第二章 「幼女はラーメンをお気に召す」



「――夕食は、あきひとの大好きなラーメンでどうでしょうか?」

 エマちゃんが飛び込んできてから数時間が経ち、引っ越しの荷物も入れ終わった後、のんさんが夕飯の提案をしてきた。

 よく俺の好物なんて覚えていてくれたものだ。

「……あーくん、ラーメンがお好きだったのですか……?」

「えっ、そうだけど……?」

 あれ、そういえば……シャルに言ったことないな……?

「どうして、教えてくれなかったのですか?」

 シャルはプクッと小さくほおふくらませ、ねているような目を向けてきた。

 もしかして、隠していたと思われているのか……?

 ここで、言う必要がなかったから――なんて言ったら、みんなに怒られそうだ。

「……元々はラーメンが一番好きだったけど、今はシャルの手料理が一番好きなんだよ。だから、シャルの手料理を食べられたほうが嬉しくて、言わなかったんだ」

 俺はとつに考えたことを伝える。

 もちろん、これは噓じゃない。

 少し前までなら、一番好きだったのはラーメンだけど、今ではシャルの手料理が一番好きなのだから。

「あーくん、ずるいです……」

 シャルは頰を赤く染めて、俺から顔をらしてしまう。

 口元はにやけているので、言葉とは裏腹に喜んでくれているようだ。

「私たち、お邪魔かしら?」

「お姉様、私のお部屋に行きますか?」

 俺たちがいちゃついているように見えたんだろう。

 温かいまなしをこちらに向けながら、ソフィアさんと花音さんが腰を上げた。

 なお、エマちゃんは現在俺の膝に座って猫の動画を見ているので、気にしていないようだ。

「気を遣って頂かなくて大丈夫です……」

 笑顔でいなくなりそうな二人を、すぐに止めた。

 晩ご飯をどうするかという話をしていたのに、俺たちのせいで遅らせるわけにはいかない。

 特に、エマちゃんが怒ってしまうだろう。

 食い意地はかなり張っている子なのだから。

「明人がシャーロットさんの手料理にメロメロなようなので、シャーロットさんにお願いさせて頂きたい――ところではありますが、本日はもうお疲れだと思います。ラーメンを食べに行きましょう」

