六限目 彼女達を幸せする人が幸せになる




「はあ……まだでありますかね……」

 夏休みが終わり、まだ暑さが強く残る九月某日。

 せみの合唱も終わりを告げ、血の涙を流して終わらせた夏休みの宿題もはるか昔のように思える今日この頃、俺達はいつも通り現代歴史文学研究会にて、各々の時間を過ごしていた。

 ただいつもと違うことがあるとしたら、誰もが気が気ではないという点だろう。

 俺も、とらも、そしてわざわざ来てくれていたたつも、平然と漫画を読んだり、ゲームをしたりしていつも通りな雰囲気を漂わせていたが、各々がしきりに窓を見たり、時計を確認したり、何度もスマホを出し入れしたりなど、落ち着かない様子を見せていた。

 何なら俺の膝が定位置と言わんばかりであるほうじようだが、今日は俺が北条の膝の上に座るという異常事態に──いやこれは通常営業なのか。

 ともかく遡って説明すると、俺達は合宿の最終日に青春恋愛モノ『スキとキライは紙一重』というタイトルの漫画を完成させ、ギリギリ締め切りに間に合わせたのであった。

 北条の専属メイドであるあおの素晴らしいドライビングテクニックにより十分も余裕を持って送ることが出来たのは感謝以外ない──まあ、それを経験した虎尾は『もう二度とギリギリに応募なんてしない』と言っていたが。

 そして。

 応募原稿に関しては九月に入ってすぐの段階で公式サイトに一次選考の結果が掲載されたのであった。

 結果は一次選考通過、随分と簡潔に言ってしまってはいるが、その時は狂喜乱舞の有様で浮かれに浮かれた虎尾はお菓子とジュースを大量に購入して現代歴史文学研究会でプチ祝勝会をしてしまった程である。

 だが、一次選考は単なる通過点、重要なのは次の編集長や一線で活躍するプロの漫画家の目も通される最終選考、ここで目に留めて貰えなければそれまでの苦労も、勢いでやってしまった祝勝会も苦くつらい思い出となって俺達の胸に刻まれてしまうのだ。

 余談だがふじおか高校一と言える漫画同好会、藤ヶ丘書房も一次選考を通過している、まあ……あれだけのクオリティを見せつけられて俺達は頭を抱えてしまったぐらいなのだから、それぐらいは当然なのかもしれないが。

 そんなこともあり、俺達はずっと不安を抱えながらの日々を過ごしていた、虎尾が毎日部室に来てはスマホを机の上に置き、着信音を最大音量にして待機してしまうせいで、物音一つで全員がピクリとしてしまう姿に至っては、滑稽にも見える有様。

