第三章 「彼女へのプレゼントのために」



 引っ越しをしてから三日目、シャルは俺から全然離れなくなった。

 いや、正確には、俺がのんさんやソフィアさんと二人きりにならないよう、ついてきている感じだ。

 別にやましいことはないのだけど、これではシャル抜きで相談したいことができない。

 だから俺は、困っていた。

「――失礼致します。シャーロット様、湯浴みの準備が整いました」

 ベッドの上で、シャルが俺にくっついて甘えてきていると、さんがノックをして部屋に入ってきた。

「はい、ありがとうございます。それでは、お風呂に行ってきますね」

 シャルは俺に対してニコッと笑みを浮かべながら、ベッドから立ち上がる。

 お風呂の順番はちゃんと決めており、シャルと花音さんが日付ごとに交代で先に入り、二人が入った後はソフィアさん、その次に俺が入り、最後はメイドの神楽耶さんが入るようになっているのだ。

 元々は子供たち優先とソフィアさんが言ったのだけど、エマちゃんはソフィアさんと一緒に入ることになったので、俺より先に入ってもらうことにした。

 シャルと花音さんに関してはお互いがゆずってしまうので、それなら順番は交互にしたらいいとソフィアさんが提案したため、こうなっている。

 決める段階では、シャル的には俺に先に入ってほしかったようだけど、やっぱりそこは女性陣を優先したほうがいいと思う。

 神楽耶さんに関しては、ひめらぎ家と違いこの家には使用人用のお風呂がないので、最後に入っているという感じだ。

「本当に、お背中をお流ししなくてよろしいのでしょうか?」

 普段花音さんの体を洗っているという神楽耶さんは、シャルの体も自分が洗ったほうがいいと思うようで、初日からずっとこの質問をしている。

「は、はい、お恥ずかしいので、大丈夫です。それに……」

 シャルはチラッと熱っぽい瞳を俺に向けてきた。

 何か言いたそうだけど……。

「なるほど、それは確かに私が先になってしまっては、困りますね」

 なぜか神楽耶さんは、俺にさげすむような目を向けてきた後、シャルに笑顔を向けた。

 相変わらず、俺と俺以外の人とでは、扱いの差が激しい。

「あ、あの、深い意味はなくて……!」

 シャルは一瞬にして顔を赤く染め、胸の前で小さく両手を振ってす。

「えぇ、ベネット社長には内緒にしておきますので、ご安心ください」

「そうではなくて……! 本当に、勘違いです……!」

 よくわからないが、先程シャルが俺に視線を向けてきたことに関して、神楽耶さんが勘違いしたようだ。

 察しが良すぎる彼女にしては、珍しい。

 ……というか、シャルの反応的に、多分勘違いではないのだろう。

 まぁ、なことは言わないのだけど。

 シャルはそのまま、神楽耶さんと一緒に部屋を出ていく。

 ――俺は、この時を待っていた。

 シャルが急に戻ってきたりしても大丈夫なよう、数分部屋で待ち、彼女が戻ってこないことを確認すると、俺は花音さんの部屋へと向かう。

「――あきひとです、今よろしいでしょうか?」

 ドアを三回ノックした後、俺はドア越しに尋ねた。

《えぇ、もちろんです。どうぞ中へ》

 花音さんの許しを得て、俺はドアを開ける。

 そして、中に入ると――

「――いか?」

 背後からこうそくされ、首元にヒンヤリとした冷たいものが当てられた。

 神楽耶さんの手のようだ。

「そんなわけ、ないですよ……」

 俺はダラダラと流れる自身の汗を感じながら、ゴクッと息をむ。

 殺気にてられ、生きた心地がしない。

「神楽耶、明人にいじわるをするのはおやめなさい」

 あきれた表情で溜息を吐く花音さんが、命令によって神楽耶さんを止めてくれる。

「命拾いしましたね」

 神楽耶さんは耳元でささやくと、俺を解放してくれた。

 なぜこんなことで、命の危険を感じなければいけないのだ……。

「……神楽耶の歪んだ愛にも、困ったものですね……」

「えっ、何か言いましたか?」

「なんでもありません」

 花音さんが何かつぶやいた気がして尋ねたのだけど、笑顔で誤魔化されてしまった。