 わざわざ俺をからかうような言葉を交えて、花音さんは提案をしてきた。

 先程からラーメンを推してきているが、この人が食べたいわけではないだろう。

 俺が一番好きだったものだから、それを食べに行こうとしているだけだ。

「あーくんの大好きなものでしたら、私は賛成です」

 機嫌を良くしたシャルは、ニコニコ笑顔で賛成してくれた。

 俺の腕に抱き着きながら、肩に頭を乗せてきている。

 母親が目の前にいても、お構いなしのようだ。

 むしろ、見せつけている感すらある。

「私も賛成ね、エマにもラーメンを食べさせてあげたいし」

 ソフィアさんが名前を出すと、エマちゃんがキョトンとした表情で顔をあげた。

 だけど、ソフィアさんの視線が自分に向いていなかったことで、関係ないと思ったのか視線をスマホへと戻す。

 そういえば……。

「イギリスって、ラーメンはあまりないのかな?」

 海外の食文化にはそこまで明るくないので、シャルに尋ねてみる。

「イギリスにも、もちろんありますよ。特に、私たちが住んでいたロンドンではかなり人気がありまして、お店さんもたくさんあったと思います。私も、昔は――」

 そこまで言って、ハッとしたようにシャルは言葉を止めてしまう。

 そして、チラッと顔色をうかがうようにソフィアさんを見た。

「お父さんとよく行ってたわね。お父さんもラーメンが大好きだったから。でも、エマが産まれてからは行ってないわ」

 ソフィアさんはニコッと笑みをシャルに返し、昔のことを話してくれた。

 シャルが言葉を止めたのは、ソフィアさんに気を遣ったんだろう。

 彼女たちにとってラーメンは、お父さんとの思い出らしい。

 シャルが来てからは、外食をする機会がなくなったので触れることはなかったが、下手へたをすると俺は地雷を踏む可能性があったというわけだ。

 ソフィアさんとのわだかまりがなくなった今なら、大丈夫なようだけど。

「…………」

 シャルに悲しい思いをさせてしまったので、俺は右手で彼女の左手と手をつなぐ。

「あっ……」

 気持ちが伝わったのか、シャルは嬉しそうに俺の顔を見てきた。

 これで元気になってくれるのは、素直に嬉しい。

「お話もまとまったことですし、行きましょうか。いつもの、お店へ」

 優しい笑みを浮かべる花音さんに促され、俺たちはラーメンを食べに行くのだった。



「――ソフィアさん、ありがとうございました」

 ラーメン店に着くと、車を出してくれたソフィアさんにお礼を言った。

 新居の駐車場には車が二台停めてあったのだけど、二台ともソフィアさんのものらしい。

 一台は、今回俺たちを乗せてくれた、八人乗りのミニバン。

 そしてもう一台は、見たこともない外車だった。

 シャルいわく、イギリスにいた頃も一般的なファミリーカーを乗っていたそうなのだけど、花音さん曰く、昔からソフィアさんはああいったお高そうな車に乗っていたらしい。

 シャルが見たことなかったのは、今まで社長だということがバレないように、隠していたんだろう。

「お姉様、ありがとうございました」

「本当に、申し訳ございません……」

 俺に続いて、花音さんもお礼を言い、さんは申し訳なさそうにしていた。

 車の中でも、この人はずっとこの調子だった。

 メイドさんである彼女にとっては、取引先の社長に運転してもらうのは居心地が悪かったんだろう。

 出かける前に、花音さんによって無理矢理私服へと着替えさせられていたし、神楽耶さんはずっと落ち着かない様子だ。

 正直、態度も服装も、珍しいものを見たと思っている。

「いいのいいの、私が運転したかったんだし。この車も、このために日本で買ったものだからね」

 そう、最初は神楽耶さんがリムジンを回してくる予定だったのだけど、ソフィアさんが運転するとゴリ押ししたのだ。

 立場的にソフィアさんのほうが上のため、神楽耶さんが折れた形になる。

「お母さんは、時々押しが強いですからね……」

 そういうところはシャルと似てないな――と一瞬思ったけど、よく考えたらシャルも意外と押しが強いところがある。

 丸々一緒ではないけど、やっぱり親子というわけだ。

『おにいちゃん、だっこ』

 車内から、チャイルドシートに座っていたエマちゃんが俺のことを呼んできた。

 ソフィアさんには悪いけど、母親がいても俺に抱っこを求めてくれるのは、すごく嬉しい。

『……私、明人君に負けちゃってる……』

 うん、こちらに気付いたソフィアさんが、何やらショックそうな顔をしてる。

 少し、申し訳なかった。

『――トマト、ラーメン?』

 お店の中に入ろうとしていると、外の壁に貼ってあったラーメンの写真を見て、シャルが不思議そうに首をかしげた。

『明人は、中でもトマトラーメンがお好きなのです』

『トマトということは、さっぱりしているのでしょうか?』

 シャルがそう想像するのも無理はない。

 トマトと聞くと、サラダなどのさっぱりとしたものを思い浮かべやすいだろう。

 しかし、ここのラーメンは違う。

 トマトの酸味と甘味があってあっさりだけど、ラーメンらしくコクのうまさもあるのだ。

 ニンニクもしっかりといているけど、トマトのおかげで食べやすくなっているので、正直凄くおいしい。

『イタリア料理を思い浮かべるといいかもしれませんね。味はトマトスパゲッティに近いと思います』

『それは、楽しみですね』

 シャルも期待してくれているようでよかった。

 腕の中にいるエマちゃんも、体を揺らして楽しみにしてくれている。

 そうして、中に入ると――。

「神楽耶、今回はあなたも一緒に座りなさい」

 花音さんの後ろで立って待とうとした神楽耶さんに対し、花音さんは座るよう促した。

「ですが……」

「あなたが立っていると、他のお客様のご迷惑になるでしょ? それに、シャーロットさんたちも落ち着いて食べることができません。ですから、あなたも一緒に食べなさい」

 普通のお客さんは、従者を連れたお嬢様の登場に慣れていないので、一人だけ立って待っていると気になって仕方ないだろう。

 ソフィアさんはともかく、シャルも同じで、神楽耶さんが食べないでいると気になってしまうはずだ。

 だから、花音さんは一緒に食べるよう指示をした。

 ――まぁ、既に注目はされているのだが。

「おい、見ろよ……。あそこの席、やばくね……?」

「まじか、美人揃いじゃねぇかよ……!」

れい……芸能人の集まりかなぁ?」

「やっばぁ、美人すぎ! サインもらえるかな!?

