ヴラドは私の格好を頭からつま先まで眺めると、妙なことを言いだした
「フム、せっかくドレスを着たのですし、どうせならダンスも踊ってみますか。もう奉行所の横やりも入りませんし」
「踊るって何をだ? 住吉踊りでも踊るのか?」
「いえいえ、あれのことですよ」
ヴラドが手ぶりで示した方に目をやると、私が着替えをさせられている間に広間の様子が変わっていた。机や椅子は壁の近くに片づけられ、空いた中央では宴に来た人々が音楽に合わせて回るように踊っている。そういえば西洋人はこういう踊る宴が好きだと何かのときに聞いた記憶がある。
いや。
ちょっと待て。
「あれを私にやれというのか!!?」
「大丈夫ですよ、私がまず教えますから。サツキは体を動かすことは得意ですし、すぐに覚えられるでしょう」
「無理だ無理だ無理だ! 盆踊りとはわけが違うんだぞ!」
「慣れてしまえば変わりませんよ。さ、お手をどうぞ」
「どうしてお前はそういつも強引なんだ!」
「がんばって、五月さん!」
「カネさんも少しは止めてくれ!」
ヴラドに手を引かれるまま、無理矢理に広間の中央へと誘い出された。
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強引に連れこまれたダンスだが、さすがにヴラドは手慣れていて指示通りに動けば簡単に踊ることができた。悔しいが教え方もうまいのは認めざるを得ない。また西洋のドレスも、なるほどこういったダンスの時に華やかに振る舞えるよう作られていることもわかってきた。
四、五曲という付き合わされるうちに、私にもなんとなくコツのようなものがつかめてくる。
「……教えておいてなんですが、いやになるくらい呑み込みが早いですね」
「お前が無理やり引きずり込んだんだろうが」
「うーん、もうちょっとサツキの困る姿を見たかったのに残念です」
「本当ろくな性格してないな」
悪態をつきながらもヴラドはしっかり相手役を務めてくれている。正直こいつの心がよくわからない。
それにしても西洋のダンスというのはやけに顔が近い。最初はヴラドの趣味かと思ったが、周りを見るにどうもそれが本場の流儀であるらしい。こんなに顔を近づけあって西洋の男女は恥ずかしくないのだろうか。
ヴラドはどんなに近づいても完ぺきな美貌と余裕の笑みを崩さないので、それがまた苛立たしかった。
やがて曲が終わったところで、ヴラドは私の手を離す。
「これだけ踊れるのならもう私の指導は必要ありませんね。せっかくですから他の人と踊ってもらいましょうか」
「いやちょっと待て、たった数曲踊っただけだろうが」
「なに、今日のパーティーは舞踏会ではないんです。多少下手でも誰も気にしませんよ」
「そういう問題ではない!」
『さあ、だれか次にサツキと踊りたい人はいませんか?』
「だから勝手に決めて勝手に呼びかけるな!」
ヴラドが呼びかけたのと同時、まわりで踊っていた人々がいっせいに群がってきた。
しかもなぜか、女性ばかり。
『あの、前からお話ししたいと思っていて……踊っていただけるなんて光栄です』
『ちょっと、私の方が先だったんですよ』
『あの、あとでいいので私も……』
『私も――』
色とりどりに着飾った異人の少女たちが周囲に集まってくるので戸惑った。
『え? え? その、よろしいのですか、他にも男性の殿方がたくさん……』
『『『『『イガラシさんがいいんです!!!!』』』』』
『は、はあ、私でよろしければ……』
仕方なく少女たちの誘いに応じて踊ることにする。広間に再び音楽が流れだした。
しかし最初に声をかけてくれた少女の手を取って踊りだそうとしたところで、ハタと気づく。女性同士だとお互いのスカートが大きすぎて踊りにくいのだ。
悪戦苦闘しつつなんとか一人目とは踊り終える。
『す、すまない、あまりうまくできなかった……』
『いえ、幸せでした……』
『?』
よくわからなかったが少女は満足したようだった。しかしこれで何人も相手をして踊るのはつらい。
曲が終わると別の夫人と踊っていたヴラドのそばに行き文句を言った。
「ヴラド、お前は男装しているからいいが、この格好で女同士踊るのは大変だぞ」
「フム、では後で五月には紳士用の服も来てもらいますか」
「やめろヴラド! これ以上余計な役回りを増やすんじゃない!」
「フフフ、こんなこともあろうかとちゃんと昨日のスリーピースも用意してあります。準備はしておくものですね」
「まさか! 最初から全部はかっていたな!?」
「あ、履物はさっき私が贈ったブーツを履いてくださいね」
結局私はヴラドの謀略にまんまとのせられ、今度は紳士服で躍らされることになったのだった。