「そういえば──期限に関しては大丈夫だったの?」

 平静なフリをして漫画を読んでいるが、感情マークは常に不安そうな表情の龍田がそんなことを俺に向かって尋ねてくる。

「期限? 何の話だ?」

「ええと……現代歴史文学研究会の廃部を保留してくれている期間って言えばいいのかな、三ヶ月とは聞いていたけど具体的にこの日までとは聞いていなかったから……」

「ああ……その点に関しては大丈夫だよ、一応公式サイトで結果が発表されるその日までがリミットの中には入っているから」

 寧ろそこはきちんとしておかないと後でにどんな揚げ足を取られるか分かったもんじゃない……同じ失敗は繰り返さぬようしつこく彼女には確認を取っている。

 逆を言えば、これで駄目だったらもうチャンスは何処どこにもないのだが……。

 だからこそ落ち着かない、早くこの不安から解放されたいのは山々なんだが……。

「皆、もっと落ち着きましょう、こんな空気じゃ身体からだがいくつあっても足りないわ、ここは落ち着いて、本を読むの、そうすれば自然と心は落ち着く筈よ」

「それでBL小説を読むのもどうかと思うけどな」

「……! 何で私がBL小説を読んでいるって気づいたの」

「何なら俺に見せながら読んでるんですけど、その前に北条見えてないだろ」

 俺の背中で──いやこれどっかで一回やった気がするぞ。

「バレてしまったなら仕方ないわね……、実は不安やストレスを解消する上で一番効果的な方法は性欲を満たすことなのよ」

「家でやれ」

「はあ……しかし連絡というのはいつ頃来るのでありましょうか……公式発表があった時では遅いのではないのですか?」

 いつもなら虎尾が文句を言ってきそうな構図なのだが、彼女も全く余裕がないのか、当たり前のようにこの状況を受け入れてそんなことを言ってくる。

「俺もこういう経験をしたことがないから分かんねえよ……少なくともメールアドレスと電話番号は登録しているし、連絡が来るのは間違いない気がするんだが」

「ああ……毎日が憂鬱でありまして落ち着きませぬ……一次を通過したぐらいで喜んでしまった自分を殺したいであります……もし無理だったら──」

「でも年に一度のコンテストで、一次を通過したっていうのはそれなりの功績ではある、最悪これを武器に生徒会と掛け合えるし、あまり悪い方向に考えるのはめておこうぜ」

 なんて言っちゃいるがほとんど慰めになっていない、一次通過ぐらいで存続を認めてくれる優しい副会長ならそもそも廃部になんて追い込もうとはしないからな……。

 寧ろこうしていている姿を見て楽しんでいるまである……あまりに意地が悪くて顔を思い浮かべるだけで腹が立ってくるが──


「はうあっ!?


 などと。

 結局俺もヤキモキしてしまっていると、突如机の上のスマホが軽快なアニソンとバイブ音と共に大音量で暴れ始め、死にそうな顔をしていた虎尾が悲鳴を上げてしまう。

「はっ! わっ! れ、連絡ですか? 連絡が来たのでありますか!?

「おおお落ち着け虎尾! ぬ、ぬぬぬか喜びは危険だ!」

「で、でも見て! ちゃんが登録している電話番号からじゃないよ!」

「市外局番はこの近辺ではないわね……もしかして本当に──」

 電話の着信音に導かれるようにして四人が一斉に机へと集まり、中心にあるスマホをのぞき込む──確かに虎尾が登録している人からの電話ではなく、この地域のものでもない所からの電話であるのは明らかだった。

