黒右衛門が呼び止めようとしたが、お花は返事もせずにさっと裏口から出ていった。

 彼は首を傾げて呟く。

「故郷で数年前に行方知れずとなった姪に似ていたような……」

 九子は(黒右衛門の親族か?)と思いながらも、お花がやや複雑な感情で故郷を捨てて一人江戸で生計を立てていたことを知っていたので、

「……いや、あやつは元から江戸の生まれらしいぞ」

 と、言って誤魔化しておいた。逃げたところを見ると、お花も今更連れ戻されたくもないだろうし、優秀な広報担当がいなくなるのは店としても困る。

「左様でございますか……?」

 と、黒右衛門は首を傾げる。

「さ、それより花火の打ち合わせや準備が必要であろう」

「おお、そうですな。鍵屋にも天狗さまの花火術を試しに見せてやりたいですし……」

「報酬として、そうだのう。屋形船を二隻ばかり当日に準備してもらうか。己れは打ち上げ役に行くが、知人友人を特等席に招待してやりたい」

「勿論でございます。無論、火薬代相応の礼金も用意させていただきます」

「うむ。折角の花火大会なのだ。盛り上げてやらねばのう」

 はるか昔に見た隅田川花火大会の記憶を手繰りながら、

(あれぐらい打ち上げれば文句もなかろう)

 と、明らかに過剰になりそうなまま納得する九子であった。なにせ花火代はタダで、いくらでも上げられるのだ。

 花火見物は商売の種にもなりそうだと彼女は思ったので、知人にも話をしてみようと決めた。



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