第一章 「美少女留学生は懇願する」



 シャルの無言アピールに耐えた、翌日の日曜日――朝から、のんさんとさん。

 それにソフィアさんとエマちゃんが来ていた。

「それでは、荷造りを致しましょうね」

 花音さんは、ニコニコとした楽しそうな笑顔で、引っ越しの準備を促してくる。

 昨日の今日で、もう新居に移るらしい。

「私とロッティーは、隣の部屋を片付けてこないとね」

 もちろんソフィアさんやシャルも、自分たちの部屋で荷造りをする。

あきひとは見ての通り物が少ないので、神楽耶はお姉様たちをお手伝いしてください」

 引っ越ししてきて三ヵ月ほどしか経っていないシャルよりも、俺のほうが荷物はだいぶ少ないらしい。

 あちらは三人暮らしだし、シャルあてに時々段ボール箱が届いていたくらいだから、荷物が多いのも仕方がないだろう。

 段ボール箱の中身はシャルが趣味で買っているものらしく、通販を利用しているようだ。

 詳しくは教えてくれなかったので、何を買っているかまでは知らない。

「あの、まずは全員で明人君のお部屋を荷造りした後、私たちのお部屋を荷造りするというのはどうでしょう……?」

 手分けして荷造りをしようとすると、シャルが恐る恐るという感じで手を挙げて、提案をしてきた。

 彼女にしては珍しい行為だ。

「何言ってるの? 荷造りっていってもやれることは限られてるんだから、必要以上に人数がいても邪魔になるだけよ」

 しかし、ソフィアさんがシャルの提案をはねのけてしまった。

 それにより、シャルはシュンとしてしまい、俺の服のそでを指でまんでくる。

 俺に味方をしてほしいのかもしれないけど――正直、今回はソフィアさんが正しいと思う。

「そんな、わかりやすく落ち込まなくても……」

 シャルの態度を見て、ソフィアさんが困ったように頰を指でく。

「シャーロットさん、少しの間だけですから。終わったら、また明人と一緒にいられますよ」

 花音さんは優しい笑みを浮かべて、シャルの頭をでる。

 一歳しか変わらないのに、言動が落ち着いているので、大人のお姉さんのようにさつかくしてしまう。

 少なくとも、シャルに対しては俺と同じようにお姉さんとして接しているように見える。

「大丈夫です……」

 そう言いながらも、シャルは俺の袖を放そうとはしない。

 なんだろう?

 一日のほとんどを一緒に過ごしているとはいえ、当然お風呂などで離れたりはする。

 エマちゃんが起きている時はエマちゃん優先で、用事があれば離れたりもするのに――なんで今日は、こんなに離れたがらないんだ?

 彼女に求められることは嬉しいのだけど、純粋に疑問だった。

 そう戸惑っていると――。

『おにいちゃん、あそぶ?』

 エマちゃんが、俺の服の袖をクイクイッと引っ張ってきた。

 かわいらしく小首をかしげているが、これは聞いているのではない。

《遊ぼう》と誘っているやつだ。

 ソフィアさんもいるし、みんなで遊びたいのかもしれない。

『ごめんね、これから引っ越しの準備をするんだ』

 俺は腰を屈めて、エマちゃんへと説明をする。

 てっきりここに来るまでにソフィアさんが伝えていると思っていたけど、この様子を見るに今日引っ越しをするということは知らなかったんだろう。

『おひっこし?』

『そうだよ、エマちゃんは猫ちゃんを見ておく?』

 幼い子にとって引っ越しの手伝いは大変だろうし、ウロウロされても危ない。

 だから俺は、スマホを見せたのだけど――。

『エマ、おにいちゃんのおてつだいする……!』

 どうやら、エマちゃんも手伝いたいらしい。

 本人がやりたがっているなら、させてあげてもいいとは思うけど……。

『それじゃあ、シャルたちのお手伝いをしてくれる?』

 エマちゃんは元々隣の部屋に住んでいたのだし、シャルとソフィアさんがそっちに行くのだから、一緒に行かせたほうがいいと思った。

『やっ……! おにいちゃんの、おてつだいする……!』

 だけど、エマちゃんは俺の手伝いをしたいらしい。

 先程も『おにいちゃんの』と言っていたので、そこが大切なようだ。

 どうしよう?