 ソフィアさん、シャル、エマちゃんは言うまでもなく、花音さんもかなりの美少女だ。

 そして、怖い印象の強い神楽耶さんも、一般的には美人にあたる。

 これほどの美人、美少女が揃っていれば、注目をされないわけがないのだ。

「あの、囲まれてる男は、いったい何者なんだ……?」

「俺、どこかで見たことがある気がするんだけど――そうだ、前に動画で見た奴だ……!」

「ねぇ、彼ってこの動画の人よね……?」

「うわ、まじ!? SNSでつぶやこっかな……!」

 どうやら、俺は別の意味で注目をされてしまったらしい。

 やはりあの動画は、ひどく広まっているようだ。

 スマホのカメラを俺たちに向けてくる人や、一生懸命スマホをいじり始める人がいる。

「……止めますか?」

「「「「ひっ!?」」」」

 神楽耶さんが視線を向けると、周囲の客たちが一斉に青ざめた。

 神楽耶さんとしては、大切なお嬢様を守らないといけないので、仕方がない。

「そう殺気を立てるのは、おやめなさい。物事は、穏便に済ませませんと」

 花音さんはそう言うと、立ち上がってお客さんたちに――ニコッと、優しい笑みを向けた。

 そして、近付いていく――のではなく、みの店長さんに向かって歩いていく。

「騒ぎを起こしてしまい、申し訳ございません」

「おぉ! なんかと思ったら、お嬢ちゃんじゃねぇか! 昔よりも大人っぽくなって、更に綺麗になったなぁ!」

 店長さんは花音さんに気が付くと、二カッと笑みを浮かべた。

 中学時代の件があってからは、花音さんもこの店に来ていなかったようだ。

「いつも連れてたぼうと、メイドの嬢ちゃんもいるじゃねぇか!」

 店長さんは、嬉しそうに俺と神楽耶さんに視線を向けてきた。

 二人して頭を下げると、ブンブンと手を振ってくれる。

 昔と変わらず、気さくで人がいい。

 ……それにしても、昔とは違って今日の神楽耶さんはメイド服じゃないのに、よくわかったな……?

「いや~すっかり見なくなったから、もう来てくれねぇかと思ったぜ!」

「申し訳ございません。いろいろとありまして……やっと、お邪魔させて頂けるようになりました」

「そうかそうか、まぁ人生にはいろいろあるわな! 他の連れは友達か!? やけに綺麗な人たちじゃねぇか!」

「明人の隣に座っている子が、明人の彼女さんなのです。他のお二方は、彼女さんのお母様と妹さんになります」

「ちょっ、花音さん!?

 いくら昔良くしてくれていた人とはいえ、そこまで説明しなくてもいいのでは!?

