の大企業である根津ファーム、そこの幹部で選ばれた者しか参加できない忘年会。参加経験のないグループ関係者は、さぞ豪華絢爛な宴が行われているのだろうと想像していた。

 テーブルに所狭しと並べられた山海の珍味を集め、美女揃いのコンパニオンを大量に呼び、何百万円もする高級な酒を浴びるように飲み、札束をばら撒く。

 そんな昭和のバブリーな酒池肉林なのだろうと。

 実際はどうであるのか。

 その日、千駄ヶ谷公民館に集まった男たちは畳が引かれた宴会広間にて、各々適当に床へと座り込み、水と持参した丸薬のようなものを飲んでいた。

「保存食食べると最近なんか胸焼けしてさ」

「今年は温泉行けなかったから帰りに九郎助屋に行きたいなあ」

 などとボソボソ、覇気のない顔で車座になって呟き合っている。

 年収何千万といった大企業の幹部たちが、である。

 集まった幹部たちは高級なスーツや洒落たジャケットを着ているのだが揃って頭に覆面を被っていた。流石に会社や議員として表立った活動をする際には被っていないが、こうして関係者で集まると皆は揃って覆面姿になる。

 なんの意味があるかはわからないが、それが伝統であることは誰もが理解していた。

 彼らが子どもの頃から、父や祖父たちも同じく身内の集まりではこうして覆面を被っていた。祖父が言うには、祖父の祖父たちも同じようにしていたという。

 根津一族の当主であろうともこうして集まると覆面姿だ。まあ、マッチョでふんどし一丁だから一目でわかるが。

 これは彼らの先祖が忍びだったことを由来とする格好のようだ。

 実際、皆は幼少時から現代に不要なレベルで鍛錬を受けさせられていた。時代錯誤ではあったが、同じように忍びの訓練を受けている幹部一族が大勢居たのでそういうものだと思って受け入れていたのだ。なので、企業の幹部や議員となった今でもそこらの運動選手並に動ける者が多い。

 根津ファームは大きくなるにつれて外部の者も取り込んでいるが、その根底は忍びの技術を活かして発展してきた会社である。

 忍びの伝達、輸送技能を活かした運輸業を始めた者。瓦版を作っていたことから出版、広告、新聞社へと発展した者。工作技術を広めて建設業を起こした者。龍と牛車のエロ妄想が発展して車メーカーとなった者。根津家や九郎助屋を警備していた者は警備会社の祖となり、皆の財産を預かる蔵を管理していた者は銀行を始めた。

 いずれも天狗による助言と援助を受けて様々な業界に先んじて会社を立ち上げたため、他会社にイニシアチブを持ち現代日本でもトップレベルの企業群となっている。

 そんな一流企業の経営者一族で社長クラスが年に一度こうして集まり、水と兵糧丸めいた保存食をモソモソと食べることを楽しみにしているのには理由があった。


 ややあって広間の演壇にてがらがらと音が鳴り、男たちはハッと顔を上げた。

「おお、皆も相変わらずシケた顔して集まっておるのう。というかお主ら、忘年会なのだから勝手に飲み始めておれよ」

『九子姉さん!』

 宴会場に入ってきた少女の名を皆が呼んだ。

 根津ファームの幹部一族たちから代々神のごとく慕われている大天狗。

 男たちも、その親も、祖父も、ずっと憧れている永遠の少女。

 それが助屋九子である。

 彼女は宴会の恒例となった景品的当ての道具と共に、変わった衣装でやってきた。頭にウサギ耳、足にタイツを履いているという点でバニースーツに分類されるのかもしれないが、大きな胸にはサラシを巻いて腰は褌、前を開けた半纏を羽織っている。

 バニーガールとお祭りの融合といった、めでたそうな格好ではあった。

 忍び連中がヒソヒソと話し合う。

「相変わらずあの九子姉さんの格好、エッチすぎない?」

「性癖壊れちゃう」

「お主らが着ろと言ったのではないか」

 いくら少女の姿とはいえ、痴女手前ぐらいの衣装をした九子を直視しかねる純情の男たちであった。しかしながら九子とて長生きしすぎて性に奔放になったわけではなく、数年前に景品の一等で忘年会にはこの衣装を着るように願われたのでそうしているのだ。