「ま、まだ分からないがここは虎尾に出てもらうとしよう」

「わ、分かりましたであります……」

 白目をいてしまいそうなぐらい緊張した面持ちの虎尾がスマホを手に取ると、震える指を抑えきれないままスマホをタップし──

 ついに、スマホが彼女の耳へと当たる。

「は、はい……も、もしもし……」

 通話が始まり、虎尾以外の俺達三人はぐっと息をんでその様子を見守る。

 誰一人として声を発さず、虎尾が話す内容を聞き逃すまいとする姿は、まるで誘拐犯からの電話を逆探知する警察のようにも見えた。

「はい……そ、そうであります……あっ! そ、そうですか……! こ、この度はお電話ありがとうございまする……!」

 あれだけ曇りがちだった虎尾の顔が途端に明るくなり、俺達の方をチラリと見る。

「も、もしかして……! やっぱりコンテストの結果の電話なのかな!」

 興奮を抑えきれないといった感じの龍田が、俺の肩を揺すってうれしそうに小声で話す。

「た、多分、そう考えて良さそうだな……本当に連絡が──」

「虎尾さんが電話を終えたら、皆で一斉に祝福してあげましょう」

 誰もが浮かれてしまい、自然と笑みがこぼれ始める。

 ……無理もない、現代歴史文学研究会を存続させるため、俺達はこの日、この瞬間をどれだけ待っていたことか。

 ようやくだ……ようやくこれで──笑顔の虎尾を見れば見るほど、推測が確信へと変わっていく──何ならもう歓喜の声を上げたいぐらいの気持ちになっていた──

 のだが、それまで笑顔を浮かべて対応していた虎尾の表情が途端に曇り始める。

────え? ど、どうしたのかな……そ、そんなことないよね……?」

「まさか……連絡まで来て落選なんてことは……ないと思うけれど……」

「俺もそれはないと思いたいが……」

 連絡までの期間があまりに不安だったのでネットで色々調べていたのだが、基本的に受賞をした際は公式発表の前に電話かメールで連絡が来るのは間違いないはずなのだ。

 ただ──場合によっては最終選考まで残った人には受賞の有無に関わらず必ず連絡が来る──なんてうわさも聞いたことがある。

 もっと言えば今回は受賞とはならなかったが、才能はあるから今後の可能性を期待して是非担当として……なんて話も。

 それはとても嬉しい話だし、このメンバーが純粋に漫画家になりたいという思いだけで構成されているなら皆で万歳三唱の大喜びだったろう。

 だが悲しいかな、俺達は今、ちゃんと形として、認められたあかしが欲しいのだ。

「はい、はい────そ、そうでありますか……」

 虎尾の表情は依然固いまま……感情マークを見てしまえばその真意が分かるのだが、駄目だった時の恐怖が先行してしまって見れる自信がない──

 いつの間にか、あれだけ盛り上がっていた俺達はジェットコースターの急降下のごとく言葉を失ってしまい、ただ電話が終わるのを待ち続けるしかなくなっていた。

「……分かりました──あ、ありがとうございました、失礼致します」

 そして、それから一分もたずして。

 ついに虎尾は電話を終え、スマホをタップし通話を切った。

「お、おい……虎尾、で、電話は間違いなくコンテストからだったのか……?」

…………………………

 長い前髪でその表情はうかがい知れないが、虎尾は小さくうなずく。

「ゆ、裕美ちゃん、け、結果はどうだったの……?」

「虎尾さん……お、教えて貰えるかしら……」

…………し」

「し?」

 し、しってなんだ……? 大賞? 優秀賞? 特別賞? い、いやどれも当てはまらないぞ……ま、まさかし、死亡とかそういう意味じゃ──

 あまりのことに言葉が出ないのか、虎尾はその場でうつむき、動かなくなってしまう。

 も、もう駄目だったとしてもいい……我慢が出来なくなってしまった俺はすぐさま虎尾のそばに駆け寄ると肩にそっと手を当てる。

 その瞬間、ブワッっと、大粒の涙をあふれさせた虎尾が俺のシャツを両手でぐっとつかんでこう言うのだった。


「じ……じんざいんどくべづじょうでありまずっで……!」


「え? し、審査員特別賞……?」

 虎尾は泣いてしまうと基本何を言っているのか分からないのだが、その涙が、感情マークを見ても嬉し泣きだと分かったので、恐らくそう言っているのだと思い聞き返す。

 虎尾は溢れ出る涙を抑えられないせいか、何度も首を縦に振ってそれを肯定する。

「そ、そうか……そうなのか……ということは──」

 思わず膝から崩れ落ちそうになる、こ、これで現代歴史文学研究会は──

「おめでとう……! 本当に、本当に良かったよぉ……」

「虎尾さんが一番頑張ってくれたお陰よ、本当にありがとう……」

 俺に続いて駆け寄って来た龍田と北条が、虎尾を挟むように優しく抱き寄せる。

 龍田も虎尾に負けないぐらいぐしゃぐしゃに泣いてしまっており、北条もかすかに瞳を潤ませている。

 その様子が、どれだけこの現代歴史文学研究会を存続させる為に皆がプレッシャーを感じていたのかを大きく物語っていた。

 でも……今度こそ、うそ偽りなく、ズルをすることなく、俺達は正真正銘、現代歴史文学研究会を存続させることに成功したんだ……!