「ほ~! そっかそっか! おりゃあてっきり、坊主は嬢ちゃんとくっつくものだと思ってたがな、いや~すげぇ美人を捕まえたものだ!」

 店長さんは、ニヤニヤとしながら俺とシャルを見てくる。

 まるで、しんせきの子供に彼女ができたかのような反応だ。

 小さい頃から花音さんに連れられてきていたし、店長さんの中では俺と花音さん、そして神楽耶さんは似たようなものなのかもしれない。

「…………」

 シャルは笑みを浮かべながらも、なぜか机の下で俺の手をギュッと握ってきた。

 照れている――というわけではないだろう。

 多分、俺と花音さんがくっつくものだと思ってたと言われたのが、嫌だったんだ。

「お似合いですよね」

「あぁ、そりゃあ違いねぇ! 坊主も立派になってるからな!」

 どう見ても見た目では釣り合っていないはずなのに、店長さんは花音さんの言葉を肯定してくれた。

 本当に、人がいい。

「ところで店長さん」

 話がいったん終わると、花音さんは姿勢を正した。

 ここから本題に入るのだろう。

「ん、どうした?」

「申し訳ないのですが、お客様たちに私たちのことを撮ったり、SNSで書いたりしないようにお願いして頂けますか?」

 俺たちが直接注意するのは、トラブルの火種になりかねない。

 こういう場合は、お店の人にお願いするのが筋だと思い、花音さんは店長さんのところに行ったんだろう。

 こちらのほうが、神楽耶さんを差し向けるよりよっぽど穏便に済む。

「あ~、こりゃあ気が回らなくて悪かったな! 任せてくれ!」

「お願い致します」

 かいだくしてくれた店長さんに対し、花音さんは深々と頭を下げて、こちらに戻ってくる。

 店長さんはといえば、すぐにお客さんたちのもとに行き、注意をしてくれた。

 もちろん、しかるようなことはせず、低姿勢でお願いをするという形だ。

「凄くごていねいな御方ですね……」

 周りのお客さんに注意して回る店長さんを見ながら、シャルは意外そうにする。

「口調や見た目からは、豪快でけんぱやいおじさんに思えてしまうだろうけど、人付き合いが上手じようずな人なんだよ」

 相手のふところにうまく入っていく人で、お客さんからの人気も高い人だ。

 昔聞いた話では、店長さんと話したくてお店を訪れる人もいるのだとか。

 ――まぁ、言っていたのは店長さんなので、そこの真偽は不明なのだけど。

「さぁさぁ、何を注文するか決めませんと」

「明人様、どうぞ」

 花音さんの言葉に反応し、神楽耶さんが俺にメニュー表を渡してきた。

 見れば、既に花音さんとソフィアさんも、メニュー表を手にして眺めている。

『何がいい?』

 俺は、両脇に座っているシャルとエマちゃんにメニューが見えるようにしながら、尋ねた。

『あーくんは、もう決まっているのですか?』

『俺はトマトラーメンだね』

 トマトラーメン以外にも、しょうゆラーメンや、とんこつラーメン、しょうゆとんこつなどの一般的なラーメンや、つけ麺などもある。

 だけど、俺はここに来たらいつもトマトラーメンにしていた。

『トマトラーメンには、チーズ入りもあるんですね』

 こんがりと焼かれた大きいチーズが載った、トマトラーメンの写真をシャルは指さす。

『うん、そっちもおいしいよ。味がマイルドになる感じだね』

『結構違うのですか?』

『そうだね、同じトマトラーメンとは思えないくらい変わるよ。後は、トマト系のラーメンは麺を食べた後に、替え飯をするのもおすすめだね』

 トマト系ラーメンの場合、麺の替え玉が頼めるが、麺の代わりにご飯を入れることで、リゾット風にして食べることもできる。

 ご飯もガーリック入りだったり、チーズ入りだったりと選べるので、おすすめなのだ。

『私、そこまではお腹に入りませんね……』

 シャルは細い見た目通り、小食な子だ。

 ラーメンを食べた後にご飯も、となると大変らしい。

『…………』

 シャルは何か考えごとをした後、チラッとエマちゃんを見る。

『エマは、どれがいい?』

 エマちゃんは一人で食べきれないので、エマちゃんが選んだものにして分けるのだろう。

『んっ、おにいちゃんといっしょ』

 迷うことなく、エマちゃんは俺が頼むと言っていたトマトラーメンを指さした。

 カタカナは全然読めないはずだけど、トマトと聞いて赤いものだとわかったのだろう。

『よかった、それでしたらエマと分けることになりますので、私も替え飯というのを食べることができますね』

『そうだね、花音さんたちは決まりましたか?』

 俺は目の前に座っている花音さんと、その両脇に座っているソフィアさん、神楽耶さんを見た。

『私は、チーズ入りトマトラーメンにします』

 花音さんはいつも、ここで食べる時はチーズ入りのほうを選んでいた。

 こうして昔と同じものを頼もうとしていると、懐かしい感情が湧き上がってくる。

『ん~、私は明人君が大好きっていう、普通のトマトラーメンにしようかな』

 ソフィアさんは、俺と同じものにしたようだ。

 問題は、神楽耶さんだろう。

 まだ主人と一緒に食べるのを躊躇ためらっているようだ。

『神楽耶、私の命令が聞けないのですか?』