 こっちは俺と花音さんだけになるので、エマちゃんの行動を見守ると作業の進み具合に影響しそうだ。

 シャルも、エマちゃんを連れていくだろうし。

『では、エマはこちらのお部屋に残ってもらうということで……!』

『えっ?』

 俺の予想に反し、シャルはなぜか嬉しそうにエマちゃんの意志を尊重した。

 彼女らしくない行動だ。

 普段なら、他人の迷惑にならないようエマちゃんを連れていくのに。

 まぁ相手が俺だから、ってことだろうか?

「なんてわかりやすい……」

「ふふ、素直でかわいらしいです」

 シャルの様子を見ていたソフィアさんは苦笑し、花音さんはニコニコと笑みを浮かべた。

 二人とも、何かに気付いているようだけど……?

「ほらほら、今日中には引っ越しを済ませてしまうから、もう行きましょう」

 振り分けができたからか、ソフィアさんはシャルの背中を押して出ていってしまった。

「くれぐれも、変なことはしないように」

 神楽耶さんは、俺をひとにらみして釘を刺すと、ソフィアさんたちに続いて部屋を出ていった。

 まぁ、あるじに手を出されないようにするのは当然のことだろう。

 もちろん、俺だって手を出すつもりはない。

『エマ、なにするの?』

『あっ、それじゃあ、タオルとか衣服を段ボール箱に入れてくれるかな? 花音さん、一緒にお願いしてもいいですか?』

 俺の手伝いとはいえ、俺が一緒にしなくてもいいだろう。

 軽いものは二人にしてもらい、重たいものは俺が中心でやっていったほうがいい。

『はい、大丈夫ですよ。エマちゃん、一緒にしましょうね?』

『んっ……!』

 花音さんが優しいふんまとっているからか、それともひめらぎ家にいる時に交流があったのかは知らないが、エマちゃんは花音さんを嫌がっていない。

 だから俺も、安心して任せることができる。

「明人」

「はい?」

 段ボール箱を組み立てようとしていると、花音さんが声をかけてきた。

 そして、ソッと俺の耳元に口を近付けてきて、ようえんな声でささやいてくる。

「実は、このお部屋はまだ当分残します」

「えっ……!?

 驚いて視線を向けると、花音さんはニコニコと実に楽しそうに笑みを浮かべていた。

 普通なら、引っ越しに余裕を持たせたりするためのはいりよ、と思うかもしれない。

 だけど、先程の声は……。

「ですからタオルや着替えなどは、少し残しておきましょうね。あちらの家には既に家具なども用意してありますし、必要最低限のものを運ぶだけでいいです。明人たちが、お好きな時にこの部屋を使用できるように」

