その時、どこかで
「あ……っ」
思わずマリーの口から声が
「……よく
「カ、カルロ殿下……あ、あの、見られていますし……ちょっとこの体勢は……!」
カルロの訳が分からない態度で思考は大混乱していた。
(もう帰りたい……っ!)
カルロは
「これはただの
「は、はいっ! 失礼いたしました!」
ハッとした様子で、メイドは慌てて扉を閉めて出て行った。
マリーは
「あ……ごめんなさい……っ、その、放して……」
「……どうしたんです? マリア、やっぱりどこかおかしいんじゃないですか?」
「おかしくはないです! おかしいのは、カルロ様の方じゃないですかっ!?」
マリーは混乱して、そう
最近のカルロはマリアのことに
「確かに……先ほどの僕はなんだか……おかしかった、ですね。すみません……冷静さを欠いていました」
しばし
カルロは自分でも戸惑っているのか、口元を手で覆って視線を泳がせている。今は完全にいつもの落ち着いた
(やっぱり、カルロ様はマリア様のことを愛しているんだわ……)
そうでなければ
マリーは泣きたい気持ちで
「どうして、カルロ様は婚約解消をしようとなさらないのですか? マリアさ……いえ、私は、カルロ様に
マリーはそう言って、そっぽを向く。ふとすれば
「……知りたいですか? 僕がどうして
カルロの感情の読めない表情にひるんで、マリーは後ずさりしようとした。だが、押し倒されている今の状況では逃げることができない。
それなのにカルロが距離を詰めてきた。
カルロはマリーの耳元でため息を漏らし、
「先ほどの答えです。別れてあげた方が良いことは分かっていても、どうしても手放せなかったんです。……本当に
「初恋の未練……?」
マリーは放心して、つぶやいた。カルロは顔を
「数年前……再会した君は僕のことを一切覚えていなくて、別の男に夢中でした。……僕は手ひどい
(そんなにマリア様のことを愛しているのね……)
カルロの
「で……でも、それは歪んでいると思います。愛する相手の幸せを願ってこそ、愛だと……」
マリーの言葉に、カルロは
「歪んでいる……? 確かにそうですね。でも仕方ないと思いませんか? 自分にとって特別な思い出でも、相手にとっては
(プレゼント……? マリア様はカルロ様に何か渡されたのに、なくしてしまったのかしら……?)
マリーの困惑した表情を見て、カルロは不快そうに眉根を寄せる。
「今さら、そんな申し訳なさそうな顔をしないでくださいよ。もう、君には何の期待もしていません。長年レンディス、レンディスと言われ続けて、とっくの昔に百年の愛も冷めましたので」
(それなのに婚約解消しようとしないのは……マリア様への未練ということ……なのね)
彼は自分が
マリーは胸が苦しくなる。
「ごめんなさい……」
本来なら、部外者の自分が別れ話をするだなんて、失礼にも
居たたまれなさを覚えて、マリーは身を縮めた。
「何について
カルロは髪を
マリーは身を起こしてからカルロに一礼する。
「……失礼します」
その場の空気に耐えきれず、立ち去った。
机の上に、ハンカチに包んだお守りの黄色いブローチを置きっぱなしにしていることに気付かないまま。
(しまった! ブローチを部屋に忘れてきちゃった……!)
マリーは
(私、どうしてブローチ持ってきちゃったの……!?)
部屋の机の引き出しに
(よりによって今日やらかしてしまうなんて……!)
妃教育の夜会用のドレスに着替えて、なくしてはいけないとハンカチで包んで机の上に置いておいたのだ。夜会用のドレスにはポケットがなかったから。
(い、いや……、きっとカルロ様はもう部屋から出ているはず……)
あのブローチはマリーが幼いカルロからプレゼントされたもので、マリアに贈られたものではない。だからカルロに見つかったらまずいのだ。
おそらくブローチのことをカルロはもう覚えてないだろうけれど、万が一ということもある。見つかって
マリーは慌てて先ほどの部屋に
しかし残念ながらカルロはまだ部屋にいた。
「カ、ルロ……様……」
マリーは息を切らしながら、彼の顔を見て心臓が激しく
(見られた……?)
だが、彼はいつもと変わらない穏やかな笑みで、
「マリア、どうしました?」
と尋ねてくる。その
「あ、いえ……何でもないです」
マリーはそう答えて、落ち着きなく机に視線を走らせる。
(ど、どうしよう。取り戻したいけど……)
万が一、ハンカチに包まれていた中身を見られていたら……?
見た目でも少し
(いや、もしかしたらカルロ様がまだ見ていない可能性もあるし……)
もし
マリーは
その後はできるだけ早く扉の前に戻り、一礼して出て行く。
(良かった! カルロ様はハンカチを見ていなかったんだわ……!)
そう安堵した。もし確認していたら何か言わずにいられないはずだ。あんな態度は取れないだろう。
マリーはそう思い、完全に油断してしまった。
これからカルロの激しい執着が己に向けられることになるとは、まったく思いもせずに。