第六・五話 加か賀が谷や咲さきの恋愛観



【加賀谷咲の六月二十九日】


 加賀谷咲は、親友の仲村日和とは正反対の性格であると自己分析している。

 日和は人ひと懐なつっこくて、その場にいるだけで皆の気持ちを明るくする子だ。対して咲は他人に冷たい印象を与えがちだし、積極的に人と関わろうとはしないタイプである。

 そのせいか一年生の初めの頃は、咲は言葉足らずだったり付き合いの悪さだったりでクラスで孤立しがちだった。そんな咲に日和は気軽に話しかけてきて、咲の自然体を好ましく思ってくれて、あっという間に距離を縮めてきた。日和がいたから、愛あい花かや蘭らん、他にも友達の輪が広がって、楽しく学校生活を送ることができている。

 だから、ずっと隼に片かた想おもいをしてきた日和の初恋が実ったときは本当に嬉うれしかったし、日和が幸せになれますようにと、口に出して言うことはないけれど咲はいつも願っていた。



「暑いねー! あ、この時期って手を繫ぐと、めちゃくちゃ手汗搔かいちゃうよね? 手汗のケアってどうすればいいんだろ? 男の子って気にするかなあ?」

 三時間目の体育が終わり教室に戻ってきた日和は、ハンディ扇風機で風を浴びながら咲に尋ねてきた。

「日和は鏑かぶら木ぎくんの汗って気になる? 平気でしょ? だったら鏑木くんもそんなに気にしてないだろうし大丈夫じゃない?」

 咲は親友の恋愛話を聞くのが好きだ。日和が恋の話をするときは、純粋で、無む垢くで、とても可愛い。……聞いていて突っ込みを入れたり、呆あきれたりすることも多々あるけれど。

 咲の返答に「そっかあ」と素直に頷うなずく姿を見て、日和は素敵な恋をしているのだなと安心する。隼とは何度か話をしているが、ヤリチンの噂うわさこそあれ、優しいし日和のことを大切にしてくれている様子がちゃんと伝わってくる。

 人は傷ついて成長するだなんて聞くけれど、大切な親友が傷つく姿はあんまり見たくないものだ。

「次現社なのキッツいわー……眠いけど、テスト近いから寝てらんないし」

「この間の咲が来なかった勉強会でさ、隼くんの友達の謙けん吾ごくんが現社学年三位だって言ってた話したっけ? 見た目はちょっと怖いけど、凄すごいよね!」

「だって勉強会って絶対グダグダになるじゃん。あたし真面目に勉強したいし。謙吾くんは勉強教えてくれたりしたの?」

「……しなかった。最後まで皆でお喋しゃべりしちゃったし」

「予想通りすぎる。鏑木くんのグループって皆遊んでるっぽくて苦手だし、行かなくて良かったわ。……蘭と愛花は無事? 森もりあたりに口説かれたりしてない?」

「話してみたら皆いい人だったよ? ちなみに森くんはいなかった。用事があったみたいで……もしかして咲、森くんのこと気になってるとか!?」

「……前にも言ったけどさ、ぜっっったいに、ないわ」

 自分が傷ついたとしても、心のままに恋愛したい。

 それは咲のポリシーでもあるが、付き合う前から明らかな地雷が見えているのに、自ら飛び込んでいく真ま似ねはしたくない。

 ……ただ、赤ちゃんをあやしたり困っている母親に声をかけたり、周りをよく見ていたりと、思っていたよりはしっかりした奴やつだって見直した部分もあるけれど。

「えーでも、恋愛って何があるのかわかんないって、咲がよく言ってるじゃん」

「そうだけど……好きになりたくないの。ま、日和ひよりと鏑木くんも一緒のときしか絡からまないだろうし、元々接点はないからこれ以上仲が深まることはなさそうだけどね。……ってわけだから、ダブルデートは諦めてね」

 考えていることが顔に出やすい日和のリアクションに笑っていると、四時間目の授業が始まる本鈴が鳴った。

 眠気からか、直前までしていた恋バナが原因か。テスト前なのになかなか授業に身が入らなかった咲は、静かに溜ため息いきを吐ついてぼんやりと窓の外を眺めた。

 好きになった人が誠実だったらいいのにとは思うけれど、誠実な人を好きになるわけではない。今までの彼氏は体目当ての男ばかりで、浮うわ気きされることもざらにあった。

 付き合っているときは夢中になってのめり込んでしまうから、男の本質に気づけないのも情けない話だ。本当は、日和の恋愛相談を受けてやれる立場にはないかもしれないけれど、逆に反面教師にでもなっていたなら救われる。


 ──次に好きになる人は、あたしのことを大切にしてくれますように。


 咲の王子様が現れるのは一体、いつになるのだろうか。

 彼女の人生ものがたりもまた、続いていく。