 やはり、俺とシャルが二人きりになりたい時は、この家を使えと言っているようだ。

「そこまでして頂く必要はなかったのですが……」

「これは明人のためでもありますが、シャーロットさんのためでもあるのです。周りの目を気にせずに、明人に甘えたい時もあるでしょうからね」

 今までは俺とシャル、そしてエマちゃんしか暮らしていなかったので、エマちゃんが寝るのを待っていればよかった。

 しかしこれからは、ソフィアさんや花音さん、神楽耶さんが一緒に暮らすので、当然勝手が違う。

 俺たちの部屋に戻れば二人きりの時間はできるが、花音さんたちの存在が気になってしまうのはいなめない。

 落ち着いて、イチャイチャできるものではないのだ。

「俺たちに甘すぎなんじゃ……?」

わたくしはあなたたちのお姉さんなのです。甘やかすのは当然ですよ」

 過保護すぎる気がしないでもないけど……規格外なのは、昔からだしな……。

「シャーロットさんは本当にかわいいです。はたから見ていても、明人に甘えたくて仕方がないのが伝わってきますからね」

「あはは……まぁ、素直な子なので。ですが、彼氏みように尽きます」

 ごうとくとはいえ、今まで嫌われて生きてきた俺にとって、あれだけ求めてくれるのはすごく嬉しい。

 俺を好きでいてくれているという気持ちも伝わってくるし、とても幸せなのだ。

「ふふ……あなたたちは、お互いのことをとても想っていますし、二人とも賢い子なので過ちを犯す心配もなく、私も安心して見ていられます」

 花音さんは満足そうに言うと、エマちゃんに視線を向けた。

『お待たせしました、タオルなどを持ってきましょうか』

『んっ……!』

 おとなしく俺たちのことを見つめていたエマちゃんは、花音さんに話しかけられて嬉しそうにうなずく。

 日本語で話しているからわからなかっただろうに、俺と話しているのがシャルではなく花音さんだったから、話が終わるのをおとなしく待っていたんだろう。

 保育園では評判がいいし、やはり親しい人以外が相手では、聞き分けが良くなるようだ。

 エマちゃんは、花音さんの見よう見まねで、段ボール箱にタオルや服を詰めていく。

 自分から手伝うと言っただけあって、一生懸命やってくれていた。

 結果、どうなったかというと――。

『すぅ……すぅ……』

 荷造りが終わる頃には、疲れて眠りについてしまった。

 引っ越しの荷物が少ない分、そこまで大した時間はかかっていないのだけど、慣れないことで疲労が溜まったんだろう。

 今は、花音さんの膝枕で気持ちよさそうに寝ている。

「ふふ……本当に、天使のようにかわいいです」

 元々子供好きな花音さんは、幸せそうにエマちゃんの頭をでていた。

「実際エマちゃんは、俺とシャルがくっつくきっかけをくれましたしね」

 裏で糸を引いていたのは花音さんたちだったとはいえ、エマちゃんがいなければ俺とシャルはおそらく、今も親しくなってはいなかった。

 少なくとも、付き合うほど仲良くなることはなかったんじゃないだろうか?

 俺たちの関係が始まったのは、迷子になっていたエマちゃんを助けたところからだったのだから。

「もしかして、天使とキューピッドをかけていますか?」

「えぇ、違うものだというのはわかっていますが、見た目が似ていますので」

 確か、天使は神の使いだけど、キューピッドはローマ神話に登場する恋の神様だったはず。

 明確に存在は違うけれど、描かれるイラストはよく似ているのだ。

 弓矢を持っているかどうかの違い、くらいじゃないだろうか?

「ふふ、まさにエマちゃんは、明人たちのキューピッドですもんね」

 俺と同じようなことを考えたんだろう。

 花音さんは実に嬉しそうに笑っている。

「まぁ、裏では花音さんたちが糸を引いていたんですが」

「意地悪なことをおっしゃいますね。それは、言わないお約束です」

 花音さんにしては珍しく、ジト目を向けてきた。

 そんな約束をした覚えはないのだけど、暗黙の了解みたいなものだろう。

「もちろん、有難く思っていますが」

 人為的だったとはいえ、シャルのようなとても優しくてかわいい女の子と付き合えるようになったのは、素直に嬉しい。

 本来であれば、俺が背伸びをしてでも手が届かない子だっただろうから。

「私としても、大切な弟の彼女になった子が、シャーロットさんでよかったと思っています。お姉様のご息女ということ以前に、あの子には気品があり、優しく、何より明人のことを一番に考えてくださる子ですからね」

「もしかして、元々シャルのことを知っていたのですか?」

 口ぶり的に、そう感じた。

「存在は存じ上げていましたが、お姉様はシャーロットさんを私たちの世界に関わらせたくなかったようで、パーティーなどに連れてこられませんでしたからね。お姉様からお話をうかがい、どういう子かを存じていたくらいです」

