第一話 初恋の皇太子様
パーティ会場の大広間に姿を現したのは、完璧な美貌の青年だった。
グラウローゲン帝国の皇太子カルロ。
さらさらした黒色の髪に通った鼻筋、優しげな風貌――完璧な造作。
あの頃と変わらない神秘的な紫色の切れ長の瞳。薄い唇には感情の読めない柔らかな笑みを浮かべている。
やはり何度見ても間違いない。カルロだ。十年前に出会ったきりの、初恋の人。
名前が一緒だとはわかっていたが、まさか同一人物だったなんて夢にも思っていなかった。
(嘘でしょう……? あの人がマリア様の婚約者……?)
マリーは血の気の失せた顔で胸元の黄色いブローチを押さえる。
「大丈夫か?」
隣にいた男装の麗人エマが心配そうに声をかけてくれた。
エマは背中まであるストレートの赤褐色の髪を後ろで一つに結んでおり、まるで男性貴族のようにトラウザーズを穿いている。一般的な貴族令嬢のドレスではないが、その恰好が彼女にはよく似合っていた。
マリーはエマに心配をかけないよう気丈に口元に笑みを浮かべると、そっとブローチを外してポケットにしまう。
カルロは覚えていないかもしれないが、このブローチはマリーが幼い頃に彼からプレゼントされたものだ。
(これを見られてしまったら、私がマリーだと知られてしまうかもしれない……)
そんなマリーの懸念など知る由もないエマが、念を押すように耳打ちをしてくる。
「あれがカルロ皇子だ。君には無理を言ってしまって申し訳ない。マリアの振りをしっかり頼むぞ」
エマの言葉に、マリーは唇を引き結ぶ。もう後戻りはできないのだ。
マリーはカルロの婚約者マリアに瓜二つの見た目をしている。
刺繍リボンで飾られた赤髪。海のように清らかで澄んだ青い瞳。一卵性の双子だと言われても疑わないほどにマリアとマリーはそっくりだ。
――だが二人は別人だった。