1 ステータスが見えるようになった俺の交友関係


 ある日、俺は自分や他人のステータスらしきものが見えるようになった。


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きみしまあかり

・成長:急成長

・特徴特技

 モブ

 強心臓

 口八丁

 ラジオオタク

 ポーカーフェイス

 褒め上手

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 俺のステータスはこんな感じ。

 意識的に見ようとするとパソコンでいうウィンドウのようなものが浮かび、ステータスを確認できるのだ。

 ステータスには、その人の趣味や好き嫌い、性格や性質、本人しか知らないプライベートな秘密までそこには記されていた。

 どうやら、これは俺以外には誰も見えないらしい。

 俺はこの力を使って、好きな女子と距離を縮めようとしている最中だった。

 今日も登校すると、俺の隣の席にはたかさんがすでに着席していた。

 朝日を反射するかのような艶やかな長い黒髪に、陶器のような白い肌。涼しげな目元、つんと突き出た桜色の唇。

 モデルがうちの学校の制服を着ているようでもある。

 俺がおもいを寄せる高宇治さんは、当然のようにモテる。

 一時期イケメン先輩と付き合っていたため、寄りつこうとする男子はいなくなった。けど、そのイケメン先輩にヤリ目だのという良からぬうわさを耳にした俺は、彼と直接対決をして別れさせるに至った。

 それは良かったけど、フリーになったことが周知されてしまい、またモテ具合が勢いを取り戻してきている。

 俺はというと、ラインも交換しているし、共通の趣味である深夜ラジオの話で盛り上がりまくりの同好の士として仲良くなっていた。

「高宇治さん、おはよう」

 以前の俺なら、挨拶することもビビってできなかったけど、今ならこんなに簡単に声をかけられるようになった。

「……」

 ちら、と高宇治さんはこっちを横目にうかがい、ゆっくりと顔を背けた。

 淡々と機械的な挨拶が返ってくるだけだろうと思っていたのに、この反応は予想外だ。

 俺なんかした……?

 記憶を振り返ってみても、思い当たる節がない。

 知らない間に地雷を踏んで、仲良くなったはずがむしろマイナスに……?

 いつの間にか習慣化してしまったステータスの確認をする。


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・高宇治あや

・成長:停滞

・特徴特技

 学年一の頭脳

 高校生離れした美貌

 押しに弱い

 下ネタ好き

 寒がり

 ジャンクフード好き

 大人数苦手

 さみしがり屋

 高集ハイコンセン中力トレーシヨン

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 ん? 少し前になかった【大人数苦手】【寂しがり屋】【高集中力】の三つが増えてる。

【成長】の項目は変わらず【停滞】。これはステータス上の成長を表している。だから一気に三つも増えない。

【大人数苦手】っていうのは、ちょっと意外。休憩時間は、男女数人のグループに囲まれていることが多いし、嫌そうな感じはなかった。本心は違うってところか。

【寂しがり屋】もギャップがある。孤独上等って雰囲気もあるのに。

 以前見えなくて、今見えるようになったってことは、俺との親密度が上がった証拠……?

 それが本当なら、俺と高宇治さんの関係は進展しているってことになる。

 内心、ガッツポーズしているけど、通路を挟んだ隣の席の美少女は、顔を背けたまま。

 これは放っておいたら余計に原因を尋ねにくくなるパターンだ。

「高宇治さん、俺、なんかした……?」

 恐る恐るいてみると、小さく頭が動いた。首を振ったらしい。

 そのわずかな仕草で清潔なシャンプーの香りが鼻先まで届いた。

「アレが、読まれるとは思わなかったのよ」

「アレ?」

 どれだ。

 かたくなにこっちを向かない高宇治さんは、小声で話す。

「昨日の放送で……私の『宇治茶』のメールが読まれたでしょ?」

 髪の毛から出ている耳が、うっすらと赤くなっている。

「ああ、メール、『宇治茶』さんの」

 俺と高宇治さんが偏愛している深夜のラジオ番組『マンダリオンの深夜論』。

 そのラジオに、高宇治さんは『宇治茶』というラジオネームで、ネタコーナーにメールを送っている。

「適当に送ったの、適当に。だから、私の本心というわけではなくて──」

「へぇ~。それでも読まれるのってすごいね」

 挨拶は無視されたけど、話しかけたら普通に反応があって、俺は胸をでおろした。

 共通の趣味の話題ですら無視されたら、もうおしまいだ。

 昨日の深夜、『マンダリオンの深夜論』の放送があった。俺と高宇治さんは、毎回リアタイしているヘビーリスナー同士で、毎週放送を楽しみに聴いている。

 その中で、高宇治さん……『宇治茶』さんが送ったメールが読まれていた。

 放送では、お笑いコンビのマンダリオンがこんなやりとりをしていた。

『えー、次。ラジオネーム、宇治茶。「最近仲良くなった友達がいます。その人とは趣味の話が合い、一緒にいるととても楽しいです」と』

『めっちゃええやん、青春やん』

『「人間性も素敵な人だと思います。ですが、その人が他の人と仲良くしているのを見ると寂しかったりちょっとモヤっとした気分になってしまいます。それは、私がその人に恋をしているからでしょうか?」』