「び、びんなのおがげでありまずよ……ごぢらこそあびがどうございばずる……」

「そうだな、皆で頑張ったお陰だ──気持ちとしてはクラッカーでも鳴らしてお祝いをしたい所だが、まずは──この結果を今すぐに阿古のやつたたきつけてやろうぜ」


「ああ大丈夫だよ、その必要はないから」


 と、祝いのムードを一撃でぶち壊す声が入り口から聞こえてくる。

 嫌な予感に振り向くと、案の定そこには澄ました顔をした阿古が立っていた。

「全く、扉の鍵は閉めちゃ駄目って何回も言ってるのに言うことを聞かないね君達は──ああそんなに怖い顔をしないで、私は水を差しに来たんじゃないから」

 ホント私は何処どこに行っても歓迎されないんだねえと、特にそれを悲しむ様子もない表情で阿古はそんなことを言う。

「──ということは……今回は存続を認めてくれるってことで、いいんだな?」

「ちゃんと公式サイトなりを通じて正式に発表されてからだけど、流石さすがに私も悪魔じゃないから、九割方認めてはいるつもりだよ」

「北条、今のはちゃんと──」

「本当に信用がないね……そこまで言うならちゃんと書類と誓約書を準備してあるからそれを今から書きに来てもいいよ? その方が安心するでしょ?」

「むう………………

 この中では恐らく龍田以外は誰も彼女を信じていない、別に阿古が約束を破ったことは一度もないからそんな目で見るのは筋違いなのだが、一番彼女を毛嫌いしている虎尾がいつの間にか涙が引っ込んだ目でじっと彼女をにらみつける。

 ──すると、ややあって阿古は両手を上げて降参のポーズを取った。

「分かった、分かったから。ちゃんと書類と誓約書に私もサインをして、それをコピーして渡すから、それで勘弁して貰っていいかな」

「ほ……本当に? 本当の本当にでありますか……?」

「私は噓をついたことはないって……全くもう、虎尾さんにはかなわないな」

 虎尾からしてもだが、阿古からしても虎尾は一番苦手な相手だろうからな……論理立てて話す奴や、感情に身を任せる奴は得意とするが、虎尾や龍田みたいな純粋に情に訴えかけてくるタイプにはめっぽう弱い。

 こうして考えると、本当に虎尾に助けられてきた面は多いよな……。

「ま、まさつぐ殿……」

「そんな心配そうな顔をするな、ここまでして約束をにしたら流石に生徒会として問題になっちまう、それは阿古だって避けたいに決まってるしな」

「そういうこと、だから歓迎されないかもだけど私からもおめでとうは言わせて? 最初の状態から短期間でここまで頑張ったことに関しては、素直に驚いているんだし」

「あ、阿古氏……ご、極道ではなかったのでありますな……」

「組長になった覚えはないけど……これでも藤ヶ丘高校を良くする為に動いている副会長だから──まあいいや、ほらサインするなら早くしないと下校時間になるよ」

 その言葉を聞いて、ようやく虎尾が満面の笑みを見せてくれた。

「そ、そういうことなら急ぐとしましょう! 時間は待ってくれませぬからな!」

「そうだね! ああ! 裕美ちゃん待ってよー!」

「こらこら、廊下を走らないなんて当たり前なこと言わせないでよ──」

 阿古を追い抜いて飛び出して行った二人に彼女はあきれたような声を出す。

「まあまあ、今日だけは許してやってくれないか、本当はもっと暴れて喜びたい所をあれでも抑えているとは思うからさ」

「それとこれは別……と言いたいけど、どうやらそれだけ君達にとって、ここは大事な居場所なんだということを改めて思い知らされたかな、彼女達も十分すごいけど──やっぱりそれは君が何より影響しているんだろうね」

「……俺が? いや、今回に関しては何の役にも立っていないと思うが……」

「どうかな? 私の見立てだと君がここにいなければ、十中八九彼女達はすべもなくこの同好会を廃部にしてしまっていたと思うけど──」

 でも、だからこそ雅継くんは面白いんだよね、今後も活躍のほど期待しているよ、とまたしても見透かしたかのような口ぶりで彼女は去っていくのだった。

「あ、そうそう」

 廊下に半分身体からだを出した所で、阿古が足を止めて首だけを俺達の方に向ける。

「……どうした?」

「君の人を魅了する力には感服するけれど、藤ヶ丘高校に変な七不思議を作るのだけは、めてくれると、嬉しいかな」

!?