 花音さんは、笑顔で神楽耶さんに尋ねた。

 もちろん、花音さんも神楽耶さんの気持ちは理解しているだろう。

 むしろ、上流階級の世界では主人と従者が食事を共にするのは珍しいわけで、花音さんの考えのほうが変わっていることになる。

 それでも花音さんは、俺たちや周りに気を遣ってくれているのだ。

『いえ、そういうわけでは……』

『慣れてくださいね、これからこういった機会は増えると思いますので』

『かしこまりました……』

 花音さんが今後も俺やシャルと出かけるつもりなら、外食をする場面は出てくるだろう。

 神楽耶さんは基本的に花音さんの傍にいるので、一緒に食べてもらわないと悪目立ちする。

 俺たちとしても、神楽耶さんが一緒に食べてくれるほうが有難いのだ。

『難しいことは考えなくていいの。主が望んでいる以上は、それが全てだからね』

 見かねたようで、ソフィアさんも笑顔で肯定した。

 この人自身、神楽耶さんがいるのに自分で運転していたくらいだから、花音さんに賛同するのはわかる。

 ……いやむしろ、ソフィアさんが運転したのは、この状況を見越していたのかもしれない。

 ソフィアさんは、本来従者である神楽耶さんの仕事を、奪ったようなもの。

 そういった型破りなことを先にしている以上、彼女は神楽耶さんが一緒に食べたりしても文句を言わない、というのが神楽耶さんにも伝わる。

 そうやって、少しでも神楽耶さんが受け入れられるよう、はいりよしたんじゃないだろうか?

『お姉様のおっしゃる通りです。万が一他の者から何かを言われても、私の命令に従っているだけだと答えればいいのですから。むしろ、私の命令を無視するほうが、問題があります』

『はい、お言葉に甘えさせて頂きます……』

 神楽耶さんは、ゆっくりと首を縦に振った。

『ふふ、それでいいのです。私と一緒に食べましょう』

 花音さんは、嬉しそうにうなずいている。

 もしかしたら、元から神楽耶さんと一緒に食べたかったのかもしれない。

『花音さんにとって、神楽耶さんは特別なのでしょうか?』

 二人の様子を見ていて気になったんだろう。

 シャルが俺にコッソリと聞いてきた。

『主人と従者という関係ではあるけど、神楽耶さんは花音さんが幼い頃から面倒を見てくれているからね、やっぱり特別だとは思うよ』

『幼い頃って……神楽耶さん、結構お若いですよね……?』

 見た目から想像できる年齢で逆算すると、計算が合わないんだろう。

 シャルが戸惑うのも無理はない。

『神楽耶さんの家は、代々姫柊家に仕えているんだ。だから、学生の頃から面倒を見てる感じだね』

『漫画の世界のようです……』

 感心したように、シャルは神楽耶さんを見る。

 その目は熱を秘めており、漫画やアニメが好きな彼女に刺さったんだろう。

 ただでさえ、メイドさんということでシャルは神楽耶さんに興味しんしんなのに、更にかれたようだ。

 その後、神楽耶さんはトマトラーメンを選んだ。

 主である花音さんと同じものにするのは避け、他のみんなが選んでいるものにしたんだろう。

 そうして、ラーメンが来ると――。

『んっ……!』

 エマちゃんは、ワクワクとした表情で、小分け用のうつわを俺に差し出してきた。

『エマ、私のをあげるから、器を貸して』

『やっ……! おにいちゃんのがいい……!』

 シャルが手を差し出すと、エマちゃんは首を左右に振って器を引っ込めてしまった。

『私のは、あーくんのと同じラーメンだよ?』

『おにいちゃんのがいい……!』

 どうやら、ラーメンの味ではなくて、俺からもらいたいようだ。

『それじゃあ、私のをあげよっか?』

 俺からもらうのは良くないと思っているのか、ソフィアさんが手を差し出す。

『やっ……!』

 しかし、エマちゃんは再度首を左右に振った。

『…………』

 おかげで、ソフィアさんが悲しそうな表情をしてしまう。

『エマちゃん、貸して』

『んっ……!』

 俺が手を差し出すと、エマちゃんは嬉しそうに器を手に置いてきた。

 この子なりに、何かこだわりがあるんだろう。

『あーくんのが、足りなくなっちゃいます……』

『いいよ、足りなければ替え玉をすればいいんだし』

 俺はラーメンを取り分けた器をエマちゃんに渡しながら、シャルに応える。

 エマちゃんは食い意地を張る割に、幼いのでたくさん食べることはできない。

 さすがに店長も、これで替え玉をするのは許してくれるだろう。

『あっ、それでは、私の分からエマの分をあーくんが取ってください。そしたら私も、替え飯を食べることができますので』

 そういえば、元々シャルは自分の分からエマちゃんの分を取ることを計算して、注文していたんだった。

 そう考えていると――。

『んっ……!』

 エマちゃんが、また器を差し出してきた。

『えっ、もう食べたの!?

『おい、しい……!』

 どうやら、味を気に入ってすぐ食べてしまったようだ。

 このペースの早さ、もしかすると……?

『エマ、私のを――』

『いや、いいよ。俺のをあげるから』

 ちょっと気になることがあり、俺は再度同じ量をエマちゃんに渡す。

『あーくん……』