 シャル自身、母親が社長だったことも知らなかった。

 政略結婚などで目を付けられるのが嫌だったり、汚い大人たちを見せたくなかったのかもしれない。

 花音さんに話していたのは、娘ととしが近いから心を許していたんだろう。

「シャルは、良くも悪くも純粋ですからね」

 賢い子ではあるけれど、人の噓にだまされないとは限らない。

 むしろ悪人が困っているようによそおった場合、信じて手を差し伸べてしまうだろう。

 それだけ優しい子なのだ。

 だけど、それが命取りになるのが、花音さんやソフィアさんが生きてきた世界だ。

 優しいことは、全てにおいて長所になるわけではない。

「そのための、明人でもあります。あなたはこれから、何があってもシャーロットさんを守らなければなりません」

 彼女を守るのは、彼氏の役目。

 ――という、単純な話でもないのだろう。

 ソフィアさんと花音さんが期待しているのは、シャルの身を守ることだけじゃない。

 二人が俺に何を求めているのかは、なんとなく察しているつもりだ。

「俺も、何があってもシャルを守る気でいます」

「お姉様も、明人にはその力があると信頼して、シャーロットさんを任せてくださいました。そしてもちろん、私もあなたにその力があると信頼しております」

「信頼を裏切らないように、善処します」

 俺はもっともっと、いろんなことを勉強していかなければいけないだろう。

 将来、シャルの力になれるように。

「えぇ、期待しています。シャーロットさんが今一番信頼を置くのは、あなたでしょうしね」

 花音さんは目を細め、優しいまなしで見つめてくる。

 さすがに正面からそんな目で見られると、照れくささが込み上げてきた。

「そうであってくれれば、嬉しいですけどね」

「シャーロットさんの明人に対する依存具合を見ていれば、間違いないでしょう」

 依存って……ずいぶんと、直球的な言葉を使ってくれるものだ。

 まぁ、実感はあるのだけど……。

「彼女のしつ深さや愛の重さにも、明人なら余裕をもって応えられますよね?」

 そんなとんでもないことを、ニコニコ笑顔で言ってくる花音さん。

 シャルの嫉妬深さにも気付いているようだ。

「そう聞かれると、うつわが大きいわけではないので、素直に頷けないところもあるのですが……嫌だと思ったことは、一度もありませんね」

 それだけ、シャルが俺を愛してくれているというのがわかるのだし。

 むしろ、嬉しいくらいだ。

 まぁさすがに、誰かに危害を加えるとかになったら、嬉しいとか言っていられないのだけど……優しいシャルは、そんなことをしないからな。

 今だと、嫉妬すればするほど、甘え具合が増すだけだし。

「大切にしてあげてください。シャーロットさんにとって明人は、かけがえのない存在でしょうから」

「彼氏だから、ですよね?」

「違いますよ」

 花音さんはクスッと笑い、《仕方ないなぁ》とでも言わんばかりに、優しい表情で再度口を開く。

「彼女にとって明人は、自身が困っている時に何度も助けてくれて、心に負っていた傷をいやしてくれた唯一の存在なのです。お父様の件があってからは無理に大人ぶろうとして、誰にも甘えられなかったでしょうし……そんな自分を甘やかしてくれる存在となった明人を、誰にも取られたくないと思うのは、自然なことだと思います」

 花音さんの言う通り、シャルはエマちゃんのお父さん代わりになるために、頑張っていた。

 そのせいで大人のように振る舞わなければいけなかっただろうし、負い目によってソフィアさんにも甘えられなくなってしまったのだ。

 根が甘えん坊な子だし、本当は誰かに甘えたいという気持ちがずっとあったんだと思う。

 依存してくれているのは、彼女が求めていた存在に俺がなれたということなんだろう。

「シャルにとって、必要な存在になれていれば嬉しいです」

「ふふ、それはもう、間違いないでしょうね。明人がいなくなってしまったら、シャーロットさんは寝込んでしまうレベルだと思いますよ」

 寝込むかどうかはわからないけど、確かにまぁ、落ち込んでくれそうだなぁっとは思う。

「明人なら心配はいらないと思っていますが、じようのもつれでシャーロットさんを悲しませるようなことはしないでくださいね?」

「はは、さすがにそれはありえませんよ。俺はモテませんしね」

 シャルのような素敵すぎる子と付き合っていて他の子に目移りは絶対にしないし、アプローチをかけられることもない。

 シャルはすごくモテてしまうが、浮気をするような不誠実な子でもないのだから、心配はいらないだろう。

 ――と、思ったのだけど……。

「…………」

 なんだか、とても残念な人を見るような目で見られてしまった。

 あれ、何かおかしいことを言ったか……?

「花音さん……?」

「無自覚なところが、恐ろしいのですよね……」

「えっ?」

「なんでもありませんよ」

 花音さんはニコッと笑みを浮かべて、してしまった。

 何か思うところがあるように見えたんだけど……?

「――あーくん……」

「えっ、シャルどうしたの!?

 名前を呼ばれ振り返ると、顔を真っ赤にして涙目のシャルが立っていた。

 いったい向こうで何があったんだ……?

「大量に薄い本を隠し持っていたのがバレたから、恥ずかしがっているだけよ」

 その後ろからは、あきれた表情のソフィアさんが現れた。

 薄い本というと――同人誌か。

 多分、シャルが時々通販で買っていたものだろう。

 やっぱりシャルは、そっち系の知識が豊富そうだ……。

 俺、勉強しておかないと、いざという時が来たらシャルに幻滅されるんじゃないのか……?

