番外編 小さな贈り物



 聖ヴァレンティは、大切な人に贈り物をする日だ。

 マリーはごろからお世話になっているはくしやく夫妻やエマにしゆう入りのハンカチをプレゼントすることにした。

「素晴らしい刺繍だな! ありがとう」

 エマはそう喜んでくれた。

 ジェシカにもプレゼントすると、「も、もらって差し上げますわ!」とツンと顔をそむけられ、ベティにも「おっ、ありがたいねぇ」と受け取ってもらえた。

 そして手元に残るのは、男性向けの絹の青いハンカチだ。すみにCのイニシャルとつるの模様が刺繍されている。

(さすがにこれをカルロ様に渡すのは、ちょっと……)

 きさき教育のためにやってきたこうぐうの一室で、マリーはソファーにすわり手の中のハンカチを見つめながら、ため息を落とす。

 今は教育係の女官長が来るのを待っているところだった。

(カルロ様にも何かあげたいけれど、そんなことはマリア様らしくないよね……)

 マリアの身代わりをしているんだから、彼女らしくない行動はひかえなければならない。

 そう分かっていたが、カルロを想って織ったハンカチを他の人に渡すのははばかられた。かといってクローゼットにしまい込んでしまうのももったいない。

(プレゼント用のふくろまで持ってきたのだから、自分が作ったのではなく親から無理に渡すよう命じられたとか……そんな言い訳をしたらカルロ様に渡してもせるかしら?)

 そんなことをもんもんと考えて迷っていた時――、ふいにとびらがノックされる。

(女官長かな?)

 そう思い、マリーはソファーから立ち上がる。

 しかし、扉から現れたのは予想外にもカルロだった。

「こんにちは、マリア」

「カ、カルロ様……!」

 慌ててハンカチとプレゼント用の袋を背中に隠した。

 しかし目ざといカルロに見つかってしまう。

「今隠したものは何ですか?」

 ヒヤリとした空気に、マリーはどうようする。

「い、いえ、何でも……」

「何でもないなら見せてください」

 そうめ寄られて、マリーは後ずさりしながらウッと言葉に詰まる。

 カルロの黒色のまつげがくっきりと見えるほど顔が近付いていて、マリーは頭が真っ白になった。

 まごまごしているうちに、背中にびてきたカルロの手にハンカチが奪われてしまう。

「……これは?」

 どう見ても男物のハンカチ。しかもカルロのイニシャルの刺繍入り。あまりにも分かりやすすぎて、マリーは顔が赤くなってしまう。

「私がったのではありません! 両親が渡せと言うから仕方なく……」

 そうあせって言い訳したが、カルロは全てかすようなまなしで優しく微笑む。

「大事にしますね」

 そう言って、嬉しそうに彼はハンカチに口付けを落とした。

 その姿が何だか色っぽくて、ますます赤くなったマリーは顔を背けてしまうのだった。