8 公認の友達


 最終日は、主にバス移動が中心で車内は行きに比べてずいぶんと静かだった。

 隣に座っているたかさんも、カーテンの向こうで身動きひとつしないので、たぶん寝ているんだろう。

 俺は、イヤホンを差して昨日のラジオの前後を聴いていた。

『「この? ああ、骨折っぽくて、全然大したことないんだけど、部活はしばらく、アレかな~? うん。──質問待ちがエグい!」』

『まあ、あるけど。骨折したときくらいヒーローになりたいねん、男子は。痛い? とか、いつ治るの? とか、シャーペンどっちで持つん? みたいな、いてほしいねん』

 聴いているのはこれで一〇回目くらいだけど全然飽きない。

 好きな二人に、ついに俺個人が認識されたみたいですげーうれしい。

『ラスト。ラジオネーム「さわやかポンチ」。「朝は起きて、SNSチェックして、テレビの占いを見て、靴を履くときは右からで……──おまえのモーニングルーティン誰も興味ないぞ』

『悪いなぁコレ。有名人気取りの人らドキっとしたんちゃう?』

『ちなみにみつさんのモーニングルーティン、教えてもらっていいですか』

『オッサンのモールー誰が興味あんねん』

『モールー!? わかりにく。なんで略してん』

 ぐふふ、と変な笑いがこぼれる。

 二人の掛け合いもそうだけど、自分のメールが起点になっているってことを考えると、ハガキ職人も番組を作る要素になっているのを実感して、やりがいや達成感があった。

 学校に帰ってくると、担任の先生から簡単な連絡事項の伝達があった。とくに気にするようなことはなく、要約すると家に帰るまでが修学旅行だから気をつけて帰るように、とのこと。

あかりくん、バスん中で爆睡してたねー?」

 解散となってから、とりさんが声をかけてきた。

「名取さんもでしょ? 俺、名取さんより寝たのあとだし」

「嘘。寝顔、みた?」

「うん」

「なんで見るのー! ブサくなかった?」

「ううん」

「ねぇー、可愛かわいかったよってフォロー待ってたんだけどー?」

「いや、そこまでわからないって」

 冗談に軽くツッコむとけらけらと名取さんは笑った。校舎のほうを見ると、ちょうど休憩中だったのか、さんの姿が見えた。

 わかりやすくぴょんぴょんと跳ねていて、両手を振っている。

 …………あ。お土産! 買ってねえ!

「あ、チーセン、手ぇ振ってる」

 おーい、とはるが手を振り返していた。

「灯も、ほら。反応してあげなよ。……って、なんか顔色悪くない? 熱あんの?」

 すっと前髪の下に春が手を入れてきた。

「わ。こら。やめろ。そうじゃねえ」

「じゃあ何?」

「芙海さんにお土産買ってねえんだよ」

「まあ、いんじゃない?」

「そうはいくかよ。バイト先で俺はお世話になってる人だから、そういうのは礼儀だし……跳ねまわってる様子からして、お土産楽しみにしてるだろ絶対」

「かもね」

 俺、何されるんだろう。もしものために、服の下に雑誌入れて防御固めてバイト行こうかな……。

 俺がどんよりしていると、肩をたたかれた。振り返ると、高宇治さんがスマホを突き出していた。

「ごめんなさい、話の途中に。……あか……きみしまくん、電話よ」

 もしや。

 受け取ってスマホを耳にあてた。

「……もしもし」

『昨日、マンシン聴いてたよ。メール読まれたな、「さわやかポンチ」さん』

「どうにか」

 相手は思った通り、なおみちさんだった。

「これで、俺と高宇治さんのことはいいんですよね?」

『ん~~、まあ、ギリ許す』

「ギリ!? あんな条件ふっかけておいて……。こっちは守る義理ってないんですからね?」

『いいだろ、許すんだから。ああ、許すっつっても、駅まで一緒に帰るだけだからな。勘違いすんなよ』

「わかってますよ」

『ぶっちゃけ、無理だと思ってた。マンシンのネタコーナーは、現役の芸人が投稿しても簡単に読まれるようなもんじゃねえ。メディアの違いもあって、ラジオのネタメールは独特の難しさがある。だからお笑い業界でもラジオ業界でも評価が高いわけなんだが……』

 すると、くくっと耳元で小さな笑い声が聞こえた。

『面白かったよ。ネタメール。どっちも。俺が構成に入っててもあのメールは通したと思う』

「あ、ありがとうございます!」

『いいツッコミしてるからな、おまえ』

 俺には【キレのあるツッコミ】がある。けど、元芸人の現構成作家にそんなふうに言われるのは嬉しい。

「あざす。じゃサーヤちゃんは、俺が今日も駅まで送っとくんで」

『うわ、めちゃくちゃ調子乗りだした』

「冗談ですよ」

『わかってるよ』

 じゃ、代わりますと俺は最後に言って、高宇治さんにスマホを返した。

「灯、帰ろー?」

 バスはもう去り、生徒たちも散り散りになって、その場に残っているのは俺たちを含めて数人しかいなかった。

 通話が終わった高宇治さんに軽く会釈をして、春と並んで歩きだすと、高宇治さんが小走りで駆け寄ってきた。

「待って──!」

 不思議に思っていると、かばんの中からお土産屋さんで見かけた紙袋を取り出した。

「あか島くんにこれ」

「誰だよ」

「サーヤちゃん、交ざってんじゃん」

 ぷぷ、と春が笑いを堪えている。

「っ、あ、あか……君島くんにこれ……」

 押しつけるようにそのお土産らしきものを俺に渡した。

「お世話になったから! そのお礼よ!」

 恥ずかしさをまぎらわそうとしてか、逆に怒ったような口調で背を向けて去っていった。

「ありがとう!」

 遠ざかる背中にお礼を言うと、ピタっと止まって一度こっちを見て、またタタタと駅のほうへ走っていった。

「あか島きみりくん」

「便乗してイジってくんな」

「何もらったの?」

 中をのぞくと、ご当地ゆるキャラのぬいぐるみが入っていた。どう思うか俺に訊いてきたやつだ。

「……よ、よかったじゃん。あんま可愛くないけど」

「そういうこと言うなよ。いいんだよ。こういうのは気持ちだから」

 高宇治さんから、プレゼントをもらってしまった。

 そんな男子、たぶん今までいないよな。

 修学旅行を通じて、またさらに高宇治さんと仲良くなれたのでは──?