「あーくんにまで、言わなくてもいいでしょ……!」

 シャルにとってはよほど知られたくなかったものらしく、珍しく怒りを露わにしている。

「理由を話さないと、変な誤解を生むじゃない。それに、隠し事はなしにするんでしょ?」

 ソフィアさんが持ち出したのは、昨日俺とシャルがした約束のことだ。

 確かに、お互い隠し事はなしにしようと言ったけど――さすがに、趣味のことは隠しても文句を言ったりはしない。

 知られると、シャルが恥ずかしい思いをしてしまうようなものなら、尚更だ。

「うぅ……あーくん、お母さんがいじわるします……!」

 言い返せないと思ったのか、シャルが俺の胸に飛び込んできた。

 まるで、エマちゃんがシャルにしかられた時の反応だ。

 やはり姉妹だけあって、シャルとエマちゃんはよく似ている。

「よしよし、大丈夫だよ。シャルの好きなものなら、なんでも受け入れるから」

 可哀かわいそうだったので、頭をでてフォローをしておく。

 実際、これくらいならあまり驚かない。

 シャルの今までの発言から、なんとなくそういうのに興味しんしんなのはわかっていたのだし。

「…………人は、見かけによりませんね……」

 思うところがあるのか、ソフィアさんの後ろに立っていた神楽耶さんが、ボソッとつぶやいた。

 俺のところからだと少し距離があるので、何を言ったのかまでは聞き取れない。

 しかし――。

っ」

 耳がいいシャルには、しっかりと聞き取れてしまったようだ。

 俺の胸に顔を押し付けながらもだえているので、少しくすぐったい。

「良いではないですか、お年頃なのですから」

 花音さんも俺と同じように、ニコニコ笑顔でシャルのことを肯定していた。

 この人の場合、大抵のことなら許してくれるので、気にしていないんだろう。

 ――と、思ったのだけど……なぜか花音さんは、神楽耶さんを手招きで呼び始めた。

 神楽耶さんが近付くと、内緒話をするように彼女の耳へと口を近付け――

「それで、彼女はどういうのがお好みなのですか?」

 ――コッソリと、何かを尋ねた。

「お嬢様も、見かけに寄らずそういうのに抵抗がありませんよね?」

 神楽耶さんは仕方なさそうに溜息を吐く。

 花音さん相手にそういう態度を取るところは、久しぶりに見た気がする。

 二人はまだ、内緒話をしているようだった。

「私も、お年頃ですから――というのはご冗談で、妹の好みは知っておきませんと。どうなのです?」

「いろいろなシチュエーションのものがありましたが、中でも多かったのは、草食系男子に強引に――」

「――も、もう、許してください……!」

 よほどシャルにとって止めたい話だったようで、彼女は顔を真っ赤にして涙を流しながら、やめるようこんがんした。

 見つかってからは、散々隣の部屋でもソフィアさんにツッコまれただろうし、これ以上追い詰めるのはこくだろう。

「シャルの趣味に関して、これ以上掘り下げるのはやめましょう。何が好きであろうと、彼女の自由ですから」

 同人誌と言うと、シャルが気にしてしまうかもしれないと思い、趣味と置き換えて花音さんたちを止める。

 花音さんたちも悪ふざけがすぎたと思ったのか、申し訳なさそうにシャルを見てきた。

「ごめんなさい、シャーロットさん。明人の言う通り、シャーロットさんが何を趣味にしていても、それはシャーロットさんの自由ですので、お気になさらないでください」

「ぐすっ……」

 シャルは、花音さんが言葉にしているほど簡単には割り切れないんだろう。

 今度は俺のほおに自分の頰をくっつけてきた。

 そして、甘えるようにスリスリと擦りつけてくる。

「よしよし、大丈夫だよ」

 俺は再度頭を優しく撫でながら、シャルをなだめる。

 こうなったら、徹底的に甘やかすしかない。

 そうじゃないと、シャルの傷ついた心は治りそうにないから。

「…………」

 ソフィアさんは、複雑そうな表情をしている。

 娘が大人向けの本に手を出していたのだから、親としては悩ましいんだろう。