 その言葉に心臓の鼓動が速くなり、嫌な汗がじんわりとにじみ出てくる。

「な……何のことか分からないな──」

「真夜中の学校にカツンカツンと廊下を歩く不気味な音が聞こえるんだって、お陰で生徒の自主性を促す校内合宿が心霊スポット巡りに変わりそうで困ってるんだよね」

「へ、へえ……そりゃとんだ悪ふざけをする奴もいたもんだな……即刻止めてもらいたいものだ……」

「全くね、それじゃあかす彼女達を待たせる訳にはいかないから、私はお先に」

 嫌な台詞ぜりふをぶつけると、今度こそ現代歴史文学研究会を後にするのだった。

 残されたのは、またしても俺と北条の二人のみ。

「……あー、この展開、前にもあったよな……」

 気まずさを紛らわすつもりはなかったのだが、自然とそんな言葉が出てしまう。

「そ……そんなこともあったわね」

 対する北条もどこかぎこちない感じで、そんなふわっとした返事をする。

「でも、前と違うのは現代歴史文学研究会が本当の意味でここに残っているってことだな、それは北条と、虎尾と、龍田──後は蒼依さんも、皆が協力し合ってくれたから、本当にそれに尽きると、俺は思う」


もちろん雅継くんもよ──ありがとう、あの時私の手を放さないでくれて」


 北条はそう言って優しく笑うと、俺の傍に寄ってきた。

「あ、あれは──北条がいなくなったら漫画が完成しないっていうのもあったし……そ、それに、ちやをしてまで参加してくれたおもいを無駄にしたくないと思っただけで──」

「だから、ありがとう、少なくとも私の知る限りではあんな状況になってまで私を放さない人はいないわ──でもだからこそ私はそんな雅継くんがす、好きなの」

「そ、そっか……俺の方こそ、あ、ありがとう……」

 自分でそんなことを言っておきながら、北条は顔を少し赤く染める。

 あの花火の日以来、皆と一緒にいる時はいつも通りなのだが、こうして二人になると北条は前より少しよそよそしくなってしまったように見える。

 だからといって好感度が120%から落ちた訳でもなければ、感情マークが変わったりといったことも一切ないのだけれども……。

 あの日のことでもし彼女の中で変な作用を起こしてしまったのであれば、それは何だか申し訳ない気持ちになったりしないでもない。

 ただ、俺としてはそんないつもと違う北条には妙に心がくすぐられることもあって──

…………

…………

 お互い花火の記憶がよみがえってしまったのか、うまく言葉を出せずにいると、何の因果か俺と北条の手が少しだけ触れ合ってしまう。

「! ──ご、ごめんなさい……」

「い、いや……俺もなんか……すまん……」

 普段やられていることと比べてはるかにハードルの低いハプニングであるはずなのに、北条が過剰に反応してしまうものだからこっちまで変に意識をしてしまう……。

「……ん? 何だこれ」

 すると、北条が手を上げた拍子にポケットから一枚の紙が落ちたので拾い上げる。

「あ! そ、それは──!」

「……? 『蒼依直伝──意中の男性と二人になった時の──』うおっ!」

 視界に入った文章を読み上げている途中で焦った表情の北条に紙を取り返されてしまう。

「今のは……」

「ち、違うの! こ、これは何ていうか、そ、その──」

 顔を真っ赤にして紙をくしゃくしゃに握り締める北条、ううん……何だかこれはまた厄介なことが増えそうだな…………仕方がない。

「なあ北条……別に背伸びをする必要なんてないんだぞ? 俺が言えた義理じゃないけどさ、自分らしさを素直に出せばそれが一番いいと思うし……」

「う……で、でも──」

「だってさ、北条が俺に抱いてくれている好感度は120%だろ? それなら北条が俺にしてくれることをさ……き、嫌いになんてなれる筈がないじゃないか、だから──」

「ま、雅継く──」

「北条殿~! 何をしているでありますかー!」

「雅継くーん! 早く早くー!」

 虎尾と龍田の大声と、バタバタと走ってくる音にお互いにはっとして顔を背ける。

「……と、兎も角、い、今は俺達の居場所が存続したことを、喜ぶとしようぜ」

「そ、そうね、私もそれがいいと思う」

「じゃあ、行こうか」

「ええ」

 そんなこともありつつ。

 これで、四ヶ月以上にわたる生徒会との攻防は一つの区切りがついたのだった。

 のらりくらりと学園生活を過ごしてきた俺からすれば、そんな短い期間だったとはとても信じられないな時間を過ごしたような気がしないでもないが。

 だけど。


 お陰で、現代歴史文学研究会の平穏な日々はまだ続いてくれそうである。

〈了〉