
†
夜の森。
その平穏を告知なく
異臭は遠近の二種だ。
遠くから、金属的な何かが焦げるような無機質な臭い。
そして近くには──魔術熱線で
その横には細身の白いエルフの姿があった。
「始めよう。この馬鹿げた戦争の、終わりは近い」
魔術熱線の元となったらしいライターの炎をくゆらせるエルフ、セリアメア・ピナイステリも同じだった。冷淡な侮蔑の視線が、立ち上がることすらできないシーナに向けられているが、それは
「クソが。テメェらっ……」
セリアメアも、
熱線で胸を貫かれ、ただ血と罵りの言葉を吐くしかできないシーナに向けて、もう一度手元のライターを持ち上げる。もう片方の手に握りこんでいた何かを、その火の先端に軽く触れさせて、彼女は再び唱えた。
「《
胸に大穴を空けられて動けないダークエルフと、それを身を
「……!」
まず感じたのは、風圧。巨大な何かが一息に動いたことによる空気の揺れ。次いで、どうっ、と重く分厚い何かが衝撃を鈍く受け止めるような音。
巨大な狼の輝獣。
顔はこちらを向いていた。
そしていつだかと同じように、
「シー……な……」
ならば答えは明白だった。それは、ただの輝獣ではなかったのだ。
漆黒の毛皮が外側から解けるように、空間に溶けるように、徐々にその体積を減らしていく。別の姿に変じていく。凶悪な牙の並んだ口も、太い爪の生えた手足も、熱線を防いだ肉厚の
数秒後、そこにいたのは。
手足をついて、顔だけを上げて
折れた角を額から生やした、
「ああ、シーナ様……また、会え、ました。
シーナが目を見開くのがわかる。
「お前、まさか、カリン……?」
「はい……はい!」
少女は目元を緩ませて
角と牙。特徴的な肌の色。それは有り体に言えば鬼のようだった。そしてファンタジー世界の鬼と言えば──オーガだ。
以前に聞いたことがある。
シーナは基本的に一人で生きていたが、ほんの少しだけ、誰かと一緒に旅をしていたことがあった。その相手はハーフオーガの少女だったという。
もしも眼前の彼女が、そのシーナの同行者だったのなら。
それはもう一つ、別の意味を持つ。
非常に重要な、決して忘れるわけにはいかない、何よりも大きな意味を。
そのハーフオーガは、向こうの世界で、シーナを裏切り殺した存在だ。