『昼のラジオか! いらんねん、こんなん深夜ラジオに』

『宇治茶、うちのミッツンがごめんな? お笑い偏差値が低すぎて、ついてこられへんみたいやわ』

『オイ! 誰がお笑い落第生やねん。一八年やってんねん、こっちは』

『ネタ一本も書かへんようなやつがイキんな。おまえなんか芸歴圧縮したら三か月じゃ』

『おおおおおおおおおおおいッ!! せめて三年やろがい!』

『圧縮されること自体はいいんやな』

 っていうやりとりを、ボケのほんとツッコミのミッツンがしていた。今思い出すだけでも、ふふって笑ってしまいそうになる。

「本田が言っていたけど、あれは高度なネタメールだったんでしょ?」

 お笑い偏差値が低いミッツンはわからなかったって本田が言っていたから、きっとそうなんだろう。

 そっぽを向いていた高宇治さんが、ようやくこっちに向き直った。

「そ、そうよ!」

 力強く何度も高宇治さんはうなずく。

「も、もし君島くんがあれを本気に受け取ってしまったら、と思って」

「いやいや、ネタメールのコーナーだったし、さすがにマジだとは思わないよ」

 一瞬、俺のことでは!? ってなったけど、そういやネタコーナーだったわってすぐ冷静になった。

 俺以外の誰かであれば相当ヘコむけど、そもそもネタだしな。

「それならいいのよ。それなら」

 ほう、と高宇治さんは小さく息を吐いた。

 会話が一段落したとき、おさなじみはるが声をかけてきた。

「なんの話ー?」

 春は高宇治さんとは正反対の女子で、せい欠片かけらも感じさせないギャルど真ん中。髪の毛は金で染められており、太ももをあらわにしたスカートはめちゃくちゃ短い。

 体つきを含めて、誰が見ても目を引く容姿をしているのが俺の幼馴染だった。


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がわ

・成長:成長

・特徴特技

 抜群の社交性

 面倒見がいい

 母性

 ピュア

 相談役

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 ステータスの通り、面倒見がよく、誰とでも仲良くできる社交性がある。けど、見た目に反してピュアなところがあった。

【相談役】っていうのは、俺が高宇治さんのことでよく相談して話を聞いてくれていたからだろう。

「昨日のラジオの話」

 俺が言うと、春は俺たちの趣味を知っていたのであっさりとした反応をする。

「好きだねー、ラジオ」

「瀬川さんも、聴いたほうがいいわ」

 熱のこもったマジな目で高宇治さんが春を見る。

「あたしはいいよ。いい、いい。深夜の一時とかでしょ? 起きてらんないし」

「今はラジオアプリがあって、それならあとで聴き返すことも──」

 本格的に布教モードに入っている高宇治さんに対し、春は硬い笑みを浮かべている。

「ええっと……き、聴けたら聴くね?」

 聴かないパターンだな、これ。

 大して興味がなくても、一応相手のことを受け入れようとするのは、春の美徳だと俺は思っている。

「サーヤちゃんはさ、どうしてラジオ聴きはじめたの?」

「兄の影響よ」

「お兄ちゃんいるんだ?」

「ええ」

 高宇治さん、お兄さんがいるのか。

 これまで、趣味の話や学校の話ばかりしていたから、そういった家族の話はしたことなかったな。

「一回りほど年が離れているけれど、尊敬しているわ」

「ブラコンじゃんー」

「違うわよ」

 ちやす春に対して、さらりと否定する高宇治さん。

 いつの間にか、この二人も仲良くなった。

 きっかけは、たぶん、ポーカーの練習で放課後残ったことだろう。

 高宇治さんの元カレであるイケメンのどころ先輩と俺が、高宇治さんとの関係解消をかけてポーカーで勝負したのはもう先週の話。

 負けてたら、今こうしてしゃべることもできなかったんだよなと思うと、非常に感慨深い。

「後輩クーン?」

 聞き慣れた声に教室の出入口に目をやると、さんが手を振っていた。芙海さんは三年の先輩でもあり、コンビニでしているバイトの先輩でもある。

 身長が小さすぎて、最小サイズの制服でもダボっとした着こなしになってしまっている。


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西にしかた芙海

・成長:下降

・特徴特技

 見た目は子供

 頭脳は賭博師

 気質はモラハラ体育会系

 ケンカは百戦錬磨

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 見た目は子供。いやし系の小動物みたいな可愛かわいらしさがある。

「おーい」と今も俺を呼びながらぴょんぴょん、と跳ねている。

 なのに、体育会系のモラハラ体質。後輩には何をしてもいいと思っているのが玉にきず。……いや、その瑕デカすぎんか?

