「騒ぎを起こして城を改めるつもりが……瓢箪からなんとやら。彼らにとっては幸運だったかな」

 古刀は北の丸地下に造られたところに封じられていたものであった。

 呪いの刀、その一振りである。

強力な呪術の込められた器具は捨てるにも壊すにも危険が伴い、払い下げればどう扱われるか解らない。となれば、施政者が手元に保管しておく他はない。そういった道具が収められた蔵が忌み所で、そこから奪ったのだ。

男はそれを手に入れることを狙っていたのだが、にわかに起きた大花火大会によって吉宗が城外で見物することを決定。江戸城の警備は右へ左への大騒ぎとなり、こうして忍び込むこともできたのであるが。

本来ならば江戸を包む大火事と共に北の丸に手勢を差し向け制圧し、混乱に紛れて目的のものを奪い取る手はずであった。まるで乱である。その場合は、江戸市中の火災はもとより北の丸に務める者も大勢死んだに違いない。

それでも構わなかった。襲撃した手先もすべて始末する予定だったのだ。

だが今は大事にせずとも奪取は可能ということもあって、数名が痺れ薬によって倒れている程度だ。運がよければ助かるかもしれない。

「毒刀『おろか』……もはやこの刀が城にあることを知る者も居なかっただろう。私がいただいて行く」

 僅かに抜いた刀身は崩れかけの塩めいた、真っ白で刃毀れした刃が見えていた。

 見た目は今にも壊れそうだが、炉にくべようがやすりで削ろうが壊れることのない道具だ。

 毒や病といったものを濃縮させた呪いが刀の形をしているのだ。

 壊すには特別な儀式が必要であり、そうすれば込められた病毒が撒かれるだろう。

「あと二振り……さて、江戸のどこにあるのやら」

 刀を探す目的の辻斬りで珍しい刀の噂を広めさせた手下の一人は捕まった。

商人や武家を探る遊女屋の関係者も牢屋敷にいる。

だが問題はない。

始末の支度は済んでいた。江戸に騒ぎを起こすため、予めやっていたことだった。

「或いは──天狗が知っているのか、確かめてみるのも良いかも知れないね」

 男はそう呟いて──夜闇に溶けていくように、やがて気配を消していた。


 暗黒面の法師と呼ばれる男は、何処いずこかに。



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