第二章


 城内を進む私は、兵士を返り討ちにしていく。

 騒ぎを聞き付けた彼らは、私を捕縛しようとする。しかし特筆するほどの強者がいないため、難なく始末していった。

 逃げる者は追わない。あくまでも立ち向かってきた者のみを攻撃した。戦闘回数は最小限に留めておく。

 若い肉体に舞い上がった私は、多数の命を奪った。無用な殺生は避けるべきだろう。

 私は悪鬼のたぐいではない。

 長い人生で、精神面も多少は成長している。滾る闘争心を抑制し、衝動を堪えられるようにしなくては。

 幸いにも立ち向かってくる兵士も減っていた。

 こちらに仕掛けてくることなく、遠巻きに睨んでくる者が多い。無残に殺される同僚を見て、命が惜しくなったのだろう。

 邪魔されなくなった私は、堂々と城内をかっする。

 たまに道を尋ねながら、それなりの時間をかけて城を出た。そのまま城下町へと流れていく。


 一般の人々が往来する通りは、非常に活気があった。

 様々な店が並んでおり、良い匂いを漂わせている。ただの観光なら、じっくりと見て回りたいくらいだった。

 私は通りを進んでいく。特に引き止められることもない。

 城での騒動はここまで伝わっていないらしい。だが、じきに噂になるだろう。顔が周知されないうちに移動したい。

 私はこのまま城下町を抜けて、別の都市を目指そうと思っていた。

 この土地に用はない。情報収集ができれば良かったが、城での一件を考えると、決して落ち着ける土地ではなかった。

 とりあえず、別の街で魔王に関する情報を集めたい。そこから行き先を定めて抹殺するのだ。

 魔王は各地で暗躍しているらしい。大々的に活動している個体もいると聞く。

 相手は世界を滅ぼすほどの存在だ。どこにいても悪目立ちするに違いない。捜索には苦労しないはずだろう。

 なんの手がかりも得られなければ、城に戻るという手もある。

 またもや兵士達と衝突することになるが、きっと有用な情報が手に入る。

 今後の方針について考えていると、前方に門が見えてきた。

 開放されたその向こうには、草原を抜ける街道が続いている。あそこが城下町の出入り口だろう。

 門に近付いていく私は、その少し手前で足を止める。

 人混みの中、長身の女がこちらを見ているからだ。

 明るい金髪は、後ろでくくられていた。緑色のそうぼうが私を捉えている。

 人々の往来を気にせず、こちらだけを注視していた。

 そして女の腰には、さやに収められた剣がある。

(追っ手か)

 私は瞬時に理解する。

 ほぼ同時に、女はよく通る声で質問をしてきた。

「異界の勇者だな?」

「そうだ」

 私は素直に認める。

 隠し立てはできそうにない。誤魔化したところで、すぐに看破されるだろう。

 女はにわかに殺気を放つ。

 周囲の者達は、驚いた様子で彼女のそばを避ける。やがて往来が完全に停止した。

 人々の通行をき止めた女は、剣の柄に触れながら宣言する。

「ここを通すわけにはいかない」

「私は国王の命令を断った。大人しく従うと思うのか」

「…………」

 女は視線を鋭くした。大した殺気である。

 しかし、それで怯える私ではない。言葉を荒らげず、事務的に要望を伝える。

「先を急ぐ。そこをどいてくれないか」

「どこへ行くつもりだ?」

「魔王討伐だ」

 私が答えると、女は眉を寄せた。

 彼女は不審げに確認をする。

「それは断ったのではなかったのか?」

「国への所属を拒んだだけだ。元より魔王は殺すつもりだった」

「……嘘は言っていないようだな。貴様の話を信じよう」

 怪しんでいた女は頷く。私の説明に納得できたようだ。

 しかし、警戒心は未だ解かれていない。片手はいつでも剣を抜けるように柄に添えられていた。

 女は厳しい口調で私に告げる。

「魔王討伐につ勇者を阻むわけにはいかない……が、こちらにも騎士としてのきょうがある。国を乱す犯罪者を見過ごすことはできない」

「そうか」

 驚きは皆無だった。このような展開になると思っていた。女の戦気を感じた段階から、それを予感したのである。

 言葉や理性で飾っても、本質的な部分は嘘をつけないものだ。

 女は剣を抜く。

 白銀の刃には、表面に複雑な彫刻が施されていた。

 ただのしょうではない。おそらくは、なんらかの効果があるのだろう。

 剣を構えた女は、私を見据えながら述べる。

「我が名はリア・ハインベルト。王国騎士団の騎士長であり、剣神ヴィロアの系譜を継ぐ聖剣使いだ」

 女騎士リアは朗々と語ると、視線を私に向けて沈黙する。

 何かを待っているようだった。私は思案するも、それが分からない。

 どう反応するか迷っていると、リアはため息を洩らした。

 彼女は改めて私に要求する。

「貴様も名乗れ。よほどの使い手と見える。誇るべき流派があるのだろう」

「──っ」

 それを聞いた私は衝撃を受ける。

 驚きのあまり、思わず後ずさりそうになってしまった。私は胸中に喜びを覚える。

(こういう気分になるのか)

 殺し合い前の名乗り合いなど、初めての経験だった。

 前々から少なくない憧れがあったが、結局は目にすることなく元の世界を去ってしまった。

 ここ数十年、私は薄汚い暗殺ばかりをこなしてきた。