 ちなみに、ポーカーを教えてくれた師匠でもあるし、それを三年の一部で流行はやらせた張本人だ。

 俺は席を立ち芙海さんのところへ向かう。

「芙海さん、おはざす」

 俺がビシっと礼をすると、それを気にかける様子もなく挨拶を返してくれた。

「おはようございますー。昨日シフト表持って帰るの忘れてましたよね? ダメですよ~出勤日いつかわからなくなっちゃいますから」

「うす。さーせん、気をつけます」

「はーい。それだけですので~」

 にこやかに手を振った芙海さんを俺は見送る。

 遠くから見ている分には、ちっちゃくて可愛い先輩なのになぁ……。

 なんで内面は、あんなにイカついんだろう。

「灯くん、何してるの?」

「ああ、ちょっと先輩のお見送りを」

 振り返ると、登校したてのとりさんがいた。

 バイト中に変な男に絡まれているところをたまたま目撃し、助けたことで少し仲良くなったクラスの女子だ。

 ん? 灯くん? そんな呼び方だったっけ?

「先生来ちゃうよ? 学級委員なのに注意されるよ」

 ニカっと笑うと白い歯がのぞく。名取さんはテニスのラケットを背負っている。朝練か何かあったんだろう。

 健康的に焼けた小麦色の肌に、違和感を覚えた。

「どうしたの、マジマジとこっち見て」

「日焼けした?」

「あ、そうそうー。週末大会があって、そこでかなり焼けちゃって。日焼け止め塗っても毎年こうなっちゃうんだ」

 てへへ、と名取さんは笑う。

 変な男が声をかけるのもわからなくはないほどに顔は整っていて、ひそかに人気らしいのもよくわかる。


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・名取いろ

・成長:成長

・特徴特技

 運動得意

 勉強苦手

 努力家

 ポジティブ

 フレンドリー

 気持ちに正直

 抜群の社交性

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 春と同じ【抜群の社交性】。あとはイメージ通りのステータスだった。

「灯くんは、色白系女子のほうがお好み?」

 名取さんが小首をかしげると、後ろでくくったポニーテールがさらりと揺れた。

「え?」

「なんでもない」

 ふふっといたずらっぽく笑い、また白い歯を覗かせる名取さん。

「あ、今週体育、テニスやるらしいよー?」

 そう言い残して、名取さんは教室に入った。

 すぐ周囲の男女の輪に加わり、何かしゃべっている。名取さんは春とはまた違ったタイプの明るい女子って感じだ。

「体育……テニスか……」

 どこ情報かわからないけど、本当だとすると非常にまずい。

 なんつったって、俺は球技がまるでダメだからだ。

 男女分かれての授業になるだろうけど、男子は女子のテニスしているところを見るだろうし、それは女子もしかり。

 せっかくいい感じに高宇治さんと仲良くなれたのに、運動音痴をさらして幻滅されるようなことだけは避けたい……!

 これまでは、どうせ誰も注目してないだろうから、適当に済ませてた体育。

 体力測定も、本気を出しても高が知れているので流していたし、球技は足を引っ張らない程度にこなし、なるべく存在感を消していた。

「なんてこった……」

 高宇治さんが俺に注目するとは限らない。けど、好きな女子には自分に注目してほしいと思う。けど、運動音痴だから見てほしくないとも思う。

 ……どうなってんだ、俺の気持ち。

 席に戻ると、春は他の女子としゃべっていて、すでに付近にはいなかった。

「高宇治さん、体育でテニスやるらしいよ」

「へえ、そうなの」

 ネタ帳に何かさらりと書いている高宇治さん。

 いいよな、高宇治さんは。運動神経いいし、逆に運動音痴だったとしても、それはそれで可愛い。

 無敵すぎる。

 体操服姿で髪をくくってラケットを振る高宇治さんを想像してみた。

 注目しない男子はたぶんいないだろう。

 そんな高宇治さんが俺に注目してくれるかわからないけど、イイトコロを見せたい。少なくとも、変なところは見せたくない。