その日、リアは奇妙な提案を掲げた。

「的当て対決をしよう!」

 意気揚々と宣言するリアを前に、私とアンリは顔を見合わせる。

 一方で乗り気なリアは軽快に詳細説明を始めた。

 まず遠くに的を配置し、それに向けて順に遠距離攻撃を行う。これを順に行って、三人の中で最初に命中させた者が勝利だそうだ。ちなみに負けた二人が、今日の昼食作りを担当するらしい。

 面白い試みであり、娯楽としては十分だろう。鍛練ばかりの毎日には、こういった気晴らしが必要である。何より二人が楽しそうなのが良い。

 私とアンリが承諾したところで、リアが的を設置しに行く。今回の的は、切り株の上に置いたガラス瓶だ。かなり離れた場所にあり、目を凝らさなければ分からなくなりそうな距離であった。

 戻ってきたリアは、私を見ながら的を指し示す。

「ウェイロン殿、一番手を譲ろう」

「私は様子見させてもらう。先に始めてくれ」

 それを聞いたリアは不思議そうな顔をする。彼女は控えめに意見を述べた。

「後回しになると、貴殿が不利になるが……」

「構わない」

 せっかくの対決なのだ。まずはリアとアンリに満喫してもらうのが第一である。

「ならば小官が一番手となろう! アンリはそれでいいか?」

「大丈夫、です」

「よし!」

 リアは嬉々として前へ出る。彼女は手製の弓矢を携えていた。朝から暇潰しに作成していたのを知っている。その最中に的当て対決を閃いたのだろう。

 準備の整ったリアはさっそく矢を放つ。浅い放物線を描いた矢は、的の手前で落下した。

「むっ、当たらないな」

 私は彼女の背中に問いかける。

「騎士は弓術を習わないのか?」

「習わなかった。小官には魔術がある上、接近して斬る方が手っ取り早い」

 リアらしい答えである。確かに不得手とする弓術を優先するより、長所を活かす戦術で動くべきだろう。

「次は、己の番です、ね」

 今度はアンリが進み出て、リアから借りた弓で矢を飛ばす。矢は大きく横に逸れてしまった。飛距離も不足している。

 一部始終を見守っていたリアは腰に手を当てて呟く。

「アンリも弓の扱いは苦手だったか」

「遠距離は、不得手です……」

 澄まし顔のアンリは冷静に答える。表情の変化に乏しいが、少し落ち込んでいるようだ。

 その後、リアとアンリは交互に矢を射るも、的に当たることはなかった。二人とも弓の扱いはそれほど得意ではないらしい。

(設定が難しすぎたのではないか?)

 的は熟練の射手でも怪しい距離にあった。二人の技量で命中させるのは些か厳しいと思われる。

 やがて疲労した様子のリアが私に弓を差し出してきた。

「ウェイロン殿もそろそろそうだ?」

「ふむ」

 これ以上長引くと、娯楽としての楽しさが損なわれる予感がした。既に盛り上がりが欠けた雰囲気である。二人も早く終わらせたいようだった。

「ここからは私も参加しよう」

「では、貴殿もこの弓矢を使うといい」

「私には必要ない」

 そう返すと、私はその場で身構えた。ゆっくりと息を吐いて、全身を巡る気を操作する。刹那、踏み込みと同時に突きを放った。

 解き放たれた一撃は空気に衝撃を伝播する。ついには的であるガラス瓶に到達して粉々に粉砕した。

 構えを解いたところで、リアが私を揺さぶってくる。

「い、今のは反則ではないか!?

「弓矢を使わなければいけない、とは聞いていない」

「確かにそうだが……」

 リアは反論に窮する。そんな彼女の肩をアンリが叩いた。

「己達の負け、です。食事の準備を、しましょう」

「……分かった! ここは潔く認めるっ! ウェイロン殿、次は絶対に負けないぞ!」

「楽しみにしている」

 拳を突き上げて言うリアに私は応じる。なんとも元気の良い反応であった。ここで腐らずに向上心を見せる辺りがリアらしい。

 アンリもどこか満足そうだった。彼女なりに楽しめたようだ。

(にぎやかだな)

 弟子達の料理風景を眺めながら私は思う。

 異世界で始まった第二の人生は、